Chapter 1
1 神 の 子 イエス、キリストの 福音 の 始。
2 預言者 イザヤの 書 に、『視 よ、我 なんぢの 顏 の 前 に、わが 使 を 遣 す、彼 なんぢの 道 を 設 くべし。
3 荒野 に 呼 はる 者 の 聲 す、「主 の 道 を 備 へ、その 路 すぢを 直 くせよ」』と 録 されたる 如 く、
4 バプテスマのヨハネ 出 で、荒野 にて 罪 の 赦 を 得 さする 悔改 のバプテスマを 宣傳 ふ。
5 ユダヤ 全國 またエルサレムの 人々、みな 其 の 許 に 出 で 來 りて 罪 を 言 ひあらはし、ヨルダン 川 にてバプテスマを 受 けたり。
6 ヨハネは 駱駝 の 毛織 を 著、腰 に 皮 の 帶 して、蝗 と 野蜜 とを 食 へり。
7 かれ 宣傳 へて 言 ふ『我 よりも 力 ある 者、わが 後 に 來 る。我 は 屈 みてその 鞋 の 紐 をとくにも 足 らず、
8 我 は 水 にて 汝 らにバプテスマを 施 せり。されど 彼 は 聖 靈 にてバプテスマを 施 さん』
9 その 頃 イエス、ガリラヤのナザレより 來 り、ヨルダンにてヨハネよりバプテスマを 受 け 給 ふ。
10 かくて 水 より 上 るをりしも、天 さけゆき、御靈、鴿 のごとく 己 に 降 るを 見 給 ふ。
11 かつ 天 より 聲 出 づ『なんぢは 我 が 愛 しむ 子 なり、我 なんぢを 悦 ぶ』
12 かくて 御靈 ただちにイエスを 荒野 に 逐 ひやる。
13 荒野 にて 四十 日 の 間 サタンに 試 みられ、獸 とともに 居給 ふ、御使 たち 之 に 事 へぬ。
14 ヨハネの 囚 はれし 後、イエス、ガリラヤに 到 り、神 の 福音 を 宣傳 へて 言 ひ 給 ふ、
15 『時 は 滿 てり、神 の 國 は 近 づけり、汝 ら 悔改 めて 福音 を 信 ぜよ』
16 イエス、ガリラヤの 海 にそひて 歩 みゆき、シモンと 其 の 兄弟 アンデレとが、海 に 網 うちをるを 見 給 ふ。かれらは 漁人 なり。
17 イエス 言 ひ 給 ふ『われに 從 ひきたれ、汝 等 をして 人 を 漁 る 者 とならしめん』
18 彼 ら 直 ちに 網 をすてて 從 へり。
19 少 し 進 みゆきて、ゼベダイの 子 ヤコブとその 兄弟 ヨハネとを 見 給 ふ、彼 らも 舟 にありて 網 を 繕 ひゐたり。
20 直 ちに 呼 び 給 へば、父 ゼベダイを 雇人 とともに 舟 に 遺 して 從 ひゆけり。
21 かくて 彼 らカペナウムに 到 る、イエス 直 ちに 安息 日 に 會堂 にいりて 教 へ 給 ふ。
22 人々 その 教 に 驚 きあへり。それは 學者 の 如 くならず、權威 ある 者 のごとく 教 へ 給 ふゆゑなり。
23 時 にその 會堂 に、穢 れし 靈 に 憑 かれたる 人 あり、叫 びて 言 ふ
24 『ナザレのイエスよ、我 らは 汝 と 何 の 關係 あらんや、汝 は 我 らを 亡 さんとて 來給 ふ。われは 汝 の 誰 なるを 知 る、神 の 聖者 なり』
25 イエス 禁 めて 言 ひ 給 ふ『默 せ、その 人 を 出 でよ』
26 穢 れし 靈 その 人 を 痙攣 けさせ、大聲 をあげて 出 づ。
27 人々 みな 驚 き 相 問 ひて 言 ふ『これ 何事 ぞ、權威 ある 新 しき 教 なるかな、穢 れし 靈 すら 命 ずれば 從 ふ』
28 ここにイエスの 噂 あまねくガリラヤの 四方 に 弘 りたり。
29 會堂 をいで、直 ちにヤコブとヨハネとを 伴 ひて、シモン 及 びアンデレの 家 に 入 り 給 ふ。
30 シモンの 外姑、熱 をやみて 臥 しゐたれば、人々 ただちに 之 をイエスに 告 ぐ。
31 イエス 往 きて、その 手 をとり、起 し 給 へば、熱 さりて 女 かれらに 事 ふ。
32 夕 となり、日 いりてのち、人々 すべての 病 ある 者・惡鬼 に 憑 かれたる 者 をイエスに 連 れ 來 り、
33 全町 こぞりて 門 に 集 る。
34 イエスさまざまの 病 を 患 ふ 多 くの 人 をいやし、多 くの 惡鬼 を 逐 ひいだし、之 に 物 言 ふことを 免 し 給 はず、惡鬼 イエスを 知 るに 因 りてなり。
35 朝 まだき 暗 き 程 に、イエス 起 き 出 でて、寂 しき 處 にゆき、其處 にて 祈 りゐたまふ。
36 シモン 及 び 之 と 偕 にをる 者 ども、その 跡 を 慕 ひゆき、
37 イエスに 遇 ひて 言 ふ『人 みな 汝 を 尋 ぬ』
38 イエス 言 ひ 給 ふ『いざ 最寄 の 村々 に 往 かん、われ 彼處 にも 教 を 宣 ぶべし、我 はこの 爲 に 出 で 來 りしなり』
39 遂 にゆきて、徧 くガリラヤの 會堂 にて 教 を 宣 べ、かつ 惡鬼 を 逐 ひ 出 し 給 へり。
40 一人 の 癩病人 みもとに 來 り、跪 づき 請 ひて 言 ふ『御意 ならば、我 を 潔 くなし 給 ふを 得 ん』
41 イエス 憫 みて、手 をのべ 彼 につけて『わが 意 なり、潔 くなれ』と 言 ひ 給 へば、
42 直 ちに 癩病 さりて、その 人 きよまれり。
43 やがて 彼 を 去 らしめんとて、嚴 しく 戒 めて 言 ひ 給 ふ
44 『つつしみて 誰 にも 語 るな、唯 ゆきて 己 を 祭司 に 見 せ、モーセが 命 じたる 物 を 汝 の 潔 のために 献 げて、人々 に 證 せよ』
45 されど 彼 いでて 此 の 事 を 大 に 述 べつたへ、徧 く 弘 め 始 めたれば、この 後 イエスあらはに 町 に 入 りがたく、外 の 寂 しき 處 に 留 りたまふ。人々 四方 より 御許 に 來 れり。
Chapter 2
1 數日 の 後、またカペナウムに 入 り 給 ひしに、その 家 に 在 することを 聞 きて、
2 多 くの 人 あつまり 來 り、門口 すら 隙間 なき 程 なり。イエス 彼 らに 御言 を 語 り 給 ふ。
3 ここに 四人 に 擔 はれたる 中風 の 者 を 人々 つれ 來 る。
4 群衆 によりて 御許 にゆくこと 能 はざれば、在 す 所 の 屋根 を 穿 ちあけて、中風 の 者 を 床 のまま 縋 り 下 せり。
5 イエス 彼 らの 信仰 を 見 て、中風 の 者 に 言 ひたまふ『子 よ、汝 の 罪 ゆるされたり』
6 ある 學者 たち 其處 に 坐 しゐたるが、心 の 中 に、
7 『この 人 なんぞ 斯 く 言 ふか、これは 神 を 瀆 すなり、神 ひとりの 外 は 誰 か 罪 を 赦 すことを 得 べき』と 論 ぜしかば、
8 イエス 直 ちに 彼 等 がかく 論 ずるを 心 に 悟 りて 言 ひ 給 ふ『なにゆゑ 斯 かることを 心 に 論 ずるか、
9 中風 の 者 に「なんぢの 罪 ゆるされたり」と 言 ふと「起 きよ、床 をとりて 歩 め」と 言 ふと、孰 か 易 き。
10 人 の 子 の 地 にて 罪 を 赦 す 權威 ある 事 を、汝 らに 知 らせん 爲 に』――中風 の 者 に 言 ひ 給 ふ――
11 『なんぢに 告 ぐ、起 きよ、床 をとりて 家 に 歸 れ』
12 彼 おきて 直 ちに 床 をとりあげ、人々 の 眼前 いで 往 けば、皆 おどろき、かつ 神 を 崇 めて 言 ふ『われら 斯 くの 如 きことは 斷 えて 見 ざりき』
13 イエスまた 海邊 に 出 でゆき 給 ひしに、群衆 みもとに 集 ひ 來 りたれば、之 を 教 へ 給 へり。
14 かくて 過 ぎ 往 くとき、アルパヨの 子 レビの 收税所 に 坐 しをるを 見 て『われに 從 へ』と 言 ひ 給 へば、立 ちて 從 へり。
15 而 して 其 の 家 にて 食事 の 席 につき 居給 ふとき、多 くの 取税人・罪人 ら、イエス 及 び 弟子 たちと 共 に 席 に 列 る、これらの 者 おほく 居 て、イエスに 從 へるなり。
16 パリサイ 人 の 學者 ら、イエスの 罪人・取税人 とともに 食 し 給 ふを 見 て、その 弟子 たちに 言 ふ『なにゆゑ 取税人・罪人 とともに 食 するか』
17 イエス 聞 きて 言 ひ 給 ふ『健 かなる 者 は 醫者 を 要 せず、ただ 病 ある 者 これを 要 す。我 は 正 しき 者 を 招 かんとにあらで、罪人 を 招 かんとて 來 れり』
18 ヨハネの 弟子 とパリサイ 人 とは、斷食 しゐたり。人々 イエスに 來 りて 言 ふ『なにゆゑヨハネの 弟子 とパリサイ 人 の 弟子 とは 斷食 して、汝 の 弟子 は 斷食 せぬか』
19 イエス 言 ひ 給 ふ『新郎 の 友 だち、新郎 と 偕 にをるうちは 斷食 し 得 べきか、新郎 と 偕 にをる 間 は、斷食 するを 得 ず。
20 されど 新郎 をとらるる 日 きたらん、その 日 には 斷食 せん。
21 誰 も 新 しき 布 の 裂 を 舊 き 衣 に 縫 ひつくることは 爲 じ。もし 然 せば、その 補 ひたる 新 しきものは、舊 き 物 をやぶり、破綻 さらに 甚 だしからん。
22 誰 も 新 しき 葡萄酒 を、ふるき 革嚢 に 入 るることは 爲 じ。もし 然 せば、葡萄酒 は 嚢 をはりさきて、葡萄酒 も 嚢 も 廢 らん。新 しき 葡萄酒 は、新 しき 革嚢 に 入 るるなり』
23 イエス 安息 日 に 麥 畠 をとほり 給 ひしに、弟子 たち 歩 みつつ 穗 を 摘 み 始 めたれば、
24 パリサイ 人、イエスに 言 ふ『視 よ、彼 らは 何 ゆゑ 安息 日 に 爲 まじき 事 をするか』
25 答 へ 給 ふ『ダビデその 伴 へる 人々 と 共 に 乏 しくして 飢 ゑしとき 爲 しし 事 を 未 だ 讀 まぬか。
26 即 ち 大 祭司 アビアタルの 時、ダビデ 神 の 家 に 入 りて、祭司 のほかは 食 ふまじき 供 のパンを 取 りて 食 ひ、おのれと 偕 なる 者 にも 與 へたり』
27 また 言 ひたまふ『安息 日 は 人 のために 設 けられて、人 は 安息 日 のために 設 けられず。
28 されば 人 の 子 は 安息 日 にも 主 たるなり』
Chapter 3
1 また 會堂 に 入 り 給 ひしに、片手 なえたる 人 あり。
2 人々 イエスを 訴 へんと 思 ひて、安息 日 にかの 人 を 醫 すや 否 やと 窺 ふ。
3 イエス 手 なえたる 人 に『中 に 立 て』といひ、
4 また 人々 に 言 ひたまふ『安息 日 に 善 をなすと 惡 をなすと、生命 を 救 ふと 殺 すと、孰 かよき』彼 ら 默然 たり。
5 イエスその 心 の 頑固 なるを 憂 ひて、怒 り 見囘 して、手 なえたる 人 に『手 を 伸 べよ』と 言 ひ 給 ふ。かれ 手 を 伸 べたれば 癒 ゆ。
6 パリサイ 人 いでて、直 ちにヘロデ 黨 の 人 とともに、如何 にしてイエスを 亡 さんと 議 る。
7 イエスその 弟子 とともに 海邊 に 退 き 給 ひしに、ガリラヤより 來 れる 夥多 しき 民衆 も 從 ふ。又 ユダヤ、
8 エルサレム、イドマヤ、ヨルダンの 向 の 地、およびツロ、シドンの 邊 より 夥多 しき 民衆 その 爲 し 給 へる 事 を 聞 きて、御許 に 來 る。
9 イエス 群衆 のおしなやますを 逃 れんとて、小舟 を 備 へ 置 くことを 弟子 に 命 じ 給 ふ。
10 これ 多 くの 人 を 醫 し 給 ひたれば、凡 て 病 に 苦 しむもの、御體 に 觸 らんとて 押迫 る 故 なり。
11 また 穢 れし 靈 イエスを 見 る 毎 に、御前 に 平伏 し、叫 びて『なんぢは 神 の 子 なり』と 言 ひたれば、
12 我 を 顯 すなとて、嚴 しく 戒 め 給 ふ。
13 イエス 山 に 登 り、御意 に 適 ふ 者 を 召 し 給 ひしに、彼 ら 御許 に 來 る。
14 ここに 十二 人 を 擧 げたまふ。是 かれらを 御側 におき、また 教 を 宣 べさせ、
15 惡鬼 を 逐 ひ 出 す 權威 を 用 ひさする 爲 に、遣 さんとてなり。
16 此 の 十二 人 を 擧 げて、シモンにペテロといふ 名 をつけ、
17 ゼベダイの 子 ヤコブ、その 兄弟 ヨハネ、此 の 二人 にボアネルゲ、即 ち 雷霆 の 子 といふ 名 をつけ 給 ふ。
18 又 アンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの 子 ヤコブ、タダイ、熱心 黨 のシモン、
19 及 びイスカリオテのユダ、このユダはイエスを 賣 りしなり。かくてイエス 家 に 入 り 給 ひしに、
20 群衆 また 集 り 來 りたれば、食事 する 暇 もなかりき。
21 その 親族 の 者 これを 聞 き、イエスを 取押 へんとて 出 で 來 る、イエスを 狂 へりと 謂 ひてなり。
22 又 エルサレムより 下 れる 學者 たちも『彼 はベルゼブルに 憑 かれたり』と 言 ひ、かつ『惡鬼 の 首 によりて 惡鬼 を 逐 ひ 出 すなり』と 言 ふ。
23 イエス 彼 らを 呼 びよせ、譬 にて 言 ひ 給 ふ『サタンはいかでサタンを 逐 ひ 出 し 得 んや。
24 もし 國 分 れ 爭 はば、其 の 國 立 つこと 能 はず。
25 もし 家 分 れ 爭 はば、其 の 家 立 つこと 能 はざるべし。
26 もしサタン 己 に 逆 ひて 分 れ 爭 はば、立 つこと 能 はず、反 つて 亡 び 果 てん。
27 誰 にても 先 づ 強 き 者 を 縛 らずば、強 き 者 の 家 に 入 りて 其 の 家財 を 奪 ふこと 能 はじ、縛 りて 後 その 家 を 奪 ふべし。
28 まことに 汝 らに 告 ぐ、人 の 子 らの 凡 ての 罪 と、けがす 瀆 とは 赦 されん。
29 されど 聖 靈 をけがす 者 は、永遠 に 赦 されず、永遠 の 罪 に 定 めらるべし』
30 これは 彼 らイエスを『穢 れし 靈 に 憑 かれたり』と 云 へるが 故 なり。
31 ここにイエスの 母 と 兄弟 と 來 りて 外 に 立 ち、人 を 遣 してイエスを 呼 ばしむ。
32 群衆 イエスを 環 りて 坐 したりしが、或 者 いふ『視 よ、なんぢの 母 と 兄弟 姉妹 と 外 にありて 汝 を 尋 ぬ』
33 イエス 答 へて 言 ひ 給 ふ『わが 母、わが 兄弟 とは 誰 ぞ』
34 かくて 周圍 に 坐 する 人々 を 見囘 して 言 ひたまふ『視 よ、これは 我 が 母、わが 兄弟 なり。
35 誰 にても 神 の 御意 を 行 ふものは、是 わが 兄弟、わが 姉妹、わが 母 なり』
Chapter 4
1 イエスまた 海邊 にて 教 へ 始 めたまふ。夥多 しき 群衆、みもとに 集 りたれば、舟 に 乘 り 海 に 泛 びて 坐 したまひ、群衆 はみな 海 に 沿 ひて 陸 にあり。
2 譬 にて 數多 の 事 ををしへ、教 の 中 に 言 ひたまふ、
3 『聽 け、種 播 くもの、播 かんとて 出 づ。
4 播 くとき、路 の 傍 らに 落 ちし 種 あり、鳥 きたりて 啄 む。
5 土 うすき 磽地 に 落 ちし 種 あり、土 深 からぬによりて、速 かに 萠 え 出 でたれど、
6 日 出 でてやけ、根 なき 故 に 枯 る。
7 茨 の 中 に 落 ちし 種 あり、茨 そだち 塞 ぎたれば、實 を 結 ばず。
8 良 き 地 に 落 ちし 種 あり、生 え 出 でて 茂 り、實 を 結 ぶこと、三十 倍、六十 倍、百 倍 せり』
9 また 言 ひ 給 ふ『きく 耳 ある 者 は 聽 くべし』
10 イエス 人々 を 離 れ 居給 ふとき、御許 にをる 者 ども、十二 弟子 とともに、此 等 の 譬 を 問 ふ。
11 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢらには 神 の 國 の 奧義 を 與 ふれど、外 の 者 には、凡 て 譬 にて 教 ふ。
12 これ「見 るとき 見 ゆとも 認 めず、聽 くとき 聞 ゆとも 悟 らず、飜 へりて 赦 さるる 事 なからん」爲 なり』
13 また 言 ひ 給 ふ『なんぢら 此 の 譬 を 知 らぬか、さらば 爭 でもろもろの 譬 を 知 り 得 んや。
14 播 く 者 は 御言 を 播 くなり。
15 御言 の 播 かれて 路 の 傍 らにありとは、かかる 人 をいふ、即 ち 聞 くとき、直 ちにサタン 來 りて、その 播 かれたる 御言 を 奪 ふなり。
16 同 じく 播 かれて 磽地 にありとは、かかる 人 をいふ、即 ち 御言 をききて、直 ちに 喜 び 受 くれども、
17 その 中 に 根 なければ、ただ 暫 し 保 つのみ、御言 のために 患難 また 迫害 にあふ 時 は、直 ちに 躓 くなり。
18 また 播 かれて 茨 の 中 にありとは、かかる 人 をいふ、
19 すなはち 御言 をきけど、世 の 心勞、財貨 の 惑、さまざまの 慾 いりきたり、御言 を 塞 ぐによりて、遂 に 實 らざるなり。
20 播 かれて 良 き 地 にありとは、かかる 人 をいふ、即 ち 御言 を 聽 きて 受 け、三十 倍、六十 倍、百 倍 の 實 を 結 ぶなり』
21 また 言 ひたまふ『升 のした、寢臺 の 下 におかんとて、燈火 をもち 來 るか、燈臺 の 上 におく 爲 ならずや。
22 それ 顯 るる 爲 ならで 隱 るるものなく、明 かにせらるる 爲 ならで 秘 めらるるものなし。
23 聽 く 耳 ある 者 は 聽 くべし』
24 また 言 ひ 給 ふ『なんぢら 聽 くことに 心 せよ、汝 らが 量 る 量 にて 量 られ、更 に 増 し 加 へらるべし。
25 それ 有 てる 人 は、なほ 與 へられ、有 たぬ 人 は、有 てる 物 をも 取 らるべし』
26 また 言 ひたまふ『神 の 國 は、或 人 たねを 地 に 播 くが 如 し、
27 日夜 起臥 するほどに、種 はえ 出 でて 育 てども、その 故 を 知 らず。
28 地 はおのづから 實 を 結 ぶものにして、初 には 苗、つぎに 穗、つひに 穗 の 中 に 充 ち 足 れる 穀 なる。
29 實 みのれば 直 ちに 鎌 を 入 る、收穫時 の 到 れるなり』
30 また 言 ひ 給 ふ『われら 神 の 國 を 何 になずらへ、如何 なる 譬 をもて 示 さん。
31 一粒 の 芥種 のごとし、地 に 播 く 時 は、世 にある 萬 の 種 よりも 小 けれど、
32 既 に 播 きて 生 え 出 づれば、萬 の 野菜 よりは 大 く、かつ 大 なる 枝 を 出 して、空 の 鳥 その 蔭 に 棲 み 得 るほどになるなり』
33 かくのごとき 數多 の 譬 をもて、人々 の 聽 きうる 力 に 隨 ひて、御言 を 語 り、
34 譬 ならでは 語 り 給 はず、弟子 たちには、人 なき 時 に 凡 ての 事 を 釋 き 給 へり。
35 その 日、夕 になりて 言 ひ 給 ふ『いざ 彼方 に 往 かん』
36 弟子 たち 群衆 を 離 れ、イエスの 舟 にゐ 給 ふまま 共 に 乘 り 出 づ、他 の 舟 も 從 ひゆく。
37 時 に 烈 しき 颶風 おこり、浪 うち 込 みて、舟 に 滿 つるばかりなり。
38 イエスは 艫 の 方 に 茵 を 枕 として 寢 ねたまふ。弟子 たち 呼 び 起 して 言 ふ『師 よ、我 らの 亡 ぶるを 顧 み 給 はぬか』
39 イエス 起 きて 風 をいましめ、海 に 言 ひたまふ『默 せ、鎭 れ』乃 ち 風 やみて、大 なる 凪 となりぬ。
40 かくて 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『なに 故 かく 臆 するか、信仰 なきは 何 ぞ』
41 かれら 甚 く 懼 れて 互 に 言 ふ『こは 誰 ぞ、風 も 海 も 順 ふとは』
Chapter 5
1 かくて 海 の 彼方 なるゲラセネ 人 の 地 に 到 る。
2 イエスの 舟 より 上 り 給 ふとき、穢 れし 靈 に 憑 かれたる 人、墓 より 出 でて 直 ちに 遇 ふ。
3 この 人、墓 を 住處 とす、鏈 にてすら 今 は 誰 も 繋 ぎ 得 ず。
4 彼 はしばしば 足械 と 鏈 とにて 繋 がれたれど、鏈 をちぎり、足械 をくだきたり、誰 も 之 を 制 する 力 なかりしなり。
5 夜 も 晝 も、絶 えず 墓 あるひは 山 にて 叫 び、己 が 身 を 石 にて 傷 つけゐたり。
6 かれ 遙 にイエスを 見 て、走 りきたり、御前 に 平伏 し、
7 大聲 に 叫 びて 言 ふ『いと 高 き 神 の 子 イエスよ、我 は 汝 と 何 の 關係 あらん、神 によりて 願 ふ、我 を 苦 しめ 給 ふな』
8 これはイエス『穢 れし 靈 よ、この 人 より 出 で 往 け』と 言 ひ 給 ひしに 因 るなり。
9 イエスまた『なんぢの 名 は 何 か』と 問 ひ 給 へば『わが 名 はレギオン、我 ら 多 きが 故 なり』と 答 へ、
10 また 己 らを 此 の 地 の 外 に 逐 ひやり 給 はざらんことを 切 に 求 む。
11 彼處 の 山邊 に 豚 の 大 なる 群、食 しゐたり。
12 惡鬼 どもイエスに 求 めて 言 ふ『われらを 遣 して 豚 に 入 らしめ 給 へ』
13 イエス 許 したまふ。穢 れし 靈 いでて、豚 に 入 りたれば、二千 匹 ばかりの 群、海 に 向 ひて 崖 を 駈 けくだり、海 に 溺 れたり。
14 飼 ふ 者 ども 逃 げ 往 きて、町 にも 里 にも 告 げたれば、人々 何事 の 起 りしかを 見 んとて 出 づ。
15 かくてイエスに 來 り、惡鬼 に 憑 かれたりし 者、即 ちレギオンをもちたりし 者 の、衣服 をつけ、慥 なる 心 にて 坐 しをるを 見 て、懼 れあへり。
16 かの 惡鬼 に 憑 かれたる 者 の 上 にありし 事 と、豚 の 事 とを 見 し 者 ども、之 を 具 に 告 げたれば、
17 人々 イエスにその 境 を 去 り 給 はん 事 を 求 む。
18 イエス 舟 に 乘 らんとし 給 ふとき、惡鬼 に 憑 かれたりしもの 偕 に 在 らん 事 を 願 ひたれど、
19 許 さずして 言 ひ 給 ふ『なんぢの 家 に、親 しき 者 に 歸 りて、主 がいかに 大 なる 事 を 汝 に 爲 し、いかに 汝 を 憫 み 給 ひしかを 告 げよ』
20 彼 ゆきて、イエスの 如何 に 大 なる 事 を 己 になし 給 ひしかを、デカポリスに 言 ひ 弘 めたれば、人々 みな 怪 しめり。
21 イエス 舟 にて 復 かなたに 渡 り 給 ひしに、大 なる 群衆 みもとに 集 る、イエス 海邊 に 在 せり。
22 會堂 司 の 一人、ヤイロという 者 きたり、イエスを 見 て、その 足下 に 伏 し、
23 切 に 願 ひて 言 ふ『わが 稚 なき 娘、いまはの 際 なり、來 りて 手 をおき 給 へ、さらば 救 はれて 活 くべし』
24 イエス 彼 と 共 にゆき 給 へば、大 なる 群衆 したがひつつ 御許 に 押迫 る。
25 ここに 十 二年 血漏 を 患 ひたる 女 あり。
26 多 くの 醫者 に 多 く 苦 しめられ、有 てる 物 をことごとく 費 したれど、何 の 效 なく、反 つて 増々 惡 しくなりたり。
27 イエスの 事 をききて、群衆 にまじり、後 に 來 りて、御衣 にさはる、
28 『その 衣 にだに 觸 らば 救 はれん』と 自 ら 謂 へり。
29 かくて 血 の 泉 ただちに 乾 き、病 のいえたるを 身 に 覺 えたり。
30 イエス 直 ちに 能力 の 己 より 出 でたるを 自 ら 知 り、群衆 の 中 にて、振反 り 言 ひたまふ『誰 が 我 の 衣 に 觸 りしぞ』
31 弟子 たち 言 ふ『群衆 の 押迫 るを 見 て、誰 が 我 に 觸 りしぞと 言 ひ 給 ふか』
32 イエスこの 事 を 爲 しし 者 を 見 んとて 見囘 し 給 ふ。
33 女 おそれ 戰 き、己 が 身 になりし 事 を 知 り、來 りて 御前 に 平伏 し、ありしままを 告 ぐ。
34 イエス 言 ひ 給 ふ『娘 よ、なんぢの 信仰 なんぢを 救 へり、安 らかに 往 け、病 いえて 健 かになれ』
35 かく 語 り 給 ふほどに、會堂 司 の 家 より 人々 きたりて 言 ふ『なんぢの 娘 は 早 や 死 にたり、爭 でなほ 師 を 煩 はすべき』
36 イエス 其 の 告 ぐる 言 を 傍 より 聞 きて、會堂 司 に 言 ひたまふ『懼 るな、ただ 信 ぜよ』
37 かくてペテロ、ヤコブその 兄弟 ヨハネの 他 は、ともに 往 く 事 を 誰 にも 許 し 給 はず。
38 彼 ら 會堂 司 の 家 に 來 る。イエス 多 くの 人 の、甚 く 泣 きつ 叫 びつする 騷 を 見、
39 入 りて 言 ひ 給 ふ『なんぞ 騷 ぎかつ 泣 くか、幼兒 は 死 にたるにあらず、寐 ねたるなり』
40 人々 イエスを 嘲笑 ふ。イエス 彼 等 をみな 外 に 出 し、幼兒 の 父 と 母 と 己 に 伴 へる 者 とを 率 きつれて、幼兒 のをる 處 に 入 り、
41 幼兒 の 手 を 執 りて『タリタ、クミ』と 言 ひたまふ。少女 よ、我 なんぢに 言 ふ、起 きよ、との 意 なり。
42 直 ちに 少女 たちて 歩 む、その 歳 十二 なりければなり。彼 ら 直 ちに 甚 く 驚 きおどろけり。
43 イエス 此 の 事 を 誰 にも 知 れぬやうにせよと、堅 く 彼 らを 戒 め、また 食物 を 娘 に 與 ふることを 命 じ 給 ふ。
Chapter 6
1 かくて 其處 をいで、己 が 郷 に 到 り 給 ひしに、弟子 たちも 從 へり。
2 安息 日 になりて、會堂 にて 教 へ 始 め 給 ひしに、聞 きたる 多 くのもの 驚 きて 言 ふ『この 人 は 此 等 のことを 何處 より 得 しぞ、此 の 人 の 授 けられたる 智慧 は 何 ぞ、その 手 にて 爲 すかくのごとき 能力 あるわざは 何 ぞ。
3 此 の 人 は 木匠 にして、マリヤの 子、またヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの 兄弟 ならずや、其 の 姉妹 も 此處 に 我 らと 共 にをるに 非 ずや』遂 に 彼 に 躓 けり。
4 イエス 彼 らに 言 ひたまふ『預言者 は、おのが 郷、おのが 親族、おのが 家 の 外 にて 尊 ばれざる 事 なし』
5 彼處 にては、何 の 能力 ある 業 をも 行 ひ 給 ふこと 能 はず、ただ 少數 の 病 める 者 に、手 をおきて 醫 し 給 ひしのみ。
6 彼 らの 信仰 なきを 怪 しみ 給 へり。かくて 村々 を 歴 巡 りて 教 へ 給 ふ。
7 また 十二 弟子 を 召 し、二人 づつ 遣 しはじめ、穢 れし 靈 を 制 する 權威 を 與 へ、
8 かつ 旅 のために、杖 一 つの 他 は、何 をも 持 たず、糧 も 嚢 も 帶 の 中 に 錢 をも 持 たず、
9 ただ 草鞋 ばかりをはきて、二 つの 下衣 をも 著 ざることを 命 じ 給 へり。
10 かくて 言 ひたまふ『何處 にても 人 の 家 に 入 らば、その 地 を 去 るまで 其處 に 留 れ。
11 何地 にても 汝 らを 受 けず、汝 らに 聽 かずば、其處 を 出 づるとき、證 のために 足 の 裏 の 塵 を 拂 へ』
12 ここに 弟子 たち 出 で 往 きて、悔改 むべきことを 宣傅 へ、
13 多 くの 惡鬼 を 逐 ひいだし、多 くの 病 める 者 に 油 をぬりて 醫 せり。
14 かくてイエスの 名 顯 れたれば、ヘロデ 王 ききて 言 ふ『バプテスマのヨハネ 死人 の 中 より 甦 へりたり。この 故 に 此 等 の 能力 その 中 に 働 くなり』
15 或 人 は『エリヤなり』といひ、或 人 は『預言者、いにしへの 預言者 のごとき 者 なり』といふ。
16 ヘロデ 聞 きて 言 ふ『わが 首斬 りしヨハネ、かれ 甦 へりたるなり』
17 ヘロデ 先 にその 娶 りたる 己 が 兄弟 ピリポの 妻 ヘロデヤの 爲 に、みづから 人 を 遣 し、ヨハネを 捕 へて 獄 に 繋 げり。
18 ヨハネ、ヘロデに『その 兄弟 の 妻 を 納 るるは 宣 しからず』と 言 へるに 因 る。
19 ヘロデヤ、ヨハネを 怨 みて 殺 さんと 思 へど 能 はず。
20 それはヘロデ、ヨハネの 義 にして 聖 なる 人 たるを 知 りて、之 を 畏 れ、之 を 護 り、且 つその 教 をききて、大 に 惱 みつつも、なほ 喜 びて 聽 きたる 故 なり。
21 然 るに 機 よき 日 來 れり。ヘロデ 己 が 誕生日 に、大臣・將校・ガリラヤの 貴人 たちを 招 きて 饗宴 せしに、
22 かのヘロデヤの 娘 いり 來 りて、舞 をまひ、ヘロデと 其 の 席 に 列 れる 者 とを 喜 ばしむ。王、少女 に 言 ふ『何 にても 欲 しく 思 ふものを 求 めよ、我 あたへん』
23 また 誓 ひて 言 ふ『なんぢ 求 めば、我 が 國 の 半 までも 與 へん』
24 娘 いでて 母 にいふ『何 を 求 むべきか』母 いふ『バプテスマのヨハネの 首 を』
25 娘 ただちに 急 ぎて 王 の 許 に 入 りきたり、求 めて 言 ふ『ねがはくは、バプテスマのヨハネの 首 を 盆 に 載 せて 速 かに 賜 はれ』
26 王 いたく 憂 ひたれど、その 誓 と 席 に 在 る 者 とに 對 して 拒 むことを 好 まず、
27 直 ちに 衞兵 を 遣 し、之 にヨハネの 首 を 持 ち 來 ることを 命 ず、衞兵 ゆきて、獄 にてヨハネを 首斬 り、
28 その 首 を 盆 にのせ、持 ち 來 りて 少女 に 與 ふ、少女 これを 母 に 與 ふ。
29 ヨハネの 弟子 たち 聞 きて 來 り、その 屍體 を 取 りて 墓 に 納 めたり。
30 使徒 たちイエスの 許 に 集 りて、その 爲 ししこと、教 へし 事 をことごとく 告 ぐ。
31 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢら 人 を 避 け、寂 しき 處 に、いざ 來 りて 暫 し 息 へ』これは 往來 の 人 おほくして、食 する 暇 だになかりし 故 なり。
32 かくて 人 を 避 け、舟 にて 寂 しき 處 にゆく。
33 其 の 往 くを 見 て、多 くの 人 それと 知 り、その 處 を 指 して、町々 より 徒歩 にてともに 走 り、彼 等 よりも 先 に 往 けり。
34 イエス 出 でて 大 なる 群衆 を 見、その 牧 ふ 者 なき 羊 の 如 くなるを 甚 く 憫 みて、多 くの 事 を 教 へはじめ 給 ふ。
35 時 すでに 晩 くなりたれば、弟子 たち 御許 に 來 りていふ『ここは 寂 しき 處、はや 時 も 晩 し。
36 人々 を 去 らしめ、周圍 の 里 また 村 に 往 きて、己 がために 食物 を 買 はせ 給 へ』
37 答 へて 言 ひ 給 ふ『なんぢら 食物 を 與 へよ』弟子 たち 言 ふ『われら 往 きて 二 百 デナリのパンを 買 ひ、これに 與 へて 食 はすべきか』
38 イエス 言 ひ 給 ふ『パン 幾 つあるか、往 きて 見 よ』彼 ら 見 ていふ『五 つ、また 魚 二 つあり』
39 イエス 凡 ての 人 の 組々 となりて、青 草 の 上 に 坐 することを 命 じ 給 へば、
40 或 は 百 人、あるひは 五 十 人、畝 のごとく 列 びて 坐 す。
41 かくてイエス 五 つのパンと 二 つの 魚 とを 取 り、天 を 仰 ぎて 祝 し、パンをさき、弟子 たちに 付 して 人々 の 前 に 置 かしめ、二 つの 魚 をも 人 毎 に 分 け 給 ふ。
42 凡 ての 人 食 ひて 飽 きたれば、
43 パンの 餘、魚 の 殘 を 集 めしに、十二 の 筐 に 滿 ちたり。
44 パンを 食 ひたる 男 は 五 千 人 なりき。
45 イエス 直 ちに、弟子 たちを 強 ひて 舟 に 乘 らせ、自 ら 群衆 を 返 す 間 に、彼方 なるベツサイダに 先 に 往 かしむ。
46 群衆 に 別 れてのち、祈 らんとて 山 にゆき 給 ふ。
47 夕 になりて、舟 は 海 の 眞中 にあり、イエスはひとり 陸 に 在 す。
48 風 逆 ふに 因 りて、弟子 たちの 漕 ぎ 煩 ふを 見 て、夜明 の 四時 ごろ、海 の 上 を 歩 み、その 許 に 到 りて、往 き 過 ぎんとし 給 ふ。
49 弟子 たち 其 の 海 の 上 を 歩 み 給 ふを 見、變化 の 者 ならんと 思 ひて 叫 ぶ。
50 皆 これを 見 て 心 騷 ぎたるに 因 る。イエス 直 ちに 彼 らに 語 りて 言 ひ 給 ふ『心 安 かれ、我 なり、懼 るな』
51 かくて 弟子 たちの 許 にゆき、舟 に 登 り 給 へば、風 やみたり。弟子 たち 心 の 中 にて 甚 く 驚 く、
52 彼 らは 先 のパンの 事 をさとらず、反 つて 其 の 心 鈍 くなりしなり。
53 遂 に 渡 りてゲネサレの 地 に 著 き、舟 がかりす。
54 舟 より 上 りしに、人々 ただちにイエスを 認 めて、
55 徧 くあたりを 馳 せまはり、その 在 すと 聞 く 處々 に、患 ふ 者 を 床 のままつれ 來 る。
56 その 到 りたまふ 處 には、村 にても、町 にても、里 にても、病 める 者 を 市場 におきて、御衣 の 總 にだに 觸 らしめ 給 はんことを 願 ふ。觸 りし 者 は、みな 醫 されたり。
Chapter 7
1 パリサイ 人 と 或 學者 らと、エルサレムより 來 りてイエスの 許 に 集 る。
2 而 して、その 弟子 たちの 中 に、潔 からぬ 手、即 ち 洗 はぬ 手 にて 食事 する 者 のあるを 見 たり。
3 パリサイ 人 および 凡 てのユダヤ 人 は、古 への 人 の 言傳 を 固 く 執 りて、懇 ろに 手 を 洗 はねば 食 はず。
4 また 市場 より 歸 りては、まず 禊 がざれば 食 はず。このほか 酒杯・鉢・銅 の 器 を 濯 ぐなど、多 くの 傳 を 承 けて 固 く 執 りたり。
5 パリサイ 人 および 學者 らイエスに 問 ふ『なにゆゑ 汝 の 弟子 たちは、古 への 人 の 言傳 に 遵 ひて 歩 まず、潔 からぬ 手 にて 食事 するか』
6 イエス 言 ひ 給 ふ『イザヤは 汝 ら 僞善者 につきて 能 く 預言 せり。「この 民 は 口唇 にて 我 を 敬 ふ、されどその 心 は 我 に 遠 ざかる。
7 ただ 徒 らに 我 を 拜 む、人 の 訓誡 を 教 とし 教 へて」と 録 したり。
8 なんぢらは 神 の 誡命 を 離 れて、人 の 言傳 を 固 く 執 る』
9 また 言 ひたまふ『汝 等 はおのれの 言傳 を 守 らんとて、能 くも 神 の 誡命 を 棄 つ。
10 即 ちモーセは「なんぢの 父、なんぢの 母 を 敬 へ」といひ「父 また 母 を 詈 る 者 は、必 ず 殺 さるべし」といへり。
11 然 るに 汝 らは「人 もし 父 また 母 にむかひ、我 が 汝 に 對 して 負 ふ 所 のものは、コルバン 即 ち 供物 なりと 言 はば 可 し」と 言 ひて、
12 そののち 人 をして、父 また 母 に 事 ふること 無 からしむ。
13 かく 汝 らの 傳 へたる 言傳 によりて、神 の 言 を 空 しうし、又 おほく 此 の 類 の 事 をなしをるなり』
14 更 に 群衆 を 呼 び 寄 せて 言 ひ 給 ふ『なんぢら 皆 われに 聽 きて 悟 れ。
15 外 より 人 に 入 りて、人 を 汚 し 得 るものなし、されど 人 より 出 づるものは、これ 人 を 汚 すなり』
16 [なし]
17 イエス 群衆 を 離 れて 家 に 入 り 給 ひしに、弟子 たち 其 の 譬 を 問 ふ。
18 彼 らに 言 ひ 給 ふ『なんぢらも 然 か 悟 なきか、外 より 人 に 入 る 物 の、人 を 汚 しえぬを 悟 らぬか、
19 これ 心 には 入 らず、腹 に 入 りて 厠 におつるなり』かく 凡 ての 食物 を 潔 しとし 給 へり。
20 また 言 ひたまふ『人 より 出 づるものは、これ 人 を 汚 すなり。
21 それ 内 より、人 の 心 より、惡 しき 念 いづ、即 ち 淫行・竊盜・殺人、
22 姦淫・慳貪・邪曲・詭計・好色・嫉妬・誹謗・傲慢・愚痴。
23 すべて 此 等 の 惡 しき 事 は、内 より 出 でて 人 を 汚 すなり』
24 イエス 起 ちて 此處 を 去 り、ツロの 地方 に 往 き、家 に 入 りて 人 に 知 られじとし 給 ひたれど、隱 るること 能 はざりき。
25 ここに 穢 れし 靈 に 憑 かれたる 稚 なき 娘 をもてる 女、ただちにイエスの 事 をきき、來 りて 御足 の 許 に 平伏 す。
26 この 女 はギリシヤ 人 にて、スロ・フェニキヤの 生 なり。その 娘 より 惡鬼 を 逐 ひ 出 し 給 はんことを 請 ふ。
27 イエス 言 ひ 給 ふ『まづ 子供 に 飽 かしむべし、子供 のパンをとりて 小狗 に 投 げ 與 ふるは 善 からず』
28 女 こたへて 言 ふ『然 り、主 よ、食卓 の 下 の 小狗 も 子供 の 食屑 を 食 ふなり』
29 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢ 此 の 言 によりて[安 んじ]往 け、惡鬼 は 既 に 娘 より 出 でたり』
30 をんな 家 に 歸 りて 見 るに、子 は 寢臺 の 上 に 臥 し、惡鬼 は 既 に 出 でたり。
31 イエスまたツロの 地方 を 去 りて、シドンを 過 ぎ、デカポリスの 地方 を 經 て、ガリラヤの 海 に 來 り 給 ふ。
32 人々、耳聾 にして 物 言 ふこと 難 き 者 を 連 れ 來 りて、之 に 手 をおき 給 はんことを 願 ふ。
33 イエス 群衆 の 中 より、彼 をひとり 連 れ 出 し、その 兩耳 に 指 をさし 入 れ、また 唾 して 其 の 舌 に 觸 り、
34 天 を 仰 ぎて 嘆 じ、その 人 に 對 ひて『エパタ』と 言 ひ 給 ふ、ひらけよとの 意 なり。
35 かくてその 耳 ひらけ、舌 の 縺 ただちに 解 け、正 しく 物 いへり。
36 イエス 誰 にも 告 ぐなと 人々 を 戒 めたまふ。されど 戒 むるほど 反 つて 愈々 言 ひ 弘 めたり。
37 また 甚 だしく 打驚 きて 言 ふ『かれの 爲 しし 事 は 皆 よし、聾者 をも 聞 えしめ、唖者 をも 物 いはしむ』
Chapter 8
1 その 頃 また 大 なる 群衆 にて 食 ふべき 物 なかりしかば、イエス 弟子 たちを 召 して 言 ひ 給 ふ、
2 『われ 此 の 群衆 を 憫 む、既 に 三日 われと 偕 にをりて、食 ふべき 物 なし。
3 飢 ゑしままにて 其 の 家 に 歸 らしめば、途 にて 疲 れ 果 てん。其 の 中 には 遠 くより 來 れる 者 あり』
4 弟子 たち 答 へて 言 ふ『この 寂 しき 地 にては、何處 よりパンを 得 て、この 人々 を 飽 かしむべき』
5 イエス 問 ひ 給 ふ『パン 幾 つあるか』答 へて『七 つ』といふ。
6 イエス 群衆 に 命 じて 地 に 坐 せしめ、七 つのパンを 取 り、謝 して 之 を 裂 き、弟子 たちに 與 へて 群衆 の 前 におかしむ。弟子 たち 乃 ちその 前 におく。
7 また 小 き 魚 すこしばかりあり、祝 して、之 をもその 前 におけと 言 ひ 給 ふ。
8 人々 食 ひて 飽 き、裂 きたる 餘 を 拾 ひしに、七 つの 籃 に 滿 ちたり。
9 その 人 おほよそ 四千 人 なりき。イエス 彼 らを 歸 し、
10 直 ちに 弟子 たちと 共 に 舟 に 乘 りて、ダルマヌタの 地方 に 往 き 給 へり。
11 パリサイ 人 いで 來 りて、イエスと 論 じはじめ、之 を 試 みて 天 よりの 徴 をもとむ。
12 イエス 心 に 深 く 歎 じて 言 ひ 給 ふ『なにゆゑ 今 の 代 は 徴 を 求 むるか、まことに 汝 らに 告 ぐ、徴 は 今 の 代 に 斷 えて 與 へられじ』
13 かくて 彼 らを 離 れ、また 舟 に 乘 りて 彼方 に 往 き 給 ふ。
14 弟子 たちパンを 携 ふることを 忘 れ、舟 には 唯一 つの 他 パンなかりき。
15 イエス 彼 らを 戒 めて 言 ひたまふ『愼 みて、パリサイ 人 のパンだねと、ヘロデのパンだねとに 心 せよ』
16 弟子 たち 互 に、これはパン 無 き 故 ならんと 語 り 合 ふ。
17 イエス 知 りて 言 ひたまふ『何 ぞパン 無 き 故 ならんと 語 り 合 ふか、未 だ 知 らぬか、悟 らぬか、汝 らの 心 なほ 鈍 きか。
18 目 ありて 見 ぬか、耳 ありて 聽 かぬか。又 なんぢら 思 ひ 出 でぬか、
19 五 つのパンを 裂 きて、五 千 人 に 與 へし 時、その 餘 を 幾筐 ひろひしか』弟子 たち 言 ふ『十二』
20 『七 つのパンを 裂 きて 四千 人 に 與 へし 時、その 餘 を 幾籃 ひろひしか』弟子 たち 言 ふ『七 つ』
21 イエス 言 ひたまふ『未 だ 悟 らぬか』
22 彼 ら 遂 にベツサイダに 到 る。人々、盲人 をイエスに 連 れ 來 りて、觸 り 給 はんことを 願 ふ。
23 イエス 盲人 の 手 をとりて、村 の 外 に 連 れ 往 き、その 目 に 唾 し、御手 をあてて『なにか 見 ゆるか』と 問 ひ 給 へば、
24 見 上 げて 言 ふ『人 を 見 る、それは 樹 の 如 き 物 の 歩 くが 見 ゆ』
25 また 御手 をその 目 にあて 給 へば、視凝 めたるに、癒 えて 凡 てのもの 明 かに 見 えたり。
26 かくて『村 にも 入 るな』と 言 ひて、その 家 に 歸 し 給 へり。
27 イエス 其 の 弟子 たちとピリポ・カイザリヤの 村々 に 出 でゆき、途 にて 弟子 たちに 問 ひて 言 ひたまふ『人々 は 我 を 誰 と 言 ふか』
28 答 へて 言 ふ『バプテスマのヨハネ、或 人 はエリヤ、或 人 は 預言者 の 一人』
29 また 問 ひ 給 ふ『なんぢらは 我 を 誰 と 言 ふか』ペテロ 答 へて 言 ふ『なんぢはキリストなり』
30 イエス 己 がことを 誰 にも 告 ぐなと、彼 らを 戒 め 給 ふ。
31 かくて 人 の 子 の 必 ず 多 くの 苦難 をうけ、長老・祭司長・學者 らに 棄 てられ、かつ 殺 され、三日 の 後 に 甦 へるべき 事 を 教 へはじめ、
32 此 の 事 をあらはに 語 り 給 ふ。ここにペテロ、イエスを 傍 にひきて 戒 め 出 でたれば、
33 イエス 振反 りて 弟子 たちを 見、ペテロを 戒 めて 言 ひ 給 ふ『サタンよ、わが 後 に 退 け、汝 は 神 のことを 思 はず、反 つて 人 のことを 思 ふ』
34 かくて 群衆 を 弟子 たちと 共 に 呼 び 寄 せて 言 ひたまふ『人 もし 我 に 從 ひ 來 らんと 思 はば、己 をすて、己 が 十字架 を 負 ひて 我 に 從 へ。
35 己 が 生命 を 救 はんと 思 ふ 者 は、これを 失 ひ、我 が 爲 また 福音 の 爲 に 己 が 生命 をうしなふ 者 は、之 を 救 はん。
36 人、全世界 を 贏 くとも、己 が 生命 を 損 せば、何 の 益 あらん、
37 人 その 生命 の 代 に 何 を 與 へんや。
38 不義 なる 罪 深 き 今 の 代 にて、我 または 我 が 言 を 恥 づる 者 をば、人 の 子 もまた、父 の 榮光 をもて、聖 なる 御使 たちと 共 に 來 らん 時 に 恥 づべし』
Chapter 9
1 また 言 ひ 給 ふ『まことに 汝 らに 告 ぐ、此處 に 立 つ 者 のうちに、神 の 國 の、權能 をもて 來 るを 見 るまでは、死 を 味 はぬ 者 どもあり』
2 六日 の 後、イエスただペテロ、ヤコブ、ヨハネのみを 率 きつれ、人 を 避 けて 高 き 山 に 登 りたまふ。かくて 彼 らの 前 にて 其 の 状 かはり、
3 其 の 衣 かがやきて 甚 だ 白 くなりぬ、世 の 晒布者 を 爲 し 得 ぬほど 白 し。
4 エリヤ、モーセともに 彼 らに 現 れて、イエスと 語 りゐたり。
5 ペテロ 差出 でてイエスに 言 ふ『ラビ、我 らの 此處 に 居 るは 善 し。われら 三 つの 廬 を 造 り、一 つを 汝 のため、一 つをモーセのため、一 つをエリヤのためにせん』
6 彼 等 いたく 懼 れたれば、ペテロ 何 と 言 ふべきかを 知 らざりしなり。
7 かくて 雲 おこり、彼 らを 覆 ふ。雲 より 聲 出 づ『これは 我 が 愛 しむ 子 なり、汝 ら 之 に 聽 け』
8 弟子 たち 急 ぎ 見囘 すに、イエスと 己 らとの 他 には、はや 誰 も 見 えざりき。
9 山 をくだる 時、イエス 彼 らに、人 の 子 の、死人 の 中 より 甦 へるまでは、見 しことを 誰 にも 語 るなと 戒 め 給 ふ。
10 彼 ら 此 の 言 を 心 にとめ『死人 の 中 より 甦 へる』とは、如何 なる 事 ぞと 互 に 論 じ 合 ふ。
11 かくてイエスに 問 ひて 言 ふ『學者 たちは、何 故 エリヤまづ 來 るべしと 言 ふか』
12 イエス 言 ひ 給 ふ『實 にエリヤ 先 づ 來 りて、萬 の 事 をあらたむ。さらば 人 の 子 につき、多 くの 苦難 を 受 け、かつ 蔑 せらるる 事 の 録 されたるは 何 ぞや。
13 されど 我 なんぢらに 告 ぐ、エリヤは 既 に 來 れり。然 るに 彼 に 就 きて 録 されたる 如 く、人々 心 のままに 之 を 待 へり』
14 相 共 に 弟子 たちの 許 に 來 りて、大 なる 群衆 の 之 を 環 り、學者 たちの 之 と 論 じゐたるを 見 給 ふ。
15 群衆 みなイエスを 見 るや 否 や、いたく 驚 き、御許 に 走 り 往 きて 禮 をなせり。
16 イエス 問 ひ 給 ふ『なんぢら 何 を 彼 らと 論 ずるか』
17 群衆 のうちの 一人 こたふ『師 よ、唖 の 靈 に 憑 かれたる 我 が 子 を 御許 に 連 れ 來 れり。
18 靈 いづこにても 彼 に 憑 けば、痙攣 け 泡 をふき、齒 をくひしばり、而 して 痩 せ 衰 ふ。御弟子 たちに 之 を 逐 ひ 出 すことを 請 ひたれど 能 はざりき』
19 ここに 彼 らに 言 ひ 給 ふ『ああ 信 なき 代 なるかな、我 いつまで 汝 らと 偕 にをらん、何時 まで 汝 らを 忍 ばん。その 子 を 我 が 許 に 連 れきたれ』
20 乃 ち 連 れきたる。彼 イエスを 見 しとき、靈 ただちに 之 を 痙攣 けたれば、地 に 倒 れ、泡 をふきて 轉 び 廻 る。
21 イエスその 父 に 問 ひ 給 ふ『いつの 頃 より 斯 くなりしか』父 いふ『をさなき 時 よりなり。
22 靈 しばしば 彼 を 火 のなか 水 の 中 に 投 げ 入 れて 亡 さんとせり。されど 汝 なにか 爲 し 得 ば、我 らを 憫 みて 助 け 給 へ』
23 イエス 言 ひたまふ『爲 し 得 ばと 言 ふか、信 ずる 者 には、凡 ての 事 なし 得 らるるなり』
24 その 子 の 父 ただちに 叫 びて 言 ふ『われ 信 ず、信仰 なき 我 を 助 け 給 へ』
25 イエス 群衆 の 走 り 集 るを 見 て、穢 れし 靈 を 禁 めて 言 ひたまふ『唖 にて 耳聾 なる 靈 よ、我 なんぢに 命 ず、この 子 より 出 でよ、重 ねて 入 るな』
26 靈 さけびて 甚 だしく 痙攣 けさせて 出 でしに、その 子、死人 の 如 くなりたれば、多 くの 者 これを 死 にたりと 言 ふ。
27 イエスその 手 を 執 りて 起 し 給 へば 立 てり。
28 イエス 家 に 入 り 給 ひしとき、弟子 たち 竊 に 問 ふ『我等 いかなれば 逐 ひ 出 し 得 ざりしか』
29 答 へ 給 ふ『この 類 は 祈 に 由 らざれば、如何 にすとも 出 でざるなり』
30 此處 を 去 りてガリラヤを 過 ぐ。イエス 人 の 此 の 事 を 知 るを 欲 し 給 はず。
31 これは 弟子 たちに 教 をなし、かつ『人 の 子 は 人々 の 手 にわたされ、人々 これを 殺 し、殺 されて 三日 ののち 甦 へるべし』と 言 ひ 給 ふが 故 なり。
32 弟子 たちはその 言 を 悟 らず、また 問 ふ 事 を 恐 れたり。
33 かくてカペナウムに 到 る。イエス 家 に 入 りて 弟子 たちに 問 ひ 給 ふ『なんぢら 途 すがら 何 を 論 ぜしか』
34 弟子 たち 默然 たり、これは 途 すがら、誰 か 大 ならんと、互 に 爭 ひたるに 因 る。
35 イエス 坐 して 十二 弟子 を 呼 び、之 に 言 ひたまふ『人 もし 頭 たらんと 思 はば、凡 ての 人 の 後 となり、凡 ての 人 の 役者 となるべし』
36 かくてイエス 幼兒 をとりて 彼 らの 中 におき、之 を 抱 きて 言 ひ 給 ふ、
37 『おほよそ 我 が 名 のために 斯 かる 幼兒 の 一人 を 受 くる 者 は、我 を 受 くるなり。我 を 受 くる 者 は、我 を 受 くるにあらず、我 を 遣 しし 者 を 受 くるなり』
38 ヨハネ 言 ふ『師 よ、我 らに 從 はぬ 者 の、御名 によりて 惡鬼 を 逐 ひ 出 すを 見 しが、我 らに 從 はぬ 故 に、之 を 止 めたり』
39 イエス 言 ひたまふ『止 むな、我 が 名 のために 能力 ある 業 をおこなひ、俄 に 我 を 譏 り 得 る 者 なし。
40 我 らに 逆 はぬ 者 は、我 らに 附 く 者 なり。
41 キリストの 者 たるによりて、汝 らに 一杯 の 水 を 飮 まする 者 は、我 まことに 汝 らに 告 ぐ、必 ずその 報 を 失 はざるべし。
42 また 我 を 信 ずる 此 の 小 き 者 の 一人 を 躓 かする 者 は、寧 ろ 大 なる 碾臼 を 頸 に 懸 けられて、海 に 投 げ 入 れられんかた 勝 れり。
43 もし 汝 の 手 なんぢを 躓 かせば、之 を 切 り 去 れ、不具 にて 生命 に 入 るは、兩手 ありてゲヘナの 消 えぬ 火 に 往 くよりも 勝 るなり。
44 [なし]
45 もし 汝 の 足 なんぢを 躓 かせば、之 を 切 り 去 れ、蹇跛 にて 生命 に 入 るは、兩足 ありてゲヘナに 投 げ 入 れらるるよりも 勝 るなり。
46 [なし]
47 もし 汝 の 眼 なんぢを 躓 かせば、之 を 拔 き 出 せ、片眼 にて 神 の 國 に 入 るは、兩眼 ありてゲヘナに 投 げ 入 れらるるよりも 勝 るなり。
48 「彼處 にては、その 蛆 つきず、火 も 消 えぬなり」
49 それ 人 はみな 火 をもて 鹽 つけらるべし。
50 鹽 は 善 きものなり、されど 鹽 もし 其 の 鹽 氣 を 失 はば、何 をもて 之 に 味 つけん。汝 ら 心 の 中 に 鹽 を 保 ち、かつ 互 に 和 ぐべし』
Chapter 10
1 イエス 此處 をたちて、ユダヤの 地方 およびヨルダンの 彼方 に 來 り 給 ひしに、群衆 またも 御許 に 集 ひたれば、常 のごとく 教 へ 給 ふ。
2 時 にパリサイ 人 ら 來 り 試 みて 問 ふ『人 その 妻 を 出 すはよきか』
3 答 へて 言 ひ 給 ふ『モーセは 汝 らに 何 と 命 ぜしか』
4 彼 ら 言 ふ『モーセは 離縁状 を 書 きて 出 すことを 許 せり』
5 イエス 言 ひ 給 ふ『汝 らの 心 つれなきによりて、此 の 誡命 を 録 ししなり。
6 されど 開闢 の 初 より「人 を 男 と 女 とに 造 り 給 へり」
7 「かかる 故 に 人 はその 父 母 を 離 れて、
8 二人 のもの 一體 となるべし」さればはや 二人 にはあらず、一體 なり。
9 この 故 に 神 の 合 せ 給 ふものは、人 これを 離 すべからず』
10 家 に 入 りて 弟子 たち 復 この 事 を 問 ふ。
11 イエス 言 ひ 給 ふ『おほよそ 其 の 妻 を 出 して 他 に 娶 る 者 は、その 妻 に 對 して 姦淫 を 行 ふなり。
12 また 妻 もし 其 の 夫 を 棄 てて 他 に 嫁 がば、姦淫 を 行 ふなり』
13 イエスの 觸 り 給 はんことを 望 みて、人々 幼兒 らを 連 れ 來 りしに、弟子 たち 禁 めたれば、
14 イエス 之 を 見、いきどほりて 言 ひたまふ『幼兒 らの 我 に 來 るを 許 せ、止 むな、神 の 國 は 斯 くのごとき 者 の 國 なり。
15 まことに 汝 らに 告 ぐ、凡 そ 幼兒 の 如 くに 神 の 國 をうくる 者 ならずば、之 に 入 ること 能 はず』
16 かくて 幼兒 を 抱 き、手 をその 上 におきて 祝 し 給 へり。
17 イエス 途 に 出 で 給 ひしに、一人 はしり 來 り、跪 づきて 問 ふ『善 き 師 よ、永遠 の 生命 を 嗣 ぐためには、我 なにを 爲 すべきか』
18 イエス 言 ひ 給 ふ『なにゆゑ 我 を 善 しと 言 ふか、神 ひとりの 他 に 善 き 者 なし。
19 誡命 は 汝 が 知 るところなり「殺 すなかれ」「姦淫 するなかれ」「盜 むなかれ」「僞證 を 立 つるなかれ」「欺 き 取 るなかれ」「汝 の 父 と 母 とを 敬 へ」』
20 彼 いふ『師 よ、われ 幼 き 時 より 皆 これを 守 れり』
21 イエス 彼 に 目 をとめ、愛 しみて 言 ひ 給 ふ『なんぢ 尚 ほ 一 つを 缺 く、往 きて 汝 の 有 てる 物 をことごとく 賣 りて、貧 しき 者 に 施 せ、さらば 財寶 を 天 に 得 ん。且 きたりて 我 に 從 へ』
22 この 言 によりて、彼 は 憂 を 催 し、悲 しみつつ 去 りぬ、大 なる 資産 をもてる 故 なり。
23 イエス 見囘 して 弟子 たちに 言 ひたまふ『富 ある 者 の 神 の 國 に 入 るは 如何 に 難 いかな』
24 弟子 たち 此 の 御言 に 驚 く。イエスまた 答 へて 言 ひ 給 ふ『子 たちよ、神 の 國 に 入 るは 如何 に 難 いかな、
25 富 める 者 の 神 の 國 に 入 るよりは、駱駝 の 針 の 孔 を 通 るかた 反 つて 易 し』
26 弟子 たち 甚 く 驚 きて 互 に 言 ふ『さらば 誰 か 救 はるる 事 を 得 ん』
27 イエス 彼 らに 目 を 注 めて 言 ひたまふ『人 には 能 はねど、神 には 然 らず、夫 れ 神 は 凡 ての 事 をなし 得 るなり』
28 ペテロ、イエスに 對 ひて『我 らは 一切 をすてて 汝 に 從 ひたり』と 言 ひ 出 でたれば、
29 イエス 言 ひ 給 ふ『まことに 汝 らに 告 ぐ、我 がため、福音 のために、或 は 兄弟、あるひは 姉妹、或 は 父、或 は 母、或 は 子、或 は 田畑 をすつる 者 は、
30 誰 にても 今、今 の 時 に 百 倍 を 受 けぬはなし。即 ち 家・兄弟・姉妹・母・子・田畑 を 迫害 と 共 に 受 け、また 後 の 世 にては、永遠 の 生命 を 受 けぬはなし。
31 されど 多 くの 先 なる 者 は 後 に、後 なる 者 は 先 になるべし』
32 エルサレムに 上 る 途 にて、イエス 先 だち 往 き 給 ひしかば、弟子 たち 驚 き、隨 ひ 往 く 者 ども 懼 れたり。イエス 再 び 十二 弟子 を 近 づけて、己 が 身 に 起 らんとする 事 どもを 語 り 出 で 給 ふ
33 『視 よ、我 らエルサレムに 上 る。人 の 子 は 祭司長・學者 らに 付 されん。彼 ら 死 に 定 めて、異邦人 に 付 さん。
34 異邦人 は 嘲弄 し、唾 し、鞭 うち、遂 に 殺 さん、かくて 彼 は 三日 の 後 に 甦 へるべし』
35 ここにゼベダイの 子 ヤコブ、ヨハネ 御許 に 來 りて 言 ふ『師 よ、願 はくは 我 らが 何 にても 求 むる 所 を 爲 したまへ』
36 イエス 言 ひ 給 ふ『わが 汝 らに 何 を 爲 さんことを 望 むか』
37 彼 ら 言 ふ『なんぢの 榮光 の 中 にて、一人 をその 右 に、一人 をその 左 に 坐 せしめ 給 へ』
38 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢらは 求 むる 所 を 知 らず、汝 等 わが 飮 む 酒杯 を 飮 み、我 が 受 くるバプテスマを 受 け 得 るか』
39 彼 等 いふ『得 るなり』イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢら 我 が 飮 む 酒杯 を 飮 み、また 我 が 受 くるバプテスマを 受 くべし。
40 されど 我 が 右 左 に 坐 することは、我 の 與 ふべきものならず、ただ 備 へられたる 人 こそ 與 へらるるなれ』
41 十 人 の 弟子 これを 聞 き、ヤコブとヨハネとの 事 により 憤 ほり 出 でたれば、
42 イエス 彼 らを 呼 びて 言 ひたまふ『異邦人 の 君 と 認 めらるる 者 の、その 民 を 宰 どり、大 なる 者 の、民 の 上 に 權 を 執 ることは、汝 らの 知 る 所 なり。
43 されど 汝 らの 中 にては 然 らず、反 つて 大 ならんと 思 ふ 者 は、汝 らの 役者 となり、
44 頭 たらんと 思 ふ 者 は、凡 ての 者 の 僕 となるべし。
45 人 の 子 の 來 れるも、事 へらるる 爲 にあらず、反 つて 事 ふることをなし、又 おほくの 人 の 贖償 として 己 が 生命 を 與 へん 爲 なり』
46 かくて 彼 らエリコに 到 る。イエスその 弟子 たち 及 び 大 なる 群衆 と 共 に、エリコを 出 でたまふ 時、テマイの 子 バルテマイといふ 盲目 の 乞食、路 の 傍 に 坐 しをりしが、
47 ナザレのイエスなりと 聞 き、叫 び 出 して 言 ふ『ダビデの 子 イエスよ、我 を 憫 みたまへ』
48 多 くの 人 かれを 禁 めて 默 さしめんとしたれど、ますます 叫 びて『ダビデの 子 よ、我 を 憫 みたまへ』と 言 ふ。
49 イエス 立 ち 止 りて『かれを 呼 べ』と 言 ひ 給 へば、人々 盲人 を 呼 びて 言 ふ『心 安 かれ、起 て、なんぢを 呼 びたまふ』
50 盲人 うはぎを 脱 ぎ 捨 て、躍 り 上 りて、イエスの 許 に 來 りしに、
51 イエス 答 へて 言 ひ 給 ふ『わが 汝 に 何 を 爲 さんことを 望 むか』盲人 いふ『わが 師 よ、見 えんことなり』
52 イエス 彼 に『ゆけ、汝 の 信仰 なんぢを 救 へり』と 言 ひ 給 へば、直 ちに 見 ることを 得、イエスに 從 ひて 途 を 往 けり。
Chapter 11
1 彼 らエルサレムに 近 づき、オリブ 山 の 麓 なるベテパゲ 及 びベタニヤに 到 りし 時、イエス 二人 の 弟子 を 遣 さんとして 言 ひ 給 ふ、
2 『むかひの 村 にゆけ、其處 に 入 らば、やがて 人 の 未 だ 乘 りたることなき 驢馬 の 子 の 繋 ぎあるを 見 ん、それを 解 きて 牽 き 來 れ。
3 誰 かもし 汝 らに「なにゆゑ 然 するか」と 言 はば「主 の 用 なり、彼 ただちに 返 さん」といへ』
4 弟子 たち 往 きて、門 の 外 の 路 に 驢馬 の 子 の 繋 ぎあるを 見 て 解 きたれば、
5 其處 に 立 つ 人々 のうちの 或 者『なんぢら 驢馬 の 子 を 解 きて 何 とするか』と 言 ふ。
6 弟子 たちイエスの 告 げ 給 ひし 如 く 言 ひしに、彼 ら 許 せり。
7 かくて 弟子 たち 驢馬 の 子 をイエスの 許 に 牽 ききたり、己 が 衣 をその 上 に 置 きたれば、イエス 之 に 乘 り 給 ふ。
8 多 くの 人 は 己 が 衣 を、或 人 は 野 より 伐 り 取 りたる 樹 の 枝 を 途 に 敷 く。
9 かつ 前 に 往 き 後 に 從 ふ 者 ども 呼 はりて 言 ふ『「ホサナ、讃 むべきかな、主 の 御名 によりて 來 る 者」
10 讃 むべきかな、今 し 來 る 我 らの 父 ダビデの 國。「いと 高 き 處 にてホサナ」』
11 遂 にエルサレムに 到 りて 宮 に 入 り、凡 ての 物 を 見囘 し、時 はや 暮 に 及 びたれば、十二 弟子 と 共 にベタニヤに 出 で 往 きたまふ。
12 あくる 日 かれらベタニヤより 出 で 來 りし 時、イエス 飢 ゑ 給 ふ。
13 遙 に 葉 ある 無花果 の 樹 を 見 て、果 をや 得 んと 其 のもとに 到 り 給 ひしに、葉 のほかに 何 をも 見出 し 給 はず、是 は 無花果 の 時 ならぬに 因 る。
14 イエスその 樹 に 對 ひて 言 ひたまふ『今 より 後 いつまでも、人 なんぢの 果 を 食 はざれ』弟子 たち 之 を 聞 けり。
15 彼 らエルサレムに 到 る。イエス 宮 に 入 り、その 内 にて 賣買 する 者 どもを 逐 ひ 出 し、兩替 する 者 の 臺、鴿 を 賣 るものの 腰掛 を 倒 し、
16 また 器物 を 持 ちて 宮 の 内 を 過 ぐることを 免 し 給 はず。
17 かつ 教 へて 言 ひ 給 ふ『「わが 家 は、もろもろの 國人 の 祈 の 家 と 稱 へらるべし」と 録 されたるにあらずや、然 るに 汝 らは 之 を「強盜 の 巣」となせり』
18 祭司長・學者 ら 之 を 聞 き、如何 にしてかイエスを 亡 さんと 謀 る、それは 群衆 みな 其 の 教 に 驚 きたれば、彼 を 懼 れしなり。
19 夕 になる 毎 に、イエス 弟子 たちと 共 に 都 を 出 でゆき 給 ふ。
20 彼 ら 朝 早 く 路 をすぎしに、無花果 の 樹 の 根 より 枯 れたるを 見 る。
21 ペテロ 思 ひ 出 してイエスに 言 ふ『ラビ、見 給 へ、詛 ひ 給 ひし 無花果 の 樹 は 枯 れたり』
22 イエス 答 へて 言 ひ 給 ふ『神 を 信 ぜよ。
23 まことに 汝 らに 告 ぐ、人 もし 此 の 山 に「移 りて 海 に 入 れ」と 言 ふとも、其 の 言 ふところ 必 ず 成 るべしと 信 じて、心 に 疑 はずば、その 如 く 成 るべし。
24 この 故 に 汝 らに 告 ぐ、凡 て 祈 りて 願 ふ 事 は、すでに 得 たりと 信 ぜよ、さらば 得 べし。
25 また 立 ちて 祈 るとき、人 を 怨 む 事 あらば 免 せ、これは 天 に 在 す 汝 らの 父 の、汝 らの 過失 を 免 し 給 はん 爲 なり』
26 [なし]
27 かれら 又 エルサレムに 到 る。イエス 宮 の 内 を 歩 み 給 ふとき、祭司長・學者・長老 たち 御許 に 來 りて、
28 『何 の 權威 をもて 此 等 の 事 をなすか、誰 が 此 等 の 事 を 爲 すべき 權威 を 授 けしか』と 言 ふ。
29 イエス 言 ひ 給 ふ『われ 一言 なんぢらに 問 はん、答 へよ、さらば 我 も 何 の 權威 をもて、此 等 の 事 を 爲 すかを 告 げん。
30 ヨハネのバプテスマは、天 よりか、人 よりか、我 に 答 へよ』
31 彼 ら 互 に 論 じて 言 ふ『もし 天 よりと 言 はば「何 故 かれを 信 ぜざりし」と 言 はん。
32 されど 人 よりと 言 はんか……』彼 ら 群衆 を 恐 れたり、人 みなヨハネを 實 に 預言者 と 認 めたればなり。
33 遂 にイエスに 答 へて『知 らず』と 言 ふ。イエス 言 ひ 給 ふ『われも 何 の 權威 をもて 此 等 の 事 を 爲 すか、汝 らに 告 げじ』
Chapter 12
1 イエス 譬 をもて 彼 らに 語 り 出 で 給 ふ『ある 人、葡萄園 を 造 り、籬 を 環 らし、酒槽 の 穴 を 掘 り、櫓 をたて、農夫 どもに 貸 して、遠 く 旅立 せり。
2 時 いたりて 農夫 より 葡萄園 の 所得 を 受取 らんとて、僕 をその 許 に 遣 ししに、
3 彼 ら 之 を 執 へて 打 ちたたき、空手 にて 歸 らしめたり。
4 又 ほかの 僕 を 遣 ししに、その 首 に 傷 つけ、かつ 辱 しめたり。
5 また 他 の 者 を 遣 ししに、之 を 殺 したり。又 ほかの 多 くの 僕 をも、或 は 打 ち 或 は 殺 したり。
6 なほ 一人 あり、即 ち 其 の 愛 しむ 子 なり「わが 子 は 敬 ふならん」と 言 ひて、最後 に 之 を 遣 ししに、
7 かの 農夫 ども 互 に 言 ふ「これは 世嗣 なり、いざ 之 を 殺 さん、さらばその 嗣業 は、我 らのものとなるべし」
8 乃 ち 執 へて 之 を 殺 し、葡萄園 の 外 に 投 げ 棄 てたり。
9 さらば 葡萄園 の 主、なにを 爲 さんか、來 りて 農夫 どもを 亡 し、葡萄園 を 他 の 者 どもに 與 ふべし。
10 汝 ら 聖書 に「造家者 らの 棄 てたる 石 は、これぞ 隅 の 首石 となれる。
11 これ 主 によりて 成 れるにて、我 らの 目 には 奇 しきなり」とある 句 をすら 讀 まぬか』
12 ここに 彼 等 イエスを 執 へんと 思 ひたれど、群衆 を 恐 れたり、この 譬 の 己 らを 指 して 言 ひ 給 へるを 悟 りしに 因 る。遂 にイエスを 離 れて 去 り 往 けり。
13 かくて 彼 らイエスの 言尾 をとらへて 陷入 れん 爲 に、パリサイ 人 とヘロデ 黨 との 中 より、數人 を 御許 に 遣 す。
14 その 者 ども 來 りて 言 ふ『師 よ、我 らは 知 る、汝 は 眞 にして、誰 をも 憚 りたまふ 事 なし、人 の 外貌 を 見 ず、眞 をもて 神 の 道 を 教 へ 給 へばなり。我 ら 貢 をカイザルに 納 むるは、宜 きか、惡 しきか、納 めんか、納 めざらんか』
15 イエス 其 の 詐僞 なるを 知 りて『なんぞ 我 を 試 むるか、デナリを 持 ち 來 りて 我 に 見 せよ』と 言 ひ 給 へば、
16 彼 ら 持 ち 來 る。イエス 言 ひ 給 ふ『これは 誰 の 像、たれの 號 なるか』『カイザルのなり』と 答 ふ。
17 イエス 言 ひ 給 ふ『カイザルの 物 はカイザルに、神 の 物 は 神 に 納 めよ』彼 らイエスに 就 きて 甚 だ 怪 しめり。
18 また 復活 なしと 云 ふサドカイ 人 ら、イエスに 來 り 問 ひて 言 ふ
19 『師 よ、モーセは、人 の 兄弟 もし 子 なく 妻 を 遺 して 死 なば、その 兄弟 かれの 妻 を 娶 りて、兄弟 のため 嗣子 を 擧 ぐべしと、我 らに 書 き 遺 したり。
20 ここに 七人 の 兄弟 ありて、兄 妻 を 娶 り、嗣子 なくして 死 に、
21 第二 の 者 その 女 を 娶 り、また 嗣子 なくして 死 に、第三 の 者 もまた 然 なし、
22 七人 とも 嗣子 なくして 死 に、終 には 其 の 女 も 死 にたり。
23 復活 のとき 彼 らみな 甦 へらんに、この 女 は 誰 の 妻 たるべきか、七人 これを 妻 としたればなり』
24 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢらの 誤 れるは、聖書 をも 神 の 能力 をも 知 らぬ 故 ならずや。
25 人、死人 の 中 より 甦 へる 時 は、娶 らず、嫁 がず、天 に 在 る 御使 たちの 如 くなるなり。
26 死 にたる 者 の 甦 へる 事 に 就 きては、モーセの 書 の 中 なる 柴 の 條 に、神 モーセに「われはアブラハムの 神、イサクの 神、ヤコブの 神 なり」と 告 げ 給 ひし 事 あるを、未 だ 讀 まぬか。
27 神 は 死 にたる 者 の 神 にあらず、生 ける 者 の 神 なり。なんぢら 大 に 誤 れり』
28 學者 の 一人、かれらの 論 じをるを 聞 き、イエスの 善 く 答 へ 給 へるを 知 り、進 み 出 でて 問 ふ『すべての 誡命 のうち、何 か 第一 なる』
29 イエス 答 へたまふ『第一 は 是 なり「イスラエルよ 聽 け、主 なる 我 らの 神 は 唯一 の 主 なり。
30 なんぢ 心 を 盡 し、精神 を 盡 し、思 を 盡 し、力 を 盡 して、主 なる 汝 の 神 を 愛 すべし」
31 第二 は 是 なり「おのれの 如 く 汝 の 隣 を 愛 すべし」此 の 二 つより 大 なる 誡命 はなし』
32 學者 いふ『善 きかな 師 よ「神 は 唯一 にして 他 に 神 なし」と 言 ひ 給 へるは 眞 なり。
33 「こころを 盡 し、知慧 を 盡 し、力 を 盡 して 神 を 愛 し、また 己 のごとく 隣 を 愛 する」は、もろもろの 燔祭 および 犧牲 に 勝 るなり』
34 イエスその 聰 く 答 へしを 見 て 言 ひ 給 ふ『なんぢ 神 の 國 に 遠 からず』此 の 後 たれも 敢 へてイエスに 問 ふ 者 なかりき。
35 イエス 宮 にて 教 ふるとき、答 へて 言 ひ 給 ふ『なにゆゑ 學者 らはキリストをダビデの 子 と 言 ふか。
36 ダビデ 聖 靈 に 感 じて 自 らいへり「主 わが 主 に 言 ひ 給 ふ、我 なんぢの 敵 を 汝 の 足 の 下 に 置 くまでは、我 が 右 に 坐 せよ」と。
37 ダビデ 自 ら 彼 を 主 と 言 ふ、されば 爭 でその 子 ならんや』大 なる 群衆 は 喜 びてイエスに 聽 きたり。
38 イエスその 教 のうちに 言 ひたまふ『學者 らに 心 せよ、彼 らは 長 き 衣 を 著 て 歩 むこと、市場 にての 敬禮、
39 會堂 の 上座、饗宴 の 上席 を 好 み、
40 また 寡婦 らの 家 を 呑 み、外見 をつくりて 長 き 祈 をなす。その 受 くる 審判 は 更 に 嚴 しからん』
41 イエス 賽錢函 に 對 ひて 坐 し、群衆 の 錢 を 賽錢函 に 投 げ 入 るるを 見 給 ふ。富 める 多 くの 者 は、多 く 投 げ 入 れしが、
42 一人 の 貧 しき 寡婦 きたりて、レプタ 二 つを 投 げ 入 れたり、即 ち 五 厘 ほどなり。
43 イエス 弟子 たちを 呼 び 寄 せて 言 ひ 給 ふ『まことに 汝 らに 告 ぐ、この 貧 しき 寡婦 は、賽錢函 に 投 げ 入 るる 凡 ての 人 よりも 多 く 投 げ 入 れたり。
44 凡 ての 者 は、その 豐 なる 内 よりなげ 入 れ、この 寡婦 は 其 の 乏 しき 中 より、凡 ての 所有、即 ち 己 が 生命 の 料 をことごとく 投 げ 入 れたればなり』
Chapter 13
1 イエス 宮 を 出 で 給 ふとき、弟子 の 一人 いふ『師 よ、見 給 へ、これらの 石、これらの 建造物、いかに 盛 ならずや』
2 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢ 此 等 の 大 なる 建造物 を 見 るか、一 つの 石 も 崩 されずしては 石 の 上 に 殘 らじ』
3 オリブ 山 にて 宮 の 方 に 對 ひて 坐 し 給 へるに、ペテロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレ 竊 に 問 ふ
4 『われらに 告 げ 給 へ、これらの 事 は 何時 あるか、又 すべて 此 等 の 事 の 成 し 遂 げられんとする 時 は、如何 なる 兆 あるか』
5 イエス 語 り 出 で 給 ふ『なんぢら 人 に 惑 されぬやうに 心 せよ。
6 多 くの 者 わが 名 を 冒 し 來 り「われは 夫 なり」と 言 ひて 多 くの 人 を 惑 さん。
7 戰爭 と 戰爭 の 噂 とを 聞 くとき 懼 るな、かかる 事 はあるべきなり、されど 未 だ 終 にはあらず。
8 即 ち「民 は 民 に、國 は 國 に 逆 ひて 起 たん」また 處々 に 地震 あり、饑饉 あらん、これらは 産 の 苦難 の 始 なり。
9 汝 等 みづから 心 せよ、人々 なんぢらを 衆議所 に 付 さん。なんぢら 會堂 に 曳 かれて 打 たれ、且 わが 故 によりて、司 たち 及 び 王 たちの 前 に 立 てられん、これは 證 をなさん 爲 なり。
10 かくて 福音 は 先 づもろもろの 國人 に 宣傳 へらるべし。
11 人々 なんぢらを 曳 きて 付 さんとき、何 を 言 はんと 預 じめ 思 ひ 煩 ふな、唯 そのとき 授 けらるることを 言 へ、これ 言 ふ 者 は 汝 等 にあらず、聖 靈 なり。
12 兄弟 は 兄弟 を、父 は 子 を 死 にわたし、子 らは 親 たちに 逆 ひ 立 ちて 死 なしめん。
13 又 なんぢら 我 が 名 の 故 に 凡 ての 人 に 憎 まれん、されど 終 まで 耐 へ 忍 ぶ 者 は 救 はるべし。
14 「荒 す 惡 むべき 者」の 立 つべからざる 所 に 立 つを 見 ば(讀 むもの 悟 れ)その 時 ユダヤにをる 者 どもは、山 に 遁 れよ。
15 屋 の 上 にをる 者 は、内 に 下 るな。また 家 の 物 を 取 り 出 さんとて 内 に 入 るな。
16 畑 にをる 者 は 上衣 を 取 らんとて 歸 るな。
17 其 の 日 には 孕 りたる 女 と、乳 を 哺 まする 女 とは 禍害 なるかな。
18 この 事 の 冬 おこらぬやうに 祈 れ、
19 その 日 は 患難 の 日 なればなり。神 の 萬物 を 造 り 給 ひし 開闢 より 今 に 至 るまで、かかる 患難 はなく、また 後 にもなからん。
20 主 その 日 を 少 くし 給 はずば、救 はるる 者 一人 だになからん。されど 其 の 選 び 給 ひし 選民 の 爲 に、その 日 を 少 くし 給 へり。
21 其 の 時 なんぢらに「視 よ、キリスト 此處 にあり」「視 よ、彼處 にあり」と 言 ふ 者 ありとも 信 ずな。
22 僞 キリスト・僞 預言者 ら 起 りて、徴 と 不思議 とを 行 ひ、爲 し 得 べくは、選民 をも 惑 さんとするなり。
23 汝 らは 心 せよ、あらかじめ 之 を 皆 なんぢらに 告 げおくなり。
24 其 の 時、その 患難 ののち、日 は 暗 く、月 は 光 を 發 たず。
25 星 は 空 より 隕 ち、天 にある 萬象 ふるひ 動 かん。
26 其 のとき 人々、人 の 子 の 大 なる 能力 と 榮光 とをもて、雲 に 乘 り 來 るを 見 ん。
27 その 時 かれは 使者 たちを 遣 して、地 の 極 より 天 の 極 まで、四方 より 其 の 選民 をあつめん。
28 無花果 の 樹 よりの 譬 を 學 べ、その 枝 すでに 柔 かくなりて 葉 芽 ぐめば、夏 の 近 きを 知 る。
29 かくの 如 く 此 等 のことの 起 るを 見 ば、人 の 子 すでに 近 づきて 門邊 にいたるを 知 れ。
30 まことに 汝 らに 告 ぐ、これらの 事 ことごとく 成 るまで、今 の 代 は 過 ぎ 逝 くことなし。
31 天 地 は 過 ぎゆかん、されど 我 が 言 は 過 ぎ 逝 くことなし。
32 その 日 その 時 を 知 る 者 なし。天 にある 使者 たちも 知 らず、子 も 知 らず、ただ 父 のみ 知 り 給 ふ。
33 心 して 目 を 覺 しをれ、汝 等 その 時 の 何時 なるかを 知 らぬ 故 なり。
34 例 へば 家 を 出 づる 時、その 僕 どもに 權 を 委 ねて、各自 の 務 を 定 め、更 に 門守 に、目 を 覺 しをれと 命 じ 置 きて、遠 く 旅立 したる 人 のごとし。
35 この 故 に 目 を 覺 しをれ、家 の 主人 の 歸 るは、夕 か、夜半 か、鷄 鳴 くころか、夜明 か、いづれの 時 なるかを 知 らねばなり。
36 恐 らくは 俄 に 歸 りて、汝 らの 眠 れるを 見 ん。
37 わが 汝 らに 告 ぐるは、凡 ての 人 に 告 ぐるなり。目 を 覺 しをれ』
Chapter 14
1 さて 過越 と 除酵 との 祭 の 二日 前 となりぬ。祭司長・學者 ら 詭計 をもてイエスを 捕 へ、かつ 殺 さんと 企 てて 言 ふ
2 『祭 の 間 は 爲 すべからず、恐 らくは 民 の 亂 あるべし』
3 イエス、ベタニヤに 在 して、癩病人 シモンの 家 にて 食事 の 席 につき 居給 ふとき、或 女、價 高 き 混 なきナルドの 香 油 の 入 りたる 石膏 の 壺 を 持 ち 來 り、その 壺 を 毀 ちてイエスの 首 に 注 ぎたり。
4 ある 人々、憤 ほりて 互 に 言 ふ『なに 故 かく 濫 に 油 を 費 すか、
5 この 油 を 三 百 デナリ 餘 に 賣 りて、貧 しき 者 に 施 すことを 得 たりしものを』而 して 甚 く 女 を 咎 む。
6 イエス 言 ひ 給 ふ『その 爲 すに 任 せよ、何 ぞこの 女 を 惱 すか、我 に 善 き 事 をなせり。
7 貧 しき 者 は 常 に 汝 らと 偕 にをれば、何時 にても 心 のままに 助 け 得 べし、されど 我 は 常 に 汝 らと 偕 にをらず。
8 此 の 女 は、なし 得 る 限 をなして、我 が 體 に 香 油 をそそぎ、あらかじめ 葬 りの 備 をなせり。
9 まことに 汝 らに 告 ぐ、全世界 いづこにても、福音 の 宣傅 へらるる 處 には、この 女 の 爲 しし 事 も 記念 として 語 らるべし』
10 ここに 十二 弟子 の 一人 なるイスカリオテのユダ、イエスを 賣 らんとて 祭司長 の 許 にゆく。
11 彼 等 これを 聞 きて 喜 び、銀 を 與 へんと 約 したれば、ユダ 如何 にしてか 機 好 くイエスを 付 さんと 謀 る。
12 除酵祭 の 初 の 日、即 ち 過越 の 羔羊 を 屠 るべき 日、弟子 たちイエスに 言 ふ『過越 の 食 をなし 給 ふために、我 らが 何處 に 往 きて 備 ふることを 望 み 給 ふか』
13 イエス 二人 の 弟子 を 遣 さんとして 言 ひたまふ『都 に 往 け、然 らば 水 をいれたる 瓶 を 持 つ 人、なんぢらに 遇 ふべし。之 に 從 ひ 往 き、
14 その 入 る 所 の 家主 に「師 いふ、われ 弟子 らと 共 に 過越 の 食 をなすべき 座敷 は 何處 なるか」と 言 へ。
15 さらば 調 へ 備 へたる 大 なる 二階 座敷 を 見 すべし。其處 に 我 らのために 備 へよ』
16 弟子 たち 出 で 往 きて 都 に 入 り、イエスの 言 ひ 給 ひし 如 くなるを 見 て、過越 の 設備 をなせり。
17 日 暮 れてイエス 十二 弟子 とともに 往 き、
18 みな 席 に 就 きて 食 するとき 言 ひ 給 ふ『まことに 汝 らに 告 ぐ、我 と 共 に 食 する 汝 らの 中 の 一人、われを 賣 らん』
19 弟子 たち 憂 ひて 一人 一人『われなるか』と 言 ひ 出 でしに、
20 イエス 言 ひたまふ『十二 のうちの 一人 にて、我 と 共 にパンを 鉢 に 浸 す 者 は 夫 なり。
21 實 に 人 の 子 は 己 に 就 きて 録 されたる 如 く 逝 くなり。されど 人 の 子 を 賣 る 者 は 禍害 なるかな、その 人 は 生 れざりし 方 よかりしものを』
22 彼 ら 食 しをる 時、イエス、パンを 取 り、祝 してさき、弟子 たちに 與 へて 言 ひたまふ『取 れ、これは 我 が 體 なり』
23 また 酒杯 を 取 り、謝 して 彼 らに 與 へ 給 へば、皆 この 酒杯 より 飮 めり。
24 また 言 ひ 給 ふ『これは 契約 の 我 が 血、おほくの 人 の 爲 に 流 す 所 のものなり。
25 まことに 汝 らに 告 ぐ、神 の 國 にて 新 しきものを 飮 む 日 までは、われ 葡萄 の 果 より 成 るものを 飮 まじ』
26 かれら 讃美 をうたひて 後、オリブ 山 に 出 でゆく。
27 イエス 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『なんぢら 皆 躓 かん、それは「われ 牧羊者 を 打 たん、さらば 羊 散 るべし」と 録 されたるなり。
28 されど 我 よみがへりて 後、なんぢらに 先 だちてガリラヤに 往 かん』
29 時 にペテロ、イエスに 言 ふ『假令 みな 躓 くとも、我 は 然 らじ』
30 イエス 言 ひ 給 ふ『まことに 汝 に 告 ぐ、今日 この 夜、鷄 ふたたび 鳴 く 前 に、なんぢ 三 たび 我 を 否 むべし』
31 ペテロ 力 をこめて 言 ふ『われ 汝 とともに 死 ぬべき 事 ありとも、汝 を 否 まず』弟子 たち 皆 かく 言 へり。
32 彼 らゲツセマネと 名 づくる 處 に 到 りし 時、イエス 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『わが 祈 る 間、ここに 座 せよ』
33 かくてペテロ、ヤコブ、ヨハネを 伴 ひゆき、甚 く 驚 き、かつ 悲 しみ 出 でて 言 ひ 給 ふ
34 『わが 心 いたく 憂 ひて 死 ぬばかりなり、汝 ら 此處 に 留 りて 目 を 覺 しをれ』
35 少 し 進 みゆきて、地 に 平伏 し、若 しも 得 べくば 此 の 時 の 己 より 過 ぎ 往 かんことを 祈 りて 言 ひ 給 ふ
36 『アバ 父 よ、父 には 能 はぬ 事 なし、此 の 酒杯 を 我 より 取 り 去 り 給 へ。されど 我 が 意 のままを 成 さんとにあらず、御意 のままを 成 し 給 へ』
37 來 りて、その 眠 れるを 見、ペテロに 言 ひ 給 ふ『シモンよ、なんぢ 眠 るか、一 時 も 目 を 覺 しをること 能 はぬか。
38 なんぢら 誘惑 に 陷 らぬやう、目 を 覺 しかつ 祈 れ。實 に 心 は 熱 すれども 肉體 よわきなり』
39 再 びゆき、同 じ 言 にて 祈 り 給 ふ。
40 また 來 りて 彼 らの 眠 れるを 見 たまふ、是 その 目 いたく 疲 れたるなり、彼 ら 何 と 答 ふべきかを 知 らざりき。
41 三度 來 りて 言 ひたまふ『今 は 眠 りて 休 め、足 れり、時 きたれり、視 よ、人 の 子 は 罪人 らの 手 に 付 さるるなり。
42 起 て、われらは 往 くべし。視 よ、我 を 賣 る 者 ちかづけり』
43 なほ 語 りゐ 給 ふほどに、十二 弟子 の 一人 なるユダ、やがて 近 づき 來 る、祭司長・學者・長老 らより 遣 されたる 群衆、劍 と 棒 とを 持 ちて 之 に 伴 ふ。
44 イエスを 賣 るもの、あらかじめ 合圖 を 示 して 言 ふ『わが 接吻 する 者 はそれなり、之 を 捕 へて 確 と 引 きゆけ』
45 かくて 來 りて 直 ちに 御許 に 往 き『ラビ』と 言 ひて 接吻 したれば、
46 人々 イエスに 手 をかけて 捕 ふ。
47 傍 らに 立 つ 者 のひとり、劍 を 拔 き、大 祭司 の 僕 を 撃 ちて、耳 を 切 り 落 せり。
48 イエス 人々 に 對 ひて 言 ひ 給 ふ『なんぢら 強盜 にむかふ 如 く、劍 と 棒 とを 持 ち、我 を 捕 へんとて 出 で 來 るか。
49 我 は 日々 なんぢらと 偕 に 宮 にありて 教 へたりしに、我 を 執 へざりき、されど 是 は 聖書 の 言 の 成就 せん 爲 なり』
50 其 のとき 弟子 みなイエスを 棄 てて 逃 げ 去 る。
51 ある 若者、素肌 に 亞麻 布 を 纏 ひて、イエスに 從 ひたりしに、人々 これを 捕 へければ、
52 亞麻 布 を 棄 て 裸 にて 逃 げ 去 れり。
53 人々 イエスを 大 祭司 の 許 に 曳 き 往 きたれば、祭司長・長老・學者 ら 皆 あつまる。
54 ペテロ 遠 く 離 れてイエスに 從 ひ、大 祭司 の 中庭 まで 入 り、下役 どもと 共 に 坐 して 火 に 煖 まりゐたり。
55 さて 祭司長 ら 及 び 全 議會、イエスを 死 に 定 めんとて、證據 を 求 むれども 得 ず。
56 それはイエスに 對 して 僞證 する 者 多 くあれども、其 の 證據 あはざりしなり。
57 遂 に 或 者 ども 起 ちて 僞證 して 言 ふ
58 『われら 此 の 人 の「われは 手 にて 造 りたる 此 の 宮 を 毀 ち、手 にて 造 らぬ 他 の 宮 を 三日 にて 建 つべし」と 云 へるを 聞 けり』
59 然 れど 尚 この 證據 もあはざりき。
60 ここに 大 祭司、中 に 立 ちイエスに 問 ひて 言 ふ『なんぢ 何 をも 答 へぬか、此 の 人々 の 立 つる 證據 は 如何 に』
61 されどイエス 默 して 何 をも 答 へ 給 はず。大 祭司 ふたたび 問 ひて 言 ふ『なんぢは 頌 むべきものの 子 キリストなるか』
62 イエス 言 ひ 給 ふ『われは 夫 なり、汝 ら、人 の 子 の 全能者 の 右 に 坐 し、天 の 雲 の 中 にありて 來 るを 見 ん』
63 此 のとき 大 祭司 おのが 衣 を 裂 きて 言 ふ『なんぞ 他 に 證人 を 求 めん。
64 なんぢら 此 の 瀆言 を 聞 けり、如何 に 思 ふか』かれら 擧 りてイエスを 死 に 當 るべきものと 定 む。
65 而 して 或 者 どもはイエスに 唾 し、又 その 顏 を 蔽 ひ、拳 にて 搏 ちなど 爲始 めて 言 ふ『預言 せよ』下役 どもイエスを 受 け、手掌 にてうてり。
66 ペテロ 下 にて 中庭 にをりしに、大 祭司 の 婢女 の 一人 きたりて、
67 ペテロの 火 に 煖 まりをるを 見、これに 目 を 注 めて『汝 もかのナザレ 人 イエスと 偕 に 居 たり』と 言 ふ。
68 ペテロ 肯 はずして『われは 汝 の 言 ふことを 知 らず、又 その 意 をも 悟 らず』と 言 ひて 庭 口 に 出 でたり。
69 婢女 かれを 見 て、また 傍 らに 立 つ 者 どもに『この 人 はかの 黨與 なり』と 言 ひ 出 でしに、
70 ペテロ 重 ねて 肯 はず、暫 くしてまた 傍 らに 立 つ 者 どもペテロに 言 ふ『なんぢは 慥 にかの 黨與 なり、汝 もガリラヤ 人 なり』
71 此 の 時 ペテロ 盟 ひかつ 誓 ひて『われは 汝 らの 言 ふ 其 の 人 を 知 らず』と 言 ひ 出 づ。
72 その 折 しも、また 鷄 なきぬ。ペテロ『にはとり 二度 なく 前 に、なんぢ 三度 われを 否 まん』とイエスの 言 ひ 給 ひし 御言 を 思 ひいだし、思 ひ 反 して 泣 きたり。
Chapter 15
1 夜 明 るや 直 ちに、祭司長・長老・學者 ら、即 ち 全 議會 ともに 相 議 りて、イエスを 縛 り、曳 きゆきてピラトに 付 す。
2 ピラト、イエスに 問 ひて 言 ふ『なんぢはユダヤ 人 の 王 なるか』答 へて 言 ひ 給 ふ『なんぢの 言 ふが 如 し』
3 祭司長 らさまざまに 訴 ふれば、
4 ピラトまた 問 ひて 言 ふ『なにも 答 へぬか、視 よ、如何 に 多 くの 事 をもて 訴 ふるか』
5 されどピラトの 怪 しむばかり、イエス 更 に 何 をも 答 へ 給 はず。
6 さて 祭 の 時 には、ピラト 民 の 願 に 任 せて、囚人 ひとりを 赦 す 例 なるが、
7 ここに 一揆 を 起 し、人 を 殺 して 繋 がれをる 者 の 中 に、バラバといふ 者 あり。
8 群衆 すすみ 來 りて、例 の 如 くせんことを 願 ひ 出 でたれば、
9 ピラト 答 へて 言 ふ『ユダヤ 人 の 王 を 赦 さんことを 願 ふか』
10 これピラト、祭司長 らのイエスを 付 ししは、嫉 に 因 ると 知 る 故 なり。
11 されど 祭司長 ら 群衆 を 唆 かし、反 つてバラバを 赦 さんことを 願 はしむ。
12 ピラトまた 答 へて 言 ふ『さらば 汝 らがユダヤ 人 の 王 と 稱 ふる 者 をわれ 如何 にすべきか』
13 人々 また 叫 びて 言 ふ『十字架 につけよ』
14 ピラト 言 ふ『そも 彼 は 何 の 惡事 を 爲 したるか』かれら 烈 しく 叫 びて『十字架 につけよ』と 言 ふ。
15 ピラト 群衆 の 望 を 滿 さんとて、バラバを 釋 し、イエスを 鞭 うちたるのち、十字架 につくる 爲 にわたせり。
16 兵卒 どもイエスを 官邸 の 中庭 に 連 れゆき、全 隊 を 呼 び 集 めて、
17 彼 に 紫色 の 衣 を 著 せ、茨 の 冠冕 を 編 みて 冠 らせ、
18 『ユダヤ 人 の 王、安 かれ』と 禮 をなし 始 め、
19 また 葦 にて 其 の 首 をたたき、唾 し、跪 づきて 拜 せり。
20 かく 嘲弄 してのち、紫色 の 衣 を 剥 ぎ、故 の 衣 を 著 せ、十字架 につけんとて 曳 き 出 せり。
21 時 にアレキサンデルとルポスとの 父 シモンといふクレネ 人、田舍 より 來 りて 通 りかかりしに、強 ひてイエスの 十字架 を 負 はせ、
22 イエスをゴルゴダ、釋 けば 髑髏 といふ 處 に 連 れ 往 けり。
23 かくて 沒藥 を 混 ぜたる 葡萄酒 を 與 へたれど、受 け 給 はず。
24 彼 らイエスを 十字架 につけ、而 して 誰 が 何 を 取 るべきと、鬮 を 引 きて 其 の 衣 を 分 つ、
25 イエスを 十字架 につけしは、朝 の 九時 頃 なりき。
26 その 罪標 には『ユダヤ 人 の 王』と 書 せり。
27 イエスと 共 に、二人 の 強盜 を 十字架 につけ、一人 をその 右 に、一人 をその 左 に 置 く。
28 [なし]
29 往來 の 者 どもイエスを 譏 り、首 を 振 りて 言 ふ『ああ、宮 を 毀 ちて 三日 のうちに 建 つる 者 よ、
30 十字架 より 下 りて 己 を 救 へ』
31 祭司長 らも 亦 同 じく、學者 らと 共 に 嘲弄 して 互 に 言 ふ『人 を 救 ひて、己 を 救 ふこと 能 はず、
32 イスラエルの 王 キリスト、いま 十字架 より 下 りよかし、さらば 我 ら 見 て 信 ぜん』共 に 十字架 につけられたる 者 どもも、イエスを 罵 りたり。
33 晝 の 十二 時 に、地 のうへ 徧 く 暗 くなりて、三時 に 及 ぶ。
34 三時 にイエス 大聲 に『エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ』と 呼 はり 給 ふ。之 を 釋 けば、わが 神、わが 神、なんぞ 我 を 見 棄 て 給 ひし、との 意 なり。
35 傍 らに 立 つ 者 のうち 或 人々 これを 聞 きて 言 ふ『視 よ、エリヤを 呼 ぶなり』
36 一人 はしり 往 きて、海綿 に 酸 き 葡萄酒 を 含 ませて 葦 につけ、イエスに 飮 ましめて 言 ふ『待 て、エリヤ 來 りて、彼 を 下 すや 否 や、我 ら 之 を 見 ん』
37 イエス 大聲 を 出 して 息 絶 え 給 ふ。
38 聖所 の 幕、上 より 下 まで 裂 けて 二 つとなりたり。
39 イエスに 向 ひて 立 てる 百卒長、かかる 樣 にて 息 絶 え 給 ひしを 見 て 言 ふ『實 にこの 人 は 神 の 子 なりき』
40 また 遙 に 望 み 居 たる 女 たちあり、その 中 にはマグダラのマリヤ、小 ヤコブとヨセとの 母 マリヤ、及 びサロメなども 居 たり。
41 彼 らはイエスのガリラヤに 居給 ひしとき、從 ひ 事 へし 者 どもなり。此 の 他 イエスと 共 にエルサレムに 上 りし 多 くの 女 もありき。
42 日 既 に 暮 れて、準備 日 すなはち 安息 日 の 前 の 日 となりたれば、
43 貴 き 議員 にして、神 の 國 を 待 ち 望 める、アリマタヤのヨセフ 來 りて、憚 らずピラトの 許 に 往 き、イエスの 屍體 を 乞 ふ。
44 ピラト、イエスは 早 や 死 にしかと 訝 り、百卒長 を 呼 びて、その 死 にしより 時 經 しや 否 やを 問 ひ、
45 既 に 死 にたる 事 を 百卒長 より 聞 き 知 りて、屍體 をヨセフに 與 ふ。
46 ヨセフ 亞麻 布 を 買 ひ、イエスを 取下 して 之 に 包 み、岩 に 鑿 りたる 墓 に 納 め、墓 の 入口 に 石 を 轉 し 置 く。
47 マグダラのマリヤとヨセの 母 マリヤと、イエスを 納 めし 處 を 見 ゐたり。
Chapter 16
1 安息 日 終 りし 時、マグダラのマリヤ、ヤコブの 母 マリヤ 及 びサロメ、往 きてイエスに 抹 らんとて 香料 を 買 ひ、
2 一週 の 首 の 日、日 の 出 でたる 頃 いと 早 く 墓 にゆく。
3 誰 か 我 らの 爲 に 墓 の 入口 より 石 を 轉 すべきと 語 り 合 ひしに、
4 目 を 擧 ぐれば、石 の 既 に 轉 しあるを 見 る。この 石 は 甚 だ 大 なりき。
5 墓 に 入 り、右 の 方 に 白 き 衣 を 著 たる 若者 の 坐 するを 見 て 甚 く 驚 く。
6 若者 いふ『おどろくな、汝 らは 十字架 につけられ 給 ひしナザレのイエスを 尋 ぬれど、既 に 甦 へりて、此處 に 在 さず。視 よ、納 めし 處 は 此處 なり。
7 されど 往 きて 弟子 たちとペテロとに 告 げよ「汝 らに 先 だちてガリラヤに 往 き 給 ふ、彼處 にて 謁 ゆるを 得 ん、曾 て 汝 らに 言 ひ 給 ひしが 如 し」』
8 女 たち 甚 く 驚 きをののき、墓 より 逃 げ 出 でしが、懼 れたれば 一言 をも 人 に 語 らざりき。
9 [一週 の 首 の 日 の 拂曉、イエス 甦 へりて 先 づマグダラのマリヤに 現 れたまふ、前 にイエスが 七 つの 惡鬼 を 逐 ひいだし 給 ひし 女 なり。
10 マリヤ 往 きて、イエスと 偕 にありし 人々 の、泣 き 悲 しみ 居 るときに 之 を 告 ぐ。
11 彼 らイエスの 活 き 給 へる 事 と、マリヤに 見 え 給 ひし 事 とを 聞 けども 信 ぜざりき。
12 此 の 後 その 中 の 二人、田舍 に 往 く 途 を 歩 むほどに、イエス 異 なりたる 姿 にて 現 れ 給 ふ。
13 此 の 二人 ゆきて、他 の 弟子 たちに 之 を 告 げたれど、なほ 信 ぜざりき。
14 其 ののち 十 一 弟子 の 食 しをる 時 に、イエス 現 れて、己 が 甦 へりたるを 見 し 者 どもの 言 を 信 ぜざりしにより、其 の 信仰 なきと、其 の 心 の 頑固 なるとを 責 め 給 ふ。
15 かくて 彼 らに 言 ひたまふ『全世界 を 巡 りて 凡 ての 造 られしものに 福音 を 宣傳 へよ。
16 信 じてバプテスマを 受 くる 者 は 救 はるべし、然 れど 信 ぜぬ 者 は 罪 に 定 めらるべし。
17 信 ずる 者 には 此 等 の 徴 ともなはん。即 ち 我 が 名 によりて 惡鬼 を 逐 ひいだし、新 しき 言 をかたり、
18 蛇 を 握 るとも、毒 を 飮 むとも、害 を 受 けず、病 める 者 に 手 をつけなば 癒 えん』
19 語 り 終 へてのち、主 イエスは 天 に 擧 げられ、神 の 右 に 坐 し 給 ふ。
20 弟子 たち 出 でて、あまねく 福音 を 宣傳 へ、主 も 亦 ともに 働 き、伴 ふところの 徴 をもて、御言 を 確 うし 給 へり〕