Chapter 1
1 テオピロよ、我 さきに 前 の 書 をつくりて、凡 そイエスの 行 ひはじめ 教 へはじめ 給 ひしより、
2 その 選 び 給 へる 使徒 たちに、聖 靈 によりて 命 じたるのち、擧 げられ 給 ひし 日 に 至 るまでの 事 を 記 せり。
3 イエスは 苦難 をうけしのち、多 くの 慥 なる 證 をもて、己 の 活 きたることを 使徒 たちに 示 し、四十 日 の 間、しばしば 彼 らに 現 れて、神 の 國 のことを 語 り、
4 また 彼 等 とともに 集 りゐて 命 じたまふ『エルサレムを 離 れずして、我 より 聞 きし 父 の 約束 を 待 て。
5 ヨハネは 水 にてバプテスマを 施 ししが、汝 らは 日 ならずして 聖 靈 にてバプテスマを 施 されん』
6 弟子 たち 集 れるとき 問 ひて 言 ふ『主 よ、イスラエルの 國 を 囘復 し 給 ふは 此 の 時 なるか』
7 イエス 言 ひたまふ『時 また 期 は 父 おのれの 權威 のうちに 置 き 給 へば、汝 らの 知 るべきにあらず。
8 然 れど 聖 靈 なんぢらの 上 に 臨 むとき、汝 ら 能力 をうけん、而 してエルサレム、ユダヤ 全國、サマリヤ、及 び 地 の 極 にまで 我 が 證人 とならん』
9 此 等 のことを 言 ひ 終 りて、彼 らの 見 るがうちに 擧 げられ 給 ふ。雲 これを 受 けて 見 えざらしめたり。
10 その 昇 りゆき 給 ふとき、彼 ら 天 に 目 を 注 ぎゐたりしに、視 よ、白 き 衣 を 著 たる 二人 の 人 かたはらに 立 ちて 言 ふ、
11 『ガリラヤの 人々 よ、何 ゆゑ 天 を 仰 ぎて 立 つか、汝 らを 離 れて 天 に 擧 げられ 給 ひし 此 のイエスは、汝 らが 天 に 昇 りゆくを 見 たるその 如 く 復 きたり 給 はん』
12 ここに 彼 等 オリブといふ 山 よりエルサレムに 歸 る。この 山 はエルサレムに 近 く、安息 日 の 道程 なり。
13 既 に 入 りてその 留 りをる 高樓 に 登 る。ペテロ、ヨハネ、ヤコブ 及 びアンデレ、ピリポ 及 びトマス、バルトロマイ 及 びマタイ、アルパヨの 子 ヤコブ、熱心 黨 のシモン 及 びヤコブの 子 ユダなり。
14 この 人々 はみな 女 たち 及 びイエスの 母 マリヤ、イエスの 兄弟 たちと 共 に、心 を 一 つにして 只管 いのりを 務 めゐたり。
15 その 頃 ペテロ、百二十 名 ばかり 共 に 集 りて 群 をなせる 兄弟 たちの 中 に 立 ちて 言 ふ、
16 『兄弟 たちよ、イエスを 捕 ふる 者 どもの 手引 となりしユダにつきて、聖 靈 ダビデの 口 によりて 預 じめ 言 ひ 給 ひし 聖書 は、かならず 成就 せざるを 得 ざりしなり。
17 彼 は 我 らの 中 に 數 へられ、此 の 務 に 與 りたればなり。
18 (この 人 は、かの 不義 の 價 をもて 地所 を 得、また 俯伏 に 墜 ちて 直中 より 裂 けて 臓腑 みな 流 れ 出 でたり。
19 この 事 エルサレムに 住 む 凡 ての 人 に 知 られて、その 地所 は 國語 にてアケルダマと 稱 へらる、血 の 地所 との 義 なり)
20 それは 詩 篇 に 録 して「彼 の 住處 は 荒 れ 果 てよ、人 その 中 に 住 はざれ」と 云 ひ、又「その 職 はほかの 人 に 得 させよ」と 云 ひたり。
21 然 れば 主 イエス 我等 のうちに 往來 し 給 ひし 間、
22 即 ちヨハネのバプテスマより 始 り、我 らを 離 れて 擧 げられ 給 ひし 日 に 至 るまで、常 に 我 らと 偕 に 在 りし 此 の 人々 のうち 一人、われらと 共 に 主 の 復活 の 證人 となるべきなり』
23 ここにバルサバと 稱 へられ、またの 名 をユストと 呼 ばるるヨセフ 及 びマツテヤの 二人 をあげ、
24 祈 りて 言 ふ『凡 ての 人 の 心 を 知 りたまふ 主 よ、ユダ 己 が 所 に 往 かんとて 此 の 務 と 使徒 の 職 とより 墮 ちたれば、その 後 を 繼 がするに、此 の 二人 のうち 孰 を 選 び 給 ふか 示 したまへ』
25 祈 りて 言 ふ『凡 ての 人 の 心 を 知 りたまふ 主 よ、ユダ 己 が 所 に 往 かんとて 此 の 務 と 使徒 の 職 とより 墮 ちたれば、その 後 を 繼 がするに、此 の 二人 のうち 孰 を 選 び 給 ふか 示 したまへ』
26 かくて 鬮 せしに、鬮 はマツテヤに 當 りたれば、彼 は 十 一 の 使徒 に 加 へられたり。
Chapter 2
1 五旬節 の 日 となり、彼 らみな 一處 に 集 ひ 居 りしに、
2 烈 しき 風 の 吹 ききたるごとき 響、にはかに 天 より 起 りて、その 坐 する 所 の 家 に 滿 ち、
3 また 火 の 如 きもの 舌 のやうに 現 れ、分 れて 各人 の 上 にとどまる。
4 彼 らみな 聖 靈 にて 滿 され、御靈 の 宣 べしむるままに 異邦 の 言 にて 語 りはじむ。
5 時 に 敬虔 なるユダヤ 人 ら、天下 の 國々 より 來 りてエルサレムに 住 み 居 りしが、
6 この 音 おこりたれば 群衆 あつまり 來 り、おのおの 己 が 國語 にて 使徒 たちの 語 るを 聞 きて 騷 ぎ 合 ひ、
7 かつ 驚 き 怪 しみて 言 ふ『視 よ、この 語 る 者 は 皆 ガリラヤ 人 ならずや、
8 如何 にして 我等 おのおのの 生 れし 國 の 言 をきくか。
9 我等 はパルテヤ 人、メヂヤ 人、エラム 人、またメソポタミヤ、ユダヤ、カパドキヤ、ポント、アジヤ、
10 フルギヤ、パンフリヤ、エジプト、リビヤのクレネに 近 き 地方 などに 住 む 者、ロマよりの 旅人――ユダヤ 人 および 改宗者――
11 クレテ 人 およびアラビヤ 人 なるに、我 が 國語 にて 彼 らが 神 の 大 なる 御業 をかたるを 聞 かんとは』
12 みな 驚 き 惑 ひて 互 に 言 ふ『これ 何事 ぞ』
13 或 者 どもは 嘲 りて 言 ふ『かれらは 甘 き 葡萄酒 にて 滿 されたり』
14 ここにペテロ 十 一 の 使徒 とともに 立 ち、聲 を 揚 げ 宣 べて 言 ふ『ユダヤの 人々 および 凡 てエルサレムに 住 める 者 よ、汝 等 わが 言 に 耳 を 傾 けて、この 事 を 知 れ。
15 今 は 朝 の 九時 なれば、汝 らの 思 ふごとく 彼 らは 醉 ひたるに 非 ず、
16 これは 預言者 ヨエルによりて 言 はれたる 所 なり。
17 「神 いひ 給 はく、末 の 世 に 至 りて、我 が 靈 を 凡 ての 人 に 注 がん。汝 らの 子 女 は 預言 し、汝 らの 若者 は 幻影 を 見、なんぢらの 老人 は 夢 を 見 るべし。
18 その 世 に 至 りて、わが 僕・婢女 にわが 靈 を 注 がん、彼 らは 預言 すべし。
19 われ 上 は 天 に 不思議 を、下 は 地 に 徴 をあらはさん、即 ち 血 と 火 と 煙 の 氣 とあるべし。
20 主 の 大 なる 顯著 しき 日 のきたる 前 に、日 は 闇 に 月 は 血 に 變 らん。
21 すべて 主 の 御名 を 呼 び 頼 む 者 は 救 はれん」
22 イスラエルの 人々 よ、これらの 言 を 聽 け。ナザレのイエスは、汝 らの 知 るごとく、神 かれに 由 りて 汝 らの 中 に 行 ひ 給 ひし 能力 ある 業 と 不思議 と 徴 とをもて、汝 らに 證 し 給 へる 人 なり。
23 この 人 は 神 の 定 め 給 ひし 御旨 と、預 じめ 知 り 給 ふ 所 とによりて 付 されしが、汝 ら 不法 の 人 の 手 をもて 釘磔 にして 殺 せり。
24 然 れど 神 は 死 の 苦難 を 解 きて 之 を 甦 へらせ 給 へり。彼 は 死 に 繋 がれをるべき 者 ならざりしなり。
25 ダビデ 彼 につきて 言 ふ「われ 常 に 我 が 前 に 主 を 見 たり、我 が 動 かされぬ 爲 に 我 が 右 に 在 せばなり。
26 この 故 に 我 が 心 は 樂 しみ、我 が 舌 は 喜 べり、かつ 我 が 肉體 もまた 望 の 中 に 宿 らん。
27 汝 わが 靈魂 を 黄泉 に 棄 て 置 かず、汝 の 聖者 の 朽果 つることを 許 し 給 はざればなり。
28 汝 は 生命 の 道 を 我 に 示 し 給 へり、御顏 の 前 にて 我 に 勸喜 を 滿 し 給 はん」
29 兄弟 たちよ、先祖 ダビデに 就 きて、われ 憚 らず 汝 らに 言 ふを 得 べし、彼 は 死 にて 葬 られ、その 墓 は 今日 に 至 るまで 我 らの 中 にあり。
30 即 ち 彼 は 預言者 にして、己 の 身 より 出 づる 者 をおのれの 座位 に 坐 せしむることを、誓 をもて 神 の 約 し 給 ひしを 知 り、
31 先見 して、キリストの 復活 に 就 きて 語 り、その 黄泉 に 棄 て 置 かれず、その 肉體 の 朽果 てぬことを 言 へるなり。
32 神 はこのイエスを 甦 へらせ 給 へり、我 らは 皆 その 證人 なり。
33 イエスは 神 の 右 に 擧 げられ、約束 の 聖 靈 を 父 より 受 けて、汝 らの 見 聞 する 此 のものを 注 ぎ 給 ひしなり。
34 それダビデは 天 に 昇 りしことなし、然 れど 自 ら 言 ふ「主 わが 主 に 言 ひ 給 ふ、
35 我 なんぢの 敵 を 汝 の 足臺 となすまでは、わが 右 に 坐 せよ」と。
36 然 ればイスラエルの 全家 は 確 と 知 るべきなり。汝 らが 十字架 に 釘 けし 此 のイエスを、神 は 立 てて 主 となし、キリストとなし 給 へり』
37 人々 これを 聞 きて 心 を 刺 され、ペテロと 他 の 使徒 たちとに 言 ふ『兄弟 たちよ、我 ら 何 をなすべきか』
38 ペテロ 答 ふ『なんぢら 悔改 めて、おのおの 罪 の 赦 を 得 んために、イエス・キリストの 名 によりてバプテスマを 受 けよ、然 らば 聖 靈 の 賜物 を 受 けん。
39 この 約束 は 汝 らと 汝 らの 子 らと、凡 ての 遠 き 者 すなはち 主 なる 我 らの 神 の 召 し 給 ふ 者 とに 屬 くなり』
40 この 他 なほ 多 くの 言 をもて 證 し、かつ 勸 めて『この 曲 れる 代 より 救 ひ 出 されよ』と 言 へり。
41 かくてペテロの 言 を 聽納 れし 者 はバプテスマを 受 く。この 日、弟子 に 加 はりたる 者、おほよそ 三 千 人 なり。
42 彼 らは 使徒 たちの 教 を 受 け、交際 をなし、パンを 擘 き、祈祷 をなすことを 只管 つとむ。
43 ここに 人 みな 敬畏 を 生 じ、多 くの 不思議 と 徴 とは 使徒 たちに 由 りて 行 はれたり。
44 信 じたる 者 はみな 偕 に 居 りて 諸般 の 物 を 共 にし、
45 資産 と 所有 とを 賣 り、各人 の 用 に 從 ひて 分 け 與 へ、
46 日々、心 を 一 つにして 弛 みなく 宮 に 居 り、家 にてパンをさき、勸喜 と 眞心 とをもて 食事 をなし、
47 神 を 讃美 して 一般 の 民 に 悦 ばる。かくて 主 は 救 はるる 者 を 日々 かれらの 中 に 加 へ 給 へり。
Chapter 3
1 晝 の 三時 いのりの 時 に、ペテロとヨハネと 宮 に 上 りしが、
2 ここに 生 れながらの 跛者 かかれて 來 る。宮 に 入 る 人 より 施濟 を 乞 ふために、日々 宮 の 美麗 といふ 門 に 置 かるるなり。
3 ペテロとヨハネとの 宮 に 入 らんとするを 見 て 施濟 を 乞 ひたれば、
4 ペテロ、ヨハネと 共 に 目 を 注 めて『我 らを 見 よ』と 言 ふ。
5 かれ 何 をか 受 くるならんと、彼 らを 見 つめたるに、
6 ペテロ 言 ふ『金 銀 は 我 になし、然 れど 我 に 有 るものを 汝 に 與 ふ、ナザレのイエス・キリストの 名 によりて 歩 め』
7 乃 ち 右 の 手 を 執 りて 起 ししに、足 の 甲 と 踝骨 とたちどころに 強 くなりて、
8 躍 り 立 ち 歩 み 出 して、且 あゆみ 且 をどり、神 を 讃美 しつつ 彼 らと 共 に 宮 に 入 れり。
9 民 みな 其 の 歩 み、また 神 を 讃美 するを 見 て、
10 彼 が 前 に 乞食 にて 宮 の 美麗 門 に 坐 しゐたるを 知 れば、この 起 りし 事 に 就 きて 驚駭 と 奇異 とに 充 ちたり。
11 かくて 彼 がペテロとヨハネとに 取 りすがり 居 るほどに、民 みな 甚 だしく 驚 きてソロモンの 廊 と 稱 ふる 廊 に 馳 せつどふ。
12 ペテロこれを 見 て 民 に 答 ふ『イスラエルの 人々 よ、何 ぞ 此 の 事 を 怪 しむか、何 ぞ 我 らが 己 の 能力 と 敬虔 とによりて 此 の 人 を 歩 ませしごとく、我 らを 見 つむるか。
13 アブラハム、イサク、ヤコブの 神、われらの 先祖 の 神 は、その 僕 イエスに 榮光 あらしめ 給 へり。汝 等 このイエスを 付 し、ピラトの 之 を 釋 さんと 定 めしを、其 の 前 にて 否 みたり。
14 汝 らは、この 聖者・義人 を 否 みて、殺人者 を 釋 さんことを 求 め、
15 生命 の 君 を 殺 したれど、神 はこれを 死人 の 中 より 甦 へらせ 給 へり、我 らは 其 の 證人 なり。
16 斯 くてその 御名 を 信 ずるに 因 りてその 御名 は、汝 らの 見 るところ 識 るところの 此 の 人 を 健 くしたり。イエスによる 信仰 は、汝 等 もろもろの 前 にて 斯 かる 全癒 を 得 させたり。
17 兄弟 よ、われ 知 る、汝 らが、かの 事 を 爲 ししは 知 らぬに 因 りてなり。汝 らの 司 たちも 亦 然 り。
18 然 れど 神 は 凡 ての 預言者 の 口 をもて、キリストの 苦難 を 受 くべきことを 預 じめ 告 げ 給 ひしを、斯 くは 成就 し 給 ひしなり。
19 然 れば 汝 ら 罪 を 消 されん 爲 に、悔改 めて 心 を 轉 ぜよ。
20 これ 主 の 御前 より 慰安 の 時 きたり、汝 らの 爲 に 預 じめ 定 め 給 へるキリスト・イエスを 遣 し 給 はんとてなり。
21 古 へより 神 が、その 聖 なる 預言者 の 口 によりて 語 り 給 ひし、萬物 の 革 まる 時 まで、天 は 必 ずイエスを 受 けおくべし。
22 モーセ 云 へらく「主 なる 神 は 汝 らの 兄弟 の 中 より 我 がごとき 預言者 を 起 し 給 はん。その 語 る 所 のことは 汝 等 ことごとく 聽 くべし。
23 凡 てこの 預言者 に 聽 かぬ 者 は 民 の 中 より 滅 し 盡 さるべし」
24 又 サムエル 以來 かたりし 預言者 も、皆 この 時 につきて 宣傳 へたり。
25 汝 らは 預言者 たちの 子孫 なり、又 なんぢらの 先祖 たちに 神 の 立 て 給 ひし 契約 の 子孫 なり、即 ち 神 アブラハムに 告 げ 給 はく「なんぢの 裔 によりて 地 の 諸族 はみな 祝福 せらるべし」
26 神 はその 僕 を 甦 へらせ、まづ 汝 らに 遣 し 給 へり、これ 汝 ら 各人 を、その 罪 より 呼 びかへして 祝福 せん 爲 なり』
Chapter 4
1 かれら 民 に 語 り 居 るとき、祭司 ら・宮守頭 およびサドカイ 人 ら 近 づき 來 りて、
2 その 民 を 教 へ、又 イエスの 事 を 引 きて 死人 の 中 よりの 復活 を 宣 ぶるを 憂 ひ、
3 手 をかけて 之 を 捕 へしに、はや 夕 になりたれば、明 くる 日 まで 留置場 に 入 れたり。
4 然 れど、その 言 を 聽 きたる 人々 の 中 にも 信 ぜし 者 おほくありて、男 の 數 おほよそ 五 千 人 となりたり。
5 明 くる 日、司・長老・學者 らエルサレムに 會 し、
6 大 祭司 アンナス、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル 及 び 大 祭司 の 一族 みな 集 ひて、
7 その 中 にかの 二人 を 立 てて 問 ふ『如何 なる 能力 いかなる 名 によりて 此 の 事 を 行 ひしぞ』
8 この 時 ペテロ 聖 靈 にて 滿 され、彼 らに 言 ふ『民 の 司 たち 及 び 長老 たちよ、
9 我 らが 病 める 者 になしし 善 き 業 に 就 き、その 如何 にして 救 はれしかを 今日 もし 訊 さるるならば、
10 汝 ら 一同 およびイスラエルの 民 みな 知 れ、この 人 の 健 かになりて 汝 らの 前 に 立 つは、ナザレのイエス・キリスト、即 ち 汝 らが 十字架 に 釘 け、神 が 死人 の 中 より 甦 へらせ 給 ひし 者 の 名 に 頼 ることを。
11 このイエスは 汝 ら 造家者 に 輕 しめられし 石 にして、隅 の 首石 となりたるなり。
12 他 の 者 によりては 救 を 得 ることなし、天 の 下 には 我 らの 頼 りて 救 はるべき 他 の 名 を、人 に 賜 ひし 事 なければなり』
13 彼 らはペテロとヨハネとの 臆 することなきを 見、その 無學 の 凡人 なるを 知 りたれば、之 を 怪 しみ、且 そのイエスと 偕 にありし 事 を 認 む。
14 また 醫 されたる 人 の 之 とともに 立 つを 見 るによりて、更 に 言 ひ 消 す 辭 なし。
15 ここに、命 じて 彼 らを 衆議所 より 退 け、相 共 に 議 りて 言 ふ、
16 『この 人々 を 如何 にすべきぞ。彼 等 によりて 顯著 しき 徴 の 行 はれし 事 は、凡 てエルサレムに 住 む 者 に 知 られ、我 ら 之 を 否 むこと 能 はねばなり。
17 然 れど 愈々 ひろく 民 の 中 に 言 ひ 弘 らぬやうに、彼 らを 脅 かして、今 より 後 かの 名 によりて 誰 にも 語 る 事 なからしめん』
18 乃 ち 彼 らを 呼 び、一切 イエスの 名 によりて 語 り、また 教 へざらんことを 命 じたり。
19 ペテロとヨハネと 答 へていふ『神 に 聽 くよりも 汝 らに 聽 くは、神 の 御前 に 正 しきか、汝 ら 之 を 審 け。
20 我 らは 見 しこと 聽 きしことを 語 らざるを 得 ず』
21 民 みな 此 の 有 りし 事 に 就 きて 神 を 崇 めたれば、彼 らを 罰 するに 由 なく、更 にまた 脅 かして 釋 せり。
22 かの 徴 によりて 醫 されし 人 は 四十歳 餘 なりしなり。
23 彼 ら 釋 されて、その 友 の 許 にゆき、祭司長・長老 らの 言 ひし 凡 てのことを 告 げたれば、
24 之 を 聞 きて 皆 心 を 一 つにし、神 に 對 ひ、聲 を 揚 げて 言 ふ『主 よ、汝 は 天 と 地 と 海 と、其 の 中 のあらゆる 物 とを 造 り 給 へり。
25 曾 て 聖 靈 によりて、汝 の 僕 われらの 先祖 ダビデでの 口 をもて「何 ゆゑ 異邦人 は 騷 ぎ 立 ち、民 らは 空 しき 事 を 謀 るぞ。
26 世 の 王 たちは 共 に 立 ち、司 らは 一 つにあつまりて、主 および 其 のキリストに 逆 ふ」と 宣給 へり。
27 果 してヘロデとポンテオ・ピラトとは、異邦人 およびイスラエルの 民 等 とともに、汝 の 油 そそぎ 給 ひし 聖 なる 僕 イエスに 逆 ひて、此 の 都 にあつまり、
28 御手 と 御旨 とにて、斯 く 成 るべしと 預 じめ 定 め 給 ひし 事 をなせり。
29 主 よ、今 かれらの 脅喝 を 御覽 し、僕 らに 御言 を 聊 かも 臆 することなく 語 らせ、
30 御手 をのべて 醫 を 施 させ、汝 の 聖 なる 僕 イエスの 名 によりて、徴 と 不思議 とを 行 はせ 給 へ』
31 祈 り 終 へしとき、其 の 集 りをる 處 ふるひ 動 き、みな 聖 靈 にて 滿 され、臆 することなく 神 の 御言 を 語 れり。
32 信 じたる 者 の 群 は、おなじ 心 おなじ 思 となり、誰 一人 その 所有 を 己 が 者 と 謂 はず、凡 ての 物 を 共 にせり。
33 かくて 使徒 たちは 大 なる 能力 をもて、主 イエスの 復活 の 證 をなし、みな 大 なる 恩惠 を 蒙 りたり。
34 彼 らの 中 には 一人 の 乏 しき 者 もなかりき。これ 地所 あるいは 家屋 を 有 てる 者、これを 賣 り、その 賣 りたる 物 の 價 を 持 ち 來 りて、
35 使徒 たちの 足下 に 置 きしを、各人 その 用 に 隨 ひて 分 け 與 へられたればなり。
36 ここにクプロに 生 れたるレビ 人 にて、使徒 たちにバルナバ(釋 けば 慰籍 の 子)と 稱 へらるるヨセフ、
37 畑 ありしを 賣 りて 其 の 金 を 持 ちきたり、使徒 たちの 足下 に 置 けり。
Chapter 5
1 然 るにアナニヤと 云 ふ 人、その 妻 サツピラと 共 に 資産 を 賣 り、
2 その 價 の 幾分 を 匿 しおき、殘 る 幾分 を 持 ちきたりて 使徒 たちの 足下 に 置 きしが、妻 も 之 を 與 れり。
3 ここにペテロ 言 ふ『アナニヤよ、何 故 なんぢの 心 サタンに 滿 ち、聖 靈 に 對 し 詐 りて、地所 の 價 の 幾分 を 匿 したるぞ。
4 有 りし 時 は 汝 の 物 なり、賣 りて 後 も 汝 の 權 の 内 にあるに 非 ずや、何 とて 斯 ることを 心 に 企 てし。なんぢ 人 に 對 してにあらず、神 に 對 して 詐 りしなり』
5 アナニヤこの 言 をきき、倒 れて 息 絶 ゆ。これを 聞 く 者 みな 大 なる 懼 を 懷 く。
6 若者 ども 立 ちて 彼 を 包 み、舁 き 出 して 葬 れり。
7 凡 そ 三 時間 を 經 て、その 妻 この 有 りし 事 を 知 らずして 入 り 來 りしに、
8 ペテロ 之 に 向 ひて 言 ふ『なんぢら 此 程 の 價 にてかの 地所 を 賣 りしか、我 に 告 げよ』女 いふ『然 り、此 程 なり』
9 ペテロ 言 ふ『なんぢら 何 ぞ 心 を 合 せて 主 の 御靈 を 試 みんとせしか、視 よ、なんぢの 夫 を 葬 りし 者 の 足 は 門口 にあり、汝 をもまた 舁 き 出 すべし』
10 をんな 立刻 にペテロの 足下 に 倒 れて 息 絶 ゆ。若者 ども 入 り 來 りて、その 死 にたるを 見、これを 舁 き 出 して 夫 の 傍 らに 葬 れり。
11 ここに 全 教會 および 此 等 のことを 聞 く 者 みな 大 なる 懼 を 懷 けり。
12 使徒 たちの 手 によりて 多 くの 徴 と 不思議 と 民 の 中 に 行 はれたり。彼 等 はみな 心 を 一 つにして、ソロモンの 廊 にあり。
13 他 の 者 どもは 敢 へて 近 づかず、民 は 彼 らを 崇 めたり。
14 信 ずるもの 男女 とも 増々 おほく 主 に 屬 けり。
15 終 には 人々、病 める 者 を 大路 に 舁 ききたり、寢臺 または 床 の 上 におく。此 等 のうち 誰 にもせよ、ペテロの 過 ぎん 時、その 影 になりと 庇 はれんとてなり。
16 又 エルサレムの 周圍 の 町々 より 多 くの 人々、病 める 者・穢 れし 靈 に 惱 されたる 者 を 携 へきたりて 集 ひたりしが、みな 醫 されたり。
17 ここに 大 祭司 および 之 と 偕 なる 者、即 ちサドカイ 派 の 人々、みな 嫉 に 滿 されて 立 ち、
18 使徒 たちに 手 をかけて 之 を 留置場 に 入 る。
19 然 るに 主 の 使、夜、獄 の 戸 をひらき、彼 らを 連 れ 出 して 言 ふ、
20 『往 きて 宮 に 立 ち、この 生命 の 言 をことごとく 民 に 語 れ』
21 かれら 之 を 聞 き、夜明 がた 宮 に 入 りて 教 ふ。大 祭司 および 之 と 偕 なる 者 ども 集 ひきたりて、議會 とイスラエル 人 の 元老 とを 呼 びあつめ、使徒 たちを 曳 き 來 らせんとて 人 を 牢舍 に 遣 したり。
22 下役 ども 往 きしに、獄 のうちに 彼 らの 居 らぬを 見 て、歸 りきたり 告 げて 言 ふ、
23 『われら 牢舍 の 堅 く 閉 ぢられて、戸 の 前 に 牢番 の 立 ちたるを 見 しに、開 きて 見 れば、内 には 誰 も 居 らざりき』
24 宮守頭 および 祭司長 らこの 言 を 聞 きて、如何 になりゆくべきかと 惑 ひいたるに、
25 或 人 きたり 告 げて 言 ふ『視 よ、汝 らの 獄 に 入 れし 人 は、宮 に 立 ちて 民 を 教 へ 居 るなり』
26 ここに 宮守頭、下役 を 伴 ひて 出 でゆき、彼 らを 曳 き 來 る。されど 手暴 きことをせざりき、これ 民 より 石 にて 打 たれんことを 恐 れたるなり。
27 彼 らを 連 れ 來 りて 議會 の 中 に 立 てたれば、大 祭司 問 ひて 言 ふ、
28 『我等 かの 名 によりて 教 ふることを 堅 く 禁 ぜしに、視 よ、汝 らは 其 の 教 をエルサレムに 滿 し、かの 人 の 血 を 我 らに 負 はせんとす』
29 ペテロ 及 び 他 の 使徒 たち 答 へて 言 ふ『人 に 從 はんよりは 神 に 從 ふべきなり。
30 我 らの 先祖 の 神 はイエスを 起 し 給 ひしに、汝 らは 之 を 木 に 懸 けて 殺 したり。
31 神 は 彼 を 君 とし 救主 として 己 が 右 にあげ、悔改 と 罪 の 赦 とをイスラエルに 與 へしめ 給 ふ。
32 我 らは 此 の 事 の 證人 なり。神 のおのれに 從 ふ 者 に 賜 ふ 聖 靈 もまた 然 り』
33 かれら 之 をききて 怒 に 滿 ち、使徒 たちを 殺 さんと 思 へり。
34 然 るにパリサイ 人 にて 凡 ての 民 に 尊 ばるる 教法 學者 ガマリエルと 云 ふもの、議會 の 中 に 立 ち、命 じて 使徒 たちを 暫 く 外 に 出 さしめ、議員 らに 向 ひて 言 ふ、
35 『イスラエルの 人 よ、汝 らが 此 の 人々 に 爲 さんとする 事 につきて 心 せよ。
36 前 にチウダ 起 りて、自 ら 大 なりと 稱 し、之 に 附 隨 ふ 者 の 數 おほよそ 四 百 人 なりしが、彼 は 殺 され、從 へる 者 はみな 散 されて 跡 なきに 至 れり。
37 そののち 戸籍 登録 のときガリラヤのユダ 起 りて、多 くの 民 を 誘 ひおのれに 從 はしめしが、彼 も 亡 び 從 へる 者 もことごとく 散 されたり。
38 然 れば 今 なんぢらに 言 ふ、この 人々 より 離 れて、その 爲 すに 任 せよ。若 しその 企圖 その 所作、人 より 出 でたらんにはおのづから 壞 れん。
39 もし 神 より 出 でたらんには 彼 らを 壞 ること 能 はず、恐 らくは 汝 ら 神 に 敵 する 者 とならん』
40 彼 等 その 勸告 にしたがひ、遂 に 使徒 たちを 呼 び 出 して 之 を 鞭 うち、イエスの 名 によりて 語 ることを 堅 く 禁 じて 釋 せり。
41 使徒 たちは 御名 のために 辱 しめらるるに 相應 しき 者 とせられたるを 喜 びつつ、議員 らの 前 を 出 で 去 れり。
42 かくて 日毎 に 宮 また 家 にて 教 をなし、イエスのキリストなる 事 を 宣傳 へて 止 まざりき。
Chapter 6
1 そのころ 弟子 のかず 増 加 はり、ギリシヤ 語 のユダヤ 人、その 寡婦 らが 日々 の 施濟 に 漏 されたれば、ヘブル 語 のユダヤ 人 に 對 して 呟 く 事 あり。
2 ここに 十二 使徒 すべての 弟子 を 呼 び 集 めて 言 ふ『われら 神 の 言 を 差措 きて、食卓 に 事 ふるは 宣 しからず。
3 然 れば 兄弟 よ、汝 らの 中 より 御靈 と 智慧 とにて 滿 ちたる 令聞 ある 者 七人 を 見出 せ、それに 此 の 事 を 掌 どらせん。
4 我 らは 專 ら 祈 をなすことと、御言 に 事 ふることとを 務 めん』
5 集 れる 凡 ての 者 この 言 を 善 しとし、信仰 と 聖 靈 とにて 滿 ちたるステパノ 及 びピリポ、プロコロ、ニカノル、テモン、パルメナ、またアンテオケの 改宗者 ニコラオを 選 びて、
6 使徒 たちの 前 に 立 てたれば、使徒 たち 祈 りて 手 をその 上 に 按 けり。
7 かくて 神 の 言 ますます 弘 り、弟子 の 數 エルサレムにて 甚 だ 多 くなり、祭司 の 中 にも 信仰 の 道 に 從 へるもの 多 かりき。
8 さてステパノは 恩惠 と 能力 とにて 滿 ち、民 の 中 に 大 なる 不思議 と 徴 とを 行 へり。
9 ここに 世 に 稱 ふるリベルテンの 會堂 およびクレネ 人、アレキサンデリヤ 人、またキリキヤとアジヤとの 人 の 諸 會堂 より、人々 起 ちてステパノと 論 ぜしが、
10 その 語 るところの 智慧 と 御靈 とに 敵 すること 能 はず。
11 乃 ち 或 者 どもを 唆 かして『我 らはステパノが、モーセと 神 とを 瀆 す 言 をいふを 聞 けり』と 言 はしめ、
12 民 および 長老・學者 らを 煽動 し、俄 に 來 りてステパノを 捕 へ、議會 に 曳 きゆき、
13 僞證者 を 立 てて 言 はしむ『この 人 はこの 聖 なる 所 と 律法 とに 逆 ふ 言 を 語 りて 止 まず、
14 即 ち、かのナザレのイエスは 此 の 所 を 毀 ち、かつモーセの 傳 へし 例 を 變 ふべしと、彼 が 云 へるを 聞 けり』と。
15 ここに 議會 に 坐 したる 者 みな 目 を 注 ぎてステパノを 見 しに、その 顏 は 御使 の 顏 の 如 くなりき。
Chapter 7
1 かくて 大 祭司 いふ『此 等 のこと 果 してかくの 如 きか』
2 ステパノ 言 ふ『兄弟 たち 親 たちよ、聽 け、我 らの 先祖 アブラハム 未 だカランに 住 まずして 尚 メソポタミヤに 居 りしとき、榮光 の 神 あらはれて、
3 「なんぢの 土地、なんぢの 親族 を 離 れて、我 が 示 さんとする 地 に 往 け」と 言 ひ 給 へり。
4 ここにカルデヤの 地 に 出 でてカランに 住 みたりしが、その 父 の 死 にしのち、神 は 彼 を 彼處 より 汝 らの 今 住 める 此 の 地 に 移 らしめ、
5 此處 にて 足、蹈立 つる 程 の 地 をも 嗣業 に 與 へ 給 はざりき。然 るに、その 地 を 未 だ 子 なかりし 彼 と 彼 の 裔 とに 所有 として 與 へんと 約 し 給 へり。
6 神 また 其 の 裔 は 他 の 國 に 寄寓人 となり、その 國人 は 之 を 四百年 のあひだ 奴隷 となして 苦 しめん 事 を 告 げ 給 へり。
7 神 いひ 給 ふ「われは 彼 らを 奴隷 とする 國人 を 審 かん、然 るのち 彼 等 その 國 を 出 で、この 處 にて 我 に 事 へん」
8 神 また 割禮 の 契約 をアブラハムに 與 へ 給 ひたれば、イサクを 生 みて 八日 めに 之 に 割禮 を 行 へり。イサクはヤコブを、ヤコブは 十二 の 先祖 を 生 めり。
9 先祖 たちヨセフを 嫉 みてエジプトに 賣 りしに、神 は 彼 と 偕 に 在 して、
10 凡 ての 患難 より 之 を 救 ひ 出 し、エジプトの 王 パロの 前 にて 寵愛 を 得 させ、また 智慧 を 與 へ 給 ひたれば、パロ 之 を 立 ててエジプトと 己 が 全家 との 宰 となせり。
11 時 にエジプトとカナンの 全地 とに 飢饉 ありて 大 なる 患難 おこり、我 らの 先祖 たち 糧 を 求 め 得 ざりしが、
12 ヤコブ、エジプトに 穀物 あるを 聞 きて、先 づ 我 らの 先祖 たちを 遣 す。
13 二度 めの 時 ヨセフその 兄弟 たちに 知 られ、ヨセフの 氏族 パロに 明 かになれり。
14 ヨセフ 言 ひ 遣 して 己 が 父 ヤコブと 凡 ての 親族 と 七 十 五 人 を 招 きたれば、
15 ヤコブ、エジプトに 下 り、彼處 にて 己 も 我 らの 先祖 たちも 死 にたり。
16 彼 等 シケムに 送 られ、曾 てアブラハムがシケムにてハモルの 子 等 より 銀 をもて 買 ひ 置 きし 墓 に 葬 られたり。
17 かくて 神 のアブラハムに 語 り 給 ひし 約束 の 時 近 づくに 隨 ひて、民 はエジプトに 蕃 えひろがり、
18 ヨセフを 知 らぬ 他 の 王、エジプトに 起 るに 及 べり。
19 王 は 惡計 をもて 我 らの 同族 にあたり、我 らの 先祖 たちを 苦 しめて、其 の 嬰兒 の 生存 ふる 事 なからんやう、之 を 棄 つるに 至 らしめたり。
20 その 頃 モーセ 生 れて 甚 うるはしくして 三月 のあいだ 父 の 家 に 育 てられ、
21 遂 に 棄 てられしを、パロの 娘 ひき 上 げて 己 が 子 として 育 てたり。
22 かくてモーセはエジプト 人 の 凡 ての 學術 を 教 へられ、言 と 業 とに 能力 あり。
23 年齡 四十 になりたる 時、おのが 兄弟 たるイスラエルの 子孫 を 顧 みる 心 おこり、
24 一人 の 害 はるるを 見 て 之 を 護 り、エジプト 人 を 撃 ちて、虐 げらるる 者 の 仇 を 復 せり。
25 彼 は 己 の 手 によりて 神 が 救 を 與 へんとし 給 ふことを、兄弟 たち 悟 りしならんと 思 ひたるに、悟 らざりき。
26 翌日 かれらの 相 爭 ふところに 現 れて 和睦 を 勸 めて 言 ふ「人々 よ、汝 らは 兄弟 なるに、何 ぞ 互 に 害 ふか」
27 隣 を 害 ふ 者 モーセを 押退 けて 言 ふ「誰 が 汝 を 立 てて 我 らの 司 また 審判 人 とせしぞ、
28 昨日 エジプト 人 を 殺 したる 如 く、我 をも 殺 さんとするか」
29 この 言 により、モーセ 遁 れてミデアンの 地 の 寄寓人 となり、彼處 にて 二人 の 子 を 儲 けたり。
30 四十 年 を 歴 て 後 シナイ 山 の 荒野 にて、御使、柴 の 焔 のなかに 現 れたれば、
31 モーセ 之 を 見 て 視 るところを 怪 しみ、認 めんとして 近 づきしとき、主 の 聲 あり。曰 く、
32 「我 は 汝 の 先祖 たちの 神、即 ちアブラハム、イサク、ヤコブの 神 なり」モーセ 戰慄 き 敢 へて 認 むることを 爲 ず。
33 主 いひ 給 ふ「なんぢの 足 の 鞋 を 脱 げ、なんぢの 立 つところは 聖 なる 地 なり。
34 我 エジプトに 居 る 我 が 民 の 苦難 を 見、その 歎息 をききて 之 を 救 はん 爲 に 降 れり。いで 我 なんぢをエジプトに 遣 さん」
35 斯 く 彼 らが「誰 が 汝 を 立 てて 司 また 審判 人 とせしぞ」と 言 ひて 拒 みし 此 のモーセを、神 は 柴 のなかに 現 れたる 御使 の 手 により、司 また 救人 として 遣 し 給 へり。
36 この 人 かれらを 導 き 出 し、エジプトの 地 にても、また 紅海 および 四十 年 のあひだ 荒野 にても、不思議 と 徴 とを 行 ひたり。
37 イスラエルの 子 らに「神 は 汝 らの 兄弟 の 中 より、我 がごとき 預言者 を 起 し 給 はん」と 云 ひしは 此 のモーセなり。
38 彼 はシナイ 山 にて 語 りし 御使 および 我 らの 先祖 たちと 偕 に 荒野 なる 集會 に 在 りて 汝 らに 與 へん 爲 に 生 ける 御言 を 授 りし 人 なり。
39 然 るに 我 らの 先祖 たちは 此 の 人 に 從 ふことを 好 まず、反 つて 之 を 押退 け、その 心 エジプトに 還 りて、
40 アロンに 言 ふ「我 らに 先 だち 往 くべき 神々 を 造 れ、我 らをエジプトの 地 より 導 き 出 しし、かのモーセの 如何 になりしかを 知 らざればなり」
41 その 頃 かれら 犢 を 造 り、その 偶像 に 犧牲 をささげて 己 が 手 の 所作 を 喜 べり。
42 爰 に 神 は 彼 らを 離 れ、その 天 の 軍勢 に 事 ふるに 任 せ 給 へり。これは 預言者 たちの 書 に「イスラエルの 家 よ、なんぢら 荒野 にて 四十 年 の 間、屠 りし 畜 と 犧牲 とを 我 に 献 げしや。
43 汝 らは 拜 せんとして 造 れる 像、すなはちモロクの 幕屋 と 神 ロンパの 星 とを 舁 きたり。われ 汝 らをバビロンの 彼方 に 移 さん」と 録 されたるが 如 し。
44 我 らの 先祖 たちは 荒野 にて 證 の 幕屋 を 有 てり、モーセに 語 り 給 ひし 者 の、彼 が 見 し 式 に 循 ひて 造 れと 命 じ 給 ひしままなり。
45 我 らの 先祖 たちは 之 を 承 け 繼 ぎ、先祖 たちの 前 より 神 の 逐 ひいだし 給 ひし 異邦人 の 領地 を 收 めし 時、ヨシユアとともに 携 へ 來 りてダビデの 日 に 及 べり。
46 ダビデ 神 の 前 に 恩惠 を 得 て、ヤコブの 神 のために 住處 を 設 けんと 求 めたり。
47 而 して、その 家 を 建 てたるはソロモンなりき。
48 されど 至高者 は 手 にて 造 れる 所 に 住 み 給 はず、即 ち 預言者 の
49 「主 のたまはく、天 は 我 が 座位、地 は 我 が 足臺 なり。汝 等 わが 爲 に 如何 なる 家 をか 建 てん、わが 休息 のところは 何處 なるぞ。
50 わが 手 は 凡 て 此 等 の 物 を 造 りしにあらずや」と 云 へるが 如 し。
51 項強 くして 心 と 耳 とに 割禮 なき 者 よ、汝 らは 常 に 聖 靈 に 逆 ふ、その 先祖 たちの 如 く 汝 らも 然 り。
52 汝 らの 先祖 たちは 預言者 のうちの 誰 をか 迫害 せざりし。彼 らは 義人 の 來 るを 預 じめ 告 げし 者 を 殺 し、汝 らは 今 この 義人 を 賣 り、かつ 殺 す 者 となれり。
53 なんぢら、御使 たちの 傳 へし 律法 を 受 けて、尚 これを 守 らざりき』
54 人々 これらの 言 を 聞 きて、心 いかりに 滿 ち 切齒 しつつステパノに 向 ふ。
55 ステパノは 聖 靈 にて 滿 ち、天 に 目 を 注 ぎ、神 の 榮光 およびイエスの 神 の 右 に 立 ちたまふを 見 て 言 ふ、
56 『視 よ、われ 天 開 けて 人 の 子 の 神 の 右 に 立 ち 給 ふを 見 る』
57 ここに 彼 ら 大聲 に 叫 びつつ、耳 を 掩 ひ 心 を 一 つにして 驅 け 寄 り、
58 ステパノを 町 より 逐 ひいだし、石 にて 撃 てり。證人 らその 衣 をサウロといふ 若者 の 足下 に 置 けり。
59 かくて 彼 等 がステパノを 石 にて 撃 てるとき、ステパノ 呼 びて 言 ふ『主 イエスよ、我 が 靈 を 受 けたまへ』
60 また 跪 づきて 大聲 に『主 よ、この 罪 を 彼 らの 負 はせ 給 ふな』と 呼 はる。斯 く 言 ひて 眠 に 就 けり。
Chapter 8
1 サウロは 彼 の 殺 さるるを 可 しとせり。その 日 エルサレムに 在 る 教會 に 對 ひて 大 なる 迫害 おこり、使徒 たちの 他 は 皆 ユダヤ 及 びサマリヤの 地方 に 散 さる。
2 敬虔 なる 人々 ステパノを 葬 り、彼 のために 大 に 胸 打 てり。
3 サウロは 教會 をあらし、家々 に 入 り 男女 を 引出 して 獄 に 付 せり。
4 ここに 散 されたる 者 ども 歴 巡 りて 御言 を 宣 べしが、
5 ピリポはサマリヤの 町 に 下 りてキリストの 事 を 傳 ふ。
6 群衆 ピリポの 行 ふ 徴 を 見 聞 して、心 を 一 つにし、謹 みて 其 の 語 る 事 どもを 聽 けり。
7 これ 多 くの 人 より、之 に 憑 きたる 穢 れし 靈、大聲 に 叫 びて 出 で、また 中風 の 者 と 跛者 と 多 く 醫 されたるに 因 る。
8 この 故 にその 町 に 大 なる 勸喜 おこれり。
9 ここにシモンといふ 人 あり、前 にその 町 にて 魔術 を 行 ひ、サマリヤ 人 を 驚 かして 自 ら 大 なる 者 と 稱 へたり。
10 小 より 大 に 至 る 凡 ての 人 つつしみて 之 に 聽 き『この 人 は、いわゆる 神 の 大能 なり』といふ。
11 かく 謹 みて 聽 けるは、久 しき 間 その 魔術 に 驚 かされし 故 なり。
12 然 るにピリポが、神 の 國 とイエス・キリストの 御名 とに 就 きて 宣傳 ふるを 人々 信 じたれば、男女 ともにバプテスマを 受 く。
13 シモンも 亦 みづから 信 じ、バプテスマを 受 けて、常 にピリポと 偕 に 居 り、その 行 ふ 徴 と、大 なる 能力 とを 見 て 驚 けり。
14 エルサレムに 居 る 使徒 たちは、サマリヤ 人、神 の 御言 を 受 けたりと 聞 きて、ペテロとヨハネとを 遣 したれば、
15 彼 ら 下 りて 人々 の 聖 靈 を 受 けんことを 祈 れり。
16 これ 主 イエスの 名 によりてバプテスマを 受 けしのみにて、聖 靈 いまだ 其 の 一人 にだに 降 らざりしなり。
17 ここに 二人 のもの 彼 らの 上 に 手 を 按 きたれば、みな 聖 靈 を 受 けたり。
18 使徒 たちの 按手 によりて 其 の 御靈 を 與 へられしを 見 て、シモン 金 を 持 ち 來 りて 言 ふ、
19 『わが 手 を 按 くすべての 人 の 聖 靈 を 受 くるやうに、此 の 權威 を 我 にも 與 へよ』
20 ペテロ 彼 に 言 ふ『なんぢの 銀 は 汝 とともに 亡 ぶべし、なんぢ 金 をもて 神 の 賜物 を 得 んと 思 へばなり。
21 なんぢは 此 の 事 に 關係 なく 干與 なし、なんぢの 心、神 の 前 に 正 しからず。
22 然 ればこの 惡 を 悔改 めて 主 に 祈 れ、なんぢが 心 の 念 あるひは 赦 されん。
23 我 なんぢが 苦 き 膽汁 と 不義 の 繋 とに 居 るを 見 るなり』
24 シモン 答 へて 言 ふ『なんぢらの 言 ふ 所 のこと 一 つも 我 に 來 らぬやう、汝 ら 我 がために 主 に 祈 れ』
25 かくて 使徒 たちは 證 をなし、主 の 御言 を 語 りて 後、サマリヤ 人 の 多 くの 村 に 福音 を 宣傳 へつつエルサレムに 歸 れり。
26 然 るに 主 の 使 ピリポに 語 りて 言 ふ『なんぢ 起 ちて 南 に 向 ひエルサレムよりガザに 下 る 道 に 往 け。そこは 荒野 なり』
27 ピリポ 起 ちて 往 きたれば、視 よ、エテオピヤの 女王 カンダケの 權官 にして、凡 ての 寳物 を 掌 どる 閹人 エテオピヤ 人 あり、禮拜 の 爲 にエルサレムに 上 りしが、
28 歸 る 途 すがら 馬車 に 坐 して 預言者 イザヤの 書 を 讀 みゐたり。
29 御靈 ピリポに 言 ひ 給 ふ『ゆきて 此 の 馬車 に 近寄 れ』
30 ピリポ 走 り 寄 りて、その 預言者 イザヤの 書 を 讀 むを 聽 きて 言 ふ『なんぢ 其 の 讀 むところを 悟 るか』
31 閹人 いふ『導 く 者 なくば、いかで 悟 り 得 ん』而 してピリポに、乘 りて 共 に 坐 せんことを 請 ふ。
32 その 讀 むところの 聖書 の 文 は 是 なり『彼 は 羊 の 屠場 に 就 くが 如 く 曳 かれ、羔羊 のその 毛 を 剪 る 者 のまへに 默 すがごとく 口 を 開 かず。
33 卑 しめられて 審判 を 奪 はれたり、誰 かその 代 の 状 を 述 べ 得 んや。その 生命 地上 より 取 られたればなり』
34 閹人 こたへてピリポに 言 ふ『預言者 は 誰 に 就 きて 斯 く 云 へるぞ、己 に 就 きてか、人 に 就 きてか、請 ふ 示 せ』
35 ピリポ 口 を 開 き、この 聖 句 を 始 としてイエスの 福音 を 宣傳 ふ。
36 途 を 進 むる 程 に 水 ある 所 に 來 りたれば、閹人 いふ『視 よ、水 あり、我 がバプテスマを 受 くるに 何 の 障 りかある』
37 [なし]
38 乃 ち 命 じて 馬車 を 止 め、ピリポと 閹人 と 二人 ともに 水 に 下 りて、ピリポ 閹人 にバプテスマを 授 く。
39 彼 ら 水 より 上 りしとき、主 の 靈 ピリポを 取去 りたれば、閹人 ふたたび 彼 を 見 ざりしが、喜 びつつ 其 の 途 に 進 み 往 けり。
40 かくてピリポはアゾトに 現 れ、町々 を 經 て 福音 を 宣傳 へつつカイザリヤに 到 れり。
Chapter 9
1 サウロは 主 の 弟子 たちに 對 して、なほ 恐喝 と 殺害 との 氣 を 充 し、大 祭司 にいたりて、
2 ダマスコにある 諸 教會 への 添書 を 請 ふ。この 道 の 者 を 見出 さば、男女 にかかはらず 縛 りてエルサレムに 曳 かん 爲 なり。
3 往 きてダマスコに 近 づきたるとき、忽 ち 天 より 光 いでて、彼 を 環 り 照 したれば、
4 かれ 地 に 倒 れて『サウロ、サウロ、何 ぞ 我 を 迫害 するか』といふ 聲 をきく。
5 彼 いふ『主 よ、なんぢは 誰 ぞ』答 へたまふ『われは 汝 が 迫害 するイエスなり。
6 起 きて 町 に 入 れ、さらば 汝 なすべき 事 を 告 げらるべし』
7 同行 の 人々、物 言 ふこと 能 はずして 立 ちたりしが、聲 は 聞 けども 誰 をも 見 ざりき。
8 サウロ 地 より 起 きて 目 をあけたれど 何 も 見 えざれば、人 その 手 をひきてダマスコに 導 きゆきしに、
9 三日 のあひだ 見 えず、また 飮食 せざりき。
10 さてダマスコにアナニヤといふ 一人 の 弟子 あり、幻影 のうちに 主 いひ 給 ふ『アナニヤよ』答 ふ『主 よ、我 ここに 在 り』
11 主 いひ 給 ふ『起 きて 直 といふ 街 にゆき、ユダの 家 にてサウロといふタルソ 人 を 尋 ねよ。視 よ、彼 は 祈 りをるなり。
12 又 アナニアといふ 人 の 入 り 來 りて、再 び 見 ゆることを 得 しめんために、手 を 己 がうへに 按 くを 見 たり』
13 アナニヤ 答 ふ『主 よ、われ 多 くの 人 より 此 の 人 に 就 きて 聞 きしに、彼 がエルサレムにて 汝 の 聖徒 に 害 を 加 へしこと 如何 ばかりぞや。
14 また 此處 にても、凡 て 汝 の 御名 をよぶ 者 を 縛 る 權 を 祭司長 らより 受 けをるなり』
15 主 いひ 給 ふ『往 け、この 人 は 異邦人・王 たち・イスラエルの 子孫 のまへに、我 が 名 を 持 ちゆく 我 が 選 の 器 なり。
16 我 かれに 我 が 名 のために 如何 に 多 くの 苦難 を 受 くるかを 示 さん』
17 ここにアナニヤ 往 きて 其 の 家 にいり、彼 の 上 に 手 をおきて 言 ふ『兄弟 サウロよ、主 すなはち 汝 が 來 る 途 にて 現 れ 給 ひしイエス、われを 遣 し 給 へり。なんぢが 再 び 見 ることを 得、かつ 聖 靈 にて 滿 されん 爲 なり』
18 直 ちに 彼 の 目 より 鱗 のごときもの 落 ちて 見 ることを 得、すなはち 起 きてバプテスマを 受 け、
19 かつ 食事 して 力 づきたり。サウロは 數日 の 間 ダマスコの 弟子 たちと 偕 にをり、
20 直 ちに 諸 會堂 にて、イエスの 神 の 子 なることを 宣 べたり。
21 聞 く 者 みな 驚 きて 言 ふ『こはエルサレムにて 此 の 名 をよぶ 者 を 害 ひし 人 ならずや、又 ここに 來 りしも、之 を 縛 りて 祭司長 らの 許 に 曳 きゆかんが 爲 ならずや』
22 サウロますます 能力 くははり、イエスのキリストなることを 論證 して、ダマスコに 住 むユダヤ 人 を 言 ひ 伏 せたり。
23 日 を 經 ること 久 しくして 後、ユダヤ 人 かれを 殺 さんと 相 謀 りたれど、
24 その 計畧 サウロに 知 らる。かくて 彼 らはサウロを 殺 さんとて、晝 も 夜 も 町 の 門 を 守 りしに、
25 その 弟子 ら 夜中 かれを 籃 にて 石垣 より 縋 り 下 せり。
26 ここにサウロ、エルサレムに 到 りて 弟子 たちの 中 に 列 らんとすれど、皆 かれが 弟子 たるを 信 ぜずして 懼 れたり。
27 然 るにバルナバ 彼 を 迎 へて、使徒 たちの 許 に 伴 ひゆき、その 途 にて 主 を 見 しこと、主 の 之 に 物 言 ひ 給 ひしこと、又 ダマスコにてイエスの 名 のために 臆 せず 語 りし 事 などを 具 に 告 ぐ。
28 ここにサウロはエルサレムにて 弟子 たちと 共 に 出入 し、
29 主 の 御名 のために 臆 せず 語 り、又 ギリシヤ 語 のユダヤ 人 と、かつ 語 りかつ 論 じたれば、彼 等 これを 殺 さんと 謀 りしに、
30 兄弟 たち 知 りて 彼 をカイザリヤに 伴 ひ 下 り、タルソに 往 かしめたり。
31 かくてユダヤ、ガリラヤ 及 びサマリヤを 通 じて、教會 は 平安 を 得、ややに 堅立 し、主 を 畏 れて 歩 み、聖 靈 の 祐助 によりて 人數 いや 増 せり。
32 ペテロは 徧 く 四方 をめぐりてルダに 住 む 聖徒 の 許 にいたり、
33 彼處 にてアイネヤといふ 人 の 中風 を 患 ひて 八 年 のあひだ 牀 に 臥 し 居 るに 遇 ふ。
34 かくてペテロ 之 に『アイネヤよ、イエス・キリスト 汝 を 醫 したまふ、起 きて 牀 を 收 めよ』と 言 ひたれば、直 ちに 起 きたり。
35 ここにルダ 及 びサロンに 住 む 者 みな 之 を 見 て 主 に 歸依 せり。
36 ヨツパにタビタと 云 ふ 女 の 弟子 あり、その 名 を 譯 すればドルカスなり。此 の 女 は、ひたすら 善 き 業 と 施濟 とをなせり。
37 彼 そのころ 病 みて 死 にたれば、之 を 洗 ひて 高樓 に 置 く。
38 ルダはヨツパに 近 ければ、弟子 たちペテロの 彼處 に 居 るを 聞 きて、二人 の 者 を 遣 し『ためらはで 我 らに 來 れ』と 請 はしむ。
39 ペテロ 起 ちてともに 往 き、遂 に 到 れば、彼 を 高樓 に 伴 れてのぼりしに、寡婦 らみな 之 をかこみて 泣 きつつ、ドルカスが 偕 に 居 りしほどに 製 りし 下衣・上衣 を 見 せたり。
40 ペテロ 彼 等 をみな 外 に 出 し、跪 づきて 祈 りし 後、ふりかへり 屍體 に 向 ひて『タビタ、起 きよ』と 言 ひたれば、かれ 目 を 開 き、ペテロを 見 て 起反 れり。
41 ペテロ 手 をあたへ、起 して 聖徒 と 寡婦 とを 呼 び、タビタを 活 きたるままにて 見 す。
42 この 事 ヨツパ 中 に 知 られたれば、多 くの 人、主 を 信 じたり。
43 ペテロ 皮工 シモンの 家 にありて 日 久 しくヨツパに 留 れり。
Chapter 10
1 ここにカイザリヤにコルネリオといふ 人 あり、イタリヤ 隊 と 稱 ふる 軍隊 の 百卒長 なるが、
2 敬虔 にして 全家族 とともに 神 を 畏 れ、かつ 民 に 多 くの 施濟 をなし、常 に 神 に 祈 れり。
3 或 日 の 午後 三時 ごろ 幻影 のうちに 神 の 使 きたりて『コルネリオよ』と 言 ふを 明 かに 見 たれば、
4 之 に 目 をそそぎ 怖 れて 言 ふ『主 よ、何事 ぞ』御使 いふ『なんぢの 祈 と 施濟 とは、神 の 前 に 上 りて 記念 とせらる。
5 今 ヨツパに 人 を 遣 してペテロと 稱 ふるシモンを 招 け、
6 彼 は 皮工 シモンの 家 に 宿 る。その 家 は 海邊 にあり』
7 斯 く 語 れる 御使 の 去 りし 後、コルネリオ 己 が 僕 二人 と 從卒中 の 敬虔 なる 者 一人 とを 呼 び、
8 凡 ての 事 を 告 げてヨツパに 遣 せり。
9 明 くる 日 かれらなほ 途中 にあり、既 に 町 に 近 づかんとする 頃 ほひ、ペテロ 祈 らんとて 屋 の 上 に 登 る、時 は 晝 の 十二 時 ごろなりき。
10 飢 ゑて 物欲 しくなり、人 の 食 を 調 ふるほどに 我 を 忘 れし 心地 して、
11 天 開 け、器 のくだるを 見 る、大 なる 布 のごとき 物 にして、四隅 もて 地 に 縋 り 下 されたり。
12 その 中 には 諸種 の 四 足 のもの、地 を 匐 ふもの、空 の 鳥 あり。
13 また 聲 ありて 言 ふ『ペテロ、立 て、屠 りて 食 せよ』
14 ペテロ 言 ふ『主 よ、可 からじ、我 いまだ 潔 からぬもの 穢 れたる 物 を 食 せし 事 なし』
15 聲 再 びありて 言 ふ『神 の 潔 め 給 ひし 物 を、なんぢ 潔 からずとすな』
16 かくの 如 きこと 三度 にして、器 は 直 ちに 天 に 上 げられたり。
17 ペテロその 見 し 幻影 の 何 の 意 なるか、心 に 惑 ふほどに、視 よ、コルネリオより 遣 されたる 人、シモンの 家 を 尋 ねて 門 の 前 に 立 ち、
18 訪 ひて、ペテロと 稱 ふるシモンの 此處 に 宿 るかを 問 ふ。
19 ペテロなほ 幻影 に 就 きて 打案 じゐたるに、御靈 いひ 給 ふ『視 よ、三人 なんぢを 尋 ぬ。
20 起 ちて 下 り 疑 はずして 共 に 往 け、彼 らを 遣 したるは 我 なり』
21 ペテロ 下 りて、かの 人 たちに 言 ふ『視 よ、我 は 汝 らの 尋 ぬる 者 なり、何 の 故 ありて 來 るか』
22 かれら 言 ふ『義人 にして 神 を 畏 れ、ユダヤの 國人 の 中 に 令聞 ある 百卒長 コルネリオ、聖 なる 御使 より、汝 を 家 に 招 きて、その 語 ることを 聽 けとの 告 を 受 けたり』
23 ここにペテロ 彼 らを 迎 へ 入 れて 宿 らす。明 くる 日 たちて 彼 らと 共 に 出 でゆきしが、ヨツパの 兄弟 も 數人 ともに 往 けり。
24 明 くる 日 カイザリヤに 入 りし 時、コルネリオは 親族 および 親 しき 朋友 を 呼 び 集 めて 彼 らを 待 ちゐたり。
25 ペテロ 入 り 來 れば、コルネリオ 之 を 迎 へ、その 足下 に 伏 して 拜 す。
26 ペテロ 彼 を 起 して 言 ふ『立 て、我 も 人 なり』
27 かくて 相 語 りつつ 内 に 入 り、多 くの 人 の 集 れるを 見 て、ペテロ 之 に 言 ふ、
28 『なんぢらの 知 る 如 く、ユダヤ 人 たる 者 の 外 の 國人 と 交 りまた 近 づくことは、律法 に 適 はぬ 所 なり、然 れど 神 は、何 人 をも 穢 れたるもの 潔 からぬ 者 と 言 ふまじきことを 我 に 示 したまへり。
29 この 故 に、われ 招 かるるや 躊躇 はずして 來 れり。然 れば 問 ふ、汝 らは 何 の 故 に 我 をまねきしか』
30 コルネリオ 言 ふ『われ 四日 前 に 我 が 家 にて 午後 三時 の 祈 をなし、此 の 時刻 に 至 りしに、視 よ、輝 く 衣 を 著 たる 人、わが 前 に 立 ちて、
31 「コルネリオよ、汝 の 祈 は 聽 かれ、なんぢの 施濟 は 神 の 前 に 憶 えられたり。
32 人 をヨツパに 送 りてペテロと 稱 ふるシモンを 招 け、かれは 海邊 なる 皮工 シモンの 家 に 宿 るなり」と 云 へり。
33 われ 速 かに 人 を 汝 に 遣 したるに、汝 の 來 れるは 忝 けなし。いま 我等 はみな、主 の 汝 に 命 じ 給 ひし 凡 てのことを 聽 かんとて、神 の 前 に 在 り』
34 ペテロ 口 を 開 きて 言 ふ、『われ 今 まことに 知 る、神 は 偏 ることをせず、
35 何 れの 國 の 人 にても 神 を 敬 ひて 義 をおこなふ 者 を 容 れ 給 ふことを。
36 神 はイエス・キリスト(これ 萬民 の 主)によりて 平和 の 福音 をのべ、イスラエルの 子孫 に 言 をおくり 給 へり。
37 即 ちヨハネの 傳 へしバプテスマの 後、ガリラヤより 始 り、ユダヤ 全國 に 弘 りし 言 なるは 汝 らの 知 る 所 なり。
38 これは 神 が 聖 靈 と 能力 とを 注 ぎ 給 ひしナザレのイエスの 事 にして、彼 は 徧 くめぐりて 善 き 事 をおこなひ、凡 て 惡魔 に 制 せらるる 者 を 醫 せり、神 これと 偕 に 在 したればなり。
39 我等 はユダヤの 地 およびエルサレムにて、イエスの 行 ひ 給 ひし 諸般 のことの 證人 なり、人々 は 彼 を 木 にかけて 殺 せり。
40 神 は 之 を 三日 めに 甦 へらせ、かつ 明 かに 現 したまへり。
41 然 れど 凡 ての 民 にはあらで、神 の 預 じめ 選 び 給 へる 證人、即 ちイエスの 死人 の 中 より 甦 へり 給 ひし 後、これと 共 に 飮食 せし 我 らに 現 し 給 ひしなり。
42 イエスは 己 の 生 ける 者 と 死 にたる 者 との 審判 主 に、神 より 定 められしを 證 することと、民 どもに 宣傳 ふる 事 とを 我 らに 命 じ 給 ふ。
43 彼 につきては 預言者 たちも 皆、おほよそ 彼 を 信 ずる 者 の、その 名 によりて 罪 の 赦 を 得 べきことを 證 す』
44 ペテロ 尚 これらの 言 を 語 りをる 間 に、聖 靈、御言 をきく 凡 ての 者 に 降 りたまふ。
45 ペテロと 共 に 來 りし 割禮 ある 信者 は、異邦人 にも 聖 靈 の 賜物 のそそがれしに 驚 けり。
46 そは 彼 らが 異言 をかたり、神 を 崇 むるを 聞 きたるに 因 る。
47 ここにペテロ 答 へて 言 ふ『この 人々 われらの 如 く 聖 靈 をうけたれば、誰 か 水 を 禁 じて 其 のバプテスマを 受 くることを 拒 み 得 んや』
48 遂 にイエス・キリストの 御名 によりてバプテスマを 授 けられんことを 命 じたり。ここに 彼 らペテロに 數日 とどまらんことを 請 へり。
Chapter 11
1 使徒 たち 及 びユダヤに 居 る 兄弟 たちは、異邦人 も 神 の 言 を 受 けたりと 聞 く。
2 かくてペテロのエルサレムに 上 りしとき、割禮 ある 者 ども 彼 を 詰 りて 言 ふ、
3 『なんぢ 割禮 なき 者 の 内 に 入 りて 之 と 共 に 食 せり』
4 ペテロ 有 りし 事 を 序 正 しく 説 き 出 して 言 ふ、
5 『われヨツパの 町 にて 祈 り 居 るとき、我 を 忘 れし 心地 し、幻影 にて 器 のくだるを 見 る、大 なる 布 のごとき 物 にして、四隅 もて 天 より 縋 り 下 され 我 が 許 にきたる。
6 われ 目 を 注 めて 之 を 視 るに、地 の 四 足 のもの、野 の 獸、匐 ふもの、空 の 鳥 を 見 たり。
7 また「ペテロ、立 て、屠 りて 食 せよ」といふ 聲 を 聞 けり。
8 我 いふ「主 よ、可 からじ、潔 からぬもの 穢 れたる 物 は、曾 て 我 が 口 に 入 りしことなし」
9 再 び 天 より 聲 ありて 答 ふ「神 の 潔 め 給 ひし 物 を、なんぢ 潔 からずと 爲 な」
10 かくの 如 きこと 三度 にして、終 にはみな 天 に 引上 げられたり。
11 視 よ、三人 の 者 カイザリヤより 我 に 遣 されて、はや 我 らの 居 る 家 の 前 に 立 てり。
12 御靈 われに、疑 はずして 彼 らと 共 に 往 くことを 告 げ 給 ひたれば、此 の 六 人 の 兄弟 も 我 とともに 往 きて、かの 人 の 家 に 入 れり。
13 彼 はおのが 家 に 御使 の 立 ちて「人 をヨツパに 遣 し、ペテロと 稱 ふるシモンを 招 け、
14 その 人、なんぢと 汝 の 全家族 との 救 はるべき 言 を 語 らん」と 言 ふを、見 しことを 我 らに 告 げたり。
15 ここに、われ 語 り 出 づるや、聖 靈 かれらの 上 に 降 りたまふ、初 め 我 らの 上 に 降 りし 如 し。
16 われ 主 の 曾 て「ヨハネは 水 にてバプテスマを 施 ししが、汝 らは 聖 靈 にてバプテスマを 施 されん」と 宣給 ひし 御言 を 思 ひ 出 せり。
17 神 われらが 主 イエス・キリストを 信 ぜしときに 賜 ひしと 同 じ 賜物 を 彼 らにも 賜 ひたるに、われ 何 者 なれば 神 を 阻 み 得 ん』
18 人々 これを 聞 きて 默然 たりしが、頓 て 神 を 崇 めて 言 ふ『されば 神 は 異邦人 にも 生命 を 得 さする 悔改 を 與 へ 給 ひしなり』
19 かくてステパノによりて 起 りし 迫害 のために 散 されたる 者 ども、ピニケ、クブロ、アンテオケまで 到 り、ただユダヤ 人 にのみ 御言 を 語 りたるに、
20 その 中 にクブロ 及 びクレネの 人、數人 ありて、アンテオケに 來 りし 時、ギリシヤ 人 にも 語 りて 主 イエスの 福音 を 宣傳 ふ。
21 主 の 手 かれらと 偕 にありたれば、數多 の 人、信 じて 主 に 歸依 せり。
22 この 事 エルサレムに 在 る 教會 に 聞 えたれば、バルナバをアンテオケに 遣 す。
23 かれ 來 りて、神 の 恩惠 を 見 てよろこび、彼 等 に、みな 心 を 堅 くして 主 にをらんことを 勸 む。
24 彼 は 聖 靈 と 信仰 とにて 滿 ちたる 善 き 人 なればなり。ここに 多 くの 人々、主 に 加 はりたり。
25 かくてバルナバはサウロを 尋 ねんとてタルソに 往 き、
26 彼 に 逢 ひてアンテオケに 伴 ひきたり、二人 ともに 一年 の 間 かしこの 教會 の 集會 に 出 でて 多 くの 人 を 教 ふ。弟子 たちのキリステアンと 稱 へらるる 事 はアンテオケより 始 れり。
27 その 頃 エルサレムより 預言者 たちアンテオケに 下 る。
28 その 中 の 一人 アガボと 云 ふもの 起 ちて、大 なる 飢饉 の 全世界 にあるべきことを 御靈 によりて 示 せるが、果 してクラウデオの 時 に 起 れり。
29 ここに 弟子 たち 各々 の 力 に 應 じてユダヤに 住 む 兄弟 たちに 扶助 をおくらん 事 をさだめ、
30 遂 に 之 をおこなひ、バルナバ 及 びサウロの 手 に 托 して 長老 たちに 贈 れり。
Chapter 12
1 その 頃 ヘロデ 王、教會 のうちの 或 人 どもを 苦 しめんとて 手 を 下 し、
2 劍 をもてヨハネの 兄弟 ヤコブを 殺 せり。
3 この 事 ユダヤ 人 の 心 に 適 ひたるを 見 て、またペテロをも 捕 ふ、頃 は 除酵祭 の 時 なりき。
4 すでに 執 りて 獄 に 入 れ、過越 の 後 に 民 のまへに 曳 き 出 さんとの 心構 にて、四人 一組 なる 四組 の 兵卒 に 付 して 之 を 守 らせたり。
5 かくてペテロは 獄 のなかに 因 はれ、教會 は 熱心 に 彼 のために 神 に 祈 をなせり。
6 ヘロデこれを 曳 き 出 さんとする 其 の 前 の 夜、ペテロは 二 つの 鏈 にて 繋 がれ、二人 の 兵卒 のあひだに 睡 り、番兵 らは 門口 にゐて 獄 を 守 りたるに、
7 視 よ、主 の 使 ペテロの 傍 らに 立 ちて、光明 室内 にかがやく。御使 かれの 脇 をたたき、覺 していふ『疾 く 起 きよ』かくて 鏈 その 手 より 落 ちたり。
8 御使 いふ『帶 をしめ、鞋 をはけ』彼 その 如 く 爲 たれば、又 いふ『上衣 をまとひて 我 に 從 へ』
9 ペテロ 出 でて 隨 ひしが、御使 のする 事 の 眞 なるを 知 らず、幻影 を 見 るならんと 思 ふ。
10 かくて 第一・第二 の 警固 を 過 ぎて 町 に 入 るところの 鐵 の 門 に 到 れば、門 おのづから 彼 等 のために 開 け、相 共 にいでて 一 つの 街 を 過 ぎしとき、直 ちに 御使 はなれたり。
11 ペテロ 我 に 反 りて 言 ふ『われ 今 まことに 知 る、主 その 使 を 遣 して、ヘロデの 手 およびユダヤの 民 の 凡 て 思 ひ 設 けし 事 より、我 を 救 ひ 出 し 給 ひしを』
12 斯 く 悟 りてマルコと 稱 ふるヨハネの 母 マリヤの 家 に 往 きしが、其處 には 數多 のもの 集 りて 祈 りゐたり。
13 ペテロ 門 の 戸 を 叩 きたれば、ロダといふ 婢女 ききに 出 できたり、
14 ペテロの 聲 なるを 知 りて、勸喜 のあまりに 門 を 開 けずして 走 り 入 り、ペテロの 門 の 前 に 立 てることを 告 げたれば、
15 彼 ら『なんぢは 氣 狂 へり』と 言 ふ。然 れどロダは 夫 なりと 言張 る。かれら 言 ふ『それはペテロの 御使 ならん』
16 然 るにペテロなほ 叩 きて 止 まざれば、かれら 門 をひらき 之 を 見 て 驚 けり。
17 かれ 手 を 搖 かして 人々 を 鎭 め、主 の 己 を 獄 より 導 きいだし 給 ひしことを 具 に 語 り『これをヤコブと 兄弟 たちとに 告 げよ』と 言 ひて 他 の 處 に 出 で 往 けり。
18 夜明 になりて、ペテロは 如何 にせしとて 兵卒 の 中 の 騷 一方 ならず。
19 ヘロデ 之 を 索 むれど 見出 さず、遂 に 守卒 を 訊 して 死罪 を 命 じ、而 してユダヤよりカイザリヤに 下 りて 留 れり。
20 偖 ヘロデ、ツロとシドンとの 人々 を 甚 く 怒 りたれば、其 の 民 ども 心 を 一 つにして 彼 の 許 にいたり、王 の 内侍 の 臣 ブラストに 取 入 りて 和諧 を 求 む。かれらの 地方 は 王 の 國 より 食品 を 得 るに 因 りてなり。
21 ヘロデ 定 めたる 日 に 及 びて 王 の 服 を 著 け 高座 に 坐 して 言 を 宣 べたれば、
22 集民 よばはりて『これ 神 の 聲 なり、人 の 聲 にあらず』と 言 ふ。
23 ヘロデ 神 に 榮光 を 歸 せぬに 因 りて、主 の 使 たちどころに 彼 を 撃 ちたれば、蟲 に 噛 まれて 息 絶 えたり。
24 かくて 主 の 御言 いよいよ 増々 ひろまる。
25 バルナバ、サウロはその 職務 を 果 し、マルコと 稱 ふるヨハネを 伴 ひてエルサレムより 歸 れり。
Chapter 13
1 アンテオケの 教會 にバルナバ、ニゲルと 稱 ふるシメオン、クレネ 人 ルキオ、國守 ヘロデの 乳 兄弟 マナエン 及 びサウロなどいふ 預言者 と 教師 とあり。
2 彼 らが 主 に 事 へ 斷食 したるとき、聖 靈 いひ 給 ふ『わが 召 して 行 はせんとする 業 の 爲 に、バルナバとサウロとを 選 び、別 て』
3 ここに 彼 ら 斷食 し、祈 りて 二人 の 上 に 手 を 按 きて 往 かしむ。
4 この 二人、聖 靈 に 遣 されてセルキヤに 下 り、彼處 より 船 にてクプロに 渡 り、
5 サラミスに 著 きてユダヤ 人 の 諸 會堂 にて 神 の 言 を 宣傳 へ、またヨハネを 助人 として 伴 ふ。
6 徧 くこの 島 を 經 行 きてパポスに 到 り、バルイエスといふユダヤ 人 にて 僞 預言者 たる 魔術 者 に 遇 ふ。
7 彼 は 地方 總督 なる 慧 き 人 セルギオ・パウロと 偕 にありき。總督 はバルナバとサウロとを 招 き 神 の 言 を 聽 かんとしたるに、
8 かの 魔術 者 エルマ(この 名 を 釋 けば 魔術 者)二人 に 敵 對 して 總督 を 信仰 の 道 より 離 れしめんとせり。
9 サウロ 又 の 名 はパウロ、聖 靈 に 滿 され、彼 に 目 を 注 めて 言 ふ、
10 『ああ 有 らゆる 詭計 と 奸惡 とにて 滿 ちたる 者、惡魔 の 子、すべての 義 の 敵 よ、なんぢ 主 の 直 き 道 を 曲 げて 止 まぬか。
11 視 よ、いま 主 の 御手 なんぢの 上 にあり、なんぢ 盲目 となりて 暫 く 日 を 見 ざるべし』かくて 立刻 に 朦 と 闇 とその 目 を 掩 ひたれば、探 り 囘 りて 導 きくるる 者 を 求 む。
12 ここに 總督 この 有 りし 事 を 見 て、主 の 教 に 驚 きて 信 じたり。
13 さてパウロ 及 び 之 に 伴 ふ 人々、パポスより 船出 してパンフリヤのペルガに 到 り、ヨハネは 離 れてエルサレムに 歸 れり。
14 彼 らはペルガより 進 み 往 きてピシデヤのアンテオケに 到 り、安息 日 に 會堂 に 入 りて 坐 せり。
15 律法 および 預言者 の 書 の 朗讀 ありしのち、會堂 司 たち 人 を 彼 らに 遣 し『兄弟 たちよ、もし 民 に 勸 の 言 あらば 言 へ』と 言 はしめたれば、
16 パウロ 起 ちて 手 を 搖 かして 言 ふ、『イスラエルの 人々 および 神 を 畏 るる 者 よ、聽 け。
17 このイスラエルの 民 の 神 は、我 らの 先祖 を 選 び、そのエジプトの 地 に 寄寓 せし 時、わが 民 をおこし、強 き 御腕 にて 之 を 導 きいだし、
18 おほよそ 四十 年 のあひだ、荒野 にて 彼 らの 所作 を 忍 び、
19 カナンの 地 にて 七 つの 民族 をほろぼし、その 地 を 彼 らに 嗣 がしめて、
20 凡 そ 四 百 五 十 年 を 經 たり。此 ののち 預言者 サムエルの 時代 まで 審判 人 を 賜 ひしを、
21 後 に 至 りて 彼 ら 王 を 求 めたれば、神 は 之 にキスの 子 サウロと 云 ふベニヤミンの 族 の 人 を 四十 年 のあひだ 賜 ひ、
22 之 を 退 けて 後、ダビデを 擧 げて 王 となし、且 これを 證 して「我 エッサイの 子 ダビデといふ 我 が 心 に 適 ふ 者 を 見出 せり、彼 わが 意 をことごとく 行 はん」と 宣給 へり。
23 神 は 約束 に 隨 ひて 此 の 人 の 裔 より、イスラエルの 爲 に 救主 イエスを 興 し 給 ひしが、
24 その 來 る 前 にヨハネ 預 じめイスラエルの 凡 ての 民 に 悔改 のバプテスマを 宣傳 へたり。
25 かくてヨハネ 己 が 走 るべき 道程 を 終 へんとする 時「なんぢら 我 を 誰 と 思 ふか、我 はかの 人 にあらず、視 よ、我 に 後 れて 來 る 者 あり、我 はその 鞋 の 紐 を 解 くにも 足 らず」と 云 へり。
26 兄弟 たち、アブラハムの 血統 の 子 ら 及 び 汝 等 のうち 神 を 畏 るる 者 よ、この 救 の 言 は 我 らに 贈 られたり。
27 それエルサレムに 住 める 者 および 其 の 司 らは、彼 をも 安息 日 ごとに 讀 むところの 預言者 たちの 言 をも 知 らず、彼 を 刑 ひて 預言 を 成就 せしめたり。
28 その 死 に 當 るべき 故 を 得 ざりしかど、ピラトに 殺 さんことを 求 め、
29 彼 につきて 記 されたる 事 をことごとく 成 しをへ、彼 を 木 より 下 して 墓 に 納 めたり。
30 されど 神 は 彼 を 死人 の 中 より 甦 へらせ 給 へり。
31 かくてイエスは 己 と 偕 にガリラヤよりエルサレムに 上 りし 者 に 多 くの 日 のあひだ 現 れ 給 へり。その 人々 は 今、民 の 前 にイエスの 證人 たるなり。
32 我 らも 先祖 たちが 與 へられし 約束 につきて 喜 ばしき 音信 を 汝 らに 告 ぐ、
33 神 はイエスを 甦 へらせて、その 約束 を 我 らの 子孫 に 成就 したまへり。即 ち 詩 の 第二 篇 に「なんぢは 我 が 子 なり、われ 今日 なんぢを 生 めり」と 録 されたるが 如 し。
34 また 朽腐 に 歸 せざる 状 に 彼 を 死人 の 中 より 甦 へらせ 給 ひし 事 に 就 きては、斯 く 宣給 へり。曰 く「われダビデに 約 せし 確 き 聖 なる 恩惠 を 汝 らに 與 へん」
35 そは 他 の 篇 に「なんぢは 汝 の 聖者 を 朽腐 に 歸 せざらしむべし」と 云 へり。
36 それダビデは、その 代 にて 神 の 御旨 を 行 ひ、終 に 眠 りて 先祖 たちと 共 に 置 かれ、かつ 朽腐 に 歸 したり。
37 然 れど 神 の 甦 へらせ 給 ひし 者 は 朽腐 に 歸 せざりき。
38 この 故 に 兄弟 たちよ、汝 ら 知 れ。この 人 によりて 罪 の 赦 のなんぢらに 傳 へらるることを。
39 汝 らモーセの 律法 によりて 義 とせられ 得 ざりし 凡 ての 事 も、信 ずる 者 は 皆 この 人 によりて 義 とせらるる 事 を。
40 然 れば 汝 ら 心 せよ、恐 らくは 預言者 たちの 書 に 云 ひたること 來 らん、
41 曰 く「あなどる 者 よ、なんぢら 視 よ、おどろけ、亡 びよ、われ 汝 らの 日 に 一 つの 事 を 行 はん。これを 汝 らに 具 に 告 ぐる 者 ありとも 信 ぜざる 程 の 事 なり」』
42 彼 らが 會堂 を 出 づるとき、人々 これらの 言 を 次 の 安息 日 にも 語 らんことを 請 ふ。
43 集會 の 散 ぜし 後、ユダヤ 人 および 敬虔 なる 改宗者 おほくパウロとバルナバとに 從 ひ 往 きたれば、彼 らに 語 りて 神 の 恩惠 に 止 らんことを 勸 めたり。
44 次 の 安息 日 には、神 の 言 を 聽 かんとて 殆 ど 町 擧 りて 集 りたり。
45 されどユダヤ 人 はその 群衆 を 見 て 嫉 に 滿 され、パウロの 語 ることに 言 ひ 逆 ひて 罵 れり。
46 パウロとバルナバとは 臆 せずして 言 ふ『神 の 言 を 先 づ 汝 らに 語 るべかりしを、汝 等 これを 斥 けて 己 を 永遠 の 生命 に 相應 しからぬ 者 と 自 ら 定 むるによりて、視 よ、我 ら 轉 じて 異邦人 に 向 はん。
47 それ 主 は 斯 く 我 らに 命 じ 給 へり。曰 く「われ 汝 を 立 てて 異邦人 の 光 とせり。地 の 極 にまで 救 とならしめん 爲 なり」』
48 異邦人 は 之 を 聽 きて 喜 び、主 の 言 をあがめ、又 とこしへの 生命 に 定 められたる 者 はみな 信 じ、
49 主 の 言 この 地 に 徧 く 弘 りたり。
50 然 るにユダヤ 人 ら、敬虔 なる 貴女 たち 及 び 町 の 重立 ちたる 人々 を 唆 かして、パウロとバルナバとに 迫害 をくはへ、遂 に 彼 らを 其 の 境 より 逐 ひ 出 せり。
51 二人 は 彼 らに 對 ひて 足 の 塵 をはらひ、イコニオムに 往 く。
52 弟子 たちは 喜悦 と 聖 靈 とにて 滿 され 居 たり。
Chapter 14
1 二人 はイコニオムにて 相 共 にユダヤ 人 の 會堂 に 入 りて 語 りたれば、之 に 由 りてユダヤ 人 およびギリシヤ 人 あまた 信 じたり。
2 然 るに 從 はぬユダヤ 人 ら 異邦人 を 唆 かし、兄弟 たちに 對 して 惡意 を 懷 かしむ。
3 二人 は 久 しく 留 り、主 によりて 臆 せずして 語 り、主 は 彼 らの 手 により、徴 と 不思議 とを 行 ひて 惠 の 御言 を 證 したまふ。
4 ここに 町 の 人々 相 分 れて、或 者 はユダヤ 人 に 黨 し、或 者 は 使徒 たちに 黨 せり。
5 異邦人 ユダヤ 人 および 其 の 司 ら 相 共 に 使徒 たちを 辱 しめ、石 にて 撃 たんと 企 てしに、
6 彼 ら 悟 りてルカオニヤの 町 なるルステラ、デルベ 及 びその 邊 の 地 にのがれ、
7 彼處 にて 福音 を 宣傳 ふ。
8 ルステラに 足 弱 き 人 ありて 坐 しゐたり、生 れながらの 跛者 にて 曾 て 歩 みたる 事 なし。
9 この 人 パウロの 語 るを 聽 きゐたるが、パウロ 之 に 目 をとめ、救 はるべき 信仰 あるを 見 て、
10 大聲 に『なんぢの 足 にて 眞直 に 起 て』と 言 ひたれば、かれ 躍 り 上 りて 歩 めり。
11 群衆、パウロの 爲 ししことを 見 て 聲 を 揚 げ、ルカオニヤの 國語 にて『神 たち 人 の 形 をかりて 我 らに 降 り 給 へり』と 言 ひ、
12 バルナバをゼウスと 稱 へ、パウロを 宗 と 語 る 人 なる 故 にヘルメスと 稱 ふ。
13 而 して 町 の 外 なるゼウスの 宮 の 祭司、數匹 の 牛 と 花 飾 とを 門 の 前 に 携 へきたりて、群衆 とともに 犧牲 を 献 げんとせり。
14 使徒 たち、即 ちバルナバとパウロと 之 を 聞 きて、己 が 衣 をさき 群衆 のなかに 馳 せ 入 り、
15 呼 はりて 言 ふ『人々 よ、なんぞ 斯 かる 事 をなすか、我 らも 汝 らと 同 じ 情 を 有 てる 人 なり、汝 らに 福音 を 宣 べて 斯 かる 虚 しき 者 より 離 れ、天 と 地 と 海 とその 中 にある 有 らゆる 物 とを 造 り 給 ひし 活 ける 神 に 歸 らしめんとするなり。
16 過 ぎし 時代 には 神、すべての 國人 の 己 が 道々 を 歩 むに 任 せ 給 ひしかど、
17 また 自己 を 證 し 給 はざりし 事 なし。即 ち 善 き 事 をなし、天 より 雨 を 賜 ひ、豐穰 の 時 をあたへ、食物 と 勸喜 とをもて 汝 らの 心 を 滿 ち 足 らはせ 給 ひしなり』
18 斯 く 言 ひて 辛 うじて 群衆 の 己 らに 犧牲 を 献 げんとするを 止 めたり。
19 然 るに 數人 のユダヤ 人、アンテオケ 及 びイコニオムより 來 り、群衆 を 勸 め、而 してパウロを 石 にて 撃 ち、既 に 死 にたりと 思 ひて 町 の 外 に 曳 き 出 せり。
20 弟子 たち 之 を 立 圍 みゐたるに、パウロ 起 きて 町 に 入 る。明 くる 日 バルナバと 共 にデルベに 出 で 往 き、
21 その 町 に 福音 を 宣傳 へ、多 くの 人 を 弟子 として 後、ルステラ、イコニオム、アンテオケに 還 り、
22 弟子 たちの 心 を 堅 うし 信仰 に 止 らんことを 勸 め、また 我 らが 多 くの 艱難 を 歴 て 神 の 國 に 入 るべきことを 教 ふ。
23 また 教會 毎 に 長老 をえらび、斷食 して 祈 り、弟子 たちを 其 の 信 ずる 所 の 主 に 委 ぬ。
24 かくてピシデヤを 經 てパンフリヤに 到 り、
25 ペルガにて 御言 を 語 りて 後 アタリヤに 下 り、
26 彼處 より 船出 して、その 成 し 果 てたる 務 のために 神 の 惠 みに 委 ねられし 處 なるアンテオケに 往 けり。
27 既 に 到 りて 教會 の 人々 を 集 めたれば、神 が 己 らと 偕 に 在 して 成 し 給 ひし 凡 てのこと、竝 に 信仰 の 門 を 異邦人 にひらき 給 ひしことを 述 ぶ。
28 かくて 久 しく 留 りて 弟子 たちと 偕 にゐたり。
Chapter 15
1 或 人々 ユダヤより 下 りて、兄弟 たちに『なんぢらモーセの 例 に 遵 ひて 割禮 を 受 けずば 救 はるるを 得 ず』と 教 ふ。
2 ここに 彼 らとパウロ 及 びバルナバとの 間 に、大 なる 紛爭 と 議論 と 起 りたれば、兄弟 たちはパウロ、バルナバ 及 びその 中 の 數人 をエルサレムに 上 らせ、此 の 問題 につきて 使徒・長老 たちに 問 はしめんと 定 む。
3 かれら 教會 の 人々 に 見 送 られて、ピニケ 及 びサマリヤを 經、異邦人 の 改宗 せしことを 具 に 告 げて、凡 ての 兄弟 に 大 なる 喜悦 を 得 させたり。
4 エルサレムに 到 り、教會 と 使徒 と 長老 とに 迎 へられ、神 が 己 らと 偕 に 在 して 爲 し 給 ひし 凡 ての 事 を 述 べたるに、
5 信者 となりたるパリサイ 派 の 或 人々 立 ちて『異邦人 にも 割禮 を 施 し、モーセの 律法 を 守 ることを 命 ぜざる 可 からず』と 言 ふ。
6 ここに 使徒・長老 たち 此 の 事 につきて 協議 せんとて 集 る。
7 多 くの 議論 ありし 後、ペテロ 起 ちて 言 ふ『兄弟 たちよ、汝 らの 知 るごとく、久 しき 前 に 神 は、なんぢらの 中 より 我 を 選 び、わが 口 より 異邦人 に 福音 の 言 を 聞 かせ、之 を 信 ぜしめんとし 給 へり。
8 人 の 心 を 知 りたまふ 神 は、我 らと 同 じく、彼 等 にも 聖 靈 を 與 へて 證 をなし、
9 かつ 信仰 によりて 彼 らの 心 をきよめ、我 らと 彼 らとの 間 に 隔 を 置 き 給 はざりき。
10 然 るに 何 ぞ 神 を 試 みて、弟子 たちの 頸 に 我 らの 先祖 も 我 らも 負 ひ 能 はざりし 軛 をかけんとするか。
11 然 らず、我 らの 救 はるるも 彼 らと 均 しく 主 イエスの 恩惠 に 由 ることを 我 らは 信 ず』
12 ここに 會衆 みな 默 して、バルナバとパウロとの、己 等 によりて 神 が 異邦人 のうちに 爲 し 給 ひし 多 くの 徴 と 不思議 とを 述 ぶるを 聽 く。
13 彼 らの 語 り 終 へし 後、ヤコブ 答 へて 言 ふ『兄弟 たちよ、我 に 聽 け、
14 シメオン 既 に 神 の 初 めて 異邦人 を 顧 み、その 中 より 御名 を 負 ふべき 民 を 取 り 給 ひしことを 述 べしが、
15 預言者 たちの 言 もこれと 合 へり。
16 録 して「こののち 我 かへりて、倒 れたるダビデの 幕屋 を 再 び 造 り、その 頽 れし 所 をふたたび 造 り、而 して 之 を 立 てん。
17 これ 殘餘 の 人々、主 を 尋 ね 求 め、凡 て 我 が 名 をもて 稱 へらるる 異邦人 もまた 然 せん 爲 なり。
18 古 へより 此 等 のことを 知 らしめ 給 ふ 主、これを 言 ひ 給 ふ」とあるが 如 し。
19 之 によりて 我 は 判斷 す、異邦人 の 中 より 神 に 歸依 する 人 を 煩 はすべきにあらず。
20 ただ 書 き 贈 りて、偶像 に 穢 されたる 物 と、淫行 と、絞殺 したる 物 と、血 とを 避 けしむべし。
21 昔 より、いづれの 町 にもモーセを 宣 ぶる 者 ありて、安息 日 毎 に 諸 會堂 にてその 書 を 讀 めばなり』
22 ここに 使徒・長老 たち 及 び 全 教會 は、その 中 より 人 を 選 びてパウロ、バルナバと 共 にアンテオケに 送 ることを 可 しとせり。選 ばれたるは、バルサバと 稱 ふるユダとシラスとにて、兄弟 たちの 中 の 重立 ちたる 者 なり。
23 之 に 托 したる 書 にいふ『使徒 および 長老 たる 兄弟 ら、アンテオケ、シリヤ、キリキヤに 在 る 異邦人 の 兄弟 たちの 平安 を 祈 る。
24 我等 のうちの 或 人々 われらが 命 じもせぬに、言 をもて 汝 らを 煩 はし、汝 らの 心 を 亂 したりと 聞 きたれば、
25 我 ら 心 を 一 つにして 人 を 選 びて、
26 我 らの 主 イエス・キリストの 名 のために 生命 を 惜 まざりし 者 なる、我 らの 愛 するバルナバ、パウロと 共 に 汝 らに 遣 すことを 可 しとせり。
27 之 によりて 我 らユダとシラスとを 遣 す、かれらも 口 づから 此 等 のことを 述 べん。
28 聖 靈 と 我 らとは 左 の 肝要 なるものの 他 に 何 をも 汝 らに 負 はせぬを 可 しとするなり。
29 即 ち 偶像 に 献 げたる 物 と、血 と、絞殺 したる 物 と、淫行 とを 避 くべき 事 なり、汝 等 これを 愼 まば 善 し。なんぢら 健 かなれ』
30 かれら 別 を 告 げてアンテオケに 下 り、人々 を 集 めて 書 を 付 す。
31 人々 これを 讀 み 慰安 を 得 て 喜 べり。
32 ユダもシラスもまた 預言者 なれば、多 くの 言 をもて 兄弟 たちを 勸 めて 彼 らを 堅 うし、
33 暫 く 留 りてのち、兄弟 たちに 平安 を 祝 せられ、別 を 告 げて、己 らを 遣 しし 者 に 歸 れり。
34 [なし]
35 斯 てパウロとバルナバとは 尚 アンテオケに 留 りて 多 くの 人 とともに 主 の 御言 を 教 へ、かつ 宣傳 へたり。
36 數日 の 後 パウロはバルナバに 言 ふ『いざ、我 ら 曩 に 主 の 御言 を 傳 へし 凡 ての 町 にまた 往 きて、兄弟 たちを 訪 ひ、その 安否 を 尋 ねん』
37 バルナバはマルコと 稱 ふるヨハネを 伴 はんと 望 み、
38 パウロは 彼 が 曾 てパンフリヤより 離 れ 去 りて、勤勞 のために 共 に 往 かざりしをもて、伴 ふは 宣 しからずと 思 ひ、
39 激 しき 爭論 となりて 遂 に 二人 相 別 れ、バルナバはマルコを 伴 ひ、舟 にてクプロに 渡 り、
40 パウロはシラスを 選 び、兄弟 たちより 主 の 恩惠 に 委 ねられて 出 で 立 ち、
41 シリヤ、キリキヤを 經 て 諸 教會 を 堅 うせり。
Chapter 16
1 かくてパウロ、デルベとルステラとに 到 りたるに、視 よ、彼處 にテモテと 云 ふ 弟子 あり、その 母 は 信者 なるユダヤ 人 にて、父 はギリシヤ 人 なり。
2 彼 はルステラ、イコニオムの 兄弟 たちの 中 に 令聞 ある 者 なり。
3 パウロかれの 共 に 出 で 立 つことを 欲 したれば、その 邊 に 居 るユダヤ 人 のために 之 に 割禮 を 行 へり、その 父 のギリシヤ 人 たるを 凡 ての 人 の 知 る 故 なり。
4 かくて 町々 を 經 ゆきて、エルサレムに 居 る 使徒・長老 たちの 定 めし 規 を 守 らせんとて、之 を 人々 に 授 けたり。
5 ここに 諸 教會 はその 信仰 を 堅 うせられ、人員 日毎 にいや 増 せり。
6 彼 らアジヤにて 御言 を 語 ることを 聖 靈 に 禁 ぜられたれば、フルギヤ 及 びガラテヤの 地 を 經 ゆきて、
7 ムシヤに 近 づき、ビテニヤに 往 かんと 試 みたれど、イエスの 御靈 ゆるし 給 はず、
8 遂 にムシヤを 過 ぎてトロアスに 下 れり。
9 パウロ 夜、幻影 を 見 たるに、一人 のマケドニヤ 人 あり、立 ちて 己 を 招 き『マケドニヤに 渡 りて 我 らを 助 けよ』と 言 ふ。
10 パウロこの 幻影 を 見 たれば、我 らは 神 のマケドニヤ 人 に 福音 を 宣傳 へしむる 爲 に、我 らを 召 し 給 ふことと 思 ひ 定 めて、直 ちにマケドニヤに 赴 かんとせり。
11 さてトロアスより 船出 して、眞直 にはせてサモトラケにいたり、次 の 日 ネアポリスにつき、
12 彼處 よりピリピにゆく。ここはマケドニヤの 中 にて、この 邊 の 第一 の 町 にして 殖民地 なり、われら 數日 の 間 この 町 に 留 る。
13 安息 日 に 町 の 門 を 出 でて、祈場 あらんと 思 はるる 河 のほとりに 往 き、其處 に 坐 して、集 れる 女 たちに 語 りたれば、
14 テアテラの 町 の 紫 布 の 商人 にして、神 を 敬 ふルデヤと 云 ふ 女 きき 居 りしが、主 その 心 をひらき、謹 みてパウロの 語 る 言 をきかしめ 給 ふ。
15 彼 は 己 も 家族 もバプテスマを 受 けてのち、我 らに 勸 めて 言 ふ『なんぢら 我 を 主 の 信者 なりとせば、我 が 家 に 來 りて 留 れ』斯 く 強 ひて 我 らを 留 めたり。
16 われら 祈場 に 往 く 途中、卜筮 の 靈 に 憑 れて 卜筮 をなし、其 の 主人 らに 多 くの 利 を 得 さする 婢女、われらに 遇 ふ。
17 彼 はパウロ 及 び 我 らの 後 に 從 ひつつ 叫 びて 言 ふ『この 人 たちは 至高 き 神 の 僕 にて、汝 らに 救 の 道 を 教 ふる 者 なり』
18 幾日 も 斯 くするをパウロ 憂 ひて、振反 りその 靈 に 言 ふ『イエス・キリストの 名 によりて、汝 にこの 女 より 出 でん 事 を 命 ず』靈 ただちに 出 でたり。
19 然 るにこの 女 の 主人 ら 利 を 得 る 望 のなくなりたるをみて、パウロとシラスとを 捕 へ、市場 に 曳 きて 司 たちに 往 き、
20 之 を 上役 らに 出 して 言 ふ『この 人々 はユダヤ 人 にて、我 らの 町 を 甚 く 騷 がし、
21 我 らロマ 人 たる 者 の 受 くまじく 行 ふまじき 習慣 を 傳 ふるなり』
22 群衆 も 齊 しく 起 り 立 ちたれば、上役 ら 命 じて 其 の 衣 を 褫 ぎ、かつ 笞 にて 打 たしむ。
23 多 く 打 ちてのち 獄 に 入 れ、獄守 に 固 く 守 るべきことを 命 ず。
24 獄守 この 命令 を 受 けて 二人 を 奧 の 獄 に 入 れ、桎 にてその 足 を 締 め 置 きたり。
25 夜半 ごろパウロとシラスと 祈 りて 神 を 讃美 する 囚人 ら 聞 きゐたるに、
26 俄 に 大 なる 地震 おこりて 牢舍 の 基 ふるひ 動 き、その 戸 たちどころに 皆 ひらけ、凡 ての 囚人 の 縲絏 とけたり。
27 獄守、目 さめ 獄 の 戸 の 開 けたるを 見 て、囚人 にげ 去 れりと 思 ひ、刀 を 拔 きて 自殺 せんとしたるに、
28 パウロ 大聲 に 呼 はりて 言 ふ『みづから 害 ふな、我 ら 皆 ここに 在 り』
29 獄守、燈火 を 求 め、駈 け 入 りて 戰 きつつパウロとシラスとの 前 に 平伏 し、
30 之 を 連 れ 出 して 言 ふ『君 たちよ、われ 救 はれん 爲 に 何 をなすべきか』
31 二人 は 言 ふ『主 イエスを 信 ぜよ、然 らば 汝 も 汝 の 家族 も 救 はれん』
32 かくて 神 の 言 を 獄守 とその 家 に 居 る 凡 ての 人々 に 語 れり。
33 この 夜、即時 に 獄守 かれらを 引取 りて、その 打傷 を 洗 ひ、遂 に 己 も 己 に 屬 する 者 もみな 直 ちにバプテスマを 受 け、
34 かつ 二人 を 自宅 に 伴 ひて 食事 をそなへ、全家 とともに 神 を 信 じて 喜 べり。
35 夜明 になりて 上役 らは 警吏 どもを 遣 して『かの 人々 を 釋 せ』と 言 はせたれば、
36 獄守 これらの 言 をパウロに 告 げて 言 ふ『上役、人 を 遣 して 汝 らを 釋 さんとす。然 れば 今 いでて 安 らかに 往 け』
37 ここにパウロ 警吏 に 言 ふ『我 らはロマ 人 たるに 罪 を 定 めずして 公然 に 鞭 うち、獄 に 投 げ 入 れたり。然 るに 今 ひそかに 我 らを 出 さんと 爲 るか。然 るべからず、彼 等 みづから 來 りて 我 らを 連 れ 出 すべし』
38 警吏 これらの 言 を 上役 に 告 げたれば、其 のロマ 人 たるを 聞 きて 懼 れ、
39 來 り 宥 めて、二人 を 連 れ 出 し、かつ 町 を 去 らんことを 請 ふ。
40 二人 は 獄 を 出 でてルデヤの 家 に 入 り、兄弟 たちに 逢 ひ、勸 をなして 出 で 往 けり。
Chapter 17
1 かくてアムピポリス 及 びアポロニヤを 經 てテサロニケに 到 る。此處 にユダヤ 人 の 會堂 ありたれば、
2 パウロは 例 のごとく 彼 らの 中 に 入 り、三 つの 安息 日 にわたり、聖書 に 基 きて 論 じ、かつ 解 き 明 して、
3 キリストの 必 ず 苦難 をうけ、死人 の 中 より 甦 へるべきことを 述 べ『わが 汝 らに 傳 ふる 此 のイエスはキリストなり』と 證 せり。
4 その 中 のある 人々 および 敬虔 なる 數多 のギリシヤ 人、また 多 くの 重立 ちたる 女 も 信 じてパウロとシラスとに 從 へり。
5 ここにユダヤ 人 ら 嫉 を 起 して 市 の 無頼者 をかたらひ、群衆 を 集 めて 町 を 騷 がし、又 ふたりを 集民 の 前 に 曳 き 出 さんとしてヤソンの 家 を 圍 みしが、
6 見出 さざれば、ヤソンと 數人 の 兄弟 とを 町 司 たちの 前 に 曳 ききたり、呼 はりて 言 ふ『天下 を 顛覆 したる 彼 の 者 ども 此處 にまで 來 れるを、
7 ヤソン 迎 へ 入 れたり。この 曹輩 は 皆 カイザルの 詔勅 にそむき、他 にイエスと 云 ふ 王 ありと 言 ふ』
8 之 をききて 群衆 と 町 司 たちと 心 をさわがし、
9 保證 を 取 りてヤソンと 他 の 人々 とを 釋 せり。
10 兄弟 たち 直 ちに 夜 の 間 にパウロとシラスとをベレヤに 送 りいだす。二人 は 彼處 につきてユダヤ 人 の 會堂 にいたる。
11 此處 の 人々 はテサロニケに 居 る 人 よりも 善良 にして、心 より 御言 をうけ、この 事 正 しく 然 るか 然 らぬか、日々 聖書 をしらぶ。
12 この 故 にその 中 の 多 くのもの 信 じたり、又 ギリシヤの 貴女、男子 にして 信 じたる 者 も 少 からざりき。
13 然 るにテサロニケのユダヤ 人 ら、パウロがベレヤにも 神 の 言 を 傳 ふることを 聞 きたれば、此處 にも 來 りて 群衆 を 動 かし、かつ 騷 がしたり。
14 ここに 兄弟 たち 直 ちにパウロを 送 り 出 して 海邊 に 往 かしめ、シラスとテモテとは 尚 ベレヤに 留 れり。
15 パウロを 導 ける 人々 はアテネまで 伴 ひ 往 き、パウロよりシラスとテモテとに、疾 く 我 に 來 れとの 命 を 受 けて 立 ち 去 れり。
16 パウロ、アテネにて 彼 らを 待 ちをる 間 に、町 に 偶像 の 滿 ちたるを 見 て、その 心 に 憤慨 を 懷 く。
17 されば 會堂 にてはユダヤ 人 および 敬虔 なる 人々 と 論 じ、市場 にては 日々 逢 ふところの 者 と 論 じたり。
18 斯 てエピクロス 派 ならびにストア 派 の 哲學者 數人 これと 論 じあひ、或 者 らは 言 ふ『この 囀 る 者 なにを 言 はんとするか』或 者 らは 言 ふ『かれは 異 なる 神々 を 傳 ふる 者 の 如 し』是 はパウロがイエスと 復活 とを 宣 べたる 故 なり。
19 遂 にパウロをアレオパゴスに 連 れ 往 きて 言 ふ『なんぢが 語 るこの 新 しき 教 の 如何 なるものなるを、我 ら 知 り 得 べきか。
20 なんぢ 異 なる 事 を 我 らの 耳 に 入 るるが 故 に、我 らその 何事 たるを 知 らんと 思 ふなり』
21 アテネ 人 も、彼處 に 住 む 旅人 も、皆 ただ 新 しき 事 を 或 は 語 り、或 は 聞 きてのみ 日 を 送 りゐたり。
22 パウロ、アレオパゴスの 中 に 立 ちて 言 ふ『アテネ 人 よ、我 すべての 事 に 就 きて 汝 らが 神々 を 敬 ふ 心 の 篤 きを 見 る。
23 われ 汝 らが 拜 むものを 見 つつ 道 を 過 ぐるほどに「知 らざる 神 に」と 記 したる 一 つの 祭壇 を 見出 したり。然 れば 我 なんぢらが 知 らずして 拜 む 所 のものを 汝 らに 示 さん。
24 世界 とその 中 のあらゆる 物 とを 造 り 給 ひし 神 は、天 地 の 主 にましませば、手 にて 造 れる 宮 に 住 み 給 はず。
25 みづから 凡 ての 人 に 生命 と 息 と 萬 の 物 とを 與 へ 給 へば、物 に 乏 しき 所 あるが 如 く、人 の 手 にて 事 ふることを 要 し 給 はず。
26 一人 よりして 諸種 の 國人 を 造 りいだし、之 を 地 の 全面 に 住 ましめ、時期 の 限 と 住居 の 界 とを 定 め 給 へり。
27 これ 人 をして 神 を 尋 ねしめ、或 は 探 りて 見 出 す 事 あらしめん 爲 なり。されど 神 は 我等 おのおのを 離 れ 給 ふこと 遠 からず、
28 我 らは 神 の 中 に 生 き、動 きまた 在 るなり。汝 らの 詩人 の 中 の 或 者 どもも「我 らは 又 その 裔 なり」と 云 へる 如 し。
29 かく 神 の 裔 なれば、神 を 金・銀・石 など 人 の 工 と 思考 とにて 刻 める 物 と 等 しく 思 ふべきにあらず。
30 神 はかかる 無知 の 時代 を 見 過 しにし 給 ひしが、今 は 何處 にても 凡 ての 人 に 悔改 むべきことを 告 げたまふ。
31 曩 に 立 て 給 ひし 一人 によりて、義 をもて 世界 を 審 かんために 日 をさだめ、彼 を 死人 の 中 より 甦 へらせて 保證 を 萬人 に 與 へ 給 へり』
32 人々、死人 の 復活 をききて、或 者 は 嘲笑 ひしが、或 者 は『われら 復 この 事 を 汝 に 聞 かん』と 言 へり。
33 ここにパウロ 人々 のなかを 出 で 去 る。
34 されど 彼 に 附隨 ひて 信 じたるもの 數人 あり。其 の 中 にアレオパゴスの 裁判人 デオヌシオ 及 びダマリスと 名 づくる 女 あり、尚 その 他 にもありき。
Chapter 18
1 この 後 パウロ、アテネを 離 れてコリントに 到 り、
2 アクラと 云 ふポントに 生 れたるユダヤ 人 に 遇 ふ。クラウデオ、ユダヤ 人 にことごとくロマを 退 くべき 命 を 下 したるによりて、近頃 その 妻 プリスキラと 共 にイタリヤより 來 りし 者 なり。
3 パウロ 其 の 許 に 到 りしに、同業 なりしかば 偕 に 居 りて 工 をなせり。彼 らの 業 は 幕屋 製造 なり。
4 かくて 安息 日 毎 に 會堂 にて 論 じ、ユダヤ 人 とギリシヤ 人 とを 勸 む。
5 シラスとテモテとマケドニヤより 來 りて 後 は、パウロ 專 ら 御言 を 宣 ぶることに 力 め、イエスのキリストたることをユダヤ 人 に 證 せり。
6 然 るに、彼 ら 之 に 逆 ひかつ 罵 りたれば、パウロ 衣 を 拂 ひて 言 ふ『なんぢらの 血 は 汝 らの 首 に 歸 すべし、我 はいさぎよし、今 より 異邦人 に 往 かん』
7 遂 に 此處 を 去 りて、神 を 敬 ふテテオ・ユストと 云 ふ 人 の 家 に 到 る。この 家 は 會堂 に 隣 れり。
8 會堂 司 クリスポその 家族 一同 と 共 に 主 を 信 じ、また 多 くのコリント 人 も 聽 きて 信 じ、かつバプテスマを 受 けたり。
9 主 は 夜 まぼろしの 中 にパウロに 言 ひ 給 ふ『おそるな、語 れ、默 すな、
10 我 なんぢと 偕 にあり、誰 も 汝 を 攻 めて 害 ふ 者 なからん。此 の 町 には 多 くの 我 が 民 あり』
11 かくてパウロ 一年 六个月 ここに 留 りて 神 の 言 を 教 へたり。
12 ガリオ、アカヤの 總督 たる 時、ユダヤ 人、心 を 一 つにしてパウロを 攻 め、審判 の 座 に 曳 きゆき、
13 『この 人 は 律法 にかなはぬ 仕方 にて 神 を 拜 むことを 人 に 勸 む』と 言 ひたれば、
14 パウロ 口 を 開 かんとせしに、ガリオ、ユダヤ 人 に 言 ふ『ユダヤ 人 よ、不正 または 奸惡 の 事 ならば、我 が 汝 らに 聽 くは 道理 なれど、
15 もし 言・名 あるいは 汝 らの 律法 にかかはる 問題 ならば、汝 等 みづから 理 むべし。我 かかる 事 の 審判 人 となるを 好 まず』
16 かくて 彼 らを 審判 の 座 より 逐 ひいだす。
17 ここに 人々 みな 會堂 司 ソステネを 執 へ、審判 の 座 の 前 にて 打 ち 抃 きたり。ガリオは 凡 て 此 らの 事 を 意 とせざりき。
18 パウロなほ 久 しく 留 りてのち、兄弟 たちに 別 を 告 げ、プリスキラとアクラとを 伴 ひ、シリヤに 向 ひて 船出 す。早 くより 誓願 ありたれば、ケンクレヤにて 髮 を 剃 れり。
19 かくてエペソに 著 き、其處 にこの 二人 を 留 めおき、自 らは 會堂 に 入 りてユダヤ 人 と 論 ず。
20 人々 かれに 今 しばらく 居 らんことを 請 ひたれど、肯 んぜずして、
21 別 を 告 げ『神 の 御意 ならば 復 なんぢらに 返 らん』と 言 ひてエペソより 船出 し、
22 カイザリヤにつき、而 してエルサレムに 上 り、教會 の 安否 を 問 ひてアンテオケに 下 り、
23 此處 に 暫 く 留 りて 後、また 去 りてガラテヤ、フルギヤの 地 を 次々 に 經 て 凡 ての 弟子 を 堅 うせり。
24 時 にアレキサンデリヤ 生 れのユダヤ 人 にて、聖書 に 通達 したるアポロと 云 ふ 能辯 なる 者 エペソに 下 る。
25 この 人 は 曩 に 主 の 道 を 教 へられ、ただヨハネのバプテスマを 知 るのみなれど、熱心 にして 詳細 にイエスの 事 を 語 り、かつ 教 へたり。
26 かれ 會堂 にて 臆 せずして 語 り 始 めしを、プリスキラとアクラと 聞 きゐて 之 を 迎 へ 入 れ、なほも 詳細 に 神 の 道 を 解 き 明 せり。
27 アポロ 遂 にアカヤに 渡 らんとしたれば、兄弟 たち 之 を 勵 まし、かつ 弟子 たちに 彼 を 受 け 容 るるやうに 書 き 贈 れり。彼 かしこに 往 き、既 に 恩惠 によりて 信 じたる 者 に 多 くの 益 を 與 ふ。
28 即 ち 聖書 に 基 き、イエスのキリストたる 事 を 示 して、激甚 くかつ 公然 にユダヤ 人 を 言 ひ 伏 せたるなり。
Chapter 19
1 かくてアポロ、コリントに 居 りし 時、パウロ 東 の 地方 を 經 てエペソに 到 り、或 弟子 たちに 逢 ひて、
2 『なんぢら 信者 となりしとき 聖 靈 を 受 けしか』と 言 ひたれば、彼 等 いふ『いな、我 らは 聖 靈 の 有 ることすら 聞 かず』
3 パウロ 言 ふ『されば 何 によりてバプテスマを 受 けしか』彼 等 いふ『ヨハネのバプテスマなり』
4 パウロ 言 ふ『ヨハネは 悔改 のバプテスマを 授 けて、己 に 後 れて 來 るもの(即 ちイエス)を 信 ずべきことを 民 に 云 へるなり』
5 彼 等 これを 聞 きて 主 イエスの 名 によりてバプテスマを 受 く。
6 パウロ 手 を 彼 らの 上 に 按 きしとき、聖 靈 その 上 に 望 みたれば、彼 ら 異言 を 語 り、かつ 預言 せり。
7 この 人々 は 凡 て 十二 人 ほどなり。
8 ここにパウロ 會堂 に 入 りて、三个月 のあひだ 臆 せずして 神 の 國 に 就 きて 論 じ、かつ 勸 めたり。
9 然 るに 或 者 ども 頑固 になりて 從 はず、會衆 の 前 に 神 の 道 を 譏 りたれば、パウロ 彼 らを 離 れ、弟子 たちをも 退 かしめ、日毎 にツラノの 會堂 にて 論 ず。
10 斯 くすること 二年 の 間 なりしかば、アジヤに 住 む 者 は、ユダヤ 人 もギリシヤ 人 もみな 主 の 言 を 聞 けり。
11 而 して 神 はパウロの 手 によりて 尋常 ならぬ 能力 ある 業 を 行 ひたまふ。
12 即 ち 人々 かれの 身 より 或 は 手拭 あるひは 前垂 をとりて 病 める 者 に 著 くれば、病 は 去 り 惡 靈 は 出 でたり。
13 ここに 諸國 遍歴 の 咒文 師 なるユダヤ 人 數人 あり、試 みに 惡 靈 に 憑 かれたる 者 に 對 して、主 イエスの 名 を 呼 び『われパウロの 宣 ぶるイエスによりて、汝 らに 命 ず』と 言 へり。
14 斯 くなせる 者 の 中 に、ユダヤの 祭司長 スケワの 七人 の 子 もありき。
15 惡 靈 こたへて 言 ふ『われイエスを 知 り、又 パウロを 知 る。然 れど 汝 らは 誰 ぞ』
16 かくて 惡 靈 の 入 りたる 人、かれらに 跳 びかかりて 二人 に 勝 ち、これを 打拉 ぎたれば、彼 ら 裸體 になり 傷 を 受 けてその 家 を 逃 げ 出 でたり。
17 此 の 事 エペソに 住 む 凡 てのユダヤ 人 とギリシヤ 人 とに 知 れたれば、懼 かれら 一同 のあひだに 生 じ、主 イエスの 名 崇 めらる。
18 信者 となりし 者 おほく 來 り、懴悔 して 自 らの 行爲 を 告 ぐ。
19 また 魔術 を 行 ひし 多 くの 者 ども、その 書物 を 持 ちきたり、衆人 の 前 にて 焚 きたるが、其 の 價 を 算 ふれば 銀 五 萬 ほどなりき。
20 主 の 言、大 に 弘 りて 權力 を 得 しこと 斯 くの 如 し。
21 此 等 の 事 のありし 後、パウロ、マケドニヤ、アカヤを 經 てエルサレムに 往 かんと 心 を 決 めて 言 ふ『われ 彼處 に 到 りてのち 必 ずロマをも 見 るべし』
22 かくて 己 に 事 ふる 者 の 中 にてテモテとエラストとの 二人 をマケドニヤに 遣 し、自己 はアジヤに 暫 く 留 る。
23 その 頃 この 道 に 就 きて 一方 ならぬ 騷擾 おこれり。
24 デメテリオと 云 ふ 銀 細工人 ありしが、アルテミスの 銀 の 小宮 を 造 りて 細工人 らに 多 くの 業 を 得 させたり。
25 それらの 者 および 同 じ 類 の 職業 者 を 集 めて 言 ふ『人々 よ、われらが 此 の 業 に 頼 りて 利 益 を 得 ることは、汝 らの 知 る 所 なり。
26 然 るに、かのパウロは 手 にて 造 れる 物 は 神 にあらずと 云 ひて、唯 にエペソのみならず、殆 ど 全 アジヤにわたり、多 くの 人々 を 説 き 勸 めて 惑 したり、これ 亦 なんぢらの 見 聞 する 所 なり。
27 かくては 啻 に 我 らの 職業 の 輕 しめらるる 恐 あるのみならず、また 大女神 アルテミスの 宮 も 蔑 せられ、全 アジヤ 全世界 のをがむ 大女神 の 稜威 も 滅 ぶるに 至 らん』
28 彼 等 これを 聞 きて 憤恚 に 滿 され、叫 びて 言 ふ『大 なる 哉、エペソ 人 のアルテミス』
29 かくて 町 擧 りて 騷 ぎ 立 ち、人々 パウロの 同行 者 なるマケドニヤ 人 ガイオとアリスタルコとを 捕 へ、心 を 一 つにして 劇場 に 押入 りたり。
30 パウロ 集民 のなかに 入 らんとしたれど、弟子 たち 許 さず。
31 又 アジヤの 祭 の 司 のうちの 或 者 どもも 彼 と 親 しかりしかば、人 を 遣 して 劇場 に 入 らぬやうにと 勸 めたり。
32 ここに 會衆 おほいに 亂 れ、大方 はその 何 のために 集 りたるかを 知 らずして、或 者 はこの 事 を、或 者 はかの 事 を 叫 びたり。
33 遂 に 群衆 の 或 者 ども、ユダヤ 人 の 推 し 出 したるアレキサンデルに 勸 めたれば、かれ 手 を 搖 かして 集民 に 辯明 をなさんとすれど、
34 其 のユダヤ 人 たるを 知 り、みな 同音 に『おほいなる 哉、エペソ 人 のアルテミス』と 呼 はりて 二 時間 ばかりに 及 ぶ。
35 時 に 書記役、群衆 を 鎭 めおきて 言 ふ『さてエペソ 人 よ、誰 かエペソの 町 が 大女神 アルテミス 及 び 天 より 降 りし 像 の 宮守 なることを 知 らざる 者 あらんや。
36 これは 言 ひ 消 し 難 きことなれば、なんぢら 靜 なるべし、妄 なる 事 を 爲 すべからず。
37 この 人々 は 宮 の 物 を 盜 む 者 にあらず、我 らの 女 神 を 謗 る 者 にもあらず、然 るに 汝 ら 之 を 曳 き 來 れり。
38 もしデメテリオ 及 び 偕 にをる 細工人 ら、人 に 就 きて 訴 ふべき 事 あらば、裁判 の 日 あり、かつ 司 あり、彼 等 おのおの 訴 ふべし。
39 もし 又 ほかの 事 につきて 議 する 所 あらば、正式 の 議會 にて 決 すべし。
40 我 ら 今日 の 騷擾 につきては、何 の 理由 もなきにより 咎 を 受 くる 恐 あり。この 會合 につきて 言 ひひらくこと 能 はねばなり』
41 斯 く 言 ひて 集會 を 散 じたり。
Chapter 20
1 騷亂 のやみし 後、パウロ 弟子 たちを 招 きて 勸 をなし、之 に 別 を 告 げ、マケドニヤに 往 かんとて 出 で 立 つ。
2 而 して、かの 地方 を 巡 り 多 くの 言 をもて 弟子 たちを 勸 めし 後、ギリシヤに 到 る。
3 そこに 留 ること 三个月 にして、シリヤに 向 ひて 船出 せんとする 時、おのれを 害 はんとするユダヤ 人 らの 計略 に 遭 ひたれば、マケドニヤを 經 て 歸 らんと 心 を 決 む。
4 之 に 伴 へる 人々 はベレア 人 にしてプロの 子 なるソパテロ、テサロニケ 人 アリスタルコ 及 びセクンド、デルベ 人 ガイオ 及 びテモテ、アジヤ 人 テキコ 及 びトロピモなり。
5 彼 らは 先 だちゆき、トロアスにて 我 らを 待 てり。
6 我 らは 除酵祭 の 後 ピリピより 船出 し、五日 にしてトロアスに 著 き、彼 らの 許 に 到 りて 七日 のあひだ 留 れり。
7 一週 の 首 の 日 われらパンを 擘 かんとて 集 りしが、パウロ 明日 いで 立 たんとて 彼 等 とかたり、夜半 まで 語 り 續 けたり。
8 集 りたる 高樓 には 多 くの 燈火 ありき。
9 ここにユテコといふ 若者 窓 に 倚 りて 坐 しゐたるが、甚 く 眠氣 ざすほどに、パウロの 語 ること 愈々 久 しくなりたれば、遂 に 熟睡 して 三階 より 落 つ。これを 扶 け 起 したるに、はや 死 にたり。
10 パウロ 降 りて 其 の 上 に 伏 し、かき 抱 きて 言 ふ『なんぢら 騷 ぐな、生命 はなほ 内 にあり』
11 乃 ち 復 のぼりてパンを 擘 き、食 してのち 久 しく 語 りあひ、夜明 に 至 り 遂 に 出 でたてり。
12 人々 かの 若者 の 活 きたるを 連 れきたり、甚 く 慰藉 を 得 たり。
13 かくて 我 らは 先 だちて 船 に 乘 り、アソスにてパウロを 載 せんとして 彼處 に 船出 せり。彼 は 徒歩 にて 往 かんとて 斯 くは 定 めたるなり。
14 我 らアソスにてパウロを 待 ち 迎 へ、これを 載 せてミテレネに 渡 り、
15 また 彼處 より 船出 して 翌日 キヨスの 彼方 にいたり、次 の 日 サモスに 立 ち 寄 り、その 次 の 日 ミレトに 著 く。
16 パウロ、アジヤにて 時 を 費 さぬ 爲 に、エペソには 船 を 寄 せずして 過 ぐることに 定 めしなり。これは 成 るべく 五旬節 の 日 エルサレムに 在 ることを 得 んとて 急 ぎしに 因 る。
17 而 してパウロ、ミレトより 人 をエペソに 遣 し、教會 の 長老 たちを 呼 びて、
18 その 來 りし 時 かれらに 言 ふ『わがアジヤに 來 りし 初 の 日 より、如何 なる 状 にて 常 に 汝 らと 偕 に 居 りしかは、汝 らの 知 る 所 なり。
19 即 ち 謙遜 の 限 をつくし、涙 を 流 し、ユダヤ 人 の 計略 によりて 迫 り 來 し 艱難 に 耐 へて 主 につかへ、
20 益 となる 事 は 何 くれとなく 憚 らずして 告 げ、公然 にても 家々 にても 汝 らを 教 へ、
21 ユダヤ 人 にもギリシヤ 人 にも、神 に 對 して 悔改 め、われらの 主 イエスに 對 して 信仰 すべきことを 證 せり。
22 視 よ、今 われは 心 搦 められてエルサレムに 往 く。彼處 にて 如何 なる 事 の 我 に 及 ぶかを 知 らず。
23 ただ 聖 靈 いづれの 町 にても 我 に 證 して、縲絏 と 患難 と 我 を 待 てりと 告 げたまふ。
24 然 れど 我 わが 走 るべき 道程 と、主 イエスより 承 けし 職、すなわち 神 の 惠 の 福音 を 證 する 事 とを 果 さん 爲 には、固 より 生命 をも 重 んぜざるなり。
25 視 よ、今 われは 知 る、前 に 汝 らの 中 を 歴 巡 りて 御國 を 宣傳 へし 我 が 顏 を、汝 ら 皆 ふたたび 見 ざるべきを。
26 この 故 に、われ 今日 なんぢらに 證 す、われは 凡 ての 人 の 血 につきていさぎよし。
27 我 は 憚 らずして 神 の 御旨 をことごとく 汝 らに 告 げしなり。
28 汝 等 みづから 心 せよ、又 すべての 群 に 心 せよ、聖 靈 は 汝 等 を 群 のなかに 立 てて 監督 となし、神 の 己 の 血 をもて 買 ひ 給 ひし 教會 を 牧 せしめ 給 ふ。
29 われ 知 る、わが 出 で 去 るのち、暴 き 豺狼 なんぢらの 中 に 入 りきたりて、群 を 惜 まず、
30 又 なんぢらの 中 よりも、弟子 たちを 己 が 方 に 引 き 入 れんとて、曲 れることを 語 るもの 起 らん。
31 されば 汝 ら 目 を 覺 しをれ。三年 の 間 わが 夜 も 晝 も 休 まず、涙 をもて 汝 等 おのおのを 訓戒 せしことを 憶 えよ。
32 われ 今 なんぢらを、主 および 其 の 惠 の 御言 に 委 ぬ。御言 は 汝 らの 徳 を 建 て、すべての 潔 められたる 者 とともに 嗣業 を 受 けしめ 得 るなり。
33 我 は 人 の 金 銀・衣服 を 貪 りし 事 なし。
34 この 手 は 我 が 必要 に 供 へ、また 我 と 偕 なる 者 に 供 へしことを 汝 等 みづから 知 る。
35 我 すべての 事 に 於 て 例 を 示 せり、即 ち 汝 らも 斯 く 働 きて、弱 き 者 を 助 け、また 主 イエスの 自 ら 言 ひ 給 ひし「與 ふるは 受 くるよりも 幸福 なり」との 御言 を 記憶 すべきなり』
36 斯 く 言 ひて 後、パウロ 跪 づきて 一同 とともに 祈 れり。
37 みな 大 に 歎 きパウロの 頸 を 抱 きて 接吻 し、
38 そのふたたび 我 が 顏 を 見 ざるべしと 云 ひし 言 によりて 特 に 憂 ひ、遂 に 彼 を 船 まで 送 りゆけり。
Chapter 21
1 ここに 我 ら 人々 と 別 れて 船出 をなし、眞直 にはせてコスに 到 り、次 の 日 ロドスにつき、彼處 よりパタラにわたる。
2 此 の 處 にてピニケにゆく 船 に 遇 ひ、これに 乘 りて 船出 す。
3 クプロを 望 み、之 を 左 にして 過 ぎ、シリヤに 向 ひて 進 み、ツロに 著 きたり、此處 にて 船 荷 を 卸 さんとすればなり。
4 かくて 弟子 たちに 尋 ね 逢 ひて 七日 留 れり。かれら 御靈 によりてパウロに、エルサレムに 上 るまじき 事 を 云 へり。
5 然 るに 我 ら 七日 終 りて 後、いでて 旅立 ちたれば、彼 等 みな 妻 子 とともに 町 の 外 まで 送 りきたり、諸共 に 濱邊 に 跪 づきて 祈 り、
6 相 互 に 別 を 告 げて 我 らは 船 に 乘 り、彼 らは 家 に 歸 れり。
7 ツロをいでトレマイに 到 りて 船路 つきたり。此處 にて 兄弟 たちの 安否 を 訪 ひ、かれらの 許 に 一日 留 り、
8 明 くる 日 ここを 去 りてカイザリヤにいたり、傳道者 ピリポの 家 に 入 りて 留 る、彼 はかの 七人 の 一人 なり。
9 この 人 に 預言 する 四人 の 娘 ありて、處女 なりき。
10 我 ら 數日 留 り 居 るうちに、アガボと 云 ふ 預言者 ユダヤより 下 り、
11 我 らの 許 に 來 りてパウロの 帶 をとり、己 が 足 と 手 とを 縛 りて 言 ふ『聖 靈 かく 言 ひ 給 ふ「エルサレムにて、ユダヤ 人 この 帶 の 主 を 斯 くの 如 く 縛 りて 異邦人 の 手 に 付 さん」と』
12 われら 之 を 聞 きて 此 の 地 の 人々 とともにパウロに、エルサレムに 上 らざらんことを 勸 む。
13 その 時 パウロ 答 ふ『なんぢら 何 ぞ 歎 きて 我 が 心 を 挫 くか、我 エルサレムにて、主 イエスの 名 のために、唯 に 縛 らるるのみかは、死 ぬることをも 覺悟 せり』
14 斯 く 我 らの 勸告 を 納 れるによりて『主 の 御意 の 如 くなれかし』と 言 ひて 止 む。
15 この 後 われら 行李 を 整 へてエルサレムに 上 る。
16 カイザリヤに 居 る 弟子 も 數人 ともに 往 き、我 らの 宿 らんとするクプロ 人 マナソンといふ 舊 き 弟子 のもとに 案内 したり。
17 エルサレムに 到 りたれば、兄弟 たち 歡 びて 我 らを 迎 へたり。
18 翌日 パウロ 我 らと 共 にヤコブの 許 に 往 きしに、長老 たちみなあつまり 居 たり。
19 パウロその 安否 を 問 ひて 後、おのが 勤勞 によりて 異邦人 のうちに 神 の 行 ひ 給 ひしことを、一々 告 げたれば、
20 彼 ら 聞 きて 神 を 崇 め、またパウロに 言 ふ『兄弟 よ、なんぢの 見 るごとく、ユダヤ 人 のうち、信者 となりたるもの 數萬人 あり、みな 律法 に 對 して 熱心 なる 者 なり。
21 彼 らは、汝 が 異邦人 のうちに 居 る 凡 てのユダヤ 人 に 對 ひて、その 兒 らに 割禮 を 施 すな、習慣 に 從 ふなと 云 ひて、モーセに 遠 ざかることを 教 ふと 聞 けり。
22 如何 にすべきか、彼 らは 必 ず 汝 の 來 りたるを 聞 かん。
23 されば 汝 われらの 言 ふ 如 くせよ、我 らの 中 に 誓願 あるもの 四人 あり、
24 汝 かれらと 組 みて 之 とともに 潔 をなし、彼 等 のために 費 を 出 して 髮 を 剃 らしめよ。さらば 人々 みな 汝 につきて 聞 きたることの 虚僞 にして、汝 も 律法 を 守 りて 正 しく 歩 み 居 ることを 知 らん。
25 異邦人 の 信者 となりたる 者 につきては、我 ら 既 に 書 き 贈 りて、偶像 に 献 げたる 物 と、血 と、絞殺 したる 物 と、淫行 とに 遠 ざかるべき 事 を 定 めたり』
26 ここにパウロその 人々 と 組 みて、次 の 日 ともどもに 潔 をなして 宮 に 入 り、潔 の 期 滿 ちて 各人 のために 献物 をささぐべき 日 を 告 げたり。
27 かくて 七日 の 終 らんとする 時、アジヤより 來 りしユダヤ 人 ら、宮 の 内 にパウロの 居 るを 見 て、群衆 を 騷 がし、かれに 手 をかけ 叫 びて 言 ふ、
28 『イスラエルの 人々 助 けよ、この 人 はいたる 處 にて 民 と 律法 と 此 の 所 とに 悖 れることを 人々 に 教 ふる 者 なり、然 のみならず、ギリシヤ 人 を 宮 に 率 き 入 れて、此 の 聖 なる 所 をも 汚 したり』
29 からら 曩 にエペソ 人 トロピモがパウロとともに 市中 にゐたるを 見 て、パウロ 之 を 宮 に 率 き 入 れしと 思 ひしなり。
30 ここに 市中 みな 騷 ぎたち、民 ども 馳 せ 集 り、パウロを 捕 へて 宮 の 外 に 曳 き 出 せり、かくて 門 は 直 ちに 鎖 されたり。
31 彼 らパウロを 殺 さんとせしとき、軍隊 の 千卒長 に、エルサレム 中 さわぎ 立 てりとの 事 きこえたれば、
32 かれ 速 かに 兵卒 および 百卒長 らを 率 ゐて 馳 せ 下 る。かれら 千卒長 と 兵卒 とを 見 て、パウロを 打 つことを 止 む。
33 千卒長、近 よりてパウロを 執 へ、命 じて 二 つの 鏈 にて 繋 がせ、その 何 人 なるか、何事 をなしたるかを 尋 ぬるに、
34 群衆 の 中 にて 或 者 はこの 事 を、或 者 はかの 事 を 呼 はり、騷亂 のために 確 なる 事 を 知 るに 由 なく、命 じて 陣營 に 曳 き 來 らしめたり。
35 階段 に 至 れるに、群衆 の 手暴 きによりて、兵卒 パウロを 負 ひたり。
36 これ 群 れる 民 ども『彼 を 除 け』と 叫 びつつ 隨 ひ 迫 れる 故 なり。
37 パウロ 陣營 に 曳 き 入 れられんとするとき、千卒長 に 言 ふ『われ 汝 に 語 りて 可 きか』かれ 言 ふ『なんぢギリシヤ 語 を 知 るか。
38 汝 はかのエジプト 人 にして、曩 に 亂 を 起 して 四千 人 の 刺客 を 荒野 に 率 ゐ 出 でし 者 ならずや』
39 パウロ 言 ふ『我 はキリキヤなるタルソのユダヤ 人、鄙 しからぬ 市 の 市民 なり。請 ふ 民 に 語 るを 許 せ』
40 之 を 許 したれば、パウロ 階段 の 上 に 立 ち、民 に 對 ひて 手 を 搖 かし、大 に 靜 まれる 時、ヘブルの 語 にて 語 りて 言 ふ、
Chapter 22
1 『兄弟 たち 親 たちよ、今 なんぢらに 對 する 辯明 を 聽 け』
2 人々 そのヘブルの 語 を 語 るを 聞 きてますます 靜 になりたれば、又 いふ、
3 『我 はユダヤ 人 にてキリキヤのタルソに 生 れしが、此 の 都 にて 育 てられ、ガマリエルの 足下 にて 先祖 たちの 律法 の 嚴 しき 方 に 遵 ひて 教 へられ、今日 の 汝 らのごとく 神 に 對 して 熱心 なる 者 なりき。
4 我 この 道 を 迫害 し、男女 を 縛 りて 獄 に 入 れ、死 にまで 至 らしめしことは、
5 大 祭司 も 凡 ての 長老 も 我 に 就 きて 證 するなり。我 は 彼 等 より 兄弟 たちへの 書 を 受 けて、ダマスコに 寓 り 居 る 者 どもを 縛 り、エルサレムに 曳 き 來 りて 罰 を 受 けしめんとて 彼處 にゆけり。
6 往 きてダマスコに 近 づきたるに、正午 ごろ 忽 ち 大 なる 光、天 より 出 でて 我 を 環 り 照 せり。
7 その 時 われ 地 に 倒 れ、かつ 我 に 語 りて「サウロ、サウロ、何 ぞ 我 を 迫害 するか」といふ 聲 を 聞 き、
8 「主 よ、なんぢは 誰 ぞ」と 答 へしに「われは 汝 が 迫害 するナザレのイエスなり」と 言 ひ 給 へり。
9 偕 に 居 る 者 ども 光 は 見 しが、我 に 語 る 者 の 聲 は 聞 かざりき。
10 われ 復 いふ「主 よ、我 なにを 爲 すべきか」主 いひ 給 ふ「起 ちてダマスコに 往 け、なんぢの 爲 すべき 定 りたる 事 は 彼處 にて 悉 とく 告 げらるべし」
11 我 は、かの 光 の 晃耀 にて 目 見 えずなりたれば、偕 にをる 者 に 手 を 引 かれてダマスコに 入 りたり。
12 ここに 律法 に 據 れる 敬虔 の 人 にして、其 の 町 に 住 む 凡 てのユダヤ 人 に 令聞 あるアナニヤという 者 あり。
13 彼 われに 來 り 傍 らに 立 ちて「兄弟 サウロよ、見 ることを 得 よ」と 言 ひたれば、その 時、仰 ぎて 彼 を 見 たり。
14 かれ 又 いふ「我 らの 先祖 の 神 は、なんぢを 選 びて 御意 を 知 らしめ、又 かの 義人 を 見、その 御口 の 聲 を 聞 かしめんとし 給 へり。
15 これは 汝 の 見 聞 したる 事 につきて、凡 ての 人 に 對 し 彼 の 證人 とならん 爲 なり。
16 今 なんぞ 躊躇 ふか、起 て、その 御名 を 呼 び、バプテスマを 受 けて 汝 の 罪 を 洗 ひ 去 れ」
17 かくて 我 エルサレムに 歸 り、宮 にて 祈 りをるとき、我 を 忘 れし 心地 して 主 を 見 奉 るに、我 に 斯 く 言 ひ 給 ふ、
18 「なんぢ 急 げ、早 くエルサレムを 去 れ、人々 われに 係 る 汝 の 證 を 受 けぬ 故 なり」
19 我 いふ「主 よ、我 さきに 汝 を 信 ずる 者 を 獄 に 入 れ、諸 會堂 にて 之 を 扑 ち、
20 又 なんぢの 證人 ステパノの 血 の 流 されしとき、我 もその 傍 らに 立 ちて 之 を 可 しとし、殺 す 者 どもの 衣 を 守 りしことは、彼 らの 知 る 所 なり」
21 われに 言 ひ 給 ふ「往 け、我 なんぢを 遠 く 異邦人 に 遣 すなり」と』
22 人々 きき 居 たりしが、此 の 言 に 及 び、聲 を 揚 げて 言 ふ『斯 くのごとき 者 をば 地 より 除 け、生 かしおくべき 者 ならず』
23 斯 く 叫 びつつ 其 の 衣 を 脱 ぎすて、塵 を 空中 に 撒 きたれば、
24 千卒長、人々 が 何 故 パウロにむかひて 斯 く 叫 び 呼 はるかを 知 らんとし、鞭 うちて 訊 ぶることを 命 じて、彼 を 陣營 に 曳 き 入 れしむ。
25 革鞭 をあてんとてパウロを 引 き 張 りし 時、かれ 傍 らに 立 つ 百卒長 に 言 ふ『ロマ 人 たる 者 を 罪 も 定 めずして 鞭 うつは 可 きか』
26 百卒長 これを 聞 きて 千卒長 に 往 き、告 げて 言 ふ『なんぢ 何 をなさんとするか、此 の 人 はロマ 人 なり』
27 千卒長 きたりて 言 ふ『なんぢはロマ 人 なるか、我 に 告 げよ』かれ 言 ふ『然 り』
28 千卒長 こたふ『我 は 多 くの 金 をもて 此 の 民 籍 を 得 たり』パウロ 言 ふ『我 は 生 れながらなり』
29 ここに 訊 べんとせし 者 どもは 直 ちに 去 り、千卒長 はそのロマ 人 なるを 知 り、之 を 縛 りしことを 懼 れたり。
30 明 くる 日、千卒長 かれが 何 故 ユダヤ 人 に 訴 へられしか、確 なる 事 を 知 らんと 欲 して、彼 の 縛 を 解 き、命 じて 祭司長 らと 全 議會 とを 呼 び 集 め、パウロを 曳 き 出 して 其 の 前 に 立 たしめたり。
Chapter 23
1 パウロ 議會 に 目 を 注 ぎて 言 ふ『兄弟 たちよ、我 は 今日 に 至 るまで 事 毎 に 良心 に 從 ひて 神 に 事 へたり』
2 大 祭司 アナニヤ 傍 らに 立 つ 者 どもに、彼 の 口 を 撃 つことを 命 ず。
3 ここにパウロ 言 ふ『白 く 塗 りたる 壁 よ、神 なんぢを 撃 ち 給 はん、なんぢ 律法 によりて 我 を 審 くために 坐 しながら、律法 に 悖 りて 我 を 撃 つことを 命 ずるか』
4 傍 らに 立 つ 者 いふ『なんぢ 神 の 大 祭司 を 罵 るか』
5 パウロ 言 ふ『兄弟 たちよ、我 その 大 祭司 たることを 知 らざりき。録 して「なんぢの 民 の 司 をそしる 可 からず」とあればなり』
6 かくてパウロ、その 一部 はサドカイ 人、その 一部 はパリサイ 人 たるを 知 りて、議會 のうちに 呼 はりて 言 ふ『兄弟 たちよ、我 はパリサイ 人 にしてパリサイ 人 の 子 なり、我 は 死人 の 甦 へることの 希望 につきて 審 かるるなり』
7 斯 く 言 ひしに 因 りて、パリサイ 人 とサドカイ 人 との 間 に 紛爭 おこりて、會衆 相 分 れたり。
8 サドカイ 人 は 復活 もなく 御使 も 靈 もなしと 言 ひ、パリサイ 人 は 兩 ながらありと 云 ふ。
9 遂 に 大 なる 喧噪 となりて、パリサイ 人 の 中 の 學者 數人 たちて 爭 ひて 言 ふ『われら 此 の 人 に 惡 しき 事 あるを 見 ず、もし 靈 または 御使 かれに 語 りたるならば 如何』
10 紛爭 いよいよ 激 しくなりたれば、千卒長、パウロの 彼 らに 引 裂 かれんことを 恐 れ、兵卒 どもに 命 じて 下 りゆかしめ、彼 らの 中 より 引取 りて 陣營 に 連 れ 來 らしめたり。
11 その 夜、主 パウロの 傍 らに 立 ちて 言 ひ 給 ふ『雄々 しかれ、汝 エルサレムにて 我 につきて 證 をなしたる 如 く、ロマにても 證 をなすべし』
12 夜明 になりてユダヤ 人、徒黨 を 組 み 盟約 を 立 てて、パウロを 殺 すまでは 飮食 せじと 言 ふ。
13 この 徒黨 を 結 びたる 者 は 四十 人 餘 なり。
14 彼 らは 祭司長・長老 らに 往 きて 言 ふ『われらパウロを 殺 すまでは 何 をも 味 ふまじと 堅 く 盟約 を 立 てたり。
15 されば 汝 等 なほ 詳細 に 訊 べんとする 状 して、彼 を 汝 らの 許 に 連 れ 下 らすることを、議會 とともに 千卒長 に 訴 へよ。我等 その 近 くならぬ 間 に 殺 す 準備 をなせり』
16 パウロの 姉妹 の 子 この 待伏 の 事 をきき、往 きて 陣營 に 入 りパウロに 告 げたれば、
17 パウロ 百卒長 の 一人 を 呼 びて 言 ふ『この 若者 を 千卒長 につれ 往 け、告 ぐる 事 あり』
18 百卒長 これを 携 へ、千卒長 に 至 りて 言 ふ『囚人 パウロ 我 を 呼 びて、この 若者 なんぢに 言 ふべき 事 ありとて、汝 に 連 れ 往 くことを 請 へり』
19 千卒長 その 手 を 執 り 退 きて、私 に 問 ふ『われに 告 ぐる 事 とは 何 ぞ』
20 若者 いふ『ユダヤ 人 は、汝 がパウロの 事 をなほ 詳細 に 訊 ぶる 爲 にとて、明日 かれを 議會 に 連 れ 下 ることを 汝 に 請 はんと 申合 せたり。
21 汝 その 請 に 從 ふな、彼 らの 中 にて 四十 人 餘 の 者、パウロを 待伏 せ、之 を 殺 すまでは 飮食 せじと 盟約 を 立 て、今 その 準備 をなして 汝 の 許諾 を 待 てり』
22 ここに 千卒長、若者 に『これらの 事 を 我 に 訴 へたりと 誰 にも 語 るな』と 命 じて 歸 せり。
23 さて 百卒長 を 兩 三人 よびて 言 ふ『今夜 九時 ごろカイザリヤに 向 けて 往 くために、兵卒 二 百、騎兵 七 十、槍 をとる 者 二 百 を 整 へよ』
24 また 畜 を 備 へ、パウロを 乘 せて 安全 に 總督 ペリクスの 許 に 護送 することを 命 じ、
25 かつ 左 のごとき 書 をかき 贈 る。
26 『クラウデオ・ルシヤ 謹 みて 總督 ペリクス 閣下 の 平安 を 祈 る。
27 この 人 はユダヤ 人 に 捕 へられて 殺 されんとせしを、我 そのロマ 人 なるを 聞 き、兵卒 どもを 率 ゐ 往 きて 救 へり。
28 ユダヤ 人 の 彼 を 訴 ふる 理由 を 知 らんと 欲 して、その 議會 に 引 き 往 きたるに、
29 彼 らの 律法 の 問題 につき 訴 へられたるにて、死 もしくは 縛 に 當 る 罪 の 訴訟 にあらざるを 知 りたり。
30 又 この 人 を 害 せんとする 謀計 ありと 我 に 聞 えたれば、われ 俄 にこれを 汝 のもとに 送 り、これを 訴 ふる 者 に、なんぢの 前 にて 彼 を 訴 へんことを 命 じたり』
31 ここに 兵卒 ども 命 ぜられたる 如 くパウロを 受 けとりて、夜中 アンテパトリスまで 連 れてゆき、
32 翌日 これを 騎兵 に 委 ね、ともに 往 かしめて 陣營 に 歸 れり。
33 騎兵 はカイザリヤに 入 り、總督 に 書 をわたし、パウロを 其 の 前 に 立 たしむ。
34 總督、書 を 讀 みて、パウロのいづこの 國 の 者 なるかを 問 ひ、そのキリキヤ 人 なるを 知 りて、
35 『汝 を 訴 ふる 者 の 來 らんとき、尚 つまびらかに 汝 のことを 聽 かん』と 言 ひ、かつ 命 じて、ヘロデでの 官邸 に 之 を 守 らしめたり。
Chapter 24
1 五日 ののち、大 祭司 アナニヤ 數人 の 長老 およびテルトロと 云 ふ 辯護士 とともに 下 りて、パウロを 總督 に 訴 ふ。
2 パウロ 呼 び 出 されたれば、テルトロ 訴 へ 出 でて 言 ふ『ペリクス 閣下 よ、われらは 汝 によりて 太平 を 樂 しみ、
3 なんぢの 先見 によりて、此 の 國人 のために 時 に 隨 ひ 處 に 隨 ひて、惡 しき 事 の 改 められたるを 感謝 して 罷 まず。
4 ここに 喃々 しく 陳 べて 汝 を 妨 ぐまじ、願 はくは 寛容 をもて 我 が 少 しの 言 を 聽 け。
5 我等 この 人 を 見 るに、恰 も 疫病 のごとくにて、全世界 のユダヤ 人 のあひだに 騷擾 をおこし、且 ナザレ 人 の 異端 の 首 にして、
6 宮 をさへ 瀆 さんとしたれば、之 を 捕 へたり。
7 [なし]
8 汝 この 人 に 就 きて 訊 さば、我 らの 訴 ふる 所 をことごとく 知 り 得 べし』
9 ユダヤ 人 も 之 に 加 へて、誠 にその 如 くなりと 主張 す。
10 總督、首 にて 示 しパウロに 言 はしめたれば、答 ふ『なんぢが 年 久 しくこの 國人 の 審判 人 たることを 我 は 知 るゆゑに、喜 びて 我 が 辯明 をなさん。
11 なんぢ 知 り 得 べし、我 が 禮拜 のためにエルサレムに 上 りてより 僅 か 十二 日 に 過 ぎず、
12 また 彼 らは、我 が 宮 にても 會堂 にても 市中 にても、人 と 爭 ひ 群衆 を 騷 がしたるを 見 ず、
13 いま 訴 へたる 我 が 事 につきても 證明 すること 能 はざるなり。
14 我 ただ 此 の 一事 を 汝 に 言 ひあらはさん、即 ち 我 は 彼 らが 異端 と 稱 ふる 道 に 循 ひて、我 が 先祖 たちの 神 につかへ、律法 と 預言者 の 書 とに 録 したる 事 をことごとく 信 じ、
15 かれら 自 らも 待 てるごとく、義者 と 不義者 との 復活 あるべしと、神 を 仰 ぎて 望 を 懷 くなり。
16 この 故 に、われ 常 に 神 と 人 とに 對 して 良心 の 責 なからんことを 勉 む。
17 我 は 多 くの 年 を 經 てのち 歸 りきたり、我 が 民 に 施濟 をなし、また 献物 をささげゐたりしが、
18 その 時 かれらは 我 が 潔 をなして 宮 にをるを 見 たるのみにて、群衆 もなく 騷擾 もなかりしなり。
19 然 るにアジアより 來 れる 數人 のユダヤ 人 ありて――もし 我 に 咎 むべき 事 あらば、彼 らが 汝 の 前 に 出 でて 訴 ふることを 爲 べきなり。
20 或 はまた 此處 なる 人々、わが 先 に 議會 に 立 ちしとき、我 に 何 の 不義 を 認 めしか 言 へ。
21 唯 われ 彼 らの 中 に 立 ちて「死人 の 甦 へる 事 につきて 我 けふ 汝 らの 前 にて 審 かる」と 呼 はりし 一言 の 他 には 何 もなかるべし』
22 ペリクスこの 道 のことを 詳 しく 知 りたれば、審判 を 延 して 言 ふ『千卒長 ルシヤの 下 るを 待 ちて 汝 らの 事 を 定 むべし』
23 かくて 百卒長 に 命 じパウロを 守 らせ、寛 かならしめ、かつ 友 の 之 に 事 ふるをも 禁 ぜざらしむ。
24 數日 の 後 ペリクス、その 妻 なるユダヤ 人 の 女 ドルシラとともに 來 り、パウロを 呼 びよせてキリスト・イエスに 對 する 信仰 のことを 聽 き、
25 パウロが 正義 と 節制 と 來 らんとする 審判 とにつきて 論 じたる 時、ペリクス 懼 れて 答 ふ『今 は 去 れ、よき 機 を 得 てまた 招 かん』
26 かくてパウロより 金 を 與 へられんことを 望 みて、尚 しばしば 彼 を 呼 びよせては 語 れり。
27 二年 を 經 てポルシオ・フェスト、ペリクスの 任 に 代 りしが、ペリクス、ユダヤ 人 の 意 を 迎 へんとして、パウロを 繋 ぎたるままに 差措 けり。
Chapter 25
1 フェスト 任國 にいたりて 三日 の 後、カイザリヤよりエルサレムに 上 りたれば、
2 祭司長 ら 及 びユダヤ 人 の 重立 ちたる 者 ども、パウロを 訴 へ 之 を 害 はんとして、
3 フェストの 好意 にて 彼 をエルサレムに 召 し 出 されんことを 願 ふ。斯 くして 道 に 待伏 し、之 を 殺 さんと 思 へるなり。
4 然 るにフェスト 答 へて、パウロのカイザリヤに 囚 はれ 在 ることと、己 が 程 なく 歸 るべき 事 とを 告 げ、
5 『もし 彼 に 不 善 あらんには、汝 等 のうち 然 るべき 者 ども 我 とともに 下 りて 訴 ふべし』と 言 ふ。
6 かくて 彼處 に 八日 十日 ばかり 居 りてカイザリヤに 下 り、明 くる 日、審判 の 座 に 坐 し、命 じてパウロを 引出 さしむ。
7 その 出 で 來 りし 時、エルサレムより 下 りしユダヤ 人 ら、これを 取圍 みて 樣々 の 重 き 罪 を 言 ひ 立 てて 訴 ふれども、證 すること 能 はず。
8 パウロは 辯明 して 言 ふ『我 はユダヤ 人 の 律法 に 對 しても、宮 に 對 しても、カイザルに 對 しても、罪 を 犯 したる 事 なし』
9 フェスト、ユダヤ 人 の 意 を 迎 へんとしてパウロに 答 へて 言 ふ『なんぢエルサレムに 上 り、彼處 にて 我 が 前 に 審 かるることを 諾 ふか』
10 パウロ 言 ふ『我 はわが 審 かるべきカイザルの 審判 の 座 の 前 に 立 ちをるなり。汝 の 能 く 知 るごとく、我 はユダヤ 人 を 害 ひしことなし。
11 若 しも 罪 を 犯 して 死 に 當 るべき 事 をなしたらんには、死 ぬるを 厭 はじ。然 れど 此 の 人々 の 訴 ふること 實 ならずば、誰 も 我 を 彼 らに 付 すことを 得 じ、我 はカイザルに 上訴 せん』
12 ここにフェスト 陪席 の 者 と 相 議 りて 答 ふ『なんぢカイザルに 上訴 せんとす、カイザルの 許 に 往 くべし』
13 數日 を 經 て 後、アグリッパ 王 とベルニケとカイザリヤに 到 りてフェストの 安否 を 問 ふ。
14 多 くの 日 留 りゐたれば、フェスト、パウロのことを 王 に 告 げて 言 ふ『ここにペリクスが 囚人 として 遺 しおきたる 一人 の 人 あり、
15 我 エルサレムに 居 りしとき、ユダヤ 人 の 祭司長・長老 ら 之 を 訴 へて 罪 に 定 めんことを 願 ひしが、
16 我 は 答 へて、訴 へらるる 者 の 未 だ 訴 ふる 者 の 面前 にて 辯明 する 機 を 與 へられぬ 前 に 付 すは、ロマ 人 の 慣例 にあらぬ 事 を 告 げたり。
17 この 故 に 彼 等 ここに 集 りたれば、時 を 延 さず 次 の 日 審判 の 座 に 坐 し、命 じてかの 者 を 引出 さしむ。
18 訴 ふる 者 かれを 圍 みて 立 ちしが、思 ひしごとき 惡 しき 事 は 一 つも 陳 ぶる 所 なし。
19 ただ 己 らの 宗教、またはイエスと 云 ふ 者 の 死 にたるを 活 きたりと、パウロが 主張 するなどに 關 する 問題 のみなれば、
20 かかる 審理 には 我 も 當惑 せし 故、かの 人 に「なんぢエルサレムに 往 き 彼處 にて 審 かるる 事 を 好 むか」と 問 ひしに、
21 パウロは 上訴 して 皇帝 の 判決 を 受 けん 爲 に 守 られんことを 願 ひしにより、命 じて 之 をカイザルに 送 るまで 守 らせ 置 けり』
22 アグリッパ、フェストに 言 ふ『我 もその 人 に 聽 かんと 欲 す』フェスト 言 ふ『なんぢ 明日 かれに 聽 くべし』
23 明 くる 日 アグリッパとベルニケと 大 に 威儀 を 整 へてきたり、千卒長 ら 及 び 市 の 重立 ちたる 者 どもと 共 に 訊問所 に 入 りたれば、フェストの 命 によりてパウロ 引出 さる。
24 フェスト 言 ふ『アグリッパ 王、竝 びに 此處 に 居 る 凡 ての 者 よ、汝 らの 見 るこの 人 は、ユダヤの 民衆 が 擧 りて 生 かしおくべきにあらずと 呼 はりて、エルサレムにても 此處 にても 我 に 訴 へし 者 なり。
25 然 るに 我 はその 死 に 當 るべき 惡 しき 事 を 一 つだに 犯 したるを 認 めねば、彼 の 自 ら 皇帝 に 上訴 せんとする 隨 にその 許 に 送 らんと 決 めたり。
26 而 して 彼 につきて 我 が 主 に 上書 すべき 實 情 を 得 ず。この 故 に 汝 等 のまへ、特 にアグリッパ 王 よ、なんぢの 前 に 引出 し、訊問 をなしてのち、上書 すべき 箇條 を 得 んと 思 へり。
27 囚人 を 送 るに 訴訟 の 次第 を 陳 べざるは 道理 ならずと 思 ふ 故 なり』
Chapter 26
1 アグリッパ、パウロに 言 ふ『なんぢは 自己 のために 陳 ぶることを 許 されたり』ここにパウロ 手 を 伸 べ、辯明 して 言 ふ、
2 『アグリッパ 王 よ、我 ユダヤ 人 より 訴 へられし 凡 ての 事 につきて、今日 なんぢらの 前 に 辯明 するを 我 が 幸福 とす。
3 汝 がユダヤ 人 の 凡 ての 習慣 と 問題 とを 知 るによりて 殊 に 然 りとす。されば 請 ふ、忍 びて 我 に 聽 け。
4 わが 始 より 國人 のうちに 又 エルサレムに 於 ける 幼 き 時 よりの 生活 の 状 は、ユダヤ 人 のみな 知 る 所 なり。
5 彼 等 もし 證 せんと 思 はば、わが 我 らの 宗教 の 最 も 嚴 しき 派 に 從 ひて、パリサイ 人 の 生活 をなしし 事 を 始 より 知 れり。
6 今 わが 立 ちて 審 かるるは、神 が 我 らの 先祖 たちに 約束 し 給 ひしことの 希望 に 因 りてなり。
7 之 を 得 んことを 望 みて、我 が 十二 の 族 は 夜 も 晝 も 熱心 に 神 に 事 ふるなり。王 よ、この 希望 につきて、我 はユダヤ 人 に 訴 へられたり。
8 神 は 死人 を 甦 へらせ 給 ふとも、汝 等 なんぞ 信 じ 難 しとするか。
9 我 も 曩 にはナザレ 人 イエスの 名 に 逆 ひて 樣々 の 事 をなすを 宜 きことと 自 ら 思 へり。
10 我 エルサレムにて 之 をおこなひ、祭司長 らより 權威 を 受 けて 多 くの 聖徒 を 獄 にいれ、彼 らの 殺 されし 時 これに 同意 し、
11 諸 教會堂 にてしばしば 彼 らを 罰 し、強 ひて 瀆言 を 言 はしめんとし、甚 だしく 狂 ひ、迫害 して 外國 の 町 にまで 至 れり。
12 此 のとき 祭司長 らより 權威 と 委任 とを 受 けてダマスコに 赴 きしが、
13 王 よ、その 途 にて 正午 ごろ 天 よりの 光 を 見 たり、日 にも 勝 りて 輝 き、我 と 伴侶 とを 圍 み 照 せり。
14 我等 みな 地 に 倒 れたるに、ヘブルの 語 にて「サウロ、サウロ、何 ぞ 我 を 迫害 するか、刺 ある 策 を 蹴 るは 難 し」といふ 聲 を 我 きけり。
15 われ 言 ふ「主 よ、なんぢは 誰 ぞ」主 いひ 給 ふ「われは 汝 が 迫害 するイエスなり。
16 起 きて 汝 の 足 にて 立 て、わが 汝 に 現 れしは、汝 をたてて 其 の 見 しことと 我 が 汝 に 現 れて 示 さんとする 事 との 役者 また 證人 たらしめん 爲 なり。
17 我 なんぢを 此 の 民 および 異邦人 より 救 はん、又 なんぢを 彼 らに 遣 し、
18 その 目 をひらきて 暗 より 光 に、サタンの 權威 より 神 に 立 ち 歸 らせ、我 に 對 する 信仰 によりて 罪 の 赦 と 潔 められたる 者 のうちの 嗣業 とを 得 しめん」と。
19 この 故 にアグリッパ 王 よ、われは 天 よりの 顯示 に 背 かずして、
20 先 づダマスコに 居 るもの、次 にエルサレム 及 びユダヤ 全國、また 異邦人 にまで、悔改 めて 神 に 立 ちかへり、其 の 悔改 にかなふ 業 をなすべきことを 宣傅 へたり。
21 之 がためにユダヤ 人 われを 宮 にて 捕 へ、かつ 殺 さんとせり。
22 然 るに 神 の 祐 によりて 今日 に 至 るまで 尚 存 へて、小 なる 人 にも 大 なる 人 にも 證 をなし、言 ふところは 預言者 およびモーセが 必 ず 來 るべしと 語 りしことの 外 ならず。
23 即 ちキリストの 苦難 を 受 くべきこと、最先 に 死人 の 中 より 甦 へる 事 によりて、民 と 異邦人 とに 光 を 傳 ふべきこと 是 なり』
24 パウロ 斯 く 辯明 しつつある 時、フェスト 大聲 に 言 ふ『パウロよ、なんぢ 狂氣 せり、博學 なんぢを 狂氣 せしめたり』
25 パウロ 言 ふ『フェスト 閣下 よ、我 は 狂氣 せず、宣 ぶる 所 は 眞 にして 慥 なる 言 なり。
26 王 は 此 等 のことを 知 るゆゑに、我 その 前 に 憚 らずして 語 る。これらの 事 は 片隅 に 行 はれたるにあらねば、一 つとして 王 の 眼 に 隱 れたるはなしと 信 ずるに 因 る。
27 アグリッパ 王 よ、なんぢ 預言者 の 書 を 信 ずるか、我 なんぢの 信 ずることを 知 る』
28 アグリッパ、パウロに 言 ふ『なんぢ 説 くこと 僅 にして 我 をキリステアンたらしめんとするか』
29 パウロ 言 ふ『説 くことの 僅 なるにもせよ、多 きにもせよ、神 に 願 ふは、啻 に 汝 のみならず、凡 て 今日 われに 聽 ける 者 の、この 縲絏 なくして 我 がごとき 者 とならんことなり』
30 ここに 王 も 總督 もベルニケも、列座 の 者 どもも 皆 ともに 立 つ、
31 退 きてのち 相 語 りて 言 ふ『この 人 は 死罪 または 縲絏 に 當 るべき 事 をなさず』
32 アグリッパ、フェストに 言 ふ『この 人 カイザルに 上訴 せざりしならば 釋 さるべかりしなり』
Chapter 27
1 すでに 我等 をイタリヤに 渡 らしむること 決 りたれば、パウロ 及 びその 他 數人 の 囚人 を、近衞 隊 の 百卒長 ユリアスと 云 ふ 人 に 付 せり。
2 ここに 我 らアジヤの 海邊 なる 各處 に 寄 せゆくアドラミテオの 船 の 出帆 せんとするに 乘 りて 出 づ。テサロニケのマケドニヤ 人 アリスタルコも 我 らと 共 にありき。
3 次 の 日 シドンに 著 きたれば、ユリアス 懇切 にパウロを 遇 ひ、その 友 らの 許 にゆきて 歡待 を 受 くることを 許 せり。
4 かくて 此處 より 船出 せしが、風 の 逆 ふによりてクプロの 風下 の 方 をはせ、
5 キリキヤ 及 びパンフリヤの 沖 を 過 ぎてルキヤのミラに 著 く。
6 彼處 にてイタリヤにゆくアレキサンデリヤの 船 に 遇 ひたれば、百卒長 われらを 之 に 乘 らしむ。
7 多 くの 日 のあひだ 船 の 進 み 遲 く、辛 うじてクニドに 對 へる 處 に 到 りしが、風 に 阻 へられてサルモネの 沖 を 過 ぎ、クレテの 風下 の 方 をはせ、
8 陸 に 沿 ひ 辛 うじて 良 き 港 といふ 處 につく。その 近 き 處 にラサヤの 町 あり。
9 船路 久 しきを 歴 て、斷食 の 期節 も 既 に 過 ぎたれば、航海 危 きにより、パウロ 人々 に 勸 めて 言 ふ、
10 『人々 よ、我 この 航海 の 害 あり 損 多 くして、ただ 積荷 と 船 とのみならず、我 らの 生命 にも 及 ぶべきを 認 む』
11 されど 百卒長 は、パウロの 言 ふ 所 よりも 船 長 と 船 主 との 言 を 重 んじたり。
12 且 この 港 は 冬 を 過 すに 不便 なるより、多數 の 者 も、なし 得 んにはピニクスに 到 り、彼處 にて 冬 を 過 さんとて、此處 を 船出 するを 可 しとせり。ピニクスはクレテの 港 にて 東 北 と 東 南 とに 向 ふ。
13 南 風 おもむろに 吹 きたれば、彼 ら 志望 を 得 たりとして 錨 をあげ、クレテの 岸邊 に 沿 ひて 進 みたり。
14 幾程 もなくユーラクロンといふ 疾風 その 島 より 吹 きおろし、
15 之 がために 船 は 吹 き 流 され、風 に 向 ひて 進 むこと 能 はねば、船 は 風 の 追 ふに 任 す。
16 クラウダといふ 小島 の 風下 の 方 にいたり、辛 うじて 小艇 を 收 め、
17 これを 船 に 引上 げてのち、備綱 にて 船體 を 卷 き 縛 り、またスルテスの 洲 に 乘 りかけんことを 恐 れ、帆 を 下 して 流 る。
18 いたく 暴風 に 惱 され、次 の 日、船 の 者 ども 積荷 を 投 げすて、
19 三日 めに 手 づから 船具 を 棄 てたり。
20 數日 のあひだ 日 も 星 も 見 えず、暴風 はげしく 吹 き 荒 びて、我 らの 救 はるべき 望 ついに 絶 え 果 てたり。
21 人々 の 食 せぬこと 久 しくなりたる 時、パウロその 中 に 立 ちて 言 ふ『人々 よ、なんぢら 前 に 我 が 勸 をきき、クレテより 船出 せずして、この 害 と 損 とを 受 けずあるべき 筈 なりき。
22 いま 我 なんぢらに 勸 む、心 安 かれ、汝 等 のうち 一人 だに 生命 をうしなふ 者 なし、ただ 船 を 失 はん。
23 わが 屬 するところ 我 が 事 ふる 所 の 神 の 使、昨夜 わが 傍 らに 立 ちて、
24 「パウロよ、懼 るな、なんぢ 必 ずカイザルの 前 に 立 たん、視 よ、神 は 汝 と 同船 する 者 をことごとく 汝 に 賜 へり」と 云 ひたればなり。
25 この 故 に 人々 よ、心 安 かれ、我 はその 我 に 語 り 給 ひしごとく 必 ず 成 るべしと 神 を 信 ず。
26 而 して 我 らは 或 島 に 推上 げらるべし』
27 かくて 十 四日 めの 夜 に 至 りて、アドリヤの 海 を 漂 ひゆきたるに、夜半 ごろ 水夫 ら 陸 に 近 づきたりと 思 ひて、
28 水 を 測 りたれば、二 十 尋 なるを 知 り、少 しく 進 みてまた 測 りたれば、十 五 尋 なるを 知 り、
29 岩 に 乘 り 上 げんことを 恐 れて、艫 より 錨 を 四 つ 投 して 夜明 を 待 ちわぶ。
30 然 るに 水夫 ら 船 より 逃 れ 去 らんと 欲 し、舳 より 錨 を 曳 きゆくに 言 寄 せて 小艇 を 海 に 下 したれば、
31 パウロ、百卒長 と 兵卒 らとに 言 ふ『この 者 ども 若 し 船 に 留 らずば、汝 ら 救 はるること 能 はず』
32 ここに 兵卒 ら 小艇 の 綱 を 斷切 りて、その 流 れゆくに 任 す。
33 夜 の 明 けんとする 頃、パウロ 凡 ての 人 に 食 せんことを 勸 めて 言 ふ『なんぢら 待 ち 待 ちて 食事 せぬこと 今日 にて 十 四日 なり。
34 されば 汝 らに 食 せんことを 勸 む、これ 汝 らが 救 のためなり、汝 らの 頭髮 一筋 だに 首 より 落 つる 事 なし』
35 斯 く 言 ひて 後 みづからパンを 取 り、一同 の 前 にて 神 に 謝 し、擘 きて 食 し 始 めたれば、
36 人々 もみな 心 を 安 んじて 食 したり。
37 船 に 居 る 我 らは 凡 て 二 百 七 十 六 人 なりき。
38 人々 食 し 飽 きてのち、穀物 を 海 に 投 げ 棄 てて 船 を 輕 くせり。
39 夜明 になりて、孰 の 土地 かは 知 らねど、砂濱 の 入江 を 見出 し、なし 得 べくば 此處 に 船 を 寄 せんと 相 議 り、
40 錨 を 斷 ちて 海 に 棄 つるとともに、舵纜 をゆるめ 舳 の 帆 を 揚 げて、風 にまかせつつ 砂濱 さして 進 む。
41 然 るに 潮 の 流 れあふ 處 にいたりて 船 を 淺瀬 に 乘 り 上 げたれば、舳 膠著 きて 動 かず、艫 は 浪 の 激 しきに 破 れたり。
42 兵卒 らは 囚人 の 泳 ぎて 逃 れ 去 らんことを 恐 れ、これを 殺 さんと 議 りしに、
43 百卒長 パウロを 救 はんと 欲 して、その 議 るところを 阻 み、泳 ぎうる 者 に 命 じ、海 に 跳 び 入 りてまず 上陸 せしめ、
44 その 他 の 者 をば 或 は 板 あるひは 船 の 碎片 に 乘 らしむ。斯 くしてみな 上陸 して 救 はるるを 得 たり。
Chapter 28
1 われら 救 はれて 後、この 島 のマルタと 稱 ふるを 知 れり。
2 土人 ら 一方 ならぬ 情 を 我 らに 表 し、降 りしきる 雨 と 寒氣 とのために、火 を 焚 きて 我 ら 一同 を 待遇 せり。
3 パウロ 柴 を 束 ねて 火 にくべたれば、熱 によりて 蝮 いでて 其 の 手 につく。
4 蛇 のその 手 に 懸 りたるを 土人 ら 見 て 互 に 言 ふ『この 人 は 必 ず 殺人者 なるべし、海 より 救 はれしも、天道 はその 生 くるを 容 さぬなり』
5 パウロ 蛇 を 火 のなかに 振 り 落 して 何 の 害 をも 受 けざりき。
6 人々 は 彼 が 腫 れ 出 づるか、または 忽 ち 倒 れ 死 ぬるならんと 候 ふ。久 しく 窺 ひたれど、聊 かも 害 を 受 けぬを 見 て、思 を 變 へて、此 は 神 なりと 言 ふ。
7 この 處 の 邊 に 島司 のもてる 土地 あり、島司 の 名 はポプリオといふ。此 の 人 われらを 迎 へて 懇切 に 三日 の 間 もてなせり。
8 ポプリオの 父、熱 と 痢病 とに 罹 りて 臥 し 居 たれば、パウロその 許 にいたり、祈 りかつ 手 を 按 きて 醫 せり。
9 この 事 ありてより、島 の 病 める 人々 みな 來 りて 醫 されたれば、
10 禮 を 厚 くして 我 らを 敬 ひ、また 船出 の 時 には 必要 なる 品々 を 贈 りたり。
11 三月 の 後、われらはこの 島 に 冬籠 せしデオスクリの 號 あるアレキサンデリヤの 船 にて 出 で、
12 シラクサにつきて 三日 とまり、
13 此處 より 繞 りてレギオンにいたり、一日 を 過 ぎて 南 風 ふき 起 りたれば、我 ら 二日 めにポテオリに 著 き、
14 此處 にて 兄弟 たちに 逢 ひ、その 勸 によりて 七日 のあひだ 留 り、而 して 遂 にロマに 往 く。
15 かしこの 兄弟 たち 我 らの 事 をききて、アピオポロおよびトレスタベルネまで 來 りて 我 らを 迎 ふ。パウロこれを 見 て 神 に 感謝 し、その 心 勇 みたり。
16 我 らロマに 入 りて 後、パウロは 己 を 守 る 一人 の 兵卒 とともに 別 に 住 むことを 許 さる。
17 三日 すぎてパウロ、ユダヤ 人 の 重立 ちたる 者 を 呼 び 集 む。その 集 りたる 時 これに 言 ふ『兄弟 たちよ、我 はわが 民 わが 先祖 たちの 慣例 に 悖 ることを 一 つも 爲 さざりしに、エルサレムより 囚人 となりて、ロマ 人 の 手 に 付 されたり。
18 かれら 我 を 審 きて 死 に 當 ることなき 故 に、我 を 釋 さんと 思 ひしに、
19 ユダヤ 人 さからひたれば、餘義 なくカイザルに 上訴 せり。然 れど 我 が 國人 を 訴 へんとせしにあらず。
20 この 故 に 我 なんぢらに 會 ひ、かつ 共 に 語 らんことを 願 へり、我 はイスラエルの 懷 く 希望 の 爲 にこの 鎖 に 繋 がれたり』
21 かれら 言 ふ『われら 汝 につきてユダヤより 書 を 受 けず、また 兄弟 たちの 中 より 來 りて、汝 の 善 からぬ 事 を 告 げたる 者 も、語 りたる 者 もなし。
22 ただ 我 らは 汝 の 思 ふところを 聞 かんと 欲 するなり。それは 此 の 宗旨 の 到 る 處 にて 非 難 せらるるを 知 ればなり』
23 ここに 日 を 定 めて 多 くの 人 パウロの 宿 に 來 りたれば、パウロ 朝 より 夕 まで 神 の 國 のことを 説明 して 證 をなし、かつモーセの 律法 と 預言者 の 書 とを 引 きてイエスのことを 勸 めたり。
24 パウロのいふ 言 を 或 者 は 信 じ、或 者 は 信 ぜず。
25 互 に 相 合 はずして 退 かんとしたるに、パウロ 一言 を 述 べて 言 ふ『宜 なるかな、聖 靈 は 預言者 イザヤによりて 汝 らの 先祖 たちに 語 り 給 へり。曰 く、
26 「なんぢらこの 民 に 往 きて 言 へ、なんぢら 聞 きて 聞 けども 悟 らず、見 て 見 れども 認 めず、
27 この 民 の 心 はにぶく、耳 は 聞 くにものうく、目 は 閉 ぢたればなり。これ 目 にて 見、耳 にて 聞 き、心 にてさとり、ひるがへりて 我 に 醫 さるることなからん 爲 なり」
28 然 れば 汝 ら 知 れ、神 のこの 救 は 異邦人 に 遣 されたり、彼 らは 之 を 聽 くべし』
29 [なし]
30 パウロは 滿 二年 のあひだ、己 が 借 り 受 けたる 家 に 留 り、その 許 にきたる 凡 ての 者 を 迎 へて、
31 更 に 臆 せずまた 妨 げられずして、神 の 國 をのべ、主 イエス・キリストの 事 を 教 へたり。