Chapter 1
1 我 らの 中 に 成 りし 事 の 物語 につき、始 よりの 目撃者 にして、
2 御言 の 役者 となりたる 人々 の、我 らに 傳 へし 其 のままを 書 き 列 ねんと、手 を 著 けし 者 あまたある 故 に、
3 我 も 凡 ての 事 を 最初 より 詳細 に 推 し 尋 ねたれば、
4 テオピロ 閣下 よ、汝 の 教 へられたる 事 の 慥 なるを 悟 らせん 爲 に、これが 序 を 正 して 書 き 贈 るは 善 き 事 と 思 はるるなり。
5 ユダヤの 王 ヘロデの 時、アビヤの 組 の 祭司 に、ザカリヤという 人 あり。その 妻 はアロンの 裔 にて、名 をエリサベツといふ。
6 二人 ながら 神 の 前 に 正 しくして、主 の 誡命 と 定規 とを、みな 缺 なく 行 へり。
7 エリサベツ 石女 なれば、彼 らに 子 なし、また 二人 とも 年 邁 みぬ。
8 さてザカリヤその 組 の 順番 に 當 りて、神 の 前 に 祭司 の 務 を 行 ふとき、
9 祭司 の 慣例 にしたがひて、籤 をひき 主 の 聖所 に 入 りて、香 を 燒 くこととなりぬ。
10 香 を 燒 くとき、民 の 群 みな 外 にありて 祈 りゐたり。
11 時 に 主 の 使 あらはれて、香壇 の 右 に 立 ちたれば、
12 ザカリヤ 之 を 見 て、心 さわぎ 懼 を 生 ず。
13 御使 いふ『ザカリヤよ、懼 るな、汝 の 願 は 聽 かれたり。汝 の 妻 エリサベツ 男子 を 生 まん、汝 その 名 をヨハネと 名 づくべし。
14 なんぢに 喜悦 と 歡樂 とあらん、又 おほくの 人 もその 生 るるを 喜 ぶべし。
15 この 子、主 の 前 に 大 ならん、また 葡萄酒 と 濃 き 酒 とを 飮 まず、母 の 胎 を 出 づるや 聖 靈 にて 滿 されん。
16 また 多 くのイスラエルの 子 らを、主 なる 彼 らの 神 に 歸 らしめ、
17 且 エリヤの 靈 と 能力 とをもて、主 の 前 に 往 かん。これ 父 の 心 を 子 に、戻 れる 者 を 義人 の 聰明 に 歸 らせて、整 へたる 民 を 主 のために 備 へんとてなり』
18 ザカリヤ 御使 にいふ『何 に 據 りてか 此 の 事 あるを 知 らん。我 は 老人 にて、妻 もまた 年 邁 みたり』
19 御使 こたへて 言 ふ『われは 神 の 御前 に 立 つガブリエルなり、汝 に 語 りてこの 嘉 き 音信 を 告 げん 爲 に 遣 さる。
20 視 よ、時 いたらば 必 ず 成就 すべき 我 が 言 を 信 ぜぬに 因 り、なんぢ 物 言 へずなりて、此 らの 事 の 成 る 日 までは 語 ること 能 はじ』
21 民 はザカリヤを 俟 ちゐて、其 の 聖所 の 内 に 久 しく 留 るを 怪 しむ。
22 遂 に 出 で 來 りたれど 語 ること 能 はねば、彼 らその 聖所 の 内 にて 異象 を 見 たることを 悟 る。ザカリヤは、ただ 首 にて 示 すのみ、なほ 唖 なりき。
23 かくて 務 の 日 滿 ちたれば、家 に 歸 りぬ。
24 此 の 後 その 妻 エリサベツ 孕 りて、五月 ほど 隱 れをりて 言 ふ、
25 『主 わが 恥 を 人 の 中 に 雪 がせんとて、我 を 顧 み 給 ふときは、斯 く 爲 し 給 ふなり』
26 その 六月 めに、御使 ガブリエル、ナザレといふガリラヤの 町 にをる 處女 のもとに、神 より 遣 さる。
27 この 處女 はダビデの 家 のヨセフといふ 人 と 許嫁 せし 者 にて、其 の 名 をマリヤと 云 ふ。
28 御使、處女 の 許 にきたりて 言 ふ『めでたし、惠 まるる 者 よ、主 なんぢと 偕 に 在 せり』
29 マリヤこの 言 によりて 心 いたく 騷 ぎ、斯 かる 挨拶 は 如何 なる 事 ぞと 思 ひ 廻 らしたるに、
30 御使 いふ『マリヤよ、懼 るな、汝 は 神 の 御前 に 惠 を 得 たり。
31 視 よ、なんぢ 孕 りて 男子 を 生 まん、其 の 名 をイエスと 名 づくべし。
32 彼 は 大 ならん、至高者 の 子 と 稱 へられん。また 主 たる 神、これに 其 の 父 ダビデの 座位 をあたへ 給 へば、
33 ヤコブの 家 を 永遠 に 治 めん。その 國 は 終 ることなかるべし』
34 マリヤ 御使 に 言 ふ『われ 未 だ 人 を 知 らぬに、如何 にして 此 の 事 のあるべき』
35 御使 こたへて 言 ふ『聖 靈 なんぢに 臨 み、至高者 の 能力 なんぢを 被 はん。此 の 故 に 汝 が 生 むところの 聖 なる 者 は、神 の 子 と 稱 へらるべし。
36 視 よ、なんぢの 親族 エリサベツも、年 老 いたれど、男子 を 孕 めり。石女 といはれたる 者 なるに、今 は 孕 りてはや 六月 になりぬ。
37 それ 神 の 言 には 能 はぬ 所 なし』
38 マリヤ 言 ふ『視 よ、われは 主 の 婢女 なり。汝 の 言 のごとく、我 に 成 れかし』つひに 御使 はなれ 去 りぬ。
39 その 頃 マリヤ 立 ちて 山里 に 急 ぎ 往 き、ユダの 町 にいたり、
40 ザカリヤの 家 に 入 りてエリサベツに 挨拶 せしに、
41 エリサベツその 挨拶 を 聞 くや、兒 は 胎内 にて 躍 れり。エリサベツ 聖 靈 にて 滿 され、
42 聲 高 らかに 呼 はりて 言 ふ『をんなの 中 にて 汝 は 祝福 せられ、その 胎 の 實 もまた 祝福 せられたり。
43 わが 主 の 母 われに 來 る、われ 何 によりてか 之 を 得 し。
44 視 よ、なんぢの 挨拶 の 聲、わが 耳 に 入 るや、我 が 兒、胎内 にて 喜 びをどれり。
45 信 ぜし 者 は 幸福 なるかな、主 の 語 り 給 ふことは 必 ず 成就 すべければなり』
46 マリヤ 言 ふ、『わがこころ 主 をあがめ、
47 わが 靈 はわが 救主 なる 神 を 喜 びまつる。
48 その 婢女 の 卑 しきをも 顧 み 給 へばなり。視 よ、今 よりのち 萬 世 の 人 われを 幸福 とせん。
49 全能者 われに 大 なる 事 を 爲 したまへばなり。その 御名 は 聖 なり、
50 そのあはれみは 代々 かしこみ 恐 るる 者 に 臨 むなり。
51 神 は 御腕 にて 權力 をあらはし、心 の 念 に 高 ぶる 者 を 散 し、
52 權勢 ある 者 を 座位 より 下 し、いやしき 者 を 高 うし、
53 飢 ゑたる 者 を 善 き 物 に 飽 かせ、富 める 者 を 空 しく 去 らせ 給 ふ。
54 また 我 らの 先祖 に 告 げ 給 ひし 如 く、
55 アブラハムとその 裔 とに 對 するあはれみを 永遠 に 忘 れじとて、僕 イスラエルを 助 けたまへり』
56 かくてマリヤは、三月 ばかりエルザベツと 偕 に 居 りて、己 が 家 に 歸 れり。
57 さてエリサベツ 産 む 期 みちて 男子 を 生 みたれば、
58 その 最寄 のもの 親族 の 者 ども、主 の 大 なる 憐憫 をエリサベツに 垂 れ 給 ひしことを 聞 きて、彼 とともに 喜 ぶ。
59 八日 めになりて、其 の 子 に 割禮 を 行 はんとて 人々 きたり、父 の 名 に 因 みてザカリヤと 名 づけんとせしに、
60 母 こたへて 言 ふ『否、ヨハネと 名 づくべし』
61 かれら 言 ふ『なんぢの 親族 の 中 には 此 の 名 をつけたる 者 なし』
62 而 して 父 に 首 にて 示 し、いかに 名 づけんと 思 ふか、問 ひたるに、
63 ザカリヤ 書板 を 求 めて『その 名 はヨハネなり』と 書 きしかば、みな 怪 しむ。
64 ザカリヤの 口 たちどころに 開 け、舌 ゆるみ、物 いひて 神 を 讃 めたり。
65 最寄 に 住 む 者 みな 懼 をいだき、又 すべて 此 等 のこと 徧 くユダヤの 山里 に 言 ひ 囃 されたれば、
66 聞 く 者 みな 之 を 心 にとめて 言 ふ『この 子 は 如何 なる 者 にか 成 らん』主 の 手 かれと 偕 に 在 りしなり。
67 かくて 父 ザカリヤ 聖 靈 にて 滿 され 預言 して 言 ふ、
68 『讃 むべきかな、主 イスラエルの 神、その 民 をかへりみて 贖罪 をなし、
69 我 らのために 救 の 角 を、その 僕 ダビデの 家 に 立 て 給 へり。
70 これぞ 古 へより 聖 預言者 の 口 をもて 言 ひ 給 ひし 如 く、
71 我 らを 仇 より、凡 て 我 らを 憎 む 者 の 手 より、取 り 出 したまふ 救 なる。
72 我 らの 先祖 に 憐憫 を 垂 れ、その 聖 なる 契約 を 思 し、
73 我 らの 先祖 アブラハムに 立 て 給 ひし 御誓 を 忘 れずして、
74 我 らを 仇 の 手 より 救 ひ、生涯、主 の 御前 に、
75 聖 と 義 とをもて 懼 なく 事 へしめたまふなり。
76 幼兒 よ、なんぢは 至高者 の 預言者 と 稱 へられん。これ 主 の 御前 に 先 だちゆきて、其 の 道 を 備 へ、
77 主 の 民 に 罪 の 赦 による 救 を 知 らしむればなり。
78 これ 我 らの 神 の 深 き 憐憫 によるなり。この 憐憫 によりて 朝 のひかり、上 より 臨 み、
79 暗黒 と 死 の 蔭 とに 坐 する 者 をてらし、我 らの 足 を 平和 の 路 にみちびかん』
80 かくて 幼兒 は 漸 に 成長 し、その 靈 強 くなり、イスラエルに 現 るる 日 まで 荒野 にゐたり。
Chapter 2
1 その 頃、天下 の 人 を 戸籍 に 著 かすべき 詔令、カイザル・アウグストより 出 づ。
2 この 戸籍 登録 は、クレニオ、シリヤの 總督 たりし 時 に 行 はれし 初 のものなり。
3 さて 人 みな 戸籍 に 著 かんとて、各自 その 故郷 に 歸 る。
4 ヨセフもダビデの 家系 また 血統 なれば、既 に 孕 める 許嫁 の 妻 マリヤとともに、戸籍 に 著 かんとて、ガリラヤの 町 ナザレを 出 でてユダヤに 上 り、ダビデの 町 ベツレヘムといふ 處 に 到 りぬ。
5 ヨセフもダビデの 家系 また 血統 なれば、既 に 孕 める 許嫁 の 妻 マリヤとともに、戸籍 に 著 かんとて、ガリラヤの 町 ナザレを 出 でてユダヤに 上 り、ダビデの 町 ベツレヘムといふ 處 に 到 りぬ。
6 此處 に 居 るほどに、マリヤ 月 滿 ちて、
7 初子 をうみ、之 を 布 に 包 みて 馬槽 に 臥 させたり。旅舍 にをる 處 なかりし 故 なり。
8 この 地 に 野宿 して、夜 群 を 守 りをる 牧者 ありしが、
9 主 の 使 その 傍 らに 立 ち、主 の 榮光 その 周圍 を 照 したれば、甚 く 懼 る。
10 御使 かれらに 言 ふ『懼 るな、視 よ、この 民 一般 に 及 ぶべき、大 なる 歡喜 の 音信 を 我 なんぢらに 告 ぐ。
11 今日 ダビデの 町 にて 汝 らの 爲 に 救主 うまれ 給 へり、これ 主 キリストなり。
12 なんぢら 布 にて 包 まれ、馬槽 に 臥 しをる 嬰兒 を 見 ん、是 その 徴 なり』
13 忽 ちあまたの 天 の 軍勢、御使 に 加 はり、神 を 讃美 して 言 ふ、
14 『いと 高 き 處 には 榮光、神 にあれ。地 には 平和、主 の 悦 び 給 ふ 人 にあれ』
15 御使 等 さりて 天 に 往 きしとき、牧者 たがひに 語 る『いざ、ベツレヘムにいたり、主 の 示 し 給 ひし 起 れる 事 を 見 ん』
16 乃 ち 急 ぎ 往 きて、マリヤとヨセフと、馬槽 に 臥 したる 嬰兒 とに 尋 ねあふ。
17 既 に 見 て、この 子 につき 御使 の 語 りしことを 告 げたれば、
18 聞 く 者 はみな 牧者 の 語 りしことを 怪 しみたり。
19 而 してマリヤは 凡 て 此 等 のことを 心 に 留 めて 思 ひ 囘 せり。
20 牧者 は 御使 の 語 りしごとく 凡 ての 事 を 見 聞 せしによりて、神 を 崇 めかつ 讃美 しつつ 歸 れり。
21 八日 みちて 幼兒 に 割禮 を 施 すべき 日 となりたれば、未 だ 胎内 に 宿 らぬ 先 に 御使 の 名 づけし 如 く、その 名 をイエスと 名 づけたり。
22 モーセの 律法 に 定 めたる 潔 の 日 滿 ちたれば、彼 ら 幼兒 を 携 へてエルサレムに 上 る。
23 これは 主 の 律法 に『すべて 初子 に 生 るる 男子 は、主 につける 聖 なる 者 と 稱 へらるべし』と 録 されたる 如 く、幼兒 を 主 に 献 げ、
24 また 主 の 律法 に『山鳩 一 つがひ 或 は 家 鴿 の 雛 二 羽』と 云 ひたるに 遵 ひて、犧牲 を 供 へん 爲 なり。
25 視 よ、エルサレムにシメオンといふ 人 あり。この 人 は 義 かつ 敬虔 にして、イスラエルの 慰 められんことを 待 ち 望 む。聖 靈 その 上 に 在 す。
26 また 聖 靈 に、主 のキリストを 見 ぬうちは 死 を 見 ずと 示 されたれしが、
27 此 とき 御靈 に 感 じて 宮 に 入 る。兩親 その 子 イエスを 携 へ、この 子 のために 律法 の 慣例 に 遵 ひて 行 はんとて 來 りたれば、
28 シメオン、イエスを 取 りいだき、神 を 讃 めて 言 ふ、
29 『主 よ、今 こそ 御言 に 循 ひて、僕 を 安 らかに 逝 かしめ 給 ふなれ。
30 わが 目 は、はや 主 の 救 を 見 たり。
31 是 もろもろの 民 の 前 に 備 へ 給 ひし 者、
32 異邦人 をてらす 光、御民 イスラエルの 榮光 なり』
33 かく 幼兒 に 就 きて 語 ることを、其 の 父 母 あやしみ 居 たれば、
34 シメオン 彼 らを 祝 して 母 マリヤに 言 ふ『視 よ、この 幼兒 は、イスラエルの 多 くの 人 の 或 は 倒 れ、或 は 起 たん 爲 に、また 言 ひ 逆 ひを 受 くる 徴 のために 置 かる。
35 ――劍 なんぢの 心 をも 刺 し 貫 くべし――これは 多 くの 人 の 心 の 念 の 顯 れん 爲 なり』
36 ここにアセルの 族 パヌエルの 娘 に、アンナといふ 預言者 あり、年 いたく 老 ゆ。處女 のとき、夫 に 適 きて 七 年 ともに 居 り、
37 八 十四年 寡婦 たり。宮 を 離 れず、夜 も 晝 も 斷食 と 祈祷 とを 爲 して 神 に 事 ふ。
38 この 時 すすみ 寄 りて 神 に 感謝 し、また 凡 てエルサレムの 拯贖 を 待 ちのぞむ 人 に、幼兒 のことを 語 れり。
39 さて 主 の 律法 に 遵 ひて、凡 ての 事 を 果 したれば、ガリラヤに 歸 り、己 が 町 ナザレに 到 れり。
40 幼兒 は 漸 に 成長 して 健 かになり、智慧 みち、かつ 神 の 惠 その 上 にありき。
41 かくてその 兩親、過越 の 祭 には 年毎 にエルサレムに 往 きぬ。
42 イエスの 十二 歳 のとき、祭 の 慣例 に 遵 ひて 上 りゆき、
43 祭 の 日 終 りて 歸 る 時、その 子 イエスはエルサレムに 止 りたまふ。兩親 は 之 を 知 らずして、
44 道伴 のうちに 居 るならんと 思 ひ、一日 路 ゆきて、親族・知邊 のうちを 尋 ぬれど、
45 遇 はぬに 因 りて 復 たづねつつエルサレムに 歸 り、
46 三日 ののち、宮 にて 教師 のなかに 坐 し、かつ 聽 き、かつ 問 ひゐ 給 ふに 遇 ふ。
47 聞 く 者 は 皆 その 聰 と 答 とを 怪 しむ。
48 兩親 イエスを 見 て、いたく 驚 き、母 は 言 ふ『兒 よ、何 故 かかる 事 を 我 らに 爲 しぞ、視 よ、汝 の 父 と 我 と 憂 ひて 尋 ねたり』
49 イエス 言 ひたまふ『何 故 われを 尋 ねたるか、我 はわが 父 の 家 に 居 るべきを 知 らぬか』
50 兩親 はその 語 りたまふ 事 を 悟 らず。
51 かくてイエス 彼 等 とともに 下 り、ナザレに 往 きて 順 ひ 事 へたまふ。其 の 母 これらの 事 をことごとく 心 に 藏 む。
52 イエス 智慧 も 身 のたけも 彌 まさり、神 と 人 とにますます 愛 せられ 給 ふ。
Chapter 3
1 テベリオ・カイザル 在位 の 十 五 年、ポンテオ・ピラトはユダヤの 總督、ヘロデはガリラヤ 分封 の 國守、その 兄弟 ピリポはイツリヤ 及 びテラコニテの 地 の 分封 の 國守、ルサニヤはアビレネ 分封 の 國守 たり、
2 アンナスとカヤパとは 大 祭司 たりしとき、神 の 言、荒野 にてザカリヤの 子 ヨハネに 臨 む。
3 かくてヨルダン 河 の 邊 なる 四方 の 地 にゆき、罪 の 赦 を 得 さする 悔改 のバプテスマを 宣傳 ふ。
4 預言者 イザヤの 言 の 書 に『荒野 に 呼 はる 者 の 聲 す。「主 の 道 を 備 へ、その 路 すじを 直 くせよ。
5 諸 の 谷 は 埋 められ、諸 の 山 と 岡 とは 平 げられ、曲 りたるは 直 く、嶮 しきは 坦 かなる 路 となり、
6 人 みな 神 の 救 を 見 ん」』と 録 されたるが 如 し。
7 さてヨハネ、バプテスマを 受 けんとて 出 できたる 群衆 にいふ『蝮 の 裔 よ、誰 が 汝 らに、來 らんとする 御怒 を 避 くべき 事 を 示 したるぞ。
8 さらば 悔改 に 相應 しき 果 を 結 べ。なんぢら「我 らの 父 にアブラハムあり」と 心 のうちに 言 ひ 始 むな。我 なんぢらに 告 ぐ、神 はよく 此 らの 石 よりアブラハムの 子 等 を 起 し 得給 ふなり。
9 斧 ははや 樹 の 根 に 置 かる。されば 凡 て 善 き 果 を 結 ばぬ 樹 は、伐 られて 火 に 投 げ 入 れらるべし』
10 群衆 ヨハネに 問 ひて 言 ふ『さらば 我 ら 何 を 爲 すべきか』
11 答 へて 言 ふ『二 つの 下衣 をもつ 者 は、有 たぬ 者 に 分 け 與 へよ。食物 を 有 つ 者 もまた 然 せよ』
12 取税人 もバプテスマを 受 けんとて 來 りて 言 ふ『師 よ、我 ら 何 を 爲 すべきか』
13 答 へて 言 ふ『定 りたるものの 外、なにをも 促 るな』
14 兵卒 もまた 問 ひて 言 ふ『我 らは 何 を 爲 すべきか』答 へて 言 ふ『人 を 劫 かし、また 誣 ひ 訴 ふな、己 が 給料 をもて 足 れりとせよ』
15 民、待 ち 望 みゐたれば、みな 心 の 中 にヨハネをキリストならんかと 論 ぜしに、
16 ヨハネ 凡 ての 人 に 答 へて 言 ふ『我 は 水 にて 汝 らにバプテスマを 施 す、されど 我 よりも 能力 ある 者 きたらん、我 はその 鞋 の 紐 を 解 くにも 足 らず。彼 は 聖 靈 と 火 とにて 汝 らにバプテスマを 施 さん。
17 手 には 箕 を 持 ちたまふ。禾場 をきよめ、麥 を 倉 に 納 めんとてなり。而 して 殼 は 消 えぬ 火 にて 焚 きつくさん』
18 ヨハネこの 他 なほ、さまざまの 勸 をなして、民 に 福音 を 宣傳 ふ。
19 然 るに 國守 ヘロデ、その 兄弟 の 妻 ヘロデヤの 事 につき、又 その 行 ひたる 凡 ての 惡 しき 事 につきて、ヨハネに 責 められたれば、
20 更 に 復 一 つの 惡 しき 事 を 加 へて、ヨハネを 獄 に 閉 ぢこめたり。
21 民 みなバプテスマを 受 けし 時、イエスもバプテスマを 受 けて 祈 りゐ 給 へば、天 ひらけ、
22 聖 靈、形 をなして 鴿 のごとく 其 の 上 に 降 り、かつ 天 より 聲 あり、曰 く『なんぢは 我 が 愛 しむ 子 なり、我 なんぢを 悦 ぶ』
23 イエスの、教 を 宣 べ 始 め 給 ひしは、年 おほよそ 三十 の 時 なりき。人 にはヨセフの 子 と 思 はれ 給 へり。ヨセフの 父 はヘリ、
24 その 先 はマタテ、レビ、メルキ、ヤンナイ、ヨセフ、
25 マタテヤ、アモス、ナホム、エスリ、ナンガイ、
26 マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、
27 ヨハナン、レサ、ゾロバベル、サラテル、ネリ、
28 メルキ、アデイ、コサム、エルマダム、エル、
29 ヨセ、エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、
30 シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、
31 メレヤ、メナ、マタタ、ナタン、ダビデ、
32 エツサイ、オベデ、ボアズ、サラ、ナアソン、
33 アミナダブ、アデミン、アルニ、エスロン、パレス、ユダ、
34 ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、
35 セルグ、レウ、ペレグ、エベル、サラ、
36 カイナン、アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、
37 メトセラ、エノク、ヤレデ、マハラレル、カイナン、
38 エノス、セツ、アダムに 至 る。アダムは 神 の 子 なり。
Chapter 4
1 さてイエス 聖 靈 にて 滿 ち、ヨルダン 河 より 歸 り、荒野 にて 四十 日 のあひだ 御靈 に 導 かれ、
2 惡魔 に 試 みられ 給 ふ。この 間 なにをも 食 はず、日 數 滿 ちてのち 餓 ゑ 給 ひたれば、
3 惡魔 いふ『なんぢ 若 し 神 の 子 ならば、此 の 石 に 命 じてパンと 爲 らしめよ』
4 イエス 答 へたまふ『「人 の 生 くるはパンのみに 由 るにあらず」と 録 されたり』
5 惡魔 またイエスを 携 へのぼりて、瞬間 に 天下 のもろもろの 國 を 示 して 言 ふ、
6 『この 凡 ての 權威 と 國々 の 榮華 とを 汝 に 與 へん。我 これを 委 ねられたれば、我 が 欲 する 者 に 與 ふるなり。
7 この 故 にもし 我 が 前 に 拜 せば、ことごとく 汝 の 有 となるべし』
8 イエス 答 へて 言 ひたまふ『「主 なる 汝 の 神 を 拜 し、ただ 之 にのみ 事 ふべし」と 録 されたり』
9 惡魔 またイエスをエルサレムに 連 れゆき、宮 の 頂上 に 立 たせて 言 ふ『なんぢ 若 し 神 の 子 ならば、此處 より 己 が 身 を 下 に 投 げよ。
10 それは「なんぢの 爲 に 御使 たちに 命 じて 守 らしめ 給 はん」
11 「かれら 手 にて 汝 をささへ、その 足 を 石 に 打當 つる 事 なからしめん」と 録 されたるなり』
12 イエス 答 へて 言 ひたまふ『「主 なる 汝 の 神 を 試 むべからず」と 云 ひてあり』
13 惡魔 あらゆる 嘗試 を 盡 してのち、暫 くイエスを 離 れたり。
14 イエス 御靈 の 能力 をもてガリラヤに 歸 り 給 へば、その 聲聞 あまねく 四方 の 地 に 弘 る。
15 かくて 諸 會堂 にて 教 をなし、凡 ての 人 に 崇 められ 給 ふ。
16 偖 その 育 てられ 給 ひし 處 のナザレに 到 り、例 のごとく 安息 日 に 會堂 に 入 りて、聖書 を 讀 まんとて 立 ち 給 ひしに、
17 預言者 イザヤの 書 を 與 へたれば、其 の 書 を 繙 きて、かく 録 されたる 所 を 見出 し 給 ふ。
18 『主 の 御靈 われに 在 す。これ 我 に 油 を 注 ぎて 貧 しき 者 に 福音 を 宣 べしめ、我 をつかはして 囚人 に 赦 を 得 ることと、盲人 に 見 ゆることとを 告 げしめ、壓 へらるる 者 を 放 ちて 自由 を 與 へしめ、
19 主 の 喜 ばしき 年 を 宣傳 へしめ 給 ふなり』
20 イエス 書 を 卷 き、係 の 者 に 返 して 坐 し 給 へば、會堂 に 居 る 者 みな 之 に 目 を 注 ぐ。
21 イエス 言 ひ 出 でたまふ『この 聖書 は 今日 なんぢらの 耳 に 成就 したり』
22 人々 みなイエスを 譽 め、又 その 口 より 出 づる 惠 の 言 を 怪 しみて 言 ふ『これヨセフの 子 ならずや』
23 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢら 必 ず 我 に 俚諺 を 引 きて「醫者 よ、みづから 己 を 醫 せ、カペナウムにて 有 りしといふ 我 らが 聞 ける 事 どもを、己 が 郷 なる 此 の 地 にても 爲 せ」と 言 はん』
24 また 言 ひ 給 ふ『われ 誠 に 汝 らに 告 ぐ、預言者 は 己 が 郷 にて 喜 ばるることなし。
25 われ 實 をもて 汝 らに 告 ぐ、エリヤのとき 三年 六个月、天 とぢて、全地 大 なる 饑饉 なりしが、イスラエルの 中 に 多 くの 寡婦 ありたれど、
26 エリヤは 其 の 一人 にすら 遣 されず、唯 シドンなるサレプタの 一人 の 寡婦 にのみ 遣 されたり。
27 また 預言者 エリシヤの 時、イスラエルの 中 に 多 くの 癩病人 ありしが、其 の 一人 だに 潔 められず、唯 シリヤのナアマンのみ 潔 められたり』
28 會堂 にをる 者 みな 之 を 聞 きて 憤恚 に 滿 ち、
29 起 ちてイエスを 町 より 逐 ひ 出 し、その 町 の 建 ちたる 山 の 崖 に 引 き 往 きて、投 げ 落 さんとせしに、
30 イエスその 中 を 通 りて 去 り 給 ふ。
31 かくてガリラヤの 町 カペナウムに 下 りて、安息 日 ごとに 人 を 教 へ 給 へば、
32 人々 その 教 に 驚 きあへり。その 言、權威 ありたるに 因 る。
33 會堂 に 穢 れし 惡鬼 の 靈 に 憑 かれたる 人 あり、大聲 に 叫 びて 言 ふ、
34 『ああ、ナザレのイエスよ、我 らは 汝 となにの 關係 あらんや。我 らを 亡 さんとて 來給 ふか。我 はなんぢの 誰 なるを 知 る、神 の 聖者 なり』
35 イエス 之 を 禁 めて 言 ひ 給 ふ『默 せ、その 人 より 出 でよ』惡鬼 その 人 を 人々 の 中 に 倒 し、傷 つけずして 出 づ。
36 みな 驚 き 語 り 合 ひて 言 ふ『これ 如何 なる 言 ぞ、權威 と 能力 とをもて 命 ずれば、穢 れし 惡鬼 すら 出 で 去 る』
37 ここにイエスの 噂 あまねく 四方 の 地 に 弘 りたり。
38 イエス 會堂 を 立 ち 出 でて、シモンの 家 に 入 り 給 ふ。シモンの 外姑 おもき 熱 を 患 ひ 居 たれば、人々 これが 爲 にイエスに 願 ふ。
39 その 傍 らに 立 ちて 熱 を 責 めたまへば、熱 去 りて 女 たちどころに 起 きて 彼 らに 事 ふ。
40 日 のいる 時、さまざまの 病 を 患 ふ 者 をもつ 人、みな 之 をイエスに 連 れ 來 れば、一々 その 上 に 手 を 置 きて 醫 し 給 ふ。
41 惡鬼 もまた 多 くの 人 より 出 でて 叫 びつつ 言 ふ『なんぢは 神 の 子 なり』之 を 責 めて 物 言 ふことを 免 し 給 はず、惡鬼 そのキリストなるを 知 るに 因 りてなり。
42 明 くる 朝 イエス 出 でて 寂 しき 處 にゆき 給 ひしが、群衆 たづねて 御許 に 到 り、その 去 り 往 くことを 止 めんとせしに、
43 イエス 言 ひ 給 ふ『われ 又 ほかの 町々 にも 神 の 國 の 福音 を 宣傳 へざるを 得 ず、わが 遣 されしは 之 が 爲 なり』
44 かくてユダヤの 諸 會堂 にて 教 を 宣 べたまふ。
Chapter 5
1 群衆 おし 迫 りて 神 の 言 を 聽 きをる 時、イエス、ゲネサレの 湖 のほとりに 立 ちて、
2 渚 に 二 艘 の 舟 の 寄 せあるを 見 たまふ、漁人 は 舟 をいでて 網 を 洗 ひ 居 たり。
3 イエスその 一艘 なるシモンの 舟 に 乘 り、彼 に 請 ひて 陸 より 少 しく 押 し 出 さしめ、坐 して 舟 の 中 より 群衆 を 教 へたまふ。
4 語 り 終 へてシモンに 言 ひたまふ『深處 に 乘 りいだし、網 を 下 して 漁 れ』
5 シモン 答 へて 言 ふ『君 よ、われら 終夜 勞 したるに、何 をも 得 ざりき、されど 御言 に 隨 ひて 網 を 下 さん』
6 かくて 然 せしに、魚 の 夥多 しき 群 を 圍 みて、網 裂 けかかりたれば、
7 他 の 一艘 の 舟 にをる 組 の 者 を 差招 きて 來 り 助 けしむ。來 りて 魚 を 二 艘 の 舟 に 滿 したれば、舟 沈 まんばかりになりぬ。
8 シモン・ペテロ 之 を 見 て、イエスの 膝 下 に 平伏 して 言 ふ『主 よ、我 を 去 りたまへ。我 は 罪 ある 者 なり』
9 これはシモンも 偕 に 居 る 者 もみな、漁 りし 魚 の 夥多 しきに 驚 きたるなり。
10 ゼベダイの 子 にしてシモンの 侶 なるヤコブもヨハネも 同 じく 驚 けり。イエス、シモンに 言 ひたまふ『懼 るな、なんぢ 今 よりのち 人 を 漁 らん』
11 かれら 舟 を 陸 につけ、一切 を 棄 ててイエスに 從 へり。
12 イエス 或 町 に 居給 ふとき、視 よ、全身 癩病 をわづらふ 者 あり。イエスを 見 て 平伏 し、願 ひて 言 ふ『主 よ、御意 ならば、我 を 潔 くなし 給 ふを 得 ん』
13 イエス 手 をのべ 彼 につけて『わが 意 なり、潔 くなれ』と 言 ひ 給 へば、直 ちに 癩病 されり。
14 イエス 之 を 誰 にも 語 らぬやうに 命 じ、かつ 言 ひ 給 ふ『ただ 往 きて 己 を 祭司 に 見 せ、モーセが 命 じたるごとく 汝 の 潔 のために 献物 して、人々 に 證 せよ』
15 されど 彌 増々 イエスの 事 ひろまりて、大 なる 群衆、あるひは 教 を 聽 かんとし、或 は 病 を 醫 されんとして 集 り 來 りしが、
16 イエス 寂 しき 處 に 退 きて 祈 り 給 ふ。
17 或 日 イエス 教 をなし 給 ふとき、ガリラヤの 村々、ユダヤ 及 びエルサレムより 來 りしパリサイ 人、教法 學者 ら、そこに 坐 しゐたり。病 を 醫 すべき 主 の 能力 イエスと 偕 にありき。
18 視 よ、人々、中風 を 病 める 者 を、床 にのせて 擔 ひきたり、之 を 家 に 入 れて、イエスの 前 に 置 かんとすれど、
19 群衆 によりて 擔 ひ 入 るべき 道 を 得 ざれば、屋根 にのぼり、瓦 を 取 り 除 けて、床 のまま 人々 の 中 に、イエスの 前 につり 縋 り 下 せり。
20 イエス 彼 らの 信仰 を 見 て 言 ひたまふ『人 よ、汝 の 罪 ゆるされたり』
21 ここに 學者・パリサイ 人 ら 論 じ 出 でて 言 ふ『瀆言 をいふ 此 の 人 は 誰 ぞ、神 より 他 に 誰 か 罪 を 赦 すことを 得 べき』
22 イエス 彼 らの 論 ずる 事 をさとり、答 へて 言 ひ 給 ふ『なにを 心 のうちに 論 ずるか。
23 「なんぢの 罪 ゆるされたり」と 言 ふと「起 きて 歩 め」と 言 ふと 孰 か 易 き、
24 人 の 子 の 地 にて 罪 をゆるす 權威 あることを 汝 らに 知 らせん 爲 に』――中風 を 病 める 者 に 言 ひ 給 ふ――『なんぢに 告 ぐ、起 きよ、床 をとりて 家 に 往 け』
25 かれ 立刻 に 人々 の 前 にて 起 きあがり、臥 しゐたる 床 をとりあげ、神 を 崇 めつつ 己 が 家 に 歸 りたり。
26 人々 みな 甚 く 驚 きて 神 をあがめ 懼 に 滿 ちて 言 ふ『今日 われら 珍 しき 事 を 見 たり』
27 この 事 の 後 イエス 出 でて、レビといふ 取税人 の 收税所 に 坐 しをるを 見 て『われに 從 へ』と 言 ひ 給 へば、
28 一切 を 棄 ておき、起 ちて 從 へり。
29 レビ 己 が 家 にて、イエスの 爲 に 大 なる 饗宴 を 設 けしに、取税人 および 他 の 人々 も 多 く 食事 の 席 に 列 りゐたれば、
30 パリサイ 人 および 其 の 曹輩 の 學者 ら、イエスの 弟子 たちに 向 ひ、呟 きて 言 ふ『なにゆゑ 汝 らは 取税人・罪人 らと 共 に 飮食 するか』
31 イエス 答 へて 言 ひたまふ『健康 なる 者 は 醫者 を 要 せず、ただ 病 ある 者 これを 要 す。
32 我 は 正 しき 者 を 招 かんとにあらで、罪人 を 招 きて 悔改 めさせんとて 來 れり』
33 彼 らイエスに 言 ふ『ヨハネの 弟子 たちは、しばしば 斷食 し 祈祷 し、パリサイ 人 の 弟子 たちも 亦 然 するに、汝 の 弟子 たちは 飮食 するなり』
34 イエス 言 ひたまふ『新郎 の 友 だち 新郎 と 偕 にをるうちは、彼 らに 斷食 せしめ 得 んや。
35 されど 日 來 りて 新郎 をとられん、その 日 には 斷食 せん』
36 イエスまた 譬 を 言 ひ 給 ふ『たれも 新 しき 衣 を 切 り 取 りて、舊 き 衣 を 繕 ふ 者 はあらじ。もし 然 せば、新 しきものも 破 れ、かつ 新 しきものより 取 りたる 裂 も 舊 きものに 合 はじ。
37 誰 も 新 しき 葡萄酒 を、ふるき 革嚢 に 入 るることは 爲 じ。もし 然 せば、葡萄酒 は 嚢 をはりさき 漏 れ 出 でて、嚢 も 廢 らん。
38 新 しき 葡萄酒 は、新 しき 革嚢 に 入 るべきなり。
39 誰 も 舊 き 葡萄酒 を 飮 みてのち、新 しき 葡萄酒 を 望 む 者 はあらじ。「舊 きは 善 し」と 云 へばなり』
Chapter 6
1 イエス 安息 日 に 麥 畠 を 過 ぎ 給 ふとき、弟子 たち 穗 を 摘 み、手 にて 揉 みつつ 食 ひたれば、
2 パリサイ 人 のうち 或 者 ども 言 ふ『なんぢらは 何 ゆゑ 安息 日 に 爲 まじき 事 をするか』
3 イエス 答 へて 言 ひ 給 ふ『ダビデその 伴 へる 人々 とともに 飢 ゑしとき、爲 しし 事 をすら 讀 まぬか。
4 即 ち 神 の 家 に 入 りて、祭司 の 他 は 食 ふまじき 供 のパンを 取 りて 食 ひ、己 と 偕 なる 者 にも 與 へたり』
5 また 言 ひたまふ『人 の 子 は 安息 日 の 主 たるなり』
6 又 ほかの 安息 日 に、イエス 會堂 に 入 りて 教 をなし 給 ひしに、此處 に 人 あり、其 の 右 の 手 なえたり。
7 學者・パリサイ 人 ら、イエスを 訴 ふる 廉 を 見出 さんと 思 ひて、安息 日 に 人 を 醫 すや 否 やを 窺 ふ。
8 イエス 彼 らの 念 を 知 りて、手 なえたる 人 に『起 きて 中 に 立 て』と 言 ひ 給 へば、起 きて 立 てり。
9 イエス 彼 らに 言 ひ 給 ふ『われ 汝 らに 問 はん、安息 日 に 善 をなすと 惡 をなすと、生命 を 救 ふと 亡 すと、孰 かよき』
10 かくて 一同 を 見 まはして、手 なえたる 人 に『なんぢの 手 を 伸 べよ』と 言 ひ 給 ふ。かれ 然 なしたれば、その 手 癒 ゆ。
11 然 るに 彼 ら 狂氣 の 如 くなりて、イエスに 何 をなさんと 語 り 合 へり。
12 その 頃 イエス 祈 らんとて 山 にゆき、神 に 祈 りつつ 夜 を 明 したまふ。
13 夜明 になりて 弟子 たちを 呼 び 寄 せ、その 中 より 十二 人 を 選 びて、之 を 使徒 と 名 づけたまふ。
14 即 ちペテロと 名 づけ 給 ひしシモンと 其 の 兄弟 アンデレと、ヤコブとヨハネと、ピリポとバルトロマイと、
15 マタイとトマスと、アルパヨの 子 ヤコブと 熱心 黨 と 呼 ばるるシモンと、
16 ヤコブの 子 ユダとイスカリオテのユダとなり。このユダはイエスを 賣 る 者 となりたり。
17 イエス 此 等 とともに 下 りて、平 かなる 處 に 立 ち 給 ひしに、弟子 の 大 なる 群衆、およびユダヤ 全國、エルサレム 又 ツロ、シドンの 海邊 より 來 りて、或 は 教 を 聽 かんとし、或 は 病 を 醫 されんとする 民 の 大 なる 群 も、そこにあり。
18 穢 れし 靈 に 惱 されたる 者 も 醫 される。
19 能力 イエスより 出 でて、凡 ての 人 を 醫 せば、群衆 みなイエスに 觸 らん 事 を 求 む。
20 イエス 目 をあげ 弟子 たちを 見 て 言 ひたまふ『幸福 なるかな、貧 しき 者 よ、神 の 國 は 汝 らの 有 なり。
21 幸福 なる 哉、いま 飢 うる 者 よ、汝 ら 飽 くことを 得 ん。幸福 なる 哉、いま 泣 く 者 よ、汝 ら 笑 ふことを 得 ん。
22 人 なんぢらを 憎 み、人 の 子 のために 遠 ざけ、謗 り、汝 らの 名 を 惡 しとして 棄 てなば、汝 ら 幸福 なり。
23 その 日 には 喜 び 躍 れ。視 よ、天 にて 汝 らの 報 は 大 なり、彼 らの 先祖 が 預言者 たちに 爲 ししも 斯 くありき。
24 されど 禍害 なるかな、富 む 者 よ、汝 らは 既 にその 慰安 を 受 けたり。
25 禍害 なる 哉、いま 飽 く 者 よ、汝 らは 飢 ゑん。禍害 なる 哉、いま 笑 ふ 者 よ、汝 らは、悲 しみ 泣 かん。
26 凡 ての 人、なんぢらを 譽 めなば、汝 ら 禍害 なり。彼 らの 先祖 が 虚僞 の 預言者 たちに 爲 ししも 斯 くありき。
27 われ 更 に 汝 ら 聽 くものに 告 ぐ、なんじらの 仇 を 愛 し、汝 らを 憎 む 者 を 善 くし、
28 汝 らを 詛 ふ 者 を 祝 し、汝 らを 辱 しむる 者 のために 祈 れ。
29 なんぢの 頬 を 打 つ 者 には、他 の 頬 をも 向 けよ。なんぢの 上衣 を 取 る 者 には 下衣 をも 拒 むな。
30 すべて 求 むる 者 に 與 へ、なんぢの 物 を 奪 ふ 者 に 復 索 むな。
31 なんぢら 人 に 爲 られんと 思 ふごとく、人 にも 然 せよ。
32 なんぢら 己 を 愛 する 者 を 愛 せばとて、何 の 嘉 すべき 事 あらん、罪人 にても 己 を 愛 する 者 を 愛 するなり。
33 汝 等 おのれに 善 をなす 者 に 善 を 爲 すとも、何 の 嘉 すべき 事 あらん、罪人 にても 然 するなり。
34 なんぢら 得 る 事 あらんと 思 ひて 人 に 貸 すとも、何 の 嘉 すべき 事 あらん、罪人 にても 均 しきものを 受 けんとて 罪人 に 貸 すなり。
35 汝 らは 仇 を 愛 し、善 をなし、何 をも 求 めずして 貸 せ、さらば、その 報 は 大 ならん。かつ 至高者 の 子 たるべし。至高者 は、恩 を 知 らぬもの 惡 しき 者 にも、仁慈 あるなり。
36 汝 らの 父 の 慈悲 なるごとく、汝 らも 慈悲 なれ。
37 人 を 審 くな、さらば 汝 らも 審 かるる 事 あらじ。人 を 罪 に 定 むな、さらば、汝 らも 罪 に 定 めらるる 事 あらじ。人 を 赦 せ、さらば 汝 らも 赦 されん。
38 人 に 與 へよ、さらば 汝 らも 與 へられん。人 は 量 をよくし、押 し 入 れ、搖 り 入 れ、溢 るるまでにして、汝 らの 懷中 に 入 れん。汝 等 おのが 量 る 量 にて 量 らるべし』
39 また 譬 にて 言 ひたまふ『盲人 は 盲人 を 手引 するを 得 んや。二人 とも 穴 に 落 ちざらんや。
40 弟子 はその 師 に 勝 らず、凡 そ 全 うせられたる 者 は、その 師 の 如 くならん。
41 何 ゆゑ 兄弟 の 目 にある 塵 を 見 て、己 が 目 にある 梁木 を 認 めぬか。
42 おのが 目 にある 梁木 を 見 ずして、爭 で 兄弟 に 向 ひて「兄弟 よ、汝 の 目 にある 塵 を 取 り 除 かせよ」といふを 得 んや。僞善者 よ、先 づ 己 が 目 より 梁木 を 取 り 除 け。さらば 明 かに 見 えて、兄弟 の 目 にある 塵 を 取 りのぞき 得 ん。
43 惡 しき 果 を 結 ぶ 善 き 樹 はなく、また 善 き 果 を 結 ぶ 惡 しき 樹 はなし。
44 樹 はおのおの 其 の 果 によりて 知 らる。茨 より 無花果 を 取 らず、野荊 より 葡萄 を 收 めざるなり。
45 善 き 人 は 心 の 善 き 倉 より 善 きものを 出 し、惡 しき 人 は 惡 しき 倉 より 惡 しき 物 を 出 す。それ 心 に 滿 つるより、口 は 物 言 ふなり。
46 なんぢら 我 を「主 よ 主 よ」と 呼 びつつ、何 ぞ 我 が 言 ふことを 行 はぬか。
47 凡 そ 我 にきたり 我 が 言 を 聽 きて 行 ふ 者 は、如何 なる 人 に 似 たるかを 示 さん。
48 即 ち 家 を 建 つるに、地 を 深 く 掘 り 岩 の 上 に 基 を 据 ゑたる 人 のごとし。洪水 いでて 流 その 家 を 衝 けども 動 かすこと 能 はず、これ 固 く 建 てられたる 故 なり。
49 されど 聽 きて 行 はぬ 者 は、基 なくして 家 を 土 の 上 に 建 てたる 人 のごとし。流 その 家 を 衝 けば、直 ちに 崩 れて、その 破壞 はなはだし』
Chapter 7
1 イエス 凡 て 此 らの 言 を 民 に 聞 かせ 終 へて 後、カペナウムに 入 り 給 ふ。
2 時 に 或 百卒長、その 重 んずる 僕 やみて 死 ぬばかりなりしかば、
3 イエスの 事 を 聽 きて、ユダヤ 人 の 長老 たちを 遣 し、來 りて 僕 を 救 ひ 給 はんことを 願 ふ。
4 彼 らイエスの 許 にいたり、切 に 請 ひて 言 ふ『かの 人 は 此 の 事 を 爲 らるるに 相應 し。
5 わが 國人 を 愛 し、我 らのために 會堂 を 建 てたり』
6 イエス 共 に 往 き 給 ひて、その 家 はや 程 近 くなりしとき、百卒長、數人 の 友 を 遣 して 言 はしむ『主 よ、自 らを 煩 はし 給 ふな。我 は 汝 をわが 屋根 の 下 に 入 れまつるに 足 らぬ 者 なり。
7 されば 御前 に 出 づるにも 相應 しからずと 思 へり、ただ 御言 を 賜 ひて 我 が 僕 をいやし 給 へ。
8 我 みづから 權威 の 下 に 置 かるる 者 なるに、我 が 下 にまた 兵卒 ありて、此 に「往 け」と 言 へば 往 き、彼 に「來 れ」と 言 へば 來 り、わが 僕 に「これを 爲 せ」と 言 へば 爲 すなり』
9 イエス 聞 きて 彼 を 怪 しみ、振反 りて 從 ふ 群衆 に 言 ひ 給 ふ『われ 汝 らに 告 ぐ、イスラエルの 中 にだに 斯 かるあつき 信仰 は 見 しことなし』
10 遣 されたる 者 ども 家 に 歸 りて 僕 を 見 れば、既 に 健康 となれり。
11 その 後 イエス、ナインといふ 町 にゆき 給 ひしに、弟子 たち 及 び 大 なる 群衆 も 共 に 往 く。
12 町 の 門 に 近 づき 給 ふとき、視 よ、舁 き 出 さるる 死人 あり。これは 獨 息子 にて 母 は 寡婦 なり、町 の 多 くの 人々 これに 伴 ふ。
13 主、寡婦 を 見 て 憫 み『泣 くな』と 言 ひて、
14 近 より、柩 に 手 をつけ 給 へば、舁 くもの 立 ち 止 る。イエス 言 ひたまふ『若者 よ、我 なんぢに 言 ふ、起 きよ』
15 死人、起 きかへりて 物 言 ひ 始 む。イエス 之 を 母 に 付 したまふ。
16 人々 みな 懼 をいだき、神 を 崇 めて 言 ふ『大 なる 預言者 われらの 中 に 興 れり』また 言 ふ『神 その 民 を 顧 み 給 へり』
17 この 事 ユダヤ 全國 および 最寄 の 地 に 徧 くひろまりぬ。
18 偖 ヨハネの 弟子 たち、凡 て 此 等 のことを 告 げたれば、
19 ヨハネ 兩 三人 の 弟子 を 呼 び、主 に 遣 して 言 はしむ『來 るべき 者 は 汝 なるか、或 は 他 に 待 つべきか』
20 彼 ら 御許 に 到 りて 言 ふ『バプテスマのヨハネ、我 らを 遣 して 言 はしむ「來 るべき 者 は 汝 なるか、或 は 他 に 待 つべきか」』
21 この 時 イエス 多 くの 者 の 病・疾患 を 醫 し、惡 しき 靈 を 逐 ひいだし、又 おほくの 盲人 に 見 ることを 得 しめ 給 ひしが、
22 答 へて 言 ひたまふ『往 きて 汝 らが 見 聞 せし 所 をヨハネに 告 げよ。盲人 は 見、跛者 はあゆみ、癩病人 は 潔 められ、聾者 はきき、死人 は 甦 へらせられ、貧 しき 者 は 福音 を 聞 かせらる。
23 おほよそ 我 に 躓 かぬ 者 は 幸福 なり』
24 ヨハネの 使 の 去 りたる 後、ヨハネの 事 を 群衆 に 言 ひいで 給 ふ『なんぢら 何 を 眺 めんとて 野 に 出 でし、風 にそよぐ 葦 なるか。
25 さらば 何 を 見 んとて 出 でし、柔 かき 衣 を 著 たる 人 なるか。視 よ、華美 なる 衣 をきて 奢 り 暮 す 者 は 王宮 に 在 り。
26 さらば 何 を 見 んとて 出 でし、預言者 なるか。然 り、我 なんぢらに 告 ぐ、預言者 よりも 勝 る 者 なり。
27 「視 よ、わが 使 を 汝 の 顏 の 前 につかはす。かれは 汝 の 前 になんじの 道 をそなへん」と 録 されたるは 此 の 人 なり。
28 われ 汝 らに 告 ぐ、女 の 産 みたる 者 の 中、ヨハネより 大 なる 者 はなし。されど 神 の 國 にて 小 き 者 も、彼 よりは 大 なり。
29 (凡 ての 民 これを 聞 きて、取税人 までも 神 を 正 しとせり。ヨハネのバプテスマを 受 けたるによる。
30 されどパリサイ 人・教法師 らは、其 のバプテスマを 受 けざりしにより、各自 にかかはる 神 の 御旨 をこばみたり)
31 さればわれ 今 の 代 の 人 を 何 に 比 へん。彼 らは 何 に 似 たるか。
32 彼 らは、童 市場 に 坐 し、たがひに 呼 びて「われら 汝 らの 爲 に 笛 吹 きたれど、汝 ら 躍 らず。歎 きたれど、汝 ら 泣 かざりき」と 云 ふに 似 たり。
33 それはバプテスマのヨハネ 來 りて、パンをも 食 はず 葡萄酒 をも 飮 まねば、「惡鬼 に 憑 かれたる 者 なり」と 汝 ら 言 ひ、
34 人 の 子 きたりて 飮食 すれば「視 よ、食 を 貪 り、酒 を 好 む 人、また 取税人・罪人 の 友 なり」と 汝 ら 言 ふなり。
35 されど 智慧 は 己 が 凡 ての 子 によりて 正 しとせらる』
36 ここに 或 パリサイ 人 ともに 食 せん 事 をイエスに 請 ひたれば、パリサイ 人 の 家 に 入 りて、席 につき 給 ふ。
37 視 よ、この 町 に 罪 ある 一人 の 女 あり。イエスのパリサイ 人 の 家 にて 食事 の 席 にゐ 給 ふを 知 り、香 油 の 入 りたる 石膏 の 壺 を 持 ちきたり、
38 泣 きつつ 御足 近 く 後 にたち、涙 にて 御足 をうるほし、頭 の 髮 にて 之 を 拭 ひ、また 御足 に 接吻 して 香 油 を 抹 れり。
39 イエスを 招 きたるパリサイ 人 これを 見 て、心 のうちに 言 ふ『この 人 もし 預言者 ならば、觸 る 者 の 誰、如何 なる 女 なるかを 知 らん、彼 は 罪人 なるに』
40 イエス 答 へて 言 ひ 給 ふ『シモン、我 なんぢに 言 ふことあり』シモンいふ『師 よ、言 ひたまへ』
41 『或 債主 に 二人 の 負債者 ありて、一人 はデナリ 五 百、一人 は 五 十 の 負債 せしに、
42 償 ひかたなければ、債主 この 二人 を 共 に 免 せり。されば 二人 のうち 債主 を 愛 すること 孰 か 多 き』
43 シモン 答 へて 言 ふ『われ 思 ふに、多 く 免 されたる 者 ならん』イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢの 判斷 は 當 れり』
44 かくて 女 の 方 に 振向 きてシモンに 言 ひ 給 ふ『この 女 を 見 るか。我 なんぢの 家 に 入 りしに、なんぢは 我 に 足 の 水 を 與 へず、此 の 女 は 涙 にて 我 足 を 濡 し、頭髮 にて 拭 へり。
45 なんぢは 我 に 接吻 せず、此 の 女 は 我 が 入 りし 時 より、我 が 足 に 接吻 して 止 まず。
46 なんぢは 我 が 頭 に 油 を 抹 らず、此 の 女 は 我 が 足 に 香 油 を 抹 れり。
47 この 故 に 我 なんぢに 告 ぐ、この 女 の 多 くの 罪 は 赦 されたり。その 愛 すること 大 なればなり。赦 さるる 事 の 少 き 者 は、その 愛 する 事 もまた 少 し』
48 遂 に 女 に 言 ひ 給 ふ『なんぢの 罪 は 赦 されたり』
49 同席 の 者 ども 心 の 内 に『罪 をも 赦 す 此 の 人 は 誰 なるか』と 言 ひ 出 づ。
50 ここにイエス 女 に 言 ひ 給 ふ『なんぢの 信仰 なんぢを 救 へり、安 らかに 往 け』
Chapter 8
1 この 後 イエス 教 を 宣 べ、神 の 國 の 福音 を 傳 へつつ、町々 村々 を 廻 り 給 ひしに、十二 弟子 も 伴 ふ。
2 また 前 に 惡 しき 靈 を 逐 ひ 出 され、病 を 醫 されなどせし 女 たち、即 ち 七 つの 惡鬼 のいでしマグラダと 呼 ばるるマリヤ、
3 ヘロデの 家 司 クーザの 妻 ヨハンナ 及 びスザンナ、此 の 他 にも 多 くの 女 ともなひゐて、其 の 財産 をもて 彼 らに 事 へたり。
4 大 なる 群衆 むらがり、町々 の 人 みもとに 寄 り 集 ひたれば、譬 をもて 言 ひたまふ、
5 『種 播 く 者 その 種 を 播 かんとて 出 づ。播 くとき 路 の 傍 らに 落 ちし 種 あり、踏 みつけられ、また 空 の 鳥 これを 啄 む。
6 岩 の 上 に 落 ちし 種 あり、生 え 出 でたれど 潤澤 なきによりて 枯 る。
7 茨 の 中 に 落 ちし 種 あり、茨 も 共 に 生 え 出 でて 之 を 塞 ぐ。
8 良 き 地 に 落 ちし 種 あり、生 え 出 でて 百 倍 の 實 を 結 べり』これらの 事 を 言 ひて 呼 はり 給 ふ『きく 耳 ある 者 は 聽 くべし』
9 弟子 たち 此 の 譬 の 如何 なる 意 なるかを 問 ひたるに、
10 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢらは 神 の 國 の 奧義 を 知 ることを 許 されたれど、他 の 者 は 譬 にてせらる。彼 らの 見 て 見 ず、聞 きて 悟 らぬ 爲 なり。
11 譬 の 意 は 是 なり。種 は 神 の 言 なり。
12 路 の 傍 らなるは、聽 きたるのち、惡魔 きたり、信 じて 救 はるる 事 のなからんために、御言 をその 心 より 奪 ふ 所 の 人 なり。
13 岩 の 上 なるは、聽 きて 御言 を 喜 び 受 くれども、根 なければ、暫 く 信 じて 嘗試 のときに 退 く 所 の 人 なり。
14 茨 の 中 に 落 ちしは、聽 きてのち 過 ぐるほどに、世 の 心勞 と 財貨 と 快樂 とに 塞 がれて 實 らぬ 所 の 人 なり。
15 良 き 地 なるは、御言 を 聽 き、正 しく 善 き 心 にて 之 を 守 り、忍 びて 實 を 結 ぶ 所 の 人 なり。
16 誰 も 燈火 をともし 器 にて 覆 ひ、または 寢臺 の 下 におく 者 なし、入 り 來 る 者 のその 光 を 見 んために、之 を 燈臺 の 上 に 置 くなり。
17 それ 隱 れたるものの 顯 れぬはなく、秘 めたるものの 知 られぬはなく、明 かにならぬはなし。
18 されば 汝 ら 聽 くこと 如何 にと 心 せよ、誰 にても 有 てる 人 はなほ 與 へられ、有 たぬ 人 はその 有 てりと 思 ふ 物 をも 取 らるべし』
19 さてイエスの 母 と 兄弟 と 來 りたれど、群衆 によりて 近 づくこと 能 はず。
20 或 人 イエスに『なんぢの 母 と 兄弟 と、汝 に 逢 はんとて 外 に 立 つ』と 告 げたれば、
21 答 へて 言 ひたまふ『わが 母 わが 兄弟 は、神 の 言 を 聽 き、かつ 行 ふ 此 らの 者 なり』
22 或 日 イエス 弟子 たちと 共 に 舟 に 乘 りて『みづうみの 彼方 にゆかん』と 言 ひ 給 へば、乃 ち 船出 す。
23 渡 るほどにイエス 眠 りたまふ。颶風 みづうみに 吹 き 下 し、舟 に 水 滿 ちんとして 危 かりしかば、
24 弟子 たち 御側 により、呼 び 起 して 言 ふ『君 よ、君 よ、我 らは 亡 ぶ』イエス 起 きて 風 と 浪 とを 禁 め 給 へば、ともに 鎭 りて 凪 となりぬ。
25 かくて 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『なんぢらの 信仰 いづこに 在 るか』かれら 懼 れ 怪 しみて 互 に 言 ふ『こは 誰 ぞ、風 と 水 とに 命 じ 給 へば 順 ふとは』
26 遂 にガリラヤに 對 へるゲラセネ 人 の 地 に 著 く。
27 陸 に 上 りたまふ 時、その 町 の 人 にて 惡鬼 に 憑 かれたる 者 きたり 遇 ふ。この 人 は 久 しきあひだ 衣 を 著 ず、また 家 に 住 まずして 墓 の 中 にゐたり。
28 イエスを 見 てさけび、御前 に 平伏 して 大聲 にいふ『至高 き 神 の 子 イエスよ、我 は 汝 と 何 の 關係 あらん、願 はくは 我 を 苦 しめ 給 ふな』
29 これはイエス 穢 れし 靈 に、この 人 より 出 で 往 かんことを 命 じ 給 ひしに 因 る。この 人 けがれし 靈 にしばしば 拘 へられ、鏈 と 足械 とにて 繋 ぎ 守 られたれど、その 繋 をやぶり、惡鬼 に 逐 はれて 荒野 に 往 けり。
30 イエス 之 に『なんぢの 名 は 何 か』と 問 ひ 給 へば『レギオン』と 答 ふ、多 くの 惡鬼 その 中 に 入 りたる 故 なり。
31 彼 らイエスに、底 なき 所 に 往 くを 命 じ 給 はざらんことを 請 ふ。
32 彼處 の 山 に、多 くの 豚 の 一 群、食 し 居 たりしが、惡鬼 ども 其 の 豚 に 入 るを 許 し 給 はんことを 請 ひたれば、イエス 許 し 給 ふ。
33 惡鬼、人 を 出 でて 豚 に 入 りたれば、その 群、崖 より 湖水 に 駈 け 下 りて 溺 れたり。
34 飼 ふ 者 ども 此 の 起 りし 事 を 見 て、逃 げ 往 きて、町 にも 里 にも 告 げたれば、
35 人々 ありし 事 を 見 んとて 出 で、イエスに 來 りて、惡鬼 の 出 でたる 人 の、衣服 をつけ 慥 なる 心 にて、イエスの 足下 に 坐 しをるを 見 て 懼 れあへり。
36 かの 惡鬼 に 憑 かれたる 人 の 救 はれし 事柄 を 見 し 者 ども、之 を 彼 らに 告 げたれば、
37 ゲラセネ 地方 の 民衆、みなイエスに 出 で 去 り 給 はんことを 請 ふ。これ 大 に 懼 れたるなり。ここにイエス 舟 に 乘 りて 歸 り 給 ふ。
38 時 に 惡鬼 の 出 でたる 人、ともに 在 らんことを 願 ひたれど、之 を 去 らしめんとて、
39 言 ひ 給 ふ『なんぢの 家 に 歸 りて、神 が 如何 に 大 なる 事 を 汝 になし 給 ひしかを 具 に 告 げよ』彼 ゆきて、イエスの 如何 に 大 なる 事 を 己 になし 給 ひしかを、徧 くその 町 に 言 ひ 弘 めたり。
40 かくてイエスの 歸 り 給 ひしとき、群衆 これを 迎 ふ、みな 待 ちゐたるなり。
41 視 よ、會堂 司 にてヤイロといふ 者 あり、來 りてイエスの 足下 に 伏 し、その 家 にきたり 給 はんことを 願 ふ。
42 おほよそ 十二 歳 ほどの 一人 娘 ありて、死 ぬばかりなる 故 なり。イエスの 往 き 給 ふとき、群衆 かこみ 塞 がる。
43 ここに 十 二年 このかた 血漏 を 患 ひて、醫者 の 爲 に 己 が 身代 をことごとく 費 したれども、誰 にも 癒 され 得 ざりし 女 あり。
44 イエスの 後 に 來 りて、御衣 の 總 にさはりたれば、血 の 出 づること 立刻 に 止 みたり。
45 イエス 言 ひ 給 ふ『我 に 觸 りしは 誰 ぞ』人 みな 否 みたれば、ペテロ 及 び 共 にをる 者 ども 言 ふ『君 よ、群衆 なんぢを 圍 みて 押迫 るなり』
46 イエス 言 ひ 給 ふ『われに 觸 りし 者 あり、能力 の 我 より 出 でたるを 知 る』
47 女 おのれが 隱 れ 得 ぬことを 知 り、戰 き 來 りて 御前 に 平伏 し、觸 りし 故 と 立刻 に 癒 えたる 事 を、人々 の 前 にて 告 ぐ。
48 イエス 言 ひ 給 ふ『むすめよ、汝 の 信仰 なんぢを 救 へり、安 らかに 往 け』
49 かく 語 り 給 ふほどに、會堂 司 の 家 より 人 きたりて 言 ふ『なんぢの 娘 は 早 や 死 にたり、師 を 煩 はすな』
50 イエス 之 を 聞 きて 會堂 司 に 答 へたまふ『懼 るな、ただ 信 ぜよ。さらば 娘 は 救 はれん』
51 イエス 家 に 到 りて、ペテロ、ヨハネ、ヤコブ 及 び 子 の 父 母 の 他 は、ともに 入 ることを 誰 にも 許 し 給 はず。
52 人 みな 泣 き、かつ 子 のために 歎 き 居 たりしが、イエス 言 ひたまふ『泣 くな、死 にたるにあらず、寢 ねたるなり』
53 人々 その 死 にたるを 知 れば、イエスを 嘲笑 ふ。
54 然 るにイエス 子 の 手 をとり、呼 びて『子 よ、起 きよ』と 言 ひ 給 へば、
55 その 靈 かへりて 立刻 に 起 く。イエス 食物 を 之 に 與 ふることを 命 じ 給 ふ。
56 その 兩親 おどろきたり。イエス 此 の 有 りし 事 を 誰 にも 語 らぬやうに 命 じ 給 ふ。
Chapter 9
1 イエス 十二 弟子 を 召 し 寄 せて、もろもろの 惡鬼 を 制 し、病 をいやす 能力 と 權威 とを 與 へ、
2 また 神 の 國 を 宣傳 へしめ、人 を 醫 さしむる 爲 に、之 を 遣 さんとして 言 ひ 給 ふ、
3 『旅 のために 何 をも 持 つな、杖 も 袋 も 糧 も 銀 も、また 二 つの 下衣 をも 持 つな。
4 いづれの 家 に 入 るとも、其處 に 留 れ、而 して 其處 より 立 ち 去 れ。
5 人 もし 汝 らを 受 けずば、その 町 を 立 ち 去 るとき、證 のために 足 の 塵 を 拂 へ』
6 ここに 弟子 たち 出 でて 村々 を 歴 巡 り、あまねく 福音 を 宣傳 へ、醫 すことを 爲 せり。
7 さて 國守 ヘロデ、ありし 凡 ての 事 をききて 周章 てまどふ。或 人 はヨハネ 死人 の 中 より 甦 へりたりといひ、
8 或 人 はエリヤ 現 れたりといひ、また 或 人 は、古 への 預言者 の 一人 よみがへりたりと 言 へばなり。
9 ヘロデ 言 ふ『ヨハネは 我 すでに 首斬 りたり、然 るに 斯 かる 事 のきこゆる 此 の 人 は 誰 なるか』かくてイエスを 見 んことを 求 めゐたり。
10 使徒 たち 歸 りきて、其 の 爲 しし 事 を 具 にイエスに 告 ぐ。イエス 彼 らを 携 へて 竊 にベツサイダといふ 町 に 退 きたまふ。
11 されど 群衆 これを 知 りて 從 ひ 來 りたれば、彼 らを 接 けて、神 の 國 の 事 を 語 り、かつ 治療 を 要 する 人々 を 醫 したまふ。
12 日 傾 きたれば、十二 弟子 きたりて 言 ふ『群衆 を 去 らしめ、周圍 の 村 また 里 にゆき、宿 をとりて 食物 を 求 めさせ 給 へ。我 らは 斯 かる 寂 しき 所 に 居 るなり』
13 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢら 食物 を 與 へよ』弟子 たち 言 ふ『我 らただ 五 つのパンと 二 つの 魚 とあるのみ、此 の 多 くの 人 のために、往 きて 買 はねば 他 に 食物 なし』
14 男 おほよそ 五 千 人 ゐたればなり。イエス 弟子 たちに 言 ひたまふ『人々 を 組 にして 五 十 人 づつ 坐 せしめよ』
15 彼 等 その 如 くなして、人々 をみな 坐 せしむ。
16 かくてイエス 五 つのパンと 二 つの 魚 とを 取 り、天 を 仰 ぎて 祝 し、擘 きて 弟子 たちに 付 し、群衆 のまへに 置 かしめ 給 ふ。
17 彼 らは 食 ひて 皆 飽 く。擘 きたる 餘 を 集 めしに 十二 筐 ほどありき。
18 イエス 人々 を 離 れて 祈 り 居給 ふとき、弟子 たち 偕 にをりしに、問 ひて 言 ひたまふ『群衆 は 我 を 誰 といふか』
19 答 へて 言 ふ『バプテスマのヨハネ、或 人 はエリヤ、或 人 は 古 への 預言者 の 一人 よみがへりたりと 言 ふ』
20 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢらは 我 を 誰 と 言 ふか』ペテロ 答 へて 言 ふ『神 のキリストなり』
21 イエス 彼 らを 戒 めて、之 を 誰 にも 告 げぬやうに 命 じ、かつ 言 ひ 給 ふ
22 『人 の 子 は 必 ず 多 くの 苦難 をうけ、長老・祭司長・學者 らに 棄 てられ、かつ 殺 され、三日 めに 甦 へるべし』
23 また 一同 の 者 に 言 ひたまふ『人 もし 我 に 從 ひ 來 らんと 思 はば、己 をすて、日々 おのが 十字架 を 負 ひて 我 に 從 へ。
24 己 が 生命 を 救 はんと 思 ふ 者 は 之 を 失 ひ、我 がために 己 が 生命 を 失 ふその 人 は 之 を 救 はん。
25 人、全世界 を 贏 くとも、己 をうしなひ 己 を 損 せば、何 の 益 あらんや。
26 我 と 我 が 言 とを 恥 づる 者 をば、人 の 子 もまた、己 と 父 と 聖 なる 御使 たちとの 榮光 をもて 來 らん 時 に 恥 づべし。
27 われ 實 をもて 汝 らに 告 ぐ、此處 に 立 つ 者 のうちに、神 の 國 を 見 るまでは 死 を 味 はぬ 者 どもあり』
28 これらの 言 をいひ 給 ひしのち 八日 ばかり 過 ぎて、ペテロ、ヨハネ、ヤコブを 率 きつれ、祈 らんとて 山 に 登 り 給 ふ。
29 かくて 祈 り 給 ふほどに、御顏 の 状 かはり、其 の 衣 白 くなりて 輝 けり。
30 視 よ、二人 の 人 ありてイエスと 共 に 語 る。これはモーセとエリヤとにて、
31 榮光 のうちに 現 れ、イエスのエルサレムにて 遂 げんとする 逝去 のことを 言 ひゐたるなり。
32 ペテロ 及 び 共 にをる 者 いたく 睡氣 ざしたれど、目 を 覺 してイエスの 榮光 および 偕 に 立 つ 二人 を 見 たり。
33 二人 の 者 イエスと 別 れんとする 時、ペテロ、イエスに 言 ふ『君 よ、我 らの 此處 に 居 るは 善 し、我 ら 三 つの 廬 を 造 り、一 つを 汝 のため、一 つをモーセのため、一 つをエリヤの 爲 にせん』彼 は 言 ふ 所 を 知 らざりき。
34 この 事 を 言 ひ 居 るほどに、雲 おこりて 彼 らを 覆 ふ。雲 の 中 に 入 りしとき、弟子 たち 懼 れたり。
35 雲 より 聲 出 でて 言 ふ『これは 我 が 選 びたる 子 なり、汝 ら 之 に 聽 け』
36 聲 出 でしとき、唯 イエスひとり 見 え 給 ふ。弟子 たち 默 して、見 し 事 を 何 一 つ 其 の 頃 たれにも 告 げざりき。
37 次 の 日、山 より 下 りたるに、大 なる 群衆 イエスを 迎 ふ。
38 視 よ、群衆 のうちの 或 人 さけびて 言 ふ『師 よ、願 はくは 我 が 子 を 顧 みたまへ、之 は 我 が 獨子 なり。
39 視 よ、靈 の 憑 くときは 俄 に 叫 ぶ、痙攣 けて 沫 をふかせ、甚 く 害 ひ、漸 くにして 離 るるなり。
40 御弟子 たちに 之 を 逐 ひ 出 すことを 請 ひたれど、能 はざりき』
41 イエス 答 へて 言 ひ 給 ふ『ああ 信 なき 曲 れる 代 なる 哉、われ 何時 まで 汝 らと 偕 にをりて、汝 らを 忍 ばん。汝 の 子 をここに 連 れ 來 れ』
42 乃 ち 來 るとき、惡鬼 これを 打 ち 倒 し、甚 く 痙攣 けさせたり。イエス 穢 れし 靈 を 禁 め、子 を 醫 して、その 父 に 付 したまふ。
43 人々 みな 神 の 稜威 に 驚 きあへり。人々 みなイエスの 爲 し 給 ひし 凡 ての 事 を 怪 しめる 時、イエス 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ、
44 『これらの 言 を 汝 らの 耳 にをさめよ。人 の 子 は 人々 の 手 に 付 さるべし』
45 かれら 此 の 言 を 悟 らず、辨 へぬやうに 隱 されたるなり。また 此 の 言 につきて 問 ふことを 懼 れたり。
46 ここに 弟子 たちの 中 に、誰 か 大 ならんとの 爭論 おこりたれば、
47 イエスその 心 の 爭論 を 知 りて、幼兒 をとり 御側 に 置 きて 言 ひ 給 ふ、
48 『おほよそ 我 が 名 のために 此 の 幼兒 を 受 くる 者 は、我 を 受 くるなり。我 を 受 くる 者 は、我 を 遣 しし 者 を 受 くるなり。汝 らの 中 にて 最 も 小 き 者 は、これ 大 なるなり』
49 ヨハネ 答 へて 言 ふ『君 よ、御名 によりて 惡鬼 を 逐 ひいだす 者 を 見 しが、我等 とともに 從 はぬ 故 に、之 を 止 めたり』
50 イエス 言 ひ 給 ふ『止 むな。汝 らに 逆 はぬ 者 は、汝 らに 附 く 者 なり』
51 イエス 天 に 擧 げらるる 時 滿 ちんとしたれば、御顏 を 堅 くエルサレムに 向 けて 進 まんとし、
52 己 に 先 だちて 使 を 遣 したまふ。彼 ら 往 きてイエスの 爲 に 備 をなさんとて、サマリヤ 人 の 或 村 に 入 りしに、
53 村 人 そのエルサレムに 向 ひて 往 き 給 ふさまなるが 故 に、イエスを 受 けず、
54 弟子 のヤコブ、ヨハネ、これを 見 て 言 ふ『主 よ、我 らが 天 より 火 を 呼 び 下 して 彼 らを 滅 すことを 欲 し 給 ふか』
55 イエス 顧 みて 彼 らを 戒 め、
56 遂 に 相 共 に 他 の 村 に 往 きたまふ。
57 途 を 往 くとき、或 人 イエスに 言 ふ『何處 に 往 き 給 ふとも 我 は 從 はん』
58 イエス 言 ひたまふ『狐 は 穴 あり、空 の 鳥 は 塒 あり、されど 人 の 子 は 枕 する 所 なし』
59 また 或 人 に 言 ひたまふ『我 に 從 へ』かれ 言 ふ『まづ 往 きて 我 が 父 を 葬 ることを 許 し 給 へ』
60 イエス 言 ひたまふ『死 にたる 者 に、その 死 にたる 者 を 葬 らせ、汝 は 往 きて 神 の 國 を 言 ひ 弘 めよ』
61 また 或 人 いふ『主 よ、我 なんぢに 從 はん、されど 先 づ 家 の 者 に 別 を 告 ぐることを 許 し 給 へ』
62 イエス 言 ひたまふ『手 を 鋤 につけてのち 後 を 顧 みる 者 は、神 の 國 に 適 ふ 者 にあらず』
Chapter 10
1 この 事 ののち、主、ほかに 七 十 人 をあげて、自 ら 往 かんとする 町々 處々 へ、おのれに 先 だち 二人 づつを 遣 さんとして 言 ひ 給 ふ、
2 『收穫 はおほく、勞働人 は 少 し。この 故 に 收穫 の 主 に、勞働人 をその 收穫場 に 遣 し 給 はんことを 求 めよ。
3 往 け、視 よ、我 なんぢらを 遣 すは、羔羊 を 豺狼 のなかに 入 るるが 如 し。
4 財布 も 袋 も 鞋 も 携 ふな。また 途 にて 誰 にも 挨拶 すな。
5 孰 の 家 に 入 るとも、先 づ 平安 この 家 にあれと 言 へ。
6 もし 平安 の 子 そこに 居 らば、汝 らの 祝 する 平安 はその 上 に 留 らん。もし 然 らずば、其 の 平安 は 汝 らに 歸 らん。
7 その 家 にとどまりて、與 ふる 物 を 食 ひ 飮 みせよ。勞働人 のその 値 を 得 るは 相應 しきなり。家 より 家 に 移 るな。
8 孰 の 町 に 入 るとも、人々 なんぢらを 受 けなば、汝 らの 前 に 供 ふる 物 を 食 し、
9 其處 にをる 病 のものを 醫 し、また「神 の 國 は 汝 らに 近 づけり」と 言 へ。
10 孰 の 町 に 入 るとも、人々 なんじらを 受 けずば、大路 に 出 でて、
11 「我 らの 足 につきたる 汝 らの 町 の 塵 をも、汝 らに 對 して 拂 ひ 棄 つ、されど 神 の 國 の 近 づけるを 知 れ」と 言 へ。
12 われ 汝 らに 告 ぐ、かの 日 にはソドムの 方 その 町 よりも 耐 へ 易 からん。
13 禍害 なる 哉、コラジンよ、禍害 なる 哉、ベツサイダよ、汝 らの 中 にて 行 ひたる 能力 ある 業 を、ツロとシドンとにて 行 ひしならば、彼 らは 早 く 荒布 をき、灰 のなかに 坐 して、悔改 めしならん。
14 されば 審判 には、ツロとシドンとのかた 汝 等 よりも 耐 へ 易 からん。
15 カペナウムよ、汝 は 天 にまで 擧 げらるべきか、黄泉 にまで 下 らん。
16 汝 等 に 聽 く 者 は 我 に 聽 くなり、汝 らを 棄 つる 者 は 我 を 棄 つるなり。我 を 棄 つる 者 は 我 を 遣 し 給 ひし 者 を 棄 つるなり』
17 七 十 人 よろこび 歸 りて 言 ふ『主 よ、汝 の 名 によりて 惡鬼 すら 我 らに 服 す』
18 イエス 彼 らに 言 ひ 給 ふ『われ 天 より 閃 く 電光 のごとくサタンの 落 ちしを 見 たり。
19 視 よ、われ 汝 らに 蛇・蠍 を 踏 み、仇 の 凡 ての 力 を 抑 ふる 權威 を 授 けたれば、汝 らを 害 ふもの 斷 えてなからん。
20 されど 靈 の 汝 らに 服 するを 喜 ぶな、汝 らの 名 の 天 に 録 されたるを 喜 べ』
21 その 時 イエス 聖 靈 により 喜 びて 言 ひたまふ『天 地 の 主 なる 父 よ、われ 感謝 す、此 等 のことを 智 きもの 慧 き 者 に 隱 して、嬰兒 に 顯 したまへり。父 よ、然 り、此 のごときは 御意 に 適 へるなり。
22 凡 ての 物 は 我 わが 父 より 委 ねられたり。子 の 誰 なるを 知 る 者 は、父 の 外 になく、父 の 誰 なるを 知 る 者 は、子 また 子 の 欲 するままに 顯 すところの 者 の 外 になし』
23 かくて 弟子 たちを 顧 み 竊 に 言 ひ 給 ふ『なんぢらの 見 る 所 を 見 る 眼 は 幸福 なり。
24 われ 汝 らに 告 ぐ、多 くの 預言者 も、王 も、汝 らの 見 るところを 見 んと 欲 したれど 見 ず、汝 らの 聞 く 所 を 聞 かんと 欲 したれど 聞 かざりき』
25 視 よ、或 教法師、立 ちてイエスを 試 みて 言 ふ『師 よ、われ 永遠 の 生命 を 嗣 ぐためには 何 をなすべきか』
26 イエス 言 ひたまふ『律法 に 何 と 録 したるか、汝 いかに 讀 むか』
27 答 へて 言 ふ『なんぢ 心 を 盡 し 精神 を 盡 し、力 を 盡 し、思 を 盡 して、主 たる 汝 の 神 を 愛 すべし。また 己 のごとく 汝 の 隣 を 愛 すべし』
28 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢの 答 は 正 し。之 を 行 へ、さらば 生 くべし』
29 彼 おのれを 義 とせんとしてイエスに 言 ふ『わが 隣 とは 誰 なるか』
30 イエス 答 へて 言 ひたまふ『或 人 エルサレムよりエリコに 下 るとき 強盜 にあひしが、強盜 どもその 衣 を 剥 ぎ、傷 を 負 はせ、半死半生 にして 棄 て 去 りぬ。
31 或 祭司 たまたま 此 の 途 より 下 り、之 を 見 てかなたを 過 ぎ 往 けり。
32 又 レビ 人 も 此處 にきたり、之 を 見 て 同 じく 彼方 を 過 ぎ 往 けり
33 然 るに 或 るサマリヤ 人、旅 して 其 の 許 にきたり、之 を 見 て 憫 み、
34 近寄 りて 油 と 葡萄酒 とを 注 ぎ、傷 を 包 みて 己 が 畜 にのせ、旅舍 に 連 れゆきて 介抱 し、
35 あくる 日 デナリ 二 つを 出 し、主人 に 與 へて「この 人 を 介抱 せよ。費 もし 増 さば、我 が 歸 りくる 時 に 償 はん」と 言 へり。
36 汝 いかに 思 ふか、此 の 三人 のうち、孰 か 強盜 にあひし 者 の 隣 となりしぞ』
37 かれ 言 ふ『その 人 に 憐憫 を 施 したる 者 なり』イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢも 往 きて 其 の 如 くせよ』
38 かくて 彼 ら 進 みゆく 間 に、イエス 或 村 に 入 り 給 へば、マルタと 名 づくる 女 おのが 家 に 迎 へ 入 る。
39 その 姉妹 にマリヤといふ 者 ありて、イエスの 足下 に 坐 し、御言 を 聽 きをりしが、
40 マルタ 饗應 のこと 多 くして 心 いりみだれ、御許 に 進 みよりて 言 ふ『主 よ、わが 姉妹 われを 一人 のこして 働 かするを、何 とも 思 ひ 給 はぬか、彼 に 命 じて 我 を 助 けしめ 給 へ』
41 主、答 へて 言 ひ 給 ふ『マルタよ、マルタよ、汝 さまざまの 事 により、思 ひ 煩 ひて 心勞 す。
42 されど 無 くてならぬものは 多 からず、唯一 つのみ、マリヤは 善 きかたを 選 びたり。此 は 彼 より 奪 ふべからざるものなり』
Chapter 11
1 イエス 或 處 にて 祈 り 居給 ひしが、その 終 りしとき、弟子 の 一人 いふ『主 よ、ヨハネの 其 の 弟子 に 教 へし 如 く、祈 ることを 我 らに 教 へ 給 へ』
2 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢら 祈 るときに 斯 く 言 へ「父 よ、願 はくは 御名 の 崇 められん 事 を。御國 の 來 らん 事 を。
3 我 らの 日用 の 糧 を 日毎 に 與 へ 給 へ。
4 我 らに 負債 ある 凡 ての 者 を 我 ら 免 せば、我 らの 罪 をも 免 し 給 へ。我 らを 嘗試 にあはせ 給 ふな」』
5 また 言 ひ 給 ふ『なんぢらの 中 たれか 友 あらんに、夜半 にその 許 に 往 きて「友 よ、我 に 三 つのパンを 貸 せ。
6 わが 友、旅 より 來 りしに、之 に 供 ふべき 物 なし」と 言 ふ 時、
7 かれ 内 より 答 へて「われを 煩 はすな、戸 ははや 閉 ぢ、子 らは 我 と 共 に 臥所 にあり、起 ちて 與 へ 難 し」といふ 事 ありとも、
8 われ 汝 らに 告 ぐ、友 なるによりては 起 ちて 與 へねど、求 の 切 なるにより、起 きて 其 の 要 する 程 のものを 與 へん。
9 われ 汝 らに 告 ぐ、求 めよ、さらば 與 へられん。尋 ねよ、さらば 見出 さん。門 を 叩 け、さらば 開 かれん。
10 すべて 求 むる 者 は 得、尋 ぬる 者 は 見出 し、門 を 叩 く 者 は 開 かるるなり。
11 汝 等 のうち 父 たる 者、たれか 其 の 子 魚 を 求 めんに、魚 の 代 に 蛇 を 與 へ、
12 卵 を 求 めんに 蠍 を 與 へんや。
13 さらば 汝 ら 惡 しき 者 ながら、善 き 賜物 をその 子 らに 與 ふるを 知 る。まして 天 の 父 は、求 むる 者 に 聖 靈 を 賜 はざらんや』
14 さてイエス 唖 の 惡鬼 を 逐 ひいだし 給 へば、惡鬼 いでて 唖 もの 言 ひしにより、群衆 あやしめり。
15 其 の 中 の 或 者 ども 言 ふ『かれは 惡鬼 の 首 ベルゼブルによりて 惡鬼 を 逐 ひ 出 すなり』
16 また 或 者 どもは、イエスを 試 みんとて 天 よりの 徴 を 求 む。
17 イエスその 思 を 知 りて 言 ひ 給 ふ『すべて 分 れ 爭 ふ 國 は 亡 び、分 れ 爭 ふ 家 は 倒 る。
18 サタンもし 分 れ 爭 はば、その 國 いかで 立 つべき。汝 等 わが 惡鬼 を 逐 ひ 出 すを、ベルゼブルに 由 ると 言 へばなり。
19 我 もしベルゼブルによりて 惡鬼 を 逐 ひ 出 さば、汝 らの 子 は 誰 によりて 之 を 逐 ひ 出 すか。この 故 に 彼 らは 汝 らの 審判 人 となるべし。
20 されど 我 もし 神 の 指 によりて 惡鬼 を 逐 ひ 出 さば、神 の 國 は 既 に 汝 らに 到 れるなり。
21 強 きもの 武具 をよろひて 己 が 屋敷 を 守 るときは、其 の 所有 安全 なり。
22 されど 更 に 強 きもの 來 りて 之 に 勝 つときは、恃 とする 武具 をことごとく 奪 ひて、分捕物 を 分 たん。
23 我 と 偕 ならぬ 者 は 我 にそむき、我 と 共 に 集 めぬ 者 は 散 すなり。
24 穢 れし 靈、人 を 出 づる 時 は、水 なき 處 を 巡 りて 休 を 求 む。されど 得 ずして 言 ふ「わが 出 でし 家 に 歸 らん」
25 歸 りて 其 の 家 の 掃 き 淨 められ、飾 られたるを 見、
26 遂 に 往 きて 己 よりも 惡 しき 他 の 七 つの 靈 を 連 れきたり、共 に 入 りて 此處 に 住 む。さればその 人 の 後 の 状 は、前 よりも 惡 しくなるなり』
27 此 等 のことを 言 ひ 給 ふとき、群衆 の 中 より 或 女、聲 をあげて 言 ふ『幸福 なるかな、汝 を 宿 しし 胎、なんぢの 哺 ひし 乳房 は』
28 イエス 言 ひたまふ『更 に 幸福 なるかな、神 の 言 を 聽 きて 之 を 守 る 人 は』
29 群衆 おし 集 れる 時、イエス 言 ひ 出 でたまふ『今 の 世 は 邪曲 なる 代 にして 徴 を 求 む。されどヨナの 徴 のほかに 徴 は 與 へられじ。
30 ヨナがニネベの 人 に 徴 となりし 如 く、人 の 子 もまた 今 の 代 に 然 らん。
31 南 の 女王、審判 のとき、今 の 代 の 人 と 共 に 起 きて 之 が 罪 を 定 めん。彼 はソロモンの 智慧 を 聽 かんとて 地 の 極 より 來 れり。視 よ、ソロモンよりも 勝 るもの 此處 にあり。
32 ニネベの 人、審判 のとき、今 の 代 の 人 と 共 に 立 ちて 之 が 罪 を 定 めん。彼 らはヨナの 宣 ぶる 言 によりて 悔改 めたり。視 よ、ヨナよりも 勝 るもの 此處 に 在 り。
33 誰 も 燈火 をともして、穴藏 の 中 または 升 の 下 におく 者 なし。入 り 來 る 者 の 光 を 見 んために、燈臺 の 上 に 置 くなり。
34 汝 の 身 の 燈火 は 目 なり、汝 の 目 正 しき 時 は、全身 明 るからん。されど 惡 しき 時 は、身 もまた 暗 からん。
35 この 故 に 汝 の 内 の 光、闇 にはあらぬか、省 みよ。
36 もし 汝 の 全身 明 るくして 暗 き 所 なくば、輝 ける 燈火 に 照 さるる 如 く、その 身 全 く 明 るからん』
37 イエスの 語 り 給 へるとき、或 パリサイ 人 その 家 にて 食事 し 給 はん 事 を 請 ひたれば、入 りて 席 に 著 きたまふ。
38 食事 前 に 手 を 洗 ひ 給 はぬを、此 のパリサイ 人 見 て 怪 しみたれば、
39 主 これに 言 ひたまふ『今 や 汝 らパリサイ 人 は、酒杯 と 盆 との 外 を 潔 くす、されど 汝 らの 内 は 貪慾 と 惡 とにて 滿 つるなり。
40 愚 なる 者 よ、外 を 造 りし 者 は、内 をも 造 りしならずや。
41 唯 その 内 にある 物 を 施 せ。さらば 一切 の 物 なんぢらの 爲 に 潔 くなるなり。
42 禍害 なるかな、パリサイ 人 よ、汝 らは 薄荷・芸香 その 他 あらゆる 野菜 の 十分 の 一 を 納 めて、公平 と 神 に 對 する 愛 とを 等閑 にす、されど 之 は 行 ふべきものなり。而 して 彼 もまた 等閑 にすべきものならず。
43 禍害 なるかな、パリサイ 人 よ、汝 らは 會堂 の 上座、市場 にての 敬禮 を 喜 ぶ。
44 禍害 なるかな、汝 らは 露 れぬ 墓 のごとし。其 の 上 を 歩 む 人 これを 知 らぬなり』
45 教法師 の 一人、答 へて 言 ふ『師 よ、斯 かることを 言 ふは、我 らをも 辱 しむるなり』
46 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢら 教法師 も 禍害 なる 哉。なんぢら 擔 ひ 難 き 荷 を 人 に 負 せて、自 ら 指 一 つだに 其 の 荷 につけぬなり。
47 禍害 なるかな、汝 らは 預言者 たちの 墓 を 建 つ、之 を 殺 しし 者 は 汝 らの 先祖 なり。
48 げに 汝 らは 先祖 の 所作 を 可 しとする 證人 ぞ。それは 彼 らは 之 を 殺 し、汝 らは 其 の 墓 を 建 つればなり。
49 この 故 に 神 の 智慧 いへる 言 あり、われ 預言者 と 使徒 とを 彼 らに 遣 さんに、その 中 の 或 者 を 殺 し、また 逐 ひ 苦 しめん。
50 世 の 創 より 流 されたる 凡 ての 預言者 の 血、
51 即 ちアベルの 血 より、祭壇 と 聖所 との 間 にて 殺 されたるザカリヤの 血 に 至 るまでを、今 の 代 に 糺 すべきなり。然 り、われ 汝 らに 告 ぐ、今 の 代 は 糺 さるべし。
52 禍害 なるかな 教法師 よ、なんぢらは 知識 の 鍵 を 取 り 去 りて 自 ら 入 らず、入 らんとする 人 をも 止 めしなり』
53 此處 より 出 で 給 へば、學者・パリサイ 人 ら 烈 しく 詰 め 寄 せて、樣々 のことを 詰 りはじめ、
54 その 口 より 何事 をか 捉 へんと 待構 へたり。
Chapter 12
1 その 時、無數 の 人 あつまりて、群衆 ふみ 合 ふばかりなり。イエスまづ 弟子 たちに 言 ひ 出 で 給 ふ『なんぢら、パリサイ 人 のパンだねに 心 せよ、これ 僞善 なり。
2 蔽 はれたるものに 露 れぬはなく、隱 れたるものに 知 られぬはなし。
3 この 故 に 汝 らが 暗 きにて 言 ふことは、明 るきにて 聞 え、部屋 の 内 にて 耳 によりて 語 りしことは、屋 の 上 にて 宣 べらるべし。
4 我 が 友 たる 汝 らに 告 ぐ。身 を 殺 して 後 に 何 をも 爲 し 得 ぬ 者 どもを 懼 るな。
5 懼 るべきものを 汝 らに 示 さん。殺 したる 後 ゲヘナに 投 げ 入 るる 權威 ある 者 を 懼 れよ。われ 汝 らに 告 ぐ、げに 之 を 懼 れよ。
6 五 羽 の 雀 は 二錢 にて 賣 るにあらずや、然 るに 其 の 一 羽 だに 神 の 前 に 忘 れらるる 事 なし。
7 汝 らの 頭 の 髮 までもみな 數 へらる。懼 るな、汝 らは 多 くの 雀 よりも 優 るるなり。
8 われ 汝 らに 告 ぐ、凡 そ 人 の 前 に 我 を 言 ひあらはす 者 を、人 の 子 もまた 神 の 使 たちの 前 にて 言 ひあらはさん。
9 されど 人 の 前 にて 我 を 否 む 者 は、神 の 使 たちの 前 にて 否 まれん。
10 凡 そ 言 をもて 人 の 子 に 逆 ふ 者 は 赦 されん。されど 聖 靈 を 瀆 すものは 赦 されじ。
11 人 なんぢらを 會堂、或 は 司、あるひは 權威 ある 者 の 前 に 引 きゆかん 時、いかに 何 を 答 へ、または 何 を 言 はんと 思 ひ 煩 ふな。
12 聖 靈 そのとき 言 ふべきことを 教 へ 給 はん』
13 群衆 のうちの 或 人 いふ『師 よ、わが 兄弟 に 命 じて、嗣業 を 我 に 分 たしめ 給 へ』
14 之 に 言 ひたまふ『人 よ、誰 が 我 を 立 てて 汝 らの 裁判人 また 分配 者 とせしぞ』
15 かくて 人々 に 言 ひたまふ『愼 みて 凡 ての 慳貪 をふせげ、人 の 生命 は 所有 の 豐 なるには 因 らぬなり』
16 また 譬 を 語 りて 言 ひ 給 ふ『ある 富 める 人、その 畑 豐 に 實 りたれば、
17 心 の 中 に 議 りて 言 ふ「われ 如何 にせん、我 が 作物 を 藏 めおく 處 なし」
18 遂 に 言 ふ「われ 斯 く 爲 さん、わが 倉 を 毀 ち、更 に 大 なるものを 建 てて、其處 にわが 穀物 および 善 き 物 をことごとく 藏 めん。
19 かくてわが 靈魂 に 言 はん、靈魂 よ、多年 を 過 すに 足 る 多 くの 善 き 物 を 貯 へたれば、安 んぜよ、飮食 せよ、樂 しめよ」
20 然 るに 神 かれに「愚 なる 者 よ、今宵 なんぢの 靈魂 とらるべし、さらば 汝 の 備 へたる 物 は、誰 がものとなるべきぞ」と 言 ひ 給 へり。
21 己 のために 財 を 貯 へ、神 に 對 して 富 まぬ 者 は 斯 くのごとし』
22 また 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『この 故 にわれ 汝 らに 告 ぐ、何 を 食 はんと 生命 のことを 思 ひ 煩 ひ、何 を 著 んと 體 のことを 思 ひ 煩 ふな。
23 生命 は 糧 にまさり、體 は 衣 に 勝 るなり。
24 鴉 を 思 ひ 見 よ、播 かず、刈 らず、納屋 も 倉 もなし。然 るに 神 は 之 を 養 ひたまふ、汝 ら 鳥 に 優 るること 幾許 ぞや。
25 汝 らの 中 たれか 思 ひ 煩 ひて、身 の 長 一尺 を 加 へ 得 んや。
26 されば 最 小 き 事 すら 能 はぬに、何 ぞ 他 のことを 思 ひ 煩 ふか。
27 百合 を 思 ひ 見 よ、紡 がず、織 らざるなり。されど 我 なんぢらに 告 ぐ、榮華 を 極 めたるソロモンだに、其 の 服裝 この 花 の 一 つにも 及 かざりき。
28 今日 ありて、明日 爐 に 投 げ 入 れらるる 野 の 草 をも、神 は 斯 く 裝 ひ 給 へば、況 て 汝 らをや、ああ 信仰 うすき 者 よ、
29 なんぢら 何 を 食 ひ 何 を 飮 まんと 求 むな、また 心 を 動 かすな。
30 是 みな 世 の 異邦人 の 切 に 求 むる 所 なれど、汝 らの 父 は、此 等 の 物 のなんぢらに 必要 なるを 知 り 給 へばなり。
31 ただ 父 の 御國 を 求 めよ。さらば 此 等 の 物 は、なんぢらに 加 へらるべし。
32 懼 るな、小 き 群 よ、なんぢらに 御國 を 賜 ふことは、汝 らの 父 の 御意 なり。
33 汝 らの 所有 を 賣 りて 施濟 をなせ。己 がために 舊 びぬ 財布 をつくり、盡 きぬ 財寶 を 天 に 貯 へよ。かしこは 盜人 も 近 づかず、蟲 も 壞 らぬなり、
34 汝 らの 財寶 のある 所 には、汝 らの 心 もあるべし。
35 なんぢら 腰 に 帶 し、燈火 をともして 居 れ。
36 主人、婚筵 より 歸 り 來 りて 戸 を 叩 かば、直 ちに 開 くために 待 つ 人 のごとくなれ。
37 主人 の 來 るとき、目 を 覺 しをるを 見 らるる 僕 どもは 幸福 なるかな。われ 誠 に 汝 らに 告 ぐ、主人 帶 して 其 の 僕 どもを 食事 の 席 に 就 かせ、進 みて 給仕 すべし。
38 主人、夜 の 半 ごろ 若 くは 夜 の 明 くる 頃 に 來 るとも、かくの 如 くなるを 見 らるる 僕 どもは 幸福 なり。
39 なんぢら 之 を 知 れ、家主 もし 盜人 いづれの 時 來 るかを 知 らば、その 家 を 穿 たすまじ。
40 汝 らも 備 へをれ。人 の 子 は 思 はぬ 時 に 來 ればなり』
41 ペテロ 言 ふ『主 よ、この 譬 を 言 ひ 給 ふは 我 らにか、また 凡 ての 人 にか』
42 主 いひ 給 ふ『主人 が 時 に 及 びて 僕 どもに 定 の 糧 を 與 へさする 爲 に、その 僕 どもの 上 に 立 つる 忠實 にして 慧 き 支配人 は 誰 なるか、
43 主人 のきたる 時、かく 爲 し 居 るを 見 らるる 僕 は 幸福 なるかな。
44 われ 實 をもて 汝 らに 告 ぐ、主人 すべての 所有 を 彼 に 掌 どらすべし。
45 若 しその 僕、心 のうちに、主人 の 來 るは 遲 しと 思 ひ、僕・婢女 をたたき、飮食 して 醉 ひ 始 めなば、
46 その 僕 の 主人、おもはぬ 日 知 らぬ 時 に 來 りて、之 を 烈 しく 笞 うち、その 報 を 不 忠 者 と 同 じうせん。
47 主人 の 意 を 知 りながら 用意 せず、又 その 意 に 從 はぬ 僕 は、笞 うたるること 多 からん。
48 されど 知 らずして 打 たるべき 事 をなす 者 は、笞 うたるること 少 からん。多 く 與 へらるる 者 は、多 く 求 められん。多 く 人 に 托 くれば、更 に 多 くその 人 より 請 ひ 求 むべし。
49 我 は 火 を 地 に 投 ぜんとて 來 れり。此 の 火 すでに 燃 えたらんには、我 また 何 をか 望 まん。
50 されど 我 には 受 くべきバプテスマあり。その 成 し 遂 げらるるまでは、思 ひ 逼 ること 如何 ばかりぞや。
51 われ 地 に 平和 を 與 へんために 來 ると 思 ふか。われ 汝 らに 告 ぐ、然 らず、反 つて 分爭 なり。
52 今 よりのち 一家 に 五 人 あらば、三人 は 二人 に、二人 は 三人 に 分 れ 爭 はん。
53 父 は 子 に、子 は 父 に、母 は 娘 に、娘 は 母 に、姑姆 は 嫁 に、嫁 は 姑姆 に 分 れ 爭 はん』
54 イエスまた 群衆 に 言 ひ 給 ふ『なんぢら 雲 の 西 より 起 るを 見 れば、直 ちに 言 ふ「急雨 きたらん」と、果 して 然 り。
55 また 南 風 ふけば、汝 等 いふ「強 き 暑 あらん」と、果 して 然 り。
56 僞善者 よ、汝 ら 天 地 の 氣色 を 辨 ふることを 知 りて、今 の 時 を 辨 ふること 能 はぬは 何 ぞや。
57 また 何 故 みづから 正 しき 事 を 定 めぬか。
58 なんぢ 訴 ふる 者 とともに 司 に 往 くとき、途 にて 和解 せんことを 力 めよ。恐 らくは 訴 ふる 者 なんぢを 審判 人 に 引 きゆき、審判 人 なんぢを 下役 にわたし、下役 なんぢを 獄 に 投 げ 入 れん。
59 われ 汝 に 告 ぐ、一 レプタも 殘 りなく 償 はずば、其處 に 出 づること 能 はじ』
Chapter 13
1 その 折 しも 或 人々 きたりて、ピラトがガリラヤ 人 らの 血 を 彼 らの 犧牲 にまじへたりし 事 をイエスに 告 げたれば、
2 答 へて 言 ひ 給 ふ『かのガリラヤ 人 は 斯 かることに 遭 ひたる 故 に、凡 てのガリラヤ 人 に 勝 れる 罪人 なりしと 思 ふか。
3 われ 汝 らに 告 ぐ、然 らず、汝 らも 悔改 めずば 皆 おなじく 亡 ぶべし。
4 又 シロアムの 櫓 たふれて、壓 し 殺 されし 十 八人 は、エルサレムに 住 める 凡 ての 人 に 勝 りて、罪 の 負債 ある 者 なりしと 思 ふか。
5 われ 汝 らに 告 ぐ、然 らず、汝 らも 悔改 めずば、みな 斯 くのごとく 亡 ぶべし』
6 又 この 譬 を 語 りたまふ『或 人 おのが 葡萄園 に 植 ゑありし 無花果 の 樹 に 來 りて、果 を 求 むれども 得 ずして、
7 園丁 に 言 ふ「視 よ、われ 三年 きたりて 此 の 無花果 の 樹 に 果 を 求 むれども 得 ず。これを 伐 り 倒 せ、何 ぞ 徒 らに 地 を 塞 ぐか」
8 答 へて 言 ふ「主 よ、今年 も 容 したまへ、我 その 周圍 を 掘 りて 肥料 せん。
9 そののち 果 を 結 ばば 善 し、もし 結 ばずば 伐 り 倒 したまへ」』
10 イエス 安息 日 に 或 會堂 にて 教 えたまふ 時、
11 視 よ、十 八 年 のあひだ 病 の 靈 に 憑 かれたる 女 あり、屈 まりて 少 しも 伸 ぶること 能 はず。
12 イエスこの 女 を 見、呼 び 寄 せて『女 よ、なんぢは 病 より 解 かれたり』と 言 ひ、
13 之 に 手 を 按 きたまへば、立刻 に 身 を 直 にして 神 を 崇 めたり。
14 會堂 司 イエスの 安息 日 に 病 を 醫 し 給 ひしことを 憤 ほり、答 へて 群衆 に 言 ふ『働 くべき 日 は 六日 あり、その 間 に 來 りて 醫 されよ。安息 日 には 爲 ざれ』
15 主 こたへて 言 ひたまふ『僞善者 らよ、汝 等 おのおの 安息 日 には、己 が 牛 または 驢馬 を 小屋 より 解 きいだし、水 飼 はんとて 牽 き 往 かぬか。
16 さらば 長 き 十 八 年 の 間 サタンに 縛 られたるアブラハムの 娘 なる 此 の 女 は、安息 日 にその 繋 より 解 かるべきならずや』
17 イエス 此 等 のことを 言 ひ 給 へば、逆 ふ 者 はみな 恥 ぢ、群衆 は 擧 りてその 爲 し 給 へる 榮光 ある 凡 ての 業 を 喜 べり。
18 かくてイエス 言 ひたまふ『神 の 國 は 何 に 似 たるか、我 これを 何 に 擬 へん、
19 一粒 の 芥種 のごとし。人 これを 取 りて 己 の 園 に 播 きたれば、育 ちて 樹 となり、空 の 鳥 その 枝 に 宿 れり』
20 また 言 ひたまふ『神 の 國 を 何 に 擬 へんか、
21 パン 種 のごとし。女 これを 取 りて、三 斗 の 粉 の 中 に 入 るれば、ことごとく 脹 れいだすなり』
22 イエス 教 へつつ 町々 村々 を 過 ぎて、エルサレムに 旅 し 給 ふとき、
23 或 人 いふ『主 よ、救 はるる 者 は 少 きか』
24 イエス 人々 に 言 ひたまふ『力 を 盡 して 狭 き 門 より 入 れ。我 なんぢらに 告 ぐ、入 らん 事 を 求 めて 入 り 能 はぬ 者 おほからん。
25 家主 おきて 門 を 閉 ぢたる 後、なんぢら 外 に 立 ちて「主 よ、我 らに 開 き 給 へ」と 言 ひつつ 門 を 叩 き 始 めんに、主人 こたへて「われ 汝 らが 何處 の 者 なるかを 知 らず」と 言 はん。
26 その 時「われらは 御前 にて 飮食 し、なんぢは、我 らの 町 の 大路 にて 教 へ 給 へり」と 言 ひ 出 でんに、
27 主人 こたへて「われ 汝 らが 何處 の 者 なるかを 知 らず、惡 をなす 者 どもよ、皆 われを 離 れ 去 れ」と 言 はん。
28 汝 らアブラハム、イサク、ヤコブ 及 び 凡 ての 預言者 の、神 の 國 に 居 り、己 らの 逐 ひ 出 さるるを 見 ば、其處 にて 哀哭・切齒 する 事 あらん。
29 また 人々、東 より 西 より 南 より 北 より 來 りて、神 の 國 の 宴 に 就 くべし。
30 視 よ、後 なる 者 の 先 になり、先 なる 者 の 後 になる 事 あらん』
31 そのとき 或 パリサイ 人 らイエスに 來 りて 言 ふ『いでて 此處 を 去 り 給 へ、ヘロデ 汝 を 殺 さんとす』
32 答 へて 言 ひ 給 ふ『往 きてかの 狐 に 言 へ。視 よ、われ 今日 明日、惡鬼 を 逐 ひ 出 し、病 を 醫 し、而 して 三日 めに 全 うせられん。
33 されど 今日 も 明日 も 次 の 日 も 我 は 進 み 往 くべし。それ 預言者 のエルサレムの 外 にて 死 ぬることは 有 るまじきなり。
34 噫 エルサレム、エルサレム、預言者 たちを 殺 し、遣 されたる 人々 を 石 にて 撃 つ 者 よ、牝鷄 の 己 が 雛 を 翼 のうちに 集 むるごとく、我 なんぢの 子 どもを 集 めんとせしこと 幾度 ぞや。されど 汝 らは 好 まざりき。
35 視 よ、汝 らの 家 は 棄 てられて 汝 らに 遺 らん。我 なんぢらに 告 ぐ、「讃 むべきかな、主 の 名 によりて 來 る 者」と、汝 らの 言 ふ 時 の 至 るまでは、我 を 見 ざるべし』
Chapter 14
1 イエス 安息 日 に 食事 せんとて、或 パリサイ 人 の 頭 の 家 に 入 り 給 へば、人々 これを 窺 ふ。
2 視 よ、御前 に 水腫 をわづらふ 人 ゐたれば、
3 イエス 答 へて 教法師 とパリサイ 人 とに 言 ひたまふ『安息 日 に 人 を 醫 すことは 善 しや、否 や』
4 かれら 默然 たり。イエスその 人 を 執 り、醫 して 去 らしめ、
5 且 かれらに 言 ひ 給 ふ『なんぢらの 中 その 子 あるひは 其 の 牛、井 に 陷 らんに、安息 日 には 直 ちに 之 を 引揚 げぬ 者 あるか』
6 彼 等 これに 對 して 物 言 ふこと 能 はず。
7 イエス 招 かれたる 者 の 上席 をえらぶを 見、譬 をかたりて 言 ひ 給 ふ、
8 『なんぢ 婚筵 に 招 かるるとき、上席 に 著 くな。恐 らくは 汝 よりも 貴 き 人 の 招 かれんに、
9 汝 と 彼 とを 招 きたる 者 きたりて「この 人 に 席 を 讓 れ」と 言 はん。さらば 其 の 時 なんぢ 恥 ぢて 末席 に 往 きはじめん。
10 招 かるるとき、寧 ろ 往 きて 末席 に 著 け、さらば 招 きたる 者 きたりて「友 よ、上 に 進 め」と 言 はん。その 時 なんぢ 同席 の 者 の 前 に 譽 あるべし。
11 凡 そおのれを 高 うする 者 は 卑 うせられ、己 を 卑 うする 者 は 高 うせらるるなり』
12 また 己 を 招 きたる 者 にも 言 ひ 給 ふ『なんぢ 晝餐 または 夕餐 を 設 くるとき、朋友・兄弟・親族・富 める 隣 人 などをよぶな。恐 らくは 彼 らも 亦 なんぢを 招 きて 報 をなさん。
13 饗宴 を 設 くる 時 は、寧 ろ 貧 しき 者・不具・跛者・盲人 などを 招 け。
14 彼 らは 報 ゆること 能 はぬ 故 に、なんぢ 幸福 なるべし。正 しき 者 の 復活 の 時 に 報 いらるるなり』
15 同席 の 者 の 一人 これらの 事 を 聞 きてイエスに 言 ふ『おほよそ 神 の 國 にて 食事 する 者 は 幸福 なり』
16 之 に 言 ひたまふ『或 人、盛 なる 夕餐 を 設 けて、多 くの 人 を 招 く。
17 夕餐 の 時 いたりて、招 きおきたる 者 の 許 に 僕 を 遣 して「來 れ、既 に 備 りたり」と 言 はしめたるに、
18 皆 ひとしく 辭 りはじむ。初 の 者 いふ「われ 田地 を 買 へり。往 きて 見 ざるを 得 ず。請 ふ、許 されんことを」
19 他 の 者 いふ「われ 五 耜 の 牛 を 買 へり、之 を 驗 すために 往 くなり。請 ふ、許 されんことを」
20 また 他 も 者 いふ「われ 妻 を 娶 れり、此 の 故 に 往 くこと 能 はず」
21 僕 かへりて 此 等 の 事 をその 主人 に 告 ぐ、家主 いかりて 僕 に 言 ふ「とく 町 の 大路 と 小路 とに 往 きて、貧 しき 者・不具 者・盲人・跛者 などを 此處 に 連 れきたれ」
22 僕 いふ「主 よ、仰 のごとく 爲 したれど、尚 ほ 餘 の 席 あり」
23 主人、僕 に 言 ふ「道 や 籬 の 邊 にゆき、人々 を 強 ひて 連 れきたり、我 が 家 に 充 たしめよ。
24 われ 汝 らに 告 ぐ、かの 招 きおきたる 者 のうち、一人 だに 我 が 夕餐 を 味 ひ 得 る 者 なし」』
25 さて 大 なる 群衆 イエスに 伴 ひゆきたれば、顧 みて 之 に 言 ひたまふ、
26 『人 もし 我 に 來 りて、その 父 母・妻 子・兄弟・姉妹・己 が 生命 までも 憎 まずば、我 が 弟子 となるを 得 ず。
27 また 己 が 十字架 を 負 ひて 我 に 從 ふ 者 ならでは、我 が 弟子 となるを 得 ず。
28 汝 らの 中 たれか 櫓 を 築 かんと 思 はば、先 づ 坐 して 其 の 費 をかぞへ、己 が 所有、竣工 までに 足 るか 否 かを 計 らざらんや。
29 然 らずして 基 を 据 ゑ、もし 成就 すること 能 はずば、見 る 者 みな 嘲笑 ひて、
30 「この 人 は 築 きかけて 成就 すること 能 はざりき」と 言 はん。
31 又 いづれの 王 か 出 でて 他 の 王 と 戰爭 をせんに、先 づ 坐 して、此 の 一萬 人 をもて、かの 二萬 人 を 率 ゐきたる 者 に 對 ひ 得 るか 否 か 籌 らざらんや。
32 もし 及 かずば、敵 なほ 遠 く 隔 るうちに、使 を 遣 して 和睦 を 請 ふべし。
33 かくのごとく、汝 らの 中 その 一切 の 所有 を 退 くる 者 ならでは、我 が 弟子 となるを 得 ず。
34 鹽 は 善 きものなり、然 れど 鹽 もし 效力 を 失 はば、何 によりてか 味 つけられん。
35 土 にも 肥料 にも 適 せず、外 に 棄 てらるるなり。聽 く 耳 ある 者 は 聽 くべし』
Chapter 15
1 取税人、罪人 ども、みな 御言 を 聽 かんとて 近寄 りたれば、
2 パリサイ 人・學者 ら 呟 きて 言 ふ、『この 人 は 罪人 を 迎 へて 食 を 共 にす』
3 イエス 之 に 譬 を 語 りて 言 ひ 給 ふ、
4 『なんぢらの 中 たれか 百匹 の 羊 を 有 たんに、若 その 一匹 を 失 はば、九 十 九 匹 を 野 におき、往 きて 失 せたる 者 を 見 出 すまでは 尋 ねざらんや。
5 遂 に 見出 さば、喜 びて 之 を 己 が 肩 にかけ、
6 家 に 歸 りて 其 の 友 と 隣 人 とを 呼 び 集 めて 言 はん「我 とともに 喜 べ、失 せたる 我 が 羊 を 見出 せり」
7 われ 汝 らに 告 ぐ、かくのごとく 悔改 むる 一人 の 罪人 のためには、悔改 の 必要 なき 九 十 九 人 の 正 しき 者 にも 勝 りて、天 に 歡喜 あるべし。
8 又 いづれの 女 か 銀貨 十 枚 を 有 たんに、若 しその 一 枚 を 失 はば、燈火 をともし、家 を 掃 きて 見 出 すまでは 懇 ろに 尋 ねざらんや。
9 遂 に 見出 さば、其 の 友 と 隣 人 とを 呼 び 集 めて 言 はん、「我 とともに 喜 べ、わが 失 ひたる 銀貨 を 見出 せり」
10 われ 汝 らに 告 ぐ、かくのごとく 悔改 むる 一人 の 罪人 のために、神 の 使 たちの 前 に 歡喜 あるべし』
11 また 言 ひたまふ『或 人 に 二人 の 息子 あり、
12 弟、父 に 言 ふ「父 よ、財産 のうち 我 が 受 くべき 分 を 我 にあたへよ」父 その 身代 を 二人 に 分 けあたふ。
13 幾日 も 經 ぬに、弟 おのが 物 をことごとく 集 めて、遠國 にゆき、其處 にて 放蕩 にその 財産 を 散 せり。
14 ことごとく 費 したる 後、その 國 に 大 なる 饑饉 おこり、自 ら 乏 しくなり 始 めたれば、
15 往 きて 其 の 地 の 或 人 に 依附 りしに、其 の 人 かれを 畑 に 遣 して 豚 を 飼 はしむ。
16 かれ 豚 の 食 ふ 蝗 豆 にて、己 が 腹 を 充 さんと 思 ふ 程 なれど、何 をも 與 ふる 人 なかりき。
17 此 のとき 我 に 反 りて 言 ふ『わが 父 の 許 には 食物 あまれる 雇人 いくばくぞや、然 るに 我 は 飢 ゑてこの 處 に 死 なんとす。
18 起 ちて 我 が 父 にゆき「父 よ、われは 天 に 對 し、また 汝 の 前 に 罪 を 犯 したり。
19 今 より 汝 の 子 と 稱 へらるるに 相應 しからず、雇人 の 一人 のごとく 爲 し 給 へ』と 言 はん」
20 乃 ち 起 ちて 其 の 父 のもとに 往 く。なほ 遠 く 隔 りたるに、父 これを 見 て 憫 み、走 りゆき、其 の 頸 を 抱 きて 接吻 せり。
21 子、父 にいふ「父 よ、我 は 天 に 對 し 又 なんぢの 前 に 罪 を 犯 したり。今 より 汝 の 子 と 稱 へらるるに 相應 しからず」
22 されど 父、僕 どもに 言 ふ「とくとく 最上 の 衣 を 持 ち 來 りて 之 に 著 せ、その 手 に 指輪 をはめ、其 の 足 に 鞋 をはかせよ。
23 また 肥 えたる 犢 を 牽 ききたりて 屠 れ、我 ら 食 して 樂 しまん。
24 この 我 が 子、死 にて 復 生 き、失 せて 復 得 られたり」かくて 彼 ら 樂 しみ 始 む。
25 然 るに 其 の 兄、畑 にありしが、歸 りて 家 に 近 づきたるとき、音樂 と 舞踏 との 音 を 聞 き、
26 僕 の 一人 を 呼 びてその 何事 なるかを 問 ふ。
27 答 へて 言 ふ「なんぢの 兄弟 歸 りたり、その 恙 なきを 迎 へたれば、汝 の 父 肥 えたる 犢 を 屠 れるなり」
28 兄 怒 りて 内 に 入 ることを 好 まざりしかば、父 いでて 勸 めしに、
29 答 へて 父 に 言 ふ「視 よ、我 は 幾歳 もなんぢに 仕 へて、未 だ 汝 の 命令 に 背 きし 事 なきに、我 には 小 山羊 一匹 だに 與 へて 友 と 樂 しましめし 事 なし。
30 然 るに 遊女 らと 共 に、汝 の 身代 を 食 ひ 盡 したる 此 の 汝 の 子 歸 り 來 れば、之 がために 肥 えたる 犢 を 屠 れり」
31 父 いふ「子 よ、なんぢは 常 に 我 とともに 在 り、わが 物 は 皆 なんぢの 物 なり。
32 されど 此 の 汝 の 兄弟 は 死 にて 復 生 き、失 せて 復 得 られたれば、我 らの 樂 しみ 喜 ぶは 當然 なり」』
Chapter 16
1 イエスまた 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『或 富 める 人 に 一人 の 支配人 あり、主人 の 所有 を 費 しをりと 訴 へられたれば、
2 主人 かれを 呼 びて 言 ふ「わが 汝 につきて 聞 く 所 は、これ 何事 ぞ、務 の 報告 をいだせ、汝 こののち 支配人 たるを 得 じ」
3 支配人 心 のうちに 言 ふ「如何 にせん、主人 わが 職 を 奪 ふ。われ 土 掘 るには 力 なく、物 乞 ふは 恥 かし。
4 我 なすべき 事 こそ 知 りたれ、斯 く 爲 ば 職 を 罷 めらるるとき、人々 その 家 に 我 を 迎 ふるならん」とて、
5 主人 の 負債者 を 一人 一人 呼 びよせて、初 の 者 に 言 ふ「なんぢ 我 が 主人 より 負 ふところ 何 程 あるか」
6 答 へて 言 ふ「油、百 樽」支配人 いふ「なんぢの 證書 をとり、早 く 坐 して 五 十 と 書 け」
7 又 ほかの 者 に 言 ふ「負 ふところ 何 程 あるか」答 へて 言 ふ「麥、百 石」支配人 いふ「なんぢの 證書 をとりて 八 十 と 書 け」
8 ここに 主人、不義 なる 支配人 の 爲 しし 事 の 巧 なるによりて、彼 を 譽 めたり。この 世 の 子 らは、己 が 時代 の 事 には 光 の 子 らよりも 巧 なり。
9 われ 汝 らに 告 ぐ、不義 の 富 をもて、己 がために 友 をつくれ。さらば 富 の 失 する 時、その 友 なんぢらを 永遠 の 住居 に 迎 へん。
10 小事 に 忠 なる 者 は 大事 にも 忠 なり。小事 に 不 忠 なる 者 は 大事 にも 不 忠 なり。
11 さらば 汝 等 もし 不義 の 富 に 忠 ならずば、誰 か 眞 の 富 を 汝 らに 任 すべき。
12 また 汝 等 もし 人 のものに 忠 ならずば、誰 か 汝 等 のものを 汝 らに 與 ふべき。
13 僕 は 二人 の 主 に 兼 ね 事 ふること 能 はず、或 は 之 を 憎 み 彼 を 愛 し、或 は 之 に 親 しみ 彼 を 輕 しむべければなり。汝 ら 神 と 富 とに 兼 ね 事 ふること 能 はず』
14 ここに 慾 深 きパリサイ 人 ら、この 凡 ての 事 を 聞 きてイエスを 嘲笑 ふ。
15 イエス 彼 らに 言 ひ 給 ふ『なんぢらは 人 のまへに 己 を 義 とする 者 なり。されど 神 は 汝 らの 心 を 知 りたまふ。人 のなかに 尊 ばるる 者 は、神 のまへに 憎 まるる 者 なり。
16 律法 と 預言者 とはヨハネまでなり、その 時 より 神 の 國 は 宣傳 へられ、人 みな 烈 しく 攻 めて 之 に 入 る。
17 されど 律法 の 一畫 の 落 つるよりも、天 地 の 過 ぎ 往 くは 易 し。
18 凡 てその 妻 を 出 して、他 に 娶 る 者 は、姦淫 を 行 ふなり。また 夫 より 出 されたる 女 を 娶 る 者 も、姦淫 を 行 ふなり。
19 或 富 める 人 あり、紫色 の 衣 と 細布 とを 著 て、日々 奢 り 樂 しめり。
20 又 ラザロといふ 貧 しき 者 あり、腫物 にて 腫 れただれ、富 める 人 の 門 に 置 かれ、
21 その 食卓 より 落 つる 物 にて 飽 かんと 思 ふ。而 して 犬 ども 來 りて 其 の 腫物 を 舐 れり。
22 遂 にこの 貧 しきもの 死 に、御使 たちに 携 へられてアブラハムの 懷裏 に 入 れり。富 める 人 もまた 死 にて 葬 られしが、
23 黄泉 にて 苦惱 の 中 より 目 を 擧 げて、遙 にアブラハムと 其 の 懷裏 にをるラザロとを 見 る。
24 乃 ち 呼 びて 言 ふ「父 アブラハムよ、我 を 憐 みて、ラザロを 遣 し、その 指 の 先 を 水 に 浸 して 我 が 舌 を 冷 させ 給 へ、我 はこの 焔 のなかに 悶 ゆるなり」
25 アブラハム 言 ふ「子 よ、憶 へ、なんぢは 生 ける 間 なんぢの 善 き 物 を 受 け、ラザロは 惡 しき 物 を 受 けたり。今 ここにて 彼 は 慰 められ、汝 は 悶 ゆるなり。
26 然 のみならず、此處 より 汝 らに 渡 り 往 かんとすとも 得 ず、其處 より 我 らに 來 り 得 ぬために、我 らと 汝 らとの 間 に 大 なる 淵 定 めおかれたり」
27 富 める 人 また 言 ふ「さらば 父 よ、願 はくは 我 が 父 の 家 にラザロを 遣 したまへ。
28 我 に 五 人 の 兄弟 あり、この 苦痛 のところに 來 らぬよう、彼 らに 證 せしめ 給 へ」
29 アブラハム 言 ふ「彼 らにはモーセと 預言者 とあり、之 に 聽 くべし」
30 富 める 人 いふ「いな、父 アブラハムよ、もし 死人 の 中 より 彼 らに 往 く 者 あらば、悔改 めん」
31 アブラハム 言 ふ「もしモーセと 預言者 とに 聽 かずば、たとひ 死人 の 中 より 甦 へる 者 ありとも、其 の 勸 を 納 れざるべし」』
Chapter 17
1 イエス 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『躓物 は 必 ず 來 らざるを 得 ず、されど 之 を 來 らす 者 は 禍害 なるかな。
2 この 小 き 者 の 一人 を 躓 かするよりは、寧 ろ 碾臼 の 石 を 頸 に 懸 けられて、海 に 投 げ 入 れられんかた 善 きなり。
3 汝 等 みづから 心 せよ。もし 汝 の 兄弟 罪 を 犯 さば、これを 戒 めよ。もし 悔改 めなば 之 をゆるせ。
4 もし 一日 に 七度 なんぢに 罪 を 犯 し、七 たび「悔改 む」と 言 ひて、汝 に 歸 らば 之 をゆるせ』
5 使徒 たち 主 に 言 ふ『われらの 信仰 を 増 したまへ』
6 主 いひ 給 ふ『もし 芥種 一粒 ほどの 信仰 あらば、此 の 桑 の 樹 に「拔 けて 海 に 植 れ」と 言 ふとも 汝 らに 從 ふべし。
7 汝 等 のうち 誰 か 或 は 耕 し、或 は 牧 する 僕 を 有 たんに、その 僕 畑 より 歸 りたる 時、これに 對 ひて「直 ちに 來 り 食 に 就 け」と 言 ふ 者 あらんや。
8 反 つて「わが 夕餐 の 備 をなし、我 が 飮食 するあひだ、帶 して 給仕 せよ、然 る 後 に、なんぢ 飮食 すべし」と 言 ふにあらずや。
9 僕、命 ぜられし 事 を 爲 したればとて、主人 これに 謝 すべきか。
10 かくのごとく 汝 らも 命 ぜられし 事 をことごとく 爲 したる 時「われらは 無 益 なる 僕 なり、爲 すべき 事 を 爲 したるのみ」と 言 へ』
11 イエス、エルサレムに 往 かんとて、サマリヤとガリラヤとの 間 をとほり、
12 或 村 に 入 り 給 ふとき、十 人 の 癩病人 これに 遇 ひて、遙 に 立 ち 止 り、
13 聲 を 揚 げて 言 ふ『君 イエスよ、我 らを 憫 みたまへ』
14 イエス 之 を 見 て 言 ひたまふ『なんぢら 往 きて 身 を 祭司 らに 見 せよ』彼 ら 往 く 間 に 潔 められたり。
15 その 中 の 一人、おのが 醫 されたるを 見 て、大聲 に 神 を 崇 めつつ 歸 りきたり、
16 イエスの 足下 に 平伏 して 謝 す。これはサマリヤ 人 なり。
17 イエス 答 へて 言 ひたまふ『十 人 みな 潔 められしならずや、九 人 は 何處 に 在 るか。
18 この 他國人 のほかは、神 に 榮光 を 歸 せんとて 歸 りきたる 者 なきか』
19 かくて 之 に 言 ひたまふ『起 ちて 往 け、なんぢの 信仰 なんぢを 救 へり』
20 神 の 國 の 何時 きたるべきかをパリサイ 人 に 問 はれし 時、イエス 答 へて 言 ひたまふ『神 の 國 は 見 ゆべき 状 にて 來 らず。
21 また「視 よ、此處 に 在 り」「彼處 に 在 り」と 人々 言 はざるべし。視 よ、神 の 國 は 汝 らの 中 に 在 るなり』
22 かくて 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『なんぢら 人 の 子 の 日 の 一日 を 見 んと 思 ふ 日 きたらん、されど 見 ることを 得 じ。
23 そのとき 人々 なんぢらに「見 よ 彼處 に、見 よ 此處 に」と 言 はん、されど 往 くな、從 ふな。
24 それ 電光 の 天 の 彼方 より 閃 きて、天 の 此方 に 輝 くごとく、人 の 子 もその 日 には 然 あるべし。
25 されど 人 の 子 は 先 づ 多 くの 苦難 を 受 け、かつ 今 の 代 に 棄 てらるべきなり。
26 ノアの 日 にありし 如 く、人 の 子 の 日 にも 然 あるべし。
27 ノア 方舟 に 入 る 日 までは、人々 飮 み 食 ひ 娶 り 嫁 ぎなど 爲 たりしが、洪水 きたりて 彼 等 をことごとく 滅 せり。
28 ロトの 日 にも 斯 くのごとく、人々 飮 み 食 ひ、賣 り 買 ひ、植 ゑつけ、家 造 りなど 爲 たりしが、
29 ロトのソドムを 出 でし 日 に、天 より 火 と 硫黄 と 降 りて、彼 等 をことごとく 滅 せり。
30 人 の 子 の 顯 るる 日 にも、その 如 くなるべし。
31 その 日 には、人 もし 屋 の 上 にをりて、器 物 家 の 内 にあらば、之 を 取 らんとて 下 るな。畑 にをる 者 も 同 じく 歸 るな。
32 ロトの 妻 を 憶 へ。
33 おほよそ 己 が 生命 を 全 うせんとする 者 はこれを 失 ひ、失 ふ 者 はこれを 保 つべし。
34 われ 汝 らに 告 ぐ、その 夜 ふたりの 男、一 つ 寢臺 に 居 らんに、一人 は 取 られ 一人 は 遣 されん。
35 二人 の 女 ともに 臼 ひき 居 らんに、一人 は 取 られ 一人 は 遣 されん』
36 [なし]
37 弟子 たち 答 へて 言 ふ『主 よ、それは 何處 ぞ』イエス 言 ひたまふ『屍體 のある 處 には 鷲 も 亦 あつまらん』
Chapter 18
1 また 彼 らに、落膽 せずして 常 に 祈 るべきことを、譬 にて 語 り 言 ひ 給 ふ
2 『或 町 に、神 を 畏 れず 人 を 顧 みぬ 裁判人 あり。
3 その 町 に 寡婦 ありて、屡次 その 許 にゆき「我 がために 仇 を 審 きたまへ」と 言 ふ。
4 かれ 久 しく 聽 き 入 れざりしが、其 ののち 心 の 中 に 言 ふ「われ 神 を 畏 れず、人 を 顧 みねど、
5 此 の 寡婦 われを 煩 はせば、我 かれが 爲 に 審 かん、然 らずば 絶 えず 來 りて 我 を 惱 さん」と』
6 主 いひ 給 ふ『不義 なる 裁判人 の 言 ふことを 聽 け、
7 まして 神 は 夜晝 よばはる 選民 のために、たとひ 遲 くとも 遂 に 審 き 給 はざらんや。
8 我 なんぢらに 告 ぐ、速 かに 審 き 給 はん。されど 人 の 子 の 來 るとき 地上 に 信仰 を 見 んや』
9 また 己 を 義 と 信 じ、他人 を 輕 しむる 者 どもに、此 の 譬 を 言 ひたまふ、
10 『二人 のもの 祈 らんとて 宮 にのぼる、一人 はパリサイ 人、一人 は 取税人 なり。
11 パリサイ 人 たちて 心 の 中 に 斯 く 祈 る「神 よ、我 はほかの 人 の、強奪・不義・姦淫 するが 如 き 者 ならず、又 この 取税人 の 如 くならぬを 感謝 す。
12 我 は 一週 のうちに 二度 斷食 し、凡 て 得 るものの 十分 の 一 を 献 ぐ」
13 然 るに 取税人 は 遙 に 立 ちて、目 を 天 に 向 くる 事 だにせず、胸 を 打 ちて 言 ふ「神 よ、罪人 なる 我 を 憫 みたまへ」
14 われ 汝 らに 告 ぐ、この 人 は、かの 人 よりも 義 とせられて、己 が 家 に 下 り 往 けり。おほよそ 己 を 高 うする 者 は 卑 うせられ、己 を 卑 うする 者 は 高 うせらるるなり』
15 イエスの 觸 り 給 はんことを 望 みて、人々 嬰兒 らを 連 れ 來 りしに、弟子 たち 之 を 見 て 禁 めたれば、
16 イエス 幼兒 らを 呼 びよせて 言 ひたまふ『幼兒 らの 我 に 來 るを 許 して 止 むな、神 の 國 はかくのごとき 者 の 國 なり。
17 われ 誠 に 汝 らに 告 ぐ、おほよそ 幼兒 のごとくに 神 の 國 をうくる 者 ならずば、之 に 入 ることは 能 はず』
18 或 司 問 ひて 言 ふ『善 き 師 よ、われ 何 をなして 永遠 の 生命 を 嗣 ぐべきか』
19 イエス 言 ひ 給 ふ『なにゆゑ 我 を 善 しと 言 ふか、神 ひとりの 他 に 善 き 者 なし。
20 誡命 はなんぢが 知 る 所 なり「姦淫 するなかれ」「殺 すなかれ」「盜 むなかれ」「僞證 を 立 つる 勿 れ」「なんぢの 父 と 母 とを 敬 へ」』
21 彼 いふ『われ 幼 き 時 より 皆 これを 守 れり』
22 イエス 之 をききて 言 ひたまふ『なんぢなほ 足 らぬこと 一 つあり、汝 の 有 てる 物 をことごとく 賣 りて、貧 しき 者 に 分 ち 與 へよ、然 らば 財寶 を 天 に 得 ん。かつ 來 りて 我 に 從 へ』
23 彼 は 之 をききて 甚 く 悲 しめり、大 に 富 める 者 なればなり。
24 イエス 之 を 見 て 言 ひたまふ『富 める 者 の 神 の 國 に 入 るは 如何 に 難 いかな。
25 富 める 者 の 神 の 國 に 入 るよりは、駱駝 の 針 の 穴 をとほるは 反 つて 易 し』
26 之 をきく 人々 いふ『さらば 誰 か 救 はるる 事 を 得 ん』
27 イエス 言 ひたまふ『人 のなし 得 ぬところは、神 のなし 得 る 所 なり』
28 ペテロ 言 ふ『視 よ、我等 わが 物 をすてて 汝 に 從 へり』
29 イエス 言 ひ 給 ふ『われ 誠 に 汝 らに 告 ぐ、神 の 國 のために、或 は 家、或 は 妻、或 は 兄弟、あるひは 兩親、あるひは 子 を 棄 つる 者 は、誰 にても、
30 今 の 時 に 數倍 を 受 け、また 後 の 世 にて 永遠 の 生命 を 受 けぬはなし』
31 イエス 十二 弟子 を 近 づけて 言 ひたまふ『視 よ、我 らエルサレムに 上 る。人 の 子 につき 預言者 たちによりて 録 されたる 凡 ての 事 は、成 し 遂 げらるべし。
32 人 の 子 は 異邦人 に 付 され、嘲弄 せられ、辱 しめられ、唾 せられん。
33 彼 等 これを 鞭 うち、かつ 殺 さん。かくて 彼 は 三日 めに 甦 へるべし』
34 弟子 たち 此 等 のことを 一 つだに 悟 らず、此 の 言 かれらに 隱 れたれば、その 言 ひ 給 ひしことを 知 らざりき。
35 イエス、エリコに 近 づき 給 ふとき、一人 の 盲人、路 の 傍 らに 坐 して、物 乞 ひ 居 たりしが、
36 群衆 の 過 ぐるを 聞 きて、その 何事 なるかを 問 ふ。
37 人々 ナザレのイエスの 過 ぎたまふ 由 を 告 げたれば、
38 盲人 よばはりて 言 ふ『ダビデの 子 イエスよ、我 を 憫 みたまへ』
39 先 だち 往 く 者 ども、彼 を 禁 めて 默 さしめんと 爲 たれど、増々 さけびて 言 ふ『ダビデの 子 よ、我 を 憫 みたまへ』
40 イエス 立 ち 止 り、盲人 を 連 れ 來 るべきことを 命 じ 給 ふ。かれ 近 づきたれば、
41 イエス 問 ひ 給 ふ『わが 汝 に 何 を 爲 さんことを 望 むか』彼 いふ『主 よ、見 えんことなり』
42 イエス 彼 に『見 ることを 得 よ、なんぢの 信仰 なんぢを 救 へり』と 言 ひ 給 へば、
43 立刻 に 見 ることを 得、神 を 崇 めてイエスに 從 ふ。民 みな 之 を 見 て 神 を 讃美 せり。
Chapter 19
1 エリコに 入 りて 過 ぎゆき 給 ふとき、
2 視 よ、名 をザアカイといふ 人 あり、取税人 の 長 にて 富 める 者 なり。
3 イエスの 如何 なる 人 なるかを 見 んと 思 へど、丈 矮 うして 群衆 のために 見 ること 能 はず、
4 前 に 走 りゆき、桑 の 樹 にのぼる。イエスその 路 を 過 ぎんとし 給 ふ 故 なり。
5 イエス 此處 に 至 りしとき、仰 ぎ 見 て 言 ひたまふ『ザアカイ、急 ぎおりよ、今日 われ 汝 の 家 に 宿 るべし』
6 ザアカイ 急 ぎおり、喜 びてイエスを 迎 ふ。
7 人々 みな 之 を 見 て 呟 きて 言 ふ『かれは 罪人 の 家 に 入 りて 客 となれり』
8 ザアカイ 立 ちて 主 に 言 ふ『主、視 よ、わが 所有 の 半 を 貧 しき 者 に 施 さん、若 しわれ 誣 ひ 訴 へて 人 より 取 りたる 所 あらば、四 倍 にして 償 はん』
9 イエス 言 ひ 給 ふ『けふ 救 はこの 家 に 來 れり、此 の 人 もアブラハムの 子 なればなり。
10 それ 人 の 子 の 來 れるは、失 せたる 者 を 尋 ねて 救 はん 爲 なり』
11 人々 これらの 事 を 聽 きゐたるとき、譬 を 加 へて 言 ひ 給 ふ。これはイエス、エルサレムに 近 づき 給 ひ、神 の 國 たちどころに 現 るべしと 彼 らが 思 ふ 故 なり。
12 乃 ち 言 ひたまふ『或 貴人、王 の 權 を 受 けて 歸 らんとて 遠 き 國 へ 往 くとき、
13 十 人 の 僕 をよび、之 に 金 十 ミナを 付 して 言 ふ「わが 歸 るまで 商賣 せよ」
14 然 るに 其 の 地 の 民 かれを 憎 み、後 より 使 を 遣 して「我 らは 此 の 人 の 我 らの 王 となることを 欲 せず」と 言 はしむ。
15 貴人、王 の 權 をうけて 歸 り 來 りしとき、銀 を 付 し 置 きたる 僕 どもの、如何 に 商賣 せしかを 知 らんとて 彼 らを 呼 ばしむ。
16 初 のもの 進 み 出 でて 言 ふ「主 よ、なんぢの 一 ミナは 十 ミナを 贏 けたり」
17 王 いふ「善 いかな、良 き 僕、なんぢは 小事 に 忠 なりしゆゑ、十 の 町 を 司 どるべし」
18 次 の 者 きたりて 言 ふ「主 よ、なんぢの 一 ミナは 五 ミナを 贏 けたり」
19 王 また 言 ふ「なんぢも 五 つの 町 を 司 どるべし」
20 また 一人 きたりて 言 ふ「主、視 よ、なんぢの 一 ミナは 此處 に 在 り。我 これを 袱紗 に 包 みて 藏 め 置 きたり。
21 これ 汝 の 嚴 しき 人 なるを 懼 れたるに 因 る。なんぢは 置 かぬものを 取 り、播 かぬものを 刈 るなり」
22 王 いふ「惡 しき 僕、われ 汝 の 口 によりて 汝 を 審 かん。我 の 嚴 しき 人 にて、置 かぬものを 取 り、播 かぬものを 刈 るを 知 るか。
23 何 ぞわが 金 を 銀行 に 預 けざりし、さらば 我 きたりて 元金 と 利子 とを 請求 せしものを」
24 かくて 傍 らに 立 つ 者 どもに 言 ふ「かれの 一 ミナを 取 りて 十 ミナを 有 てる 人 に 付 せ」
25 彼 等 いふ「主 よ、かれは 既 に 十 ミナを 有 てり」
26 「われ 汝 らに 告 ぐ、凡 て 有 てる 人 はなほ 與 へられ、有 たぬ 人 は 有 てるものをも 取 らるべし。
27 而 して 我 が 王 たる 事 を 欲 せぬ、かの 仇 どもを 此處 に 連 れきたり、我 が 前 にて 殺 せ」』
28 イエス 此 等 のことを 言 ひてのち、先 だち 進 みてエルサレムに 上 り 給 ふ。
29 オリブといふ 山 の 麓 なるベテパゲ 及 びベタニヤに 近 づきし 時、イエス 二人 の 弟子 を 遣 さんとして 言 ひ 給 ふ、
30 『向 の 山 にゆけ、其處 に 入 らば、一度 も 人 の 乘 りたる 事 なき 驢馬 の 子 の 繋 ぎあるを 見 ん、それを 解 きて 牽 ききたれ。
31 誰 かもし 汝 らに「なにゆゑ 解 くか」と 問 はば、斯 く 言 ふべし「主 の 用 なり」と』
32 遣 されたる 者 ゆきたれば、果 して 言 ひ 給 ひし 如 くなるを 見 る。
33 かれら 驢馬 の 子 をとく 時、その 持主 ども 言 ふ『なにゆゑ 驢馬 の 子 を 解 くか』
34 答 へて 言 ふ『主 の 用 なり』
35 かくて 驢馬 の 子 をイエスの 許 に 牽 ききたり、己 が 衣 をその 上 にかけて、イエスを 乘 せたり。
36 その 往 き 給 ふとき、人々 おのが 衣 を 途 に 敷 く。
37 オリブ 山 の 下 りあたりまで 近 づき 來 り 給 へば、群 れゐる 弟子 たち 皆 喜 びて、その 見 しところの 能力 ある 御業 につき、聲 高 らかに 神 を 讃美 して 言 ひ 始 む、
38 『讃 むべきかな、主 の 名 によりて 來 る 王。天 には 平和、至高 き 處 には 榮光 あれ』
39 群衆 のうちの 或 パリサイ 人 ら、イエスに 言 ふ『師 よ、なんぢの 弟子 たちを 禁 めよ』
40 答 へて 言 ひ 給 ふ『われ 汝 らに 告 ぐ、此 のともがら 默 さば、石 叫 ぶべし』
41 既 に 近 づきたるとき、都 を 見 やり、之 がために 泣 きて 言 ひ 給 ふ、
42 『ああ 汝、なんぢも 若 しこの 日 の 間 に、平和 にかかはる 事 を 知 りたらんには――されど 今 なんぢの 目 に 隱 れたり。
43 日 きたりて 敵 なんぢの 周圍 に 壘 をきづき、汝 を 取圍 みて 四方 より 攻 め、
44 汝 とその 内 にある 子 らとを 地 に 打倒 し、一 つの 石 をも 石 の 上 に 遺 さざるべし。なんぢ 眷顧 の 時 を 知 らざりしに 因 る』
45 かくて 宮 に 入 り、商 ひする 者 どもを 逐 ひ 出 しはじめ、
46 之 に 言 ひたまふ『「わが 家 は 祈 の 家 たるべし」と 録 されたるに、汝 らは 之 を 強盜 の 巣 となせり』
47 イエス 日々 宮 にて 教 へたまふ。祭司長・學者 ら 及 び 民 の 重立 ちたる 者 ども、之 を 殺 さんと 思 ひたれど、
48 民 みな 耳 を 傾 けてイエスに 聽 きたれば、爲 すべき 方 を 知 らざりき。
Chapter 20
1 或 日 イエス 宮 にて 民 を 教 へ、福音 を 宣 べゐ 給 ふとき、祭司長・學者 らは、長老 どもと 共 に 近 づき 來 り、
2 イエスに 語 りて 言 ふ『なにの 權威 をもて 此 等 の 事 をなすか、此 の 權威 を 授 けし 者 は 誰 か、我 らに 告 げよ』
3 答 へて 言 ひ 給 ふ『われも 一言 なんぢらに 問 はん、答 へよ。
4 ヨハネのバプテスマは 天 よりか、人 よりか』
5 彼 ら 互 に 論 じて 言 ふ『もし「天 より」と 言 はば「なに 故 かれを 信 ぜざりし」と 言 はん。
6 もし「人 より」と 言 はんか、民 みなヨハネを 預言者 と 信 ずるによりて、我 らを 石 にて 撃 たん』
7 遂 に 何處 よりか 知 らぬ 由 を 答 ふ。
8 イエス 言 ひたまふ『われも 何 の 權威 をもて 此 等 の 事 をなすか、汝 らに 告 げじ』
9 かくて 次 の 譬 を 民 に 語 りいで 給 ふ『ある 人、葡萄園 を 造 りて 農夫 どもに 貸 し、遠 く 旅立 して 久 しくなりぬ。
10 時 至 りて、葡萄園 の 所得 を 納 めしめんとて、一人 の 僕 を 農夫 の 許 に 遣 ししに、農夫 ども 之 を 打 ちたたき、空手 にて 歸 らしめたり。
11 又 ほかの 僕 を 遣 ししに、之 をも 打 ちたたき、辱 しめ、空手 にて 歸 らしめたり。
12 なほ 三度 めの 者 を 遣 ししに、之 をも 傷 つけて 逐 ひ 出 したり。
13 葡萄園 の 主 いふ「われ 何 を 爲 さんか。我 が 愛 しむ 子 を 遣 さん、或 は 之 を 敬 ふなるべし」
14 農夫 ども 之 を 見 て 互 に 論 じて 言 ふ「これは 世嗣 なり。いざ 殺 して 其 の 嗣業 を 我 らの 物 とせん」
15 かくてこれを 葡萄園 の 外 に 逐 ひ 出 して 殺 せり。さらば 葡萄園 の 主 かれらに 何 を 爲 さんか、
16 來 りてかの 農夫 どもを 亡 し、葡萄園 を 他 の 者 どもに 與 ふべし』人々 これを 聽 きて 言 ふ『然 はあらざれ』
17 イエス 彼 らに 目 を 注 めて 言 ひ 給 ふ『されば「造家者 らの 棄 てる 石 は、これぞ 隅 の 首石 となれる」と 録 されたるは 何 ぞや。
18 凡 そその 石 の 上 に 倒 るる 者 は 碎 け、又 その 石、人 の 上 に 倒 るれば、その 人 を 微塵 にせん』
19 此 のとき 學者・祭司長 ら、イエスに 手 をかけんと 思 ひたれど、民 を 恐 れたり。この 譬 の 己 どもを 指 して 言 ひ 給 へるを 悟 りしに 因 る。
20 かくて 彼 ら 機 を 窺 ひ、イエスを 司 の 支配 と 權威 との 下 に 付 さんとて、その 言 を 捉 ふるために、義人 の 樣 したる 間諜 どもを 遣 したれば、
21 其 の 者 どもイエスに 問 ひて 言 ふ『師 よ、我 らは 汝 の 正 しく 語 り、かつ 教 へ、外貌 を 取 らず、眞 をもて 神 の 道 を 教 へ 給 ふを 知 る。
22 われら 貢 をカイザルに 納 むるは、善 きか、惡 しきか』
23 イエスその 惡巧 を 知 りて 言 ひ 給 ふ、
24 『デナリを 我 に 見 せよ。これは 誰 の 像、たれの 號 なるか』『カイザルのなり』と 答 ふ。
25 イエス 言 ひ 給 ふ『さらばカイザルの 物 はカイザルに、神 の 物 は 神 に 納 めよ』
26 かれら 民 の 前 にて 其 の 言 をとらへ 得 ず、且 その 答 を 怪 しみて 默 したり。
27 また 復活 なしと 言張 るサドカイ 人 の 或 者 ども、イエスに 來 り 問 ひて 言 ふ、
28 『師 よ、モーセは、人 の 兄弟 もし 妻 あり 子 なくして 死 なば、其 の 兄弟 かれの 妻 を 娶 りて、兄弟 のために 嗣子 を 擧 ぐべしと、我 らに 書 き 遣 したり。
29 さて 茲 に 七人 の 兄弟 ありて、兄、妻 を 娶 り、子 なくして 死 に、
30 第二、第三 の 者 も 之 を 娶 り、
31 七人 みな 同 じく 子 を 殘 さずして 死 に、
32 後 には 其 の 女 も 死 にたり。
33 されば 復活 の 時、この 女 は 誰 の 妻 たるべきか、七人 これを 妻 としたればなり』
34 イエス 言 ひ 給 ふ『この 世 の 子 らは 娶 り 嫁 ぎすれど、
35 かの 世 に 入 るに、死人 の 中 より 甦 へるに 相應 しとせらるる 者 は、娶 り 嫁 ぎすることなし。
36 彼 等 ははや 死 ぬること 能 はざればなり。御使 たちに 等 しく、また 復活 の 子 どもにして、神 の 子供 たるなり。
37 死 にたる 者 の 甦 へる 事 は、モーセも 柴 の 條 に、主 を「アブラハムの 神、イサクの 神、ヤコブの 神」と 呼 びて 之 を 示 せり。
38 神 は 死 にたる 者 の 神 にあらず、生 ける 者 の 神 なり。それ 神 の 前 には 皆 生 けるなり』
39 學者 のうちの 或 者 ども 答 へて『師 よ、善 く 言 ひ 給 へり』と 言 ふ。
40 彼 等 ははや 何事 をも 問 ひ 得 ざりし 故 なり。
41 イエス 彼 らに 言 ひたまふ『如何 なれば 人々、キリストをダビデの 子 と 言 ふか。
42 ダビデ 自 ら 詩 篇 に 言 ふ「主 わが 主 に 言 ひたまふ、
43 われ 汝 の 敵 を 汝 の 足臺 となすまでは、わが 右 に 坐 せよ」
44 ダビデ 斯 く 彼 を 主 と 稱 ふれば、爭 でその 子 ならんや』
45 民 の 皆 ききをる 中 にて、イエス 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ、
46 『學者 らに 心 せよ。彼 らは 長 き 衣 を 著 て 歩 むことを 好 み、市場 にての 敬禮、會堂 の 上座、饗宴 の 上席 を 喜 び、
47 また 寡婦 らの 家 を 呑 み、外見 をつくりて 長 き 祈 をなす。其 の 受 くる 審判 は 更 に 嚴 しからん』
Chapter 21
1 イエス 目 を 擧 げて、富 める 人々 の 納物 を 賽錢函 に 投 げ 入 るるを 見、
2 また 或 貧 しき 寡婦 のレプタ 二 つを 投 げ 入 るるを 見 て 言 ひ 給 ふ、
3 『われ 實 をもて 汝 らに 告 ぐ、この 貧 しき 寡婦 は、凡 ての 人 よりも 多 く 投 げ 入 れたり。
4 彼 らは 皆 その 豐 なる 内 より 納物 の 中 に 投 げ 入 れ、この 寡婦 はその 乏 しき 中 より、己 が 有 てる 生命 の 料 をことごとく 投 げ 入 れたればなり』
5 或 人々、美麗 なる 石 と 献物 とにて 宮 の 飾 られたる 事 を 語 りしに、イエス 言 ひ 給 ふ、
6 『なんぢらが 見 る 此 等 の 物 は、一 つの 石 も 崩 されずして 石 の 上 に 殘 らぬ 日 きたらん』
7 彼 ら 問 ひて 言 ふ『師 よ、さらば 此 等 のことは 何時 あるか、又 これらの 事 の 成 らんとする 時 は 如何 なる 兆 あるか』
8 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢら 惑 されぬように 心 せよ、多 くの 者 わが 名 を 冒 し 來 り「われは 夫 なり」と 言 ひ「時 は 近 づけり」と 言 はん、彼 らに 從 ふな。
9 戰爭 と 騷亂 との 事 を 聞 くとき、怖 づな。斯 かることは 先 づあるべきなり。然 れど 終 は 直 ちに 來 らず』
10 また 言 ひたまふ『「民 は 民 に、國 は 國 に 逆 ひて 起 たん」
11 かつ 大 なる 地震 あり、處々 に 疫病・饑饉 あらん。懼 るべき 事 と 天 よりの 大 なる 兆 とあらん。
12 すべて 此 等 のことに 先 だちて、人々 なんぢらに 手 をくだし、汝 らを 責 めん、即 ち 汝 らを 會堂 および 獄 に 付 し、わが 名 のために 王 たち 司 たちの 前 に 曳 きゆかん。
13 これは 汝 らに 證 の 機 とならん。
14 されば 汝 ら 如何 に 答 へんと 預 じめ 思慮 るまじき 事 を 心 に 定 めよ。
15 われ 汝 らに、凡 て 逆 ふ 者 の 言 ひ 逆 ひ 言 ひ 消 すことをなし 得 ざる、口 と 智慧 とを 與 ふべければなり。
16 汝 らは 兩親・兄弟・親族・朋友 にさへ 付 されん。又 かれらは 汝 らの 中 の 或 者 を 殺 さん。
17 汝 等 わが 名 の 故 に 凡 ての 人 に 憎 まるべし。
18 然 れど 汝 らの 頭 の 髮 一 すぢだに 失 せじ。
19 汝 らは 忍耐 によりて 其 の 靈魂 を 得 べし。
20 汝 らエルサレムが 軍勢 に 圍 まるるを 見 ば、其 の 亡 近 づけりと 知 れ。
21 その 時 ユダヤに 居 る 者 どもは 山 に 遁 れよ、都 の 中 にをる 者 どもは 出 でよ、田舍 にをる 者 どもは 都 に 入 るな、
22 これ 録 されたる 凡 ての 事 の 遂 げらるべき 刑罰 の 日 なり。
23 その 日 には 孕 りたる 者 と、乳 を 哺 まする 者 とは 禍害 なるかな。地 に 大 なる 艱難 ありて、御怒 この 民 に 臨 み、
24 彼 らは 劍 の 刃 に 斃 れ、又 は 捕 はれて 諸國 に 曳 かれん。而 してエルサレムは 異邦人 の 時 滿 つるまで、異邦人 に 蹂躙 らるべし。
25 また 日・月・星 に 兆 あらん。地 にては 國々 の 民 なやみ、海 と 濤 との 鳴 り 轟 くによりて 狼狽 へ、
26 人々 おそれ、かつ 世界 に 來 らんとする 事 を 思 ひて 膽 を 失 はん。これ 天 の 萬象 ふるひ 動 けばなり。
27 其 のとき 人々、人 の 子 の 能力 と 大 なる 榮光 とをもて、雲 に 乘 りきたるを 見 ん。
28 これらの 事 起 り 始 めなば、仰 ぎて 首 を 擧 げよ。汝 らの 贖罪 近 づけるなり』
29 また 譬 を 言 ひたまふ『無花果 の 樹 また 凡 ての 樹 を 見 よ、
30 既 に 芽 ざせば、汝 等 これを 見 てみづから 夏 の 近 きを 知 る。
31 斯 くのごとく 此 等 のことの 起 るを 見 ば、神 の 國 の 近 きを 知 れ。
32 われ 誠 に 汝 らに 告 ぐ、これらの 事 ことごとく 成 るまで、今 の 代 は 過 ぎゆくことなし。
33 天 地 は 過 ぎゆかん、されど 我 が 言 は 過 ぎゆくことなし。
34 汝 等 みづから 心 せよ、恐 らくは 飮食 にふけり、世 の 煩勞 にまとはれて 心 鈍 り、思 ひがけぬ 時、かの 日 羂 のごとく 來 らん。
35 これは 徧 く 地 の 面 に 住 める 凡 ての 人 に 臨 むべきなり。
36 この 起 るべき 凡 ての 事 をのがれ、人 の 子 のまへに 立 ち 得 るやう、常 に 祈 りつつ 目 を 覺 しをれ』
37 イエス 晝 は 宮 にて 教 へ、夜 は 出 でてオリブといふ 山 に 宿 りたまふ。
38 民 はみな 御教 を 聽 かんとて、朝 とく 宮 にゆき、御許 に 集 れり。
Chapter 22
1 さて 過越 といふ 除酵祭 近 づけり。
2 祭司長・學者 らイエスを 殺 さんとし、その 手段 いかにと 求 む、民 を 懼 れたればなり。
3 時 にサタン、十二 の 一人 なるイスカリオテと 稱 ふるユダに 入 る。
4 ユダ 乃 ち 祭司長・宮守頭 どもに 往 きて、イエスを 如何 にして 付 さんと 議 りたれば、
5 彼 ら 喜 びて 銀 を 與 へんと 約 す。
6 ユダ 諾 ひて、群衆 の 居 らぬ 時 にイエスを 付 さんと 好 き 機 をうかがふ。
7 過越 の 羔羊 を 屠 るべき 除酵祭 の 日 來 りたれば、
8 イエス、ペテロとヨハネとを 遣 さんとして 言 ひたまふ『往 きて 我 らの 食 せん 爲 に 過越 の 備 をなせ』
9 彼 ら 言 ふ『何處 に 備 ふることを 望 み 給 ふか』
10 イエス 言 ひたまふ『視 よ、都 に 入 らば、水 をいれたる 瓶 を 持 つ 人 なんぢらに 遇 ふべし、之 に 從 ひゆき、その 入 る 所 の 家 にいりて、
11 家 の 主人 に「師 なんぢに 言 ふ、われ 弟子 らと 共 に 過越 の 食 をなすべき 座敷 は 何處 なるか」と 言 へ。
12 さらば 調 へたる 大 なる 二階 座敷 を 見 すべし。其處 に 備 へよ』
13 かれら 出 で 往 きて、イエスの 言 ひ 給 ひし 如 くなるを 見 て、過越 の 設備 をなせり。
14 時 いたりてイエス 席 に 著 きたまひ、使徒 たちも 共 に 著 く。
15 かくて 彼 らに 言 ひ 給 ふ『われ 苦難 の 前 に、なんぢらと 共 にこの 過越 の 食 をなすことを 望 みに 望 みたり。
16 われ 汝 らに 告 ぐ、神 の 國 にて 過越 の 成就 するまでは、我 復 これを 食 せざるべし』
17 かくて 酒杯 を 受 け、かつ 謝 して 言 ひ 給 ふ『これを 取 りて 互 に 分 ち 飮 め。
18 われ 汝 らに 告 ぐ、神 の 國 の 來 るまでは、われ 今 よりのち 葡萄 の 果 より 成 るものを 飮 まじ』
19 またパンを 取 り 謝 してさき、弟子 たちに 與 へて 言 ひ 給 ふ『これは 汝 らの 爲 に 與 ふる 我 が 體 なり。我 が 記念 として 之 を 行 へ』
20 夕餐 ののち 酒杯 をも 然 して 言 ひ 給 ふ『この 酒杯 は、汝 らの 爲 に 流 す 我 が 血 によりて 立 つる 新 しき 契約 なり。
21 されど 視 よ、我 を 賣 る 者 の 手、われと 共 に 食卓 の 上 にあり、
22 實 に 人 の 子 は 定 められたる 如 く 逝 くなり。されど 之 を 賣 る 者 は 禍害 なるかな』
23 弟子 たち 己 らの 中 にて 此 の 事 をなす 者 は、誰 ならんと 互 に 問 ひ 始 む。
24 また 彼 らの 間 に、己 らの 中 たれか 大 ならんとの 爭論 おこりたれば、
25 イエス 言 ひたまふ『異邦人 の 王 はその 民 を 宰 どり、また 民 を 支配 する 者 は 恩人 と 稱 へらる。
26 されど 汝 らは 然 あらざれ、汝 等 のうち 大 なる 者 は 若 き 者 のごとく、頭 たる 者 は 事 ふる 者 の 如 くなれ。
27 食事 の 席 に 著 く 者 と 事 ふる 者 とは、何 れか 大 なる。食事 の 席 に 著 く 者 ならずや、されど 我 は 汝 らの 中 にて 事 ふる 者 のごとし。
28 汝 らは 我 が 嘗試 のうちに 絶 えず 我 とともに 居 りし 者 なれば、
29 わが 父 の 我 に 任 じ 給 へるごとく、我 も 亦 なんぢらに 國 を 任 ず。
30 これ 汝 らの 我 が 國 にて 我 が 食卓 に 飮食 し、かつ 座位 に 坐 してイスラエルの 十二 の 族 を 審 かん 爲 なり。
31 シモン、シモン、視 よ、サタン 汝 らを 麥 のごとく 篩 はんとて 請 ひ 得 たり。
32 されど 我 なんぢの 爲 に、その 信仰 の 失 せぬやうに 祈 りたり、なんぢ 立 ち 歸 りてのち 兄弟 たちを 堅 うせよ』
33 シモン 言 ふ『主 よ、我 は 汝 とともに 獄 にまでも、死 にまでも 往 かんと 覺悟 せり』
34 イエス 言 ひ 給 ふ『ペテロよ、我 なんぢに 告 ぐ、今日 なんぢ 三度 われを 知 らずと 否 むまでは、鷄 鳴 かざるべし』
35 かくて 弟子 たちに 言 ひ 給 ふ『財布・嚢・鞋 をも 持 たせずして 汝 らを 遣 ししとき、缺 けたる 所 ありしや』彼 ら 言 ふ『無 かりき』
36 イエス 言 ひ 給 ふ『されど 今 は 財布 ある 者 は 之 を 取 れ、嚢 ある 者 も 然 すべし。また 劍 なき 者 は 衣 を 賣 りて 劍 を 買 へ。
37 われ 汝 らに 告 ぐ「かれは 愆人 と 共 に 數 へられたり」と 録 されたるは、我 が 身 に 成 し 遂 げらるべし。凡 そ 我 に 係 る 事 は 成 し 遂 げらるればなり』
38 弟子 たち 言 ふ『主、見 たまへ、茲 に 劍 二振 あり』イエス 言 ひたまふ『足 れり』
39 遂 に 出 でて、常 のごとくオリブ 山 に 往 き 給 へば、弟子 たちも 從 ふ。
40 其處 に 至 りて 彼 らに 言 ひたまふ『誘惑 に 入 らぬやうに 祈 れ』
41 かくて 自 らは 石 の 投 げらるる 程 かれらより 隔 り、跪 づきて 祈 り 言 ひたまふ、
42 『父 よ、御旨 ならば、此 の 酒杯 を 我 より 取 り 去 りたまへ、されど 我 が 意 にあらずして 御意 の 成 らんことを 願 ふ』
43 時 に 天 より 御使 あらはれて、イエスに 力 を 添 ふ。
44 イエス 悲 しみ 迫 り、いよいよ 切 に 祈 り 給 へば、汗 は 地上 に 落 つる 血 の 雫 の 如 し。
45 祈 を 了 へ、起 ちて 弟子 たちの 許 にきたり、その 憂 によりて 眠 れるを 見 て 言 ひたまふ、
46 『なんぞ 眠 るか、起 て、誘惑 に 入 らぬやうに 祈 れ』
47 なほ 語 りゐ 給 ふとき、視 よ、群衆 あらはれ、十二 の 一人 なるユダ 先 だち 來 り、イエスに 接吻 せんとて 近寄 りたれば、
48 イエス 言 ひ 給 ふ『ユダ、なんぢは 接吻 をもて 人 の 子 を 賣 るか』
49 御側 に 居 る 者 ども 事 の 及 ばんとするを 見 て 言 ふ『主 よ、われら 劍 をもて 撃 つべきか』
50 その 中 の 一人、大 祭司 の 僕 を 撃 ちて、右 の 耳 を 切 り 落 せり。
51 イエス 答 へて 言 ひたまふ『之 にてゆるせ』而 して 僕 の 耳 に 手 をつけて 醫 し 給 ふ。
52 かくて 己 に 向 ひて 來 れる 祭司長・宮守頭・長老 らに 言 ひ 給 ふ『なんぢら 強盜 に 向 ふごとく、劍 と 棒 とを 持 ちて 出 できたるか。
53 我 は 日々 なんぢらと 共 に 宮 に 居 りしに、我 が 上 に 手 を 伸 べざりき。されど 今 は 汝 らの 時、また 暗黒 の 權威 なり』
54 遂 に 人々 イエスを 捕 へて、大 祭司 の 家 に 曳 きゆく。ペテロ 遠 く 離 れて 從 ふ。
55 人々、中庭 のうちに 火 を 焚 きて、諸共 に 坐 したれば、ペテロもその 中 に 坐 す。
56 或 婢女 ペテロの 火 の 光 を 受 けて 坐 し 居 るを 見、これに 目 を 注 ぎて 言 ふ『この 人 も 彼 と 偕 にゐたり』
57 ペテロ 肯 はずして 言 ふ『をんなよ、我 は 彼 を 知 らず』
58 暫 くして 他 の 者 ペテロを 見 て 言 ふ『なんぢも 彼 の 黨與 なり』ペテロ 言 ふ『人 よ、然 らず』
59 一 時 ばかりして 又 ほかの 男、言張 りて 言 ふ『まさしく 此 の 人 も 彼 とともに 在 りき、是 ガリラヤ 人 なり』
60 ペテロ 言 ふ『人 よ、我 なんぢの 言 ふことを 知 らず』なほ 言 ひ 終 へぬに、やがて 鷄 鳴 きぬ。
61 主、振反 りてペテロに 目 をとめ 給 ふ。ここにペテロ、主 の『今日 にはとり 鳴 く 前 に、なんぢ 三度 われを 否 まん』と 言 ひ 給 ひし 御言 を 憶 ひいだし、
62 外 に 出 でて 甚 く 泣 けり。
63 守 る 者 どもイエスを 嘲弄 し、之 を 打 ち、
64 その 目 を 蔽 ひ 問 ひて 言 ふ『預言 せよ、汝 を 撃 ちし 者 は 誰 なるか』
65 この 他 なほ 多 くのことを 言 ひて 譏 れり。
66 夜明 になりて、民 の 長老・祭司長・學者 ら 相 集 り、イエスをその 議會 に 曳 き 出 して 言 ふ、
67 『なんぢ 若 しキリストならば、我 らに 言 へ』イエス 言 ひ 給 ふ『われ 言 ふとも 汝 ら 信 ぜじ、
68 又 われ 問 ふとも 汝 ら 答 へじ。
69 されど 人 の 子 は 今 よりのち 神 の 能力 の 右 に 坐 せん』
70 皆 いふ『されば 汝 は 神 の 子 なるか』答 へ 給 ふ『なんぢらの 言 ふごとく 我 はそれなり』
71 彼 ら 言 ふ『何 ぞなほ 他 に 證據 を 求 めんや。我 ら 自 らその 口 より 聞 けり』
Chapter 23
1 民衆 みな 起 ちて、イエスをピラトの 前 に 曳 きゆき、
2 訴 へ 出 でて 言 ふ『われら 此 の 人 が、わが 國 の 民 を 惑 し、貢 をカイザルに 納 むるを 禁 じ、かつ 自 ら 王 なるキリストと 稱 ふるを 認 めたり』
3 ピラト、イエスに 問 ひて 言 ふ『なんぢはユダヤ 人 の 王 なるか』答 へて 言 ひ 給 ふ『なんぢの 言 ふが 如 し』
4 ピラト 祭司長 らと 群衆 とに 言 ふ『われ 此 の 人 に 愆 あるを 見 ず』
5 彼 等 ますます 言 ひ 募 り『かれはユダヤ 全國 に 教 をなして 民 を 騷 がし、ガリラヤより 始 めて、此處 に 至 る』と 言 ふ。
6 ピラト 之 を 聞 き、そのガリラヤ 人 なるかを 問 ひて、
7 ヘロデの 權下 の 者 なるを 知 り、ヘロデ 此 の 頃 エルサレムに 居 たれば、イエスをその 許 に 送 れり。
8 ヘロデ、イエスを 見 て 甚 く 喜 ぶ。これは 彼 に 就 きて 聞 く 所 ありたれば、久 しく 逢 はんことを 欲 し、何 をか 徴 を 行 ふを 見 んと 望 み 居 たる 故 なり。
9 かくて 多 くの 言 をもて 問 ひたれど、イエス 何 をも 答 へ 給 はず。
10 祭司長・學者 ら 起 ちて 激甚 くイエスを 訴 ふ。
11 ヘロデその 兵卒 と 共 にイエスを 侮 り、かつ 嘲弄 し、華美 なる 衣 を 著 せて、ピラトに 返 す。
12 ヘロデとピラトと 前 には 仇 たりしが、此 の 日 たがひに 親 しくなれり。
13 ピラト、祭司長 らと 司 らと 民 とを 呼 び 集 めて 言 ふ、
14 『汝 らこの 人 を 民 を 惑 す 者 として 曳 き 來 れり。視 よ、われ 汝 らの 前 にて 訊 したれど、其 の 訴 ふる 所 に 就 きて、この 人 に 愆 あるを 見 ず。
15 ヘロデも 亦 然 り、彼 を 我 らに 返 したり。視 よ、彼 は 死 に 當 るべき 業 を 爲 さざりき。
16 されば 懲 しめて 之 を 赦 さん』
17 [なし]
18 民衆 ともに 叫 びて 言 ふ『この 人 を 除 け、我 らにバラバを 赦 せ』
19 此 のバラバは、都 に 起 りし 一揆 と 殺人 との 故 によりて、獄 に 入 れられたる 者 なり。
20 ピラトはイエスを 赦 さんと 欲 して、再 び 彼 らに 告 げたれど、
21 彼 ら 叫 びて『十字架 につけよ、十字架 につけよ』と 言 ふ。
22 ピラト 三度 まで『彼 は 何 の 惡事 を 爲 ししか、我 その 死 に 當 るべき 業 を 見 ず、故 に 懲 しめて 赦 さん』と 言 ふ。
23 されど 人々、大聲 をあげ 迫 りて、十字架 につけんことを 求 めたれば、遂 にその 聲 勝 てり。
24 ここにピラトその 求 の 如 くすべしと 言渡 し、
25 その 求 むるままに、かの 一揆 と 殺人 との 故 によりて 獄 に 入 れられたる 者 を 赦 し、イエスを 付 して 彼 らの 心 の 隨 ならしめたり。
26 人々 イエスを 曳 きゆく 時、シモンといふクレネ 人 の 田舍 より 來 るを 執 へ、十字架 を 負 はせてイエスの 後 に 從 はしむ。
27 民 の 大 なる 群 と、歎 き 悲 しめる 女 たちの 群 と 之 に 從 ふ。
28 イエス 振反 りて 女 たちに 言 ひ 給 ふ『エルサレムの 娘 よ、わが 爲 に 泣 くな、ただ 己 がため、己 が 子 のために 泣 け。
29 視 よ「石婦、兒 産 まぬ 腹、哺 ませぬ 乳 は 幸福 なり」と 言 ふ 日 きたらん。
30 その 時 ひとびと「山 に 向 ひて 我 らの 上 に 倒 れよ、岡 に 向 ひて 我 らを 掩 へ」と 言 ひ 出 でん。
31 もし 青 樹 に 斯 く 爲 さば、枯樹 は 如何 にせられん』
32 また 他 に 二人 の 惡人 をも、死罪 に 行 はんとてイエスと 共 に 曳 きゆく。
33 髑髏 といふ 處 に 到 りて、イエスを 十字架 につけ、また 惡人 の 一人 をその 右、一人 をその 左 に 十字架 につく。
34 かくてイエス 言 ひたまふ『父 よ、彼 らを 赦 し 給 へ、その 爲 す 所 を 知 らざればなり』彼 らイエスの 衣 を 分 ちて 鬮取 にせり、
35 民 は 立 ちて 見 ゐたり。司 たちも 嘲 りて 言 ふ『かれは 他人 を 救 へり、もし 神 の 選 び 給 ひしキリストならば、己 をも 救 へかし』
36 兵卒 どもも 嘲弄 しつつ、近 よりて 酸 き 葡萄酒 をさし 出 して 言 ふ、
37 『なんぢ 若 しユダヤ 人 の 王 ならば、己 を 救 へ』
38 又 イエスの 上 には『これはユダヤ 人 の 王 なり』との 罪標 あり。
39 十字架 に 懸 けられたる 惡人 の 一人、イエスを 譏 りて 言 ふ『なんぢはキリストならずや、己 と 我 らとを 救 へ』
40 他 の 者 これに 答 へ 禁 めて 言 ふ『なんぢ 同 じく 罪 に 定 められながら、神 を 畏 れぬか。
41 我 らは 爲 しし 事 の 報 を 受 くるなれば 當然 なり。されど 此 の 人 は 何 の 不 善 をも 爲 さざりき』
42 また 言 ふ『イエスよ、御國 に 入 り 給 ふとき、我 を 憶 えたまえ』
43 イエス 言 ひ 給 ふ『われ 誠 に 汝 に 告 ぐ、今日 なんぢは 我 と 偕 にパラダイスに 在 るべし』
44 晝 の 十二 時 ごろ、日、光 をうしなひ、地 のうへ 徧 く 暗 くなりて、三時 に 及 び、
45 聖所 の 幕、眞中 より 裂 けたり。
46 イエス 大聲 に 呼 はりて 言 ひたまふ『父 よ、わが 靈 を 御手 にゆだぬ』斯 く 言 ひて 息 絶 えたまふ。
47 百卒長 この 有 りし 事 を 見 て、神 を 崇 めて 言 ふ『實 にこの 人 は 義人 なりき』
48 これを 見 んとて 集 りたる 群衆 も、ありし 事 どもを 見 て、みな 胸 を 打 ちつつ 歸 れり。
49 凡 てイエスの 相識 の 者 およびガリラヤより 從 ひ 來 れる 女 たちも、遙 に 立 ちて 此 等 のことを 見 たり。
50 議員 にして 善 かつ 義 なるヨセフといふ 人 あり。
51 ――この 人 はかの 評議 と 仕業 とに 與 せざりき――ユダヤの 町 なるアリマタヤの 者 にて、神 の 國 を 待 ちのぞめり。
52 此 の 人 ピラトの 許 にゆき、イエスの 屍體 を 乞 ひ、
53 これを 取 りおろし、亞麻 布 にて 包 み、巖 に 鑿 りたる 未 だ 人 を 葬 りし 事 なき 墓 に 納 めたり。
54 この 日 は 準備 日 なり、かつ 安息 日 近 づきぬ。
55 ガリラヤよりイエスと 共 に 來 りし 女 たち 後 に 從 ひ、その 墓 と 屍體 の 納 められたる 樣 とを 見、
56 歸 りて 香料 と 香 油 とを 備 ふ。かくて 誡命 に 遵 ひて、安息 日 を 休 みたり。
Chapter 24
1 一週 の 初 の 日、朝 まだき、女 たち 備 へたる 香料 を 携 へて 墓 にゆく。
2 然 るに 石 の 既 に 墓 より 轉 し 除 けあるを 見、
3 内 に 入 りたるに、主 イエスの 屍體 を 見 ず、
4 これが 爲 に 狼狽 へをりしに、視 よ、輝 ける 衣 を 著 たる 二人 の 人 その 傍 らに 立 てり。
5 女 たち 懼 れて 面 を 地 に 伏 せたれば、その 二人 の 者 いふ『なんぞ 死 にし 者 どもの 中 に 生 ける 者 を 尋 ぬるか。
6 彼 は 此處 に 在 さず、甦 へり 給 へり。尚 ガリラヤに 居給 へるとき、如何 に 語 り 給 ひしかを 憶 ひ 出 でよ。
7 即 ち「人 の 子 は 必 ず 罪 ある 人 の 手 に 付 され、十字架 につけられ、かつ 三日 めに 甦 へるべし」と 言 ひ 給 へり』
8 ここに 彼 らその 御言 を 憶 ひ 出 で、
9 墓 より 歸 りて、凡 て 此 等 のことを 十 一 弟子 および 凡 て 他 の 弟子 たちに 告 ぐ。
10 この 女 たちはマグダラのマリヤ、ヨハンナ 及 びヤコブの 母 マリヤなり、而 して 彼 らと 共 に 在 りし 他 の 女 たちも、之 を 使徒 たちに 告 げたり。
11 使徒 たちは 其 の 言 を 妄語 と 思 ひて 信 ぜず。
12 [ペテロは 起 ちて 墓 に 走 りゆき、屈 みて 布 のみあるを 見、ありし 事 を 怪 しみつつ 歸 れり]
13 視 よ、この 日 二人 の 弟子、エルサレムより 三里 ばかり 隔 りたるエマオといふ 村 に 往 きつつ、
14 凡 て 有 りし 事 どもを 互 に 語 りあふ。
15 語 りかつ 論 じあふ 程 に、イエス 自 ら 近 づきて 共 に 往 き 給 ふ。
16 されど 彼 らの 目 遮 へられて、イエスたるを 認 むること 能 はず。
17 イエス 彼 らに 言 ひ 給 ふ『なんぢら 歩 みつつ 互 に 語 りあふ 言 は 何 ぞや』かれら 悲 しげなる 状 にて 立 ち 止 り、
18 その 一人 なるクレオパと 名 づくるもの 答 へて 言 ふ『なんぢエルサレムに 寓 り 居 て、獨 り 此 の 頃 かしこに 起 りし 事 どもを 知 らぬか』
19 イエス 言 ひ 給 ふ『如何 なる 事 ぞ』答 へて 言 ふ『ナザレのイエスの 事 なり、彼 は 神 と 凡 ての 民 との 前 にて、業 にも 言 にも 能力 ある 預言者 なりしに、
20 祭司長 ら 及 び 我 が 司 らは、死罪 に 定 めんとて 之 を 付 し 遂 に 十字架 につけたり。
21 我 らはイスラエルを 贖 ふべき 者 は、この 人 なりと 望 みゐたり、然 のみならず、此 の 事 の 有 りしより 今日 ははや 三日 めなるが、
22 なほ 我等 のうちの 或 女 たち、我 らを 驚 かせり、即 ち 彼 ら 朝 夙 く 墓 に 往 きたるに、
23 屍體 を 見 ずして 歸 り、かつ 御使 たち 現 れて、イエスは 活 き 給 ふと 告 げたりと 言 ふ。
24 我 らの 朋輩 の 數人 もまた 墓 に 往 きて 見 れば、正 しく 女 たちの 言 ひし 如 くにしてイエスを 見 ざりき』
25 イエス 言 ひ 給 ふ『ああ 愚 にして 預言者 たちの 語 りたる 凡 てのことを 信 ずるに 心 鈍 き 者 よ。
26 キリストは 必 ず 此 らの 苦難 を 受 けて、其 の 榮光 に 入 るべきならずや』
27 かくてモーセ 及 び 凡 ての 預言者 をはじめ、己 に 就 きて 凡 ての 聖書 に 録 したる 所 を 説 き 示 したまふ。
28 遂 に 往 く 所 の 村 に 近 づきしに、イエスなほ 進 みゆく 樣 なれば、
29 強 ひて 止 めて 言 ふ『我 らと 共 に 留 れ、時 夕 に 及 びて、日 も 早 や 暮 れんとす』乃 ち 留 らんとて 入 りたまふ。
30 共 に 食事 の 席 に 著 きたまふ 時、パンを 取 りて 祝 し、擘 きて 與 へ 給 へば、
31 彼 らの 目 開 けてイエスなるを 認 む、而 してイエス 見 えずなり 給 ふ。
32 かれら 互 に 言 ふ『途 にて 我 らと 語 り、我 らに 聖書 を 説明 し 給 へるとき、我 らの 心、内 に 燃 えしならずや』
33 かくて 直 ちに 立 ちエルサレムに 歸 りて 見 れば、十 一 弟子 および 之 と 偕 なる 者 あつまり 居 て 言 ふ、
34 『主 は 實 に 甦 へりて、シモンに 現 れ 給 へり』
35 二人 の 者 もまた 途 にて 有 りし 事 と、パンを 擘 き 給 ふによりてイエスを 認 めし 事 とを 述 ぶ。
36 此 等 のことを 語 る 程 に、イエスその 中 に 立 ち[『平安 なんぢらに 在 れ』と 言 ひ]給 ふ。
37 かれら 怖 ぢ 懼 れて、見 る 所 のものを 靈 ならんと 思 ひしに、
38 イエス 言 ひ 給 ふ『なんぢら 何 ぞ 心 騷 ぐか、何 ゆゑ 心 に 疑惑 おこるか、
39 我 が 手 わが 足 を 見 よ、これ 我 なり。我 を 撫 でて 見 よ、靈 には 肉 と 骨 となし、我 にはあり、汝 らの 見 るごとし』
40 [斯 く 言 ひて 手 と 足 とを 示 し 給 ふ]
41 かれら 歡喜 の 餘 に 信 ぜずして 怪 しめる 時、イエス 言 ひたまふ『此處 に 何 か 食物 あるか』
42 かれら 炙 りたる 魚 一片 を 捧 げたれば、
43 之 を 取 り、その 前 にて 食 し 給 へり。
44 また 言 ひ 給 ふ『これらの 事 は、我 がなほ 汝 らと 偕 に 在 りし 時 に 語 りて、我 に 就 きモーセの 律法・預言者 および 詩 篇 に 録 されたる 凡 ての 事 は、必 ず 遂 げらるべしと 言 ひし 所 なり』
45 ここに 聖書 を 悟 らしめんとて、彼 らの 心 を 開 きて 言 ひ 給 ふ、
46 『かく 録 されたり、キリストは 苦難 を 受 けて、三日 めに 死人 の 中 より 甦 へり、
47 且 その 名 によりて 罪 の 赦 を 得 さする 悔改 は、エルサレムより 始 りて、もろもろの 國人 に 宣傳 へらるべしと。
48 汝 らは 此 等 のことの 證人 なり。
49 視 よ、我 は 父 の 約 し 給 へるものを 汝 らに 贈 る。汝 ら 上 より 能力 を 著 せらるるまでは 都 に 留 れ』
50 遂 にイエス 彼 らをベタニヤに 連 れゆき、手 を 擧 げて 之 を 祝 したまふ。
51 祝 する 間 に、彼 らを 離 れ[天 に 擧 げられ]給 ふ。
52 彼 ら[之 を 拜 し]大 なる 歡喜 をもてエルサレムに 歸 り、
53 常 に 宮 に 在 りて、神 を 讃 めゐたり。